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インターネット字書きマンの落書き帳

   
存在してない松田と山ガスのすれ違い
存在してない松田と山ガスのすれ違いの話をします。
中学生くらいの山田が、家庭事情が劣悪でおうち帰りたくないニャン……。
しているところに、偶然通りかかる当時として大学院生だった松田みたいな話ですよ。

当時大学院生の松田概念!?
こわ……。
あんなにむちむちな知性こわ……。(?)

しょっぺぇ話を書いたんで、みんなもしょっぺぇ気分になろう!


「憧憬」

 それはまだ山田ガスマスクとして活動する、ずっと前のこと。
 後に山田を名乗る少年は、夜の公園にいた。

 息を吐けばすぐ真っ白に変わる寒い夜で、都会の中にあるというのにひどく静かだった。
 雪は降ってなかったが、時々強い風が吹きそれが体を芯まで冷やす。
 誰も長居をする気には誰もならないのだろう。日中であれば雑談に花を咲かせる人々の姿がちらほら見れる場所なのに、立ち止まる人はいなかった。

 山田は目的もなく公園内を歩き回り、どこにも居場所がないのを知ると、街灯のそばにあるベンチへ腰掛ける。

 ジョギングやウォーキング、犬の散歩をする人と何人かすれ違ったが、皆寒さのため周囲を気にする様子はなく、各々の目的地までまっすぐ進んでいく。
 皆、帰る場所があるのだろう。

 明らかに未成年の少年が一人うろつく時間じゃないと頭では分かっていても、誰も関わろうとしないのは、寒さのせいだけでもなかった。

 誰にも気にされない。
 興味を持たれない。
 心配されることなんてない。

 全て当たり前の事だ。

 学校では普段からそのように振る舞っていた。
 人に絡んで茶化して笑うような連中とも、自分は上位層だと思いたいがばかりに派手に振る舞う連中とも関わりたくなかった。
 目立たず、見つからず、何もできないように振る舞って愛想笑いで切り抜ぬける。
 ただ、それだけに従事していれば校内で無駄に絡まれる事はない。
 とりわけ親しい間柄の友人ができるわけでもなかったが、余計な会話をしなくていい方が楽だった。

 学校はそれでいい。
 目立たないようにしていれば、空気のように見えなくなる。

 だが、家は違う。
 狭い室内にある三人だけの共同体で、目立たないように生きるのは難しい。
 むしろ最初から「いる」こと前提だ。

「おい、あいつはどこいった?」

 赤ら顔で、酒焼けした声で、呂律の回らない舌で、生臭い息を吐き山田のことを探す。
 勉強をしていれば「そんなもの役に立たない」と筆記用具を投げ捨て、テレビを見ていれば「人の稼ぎで遊んでいる」と乱暴に電源を切り、ゲームや漫画に触れていれば「勉強もしないで偉そうに」と取り上げて投げ捨て、本や小説を読んでいれば「頭の悪い俺への当てつけか」と怒鳴られる。

 何をしたって喜ぶ事はないのは当然だ。あの男にとって山田は、自分の憂さ晴らしをするための玩具にすぎないのだから。

 強く言い返した事もある。
 酒ばかり飲んでいて、恥ずかしいとか。怒鳴ることと殴る事しかできないのか、とか。
 ただ事実を告げただけであの男は怒り狂い、山田の体を殴りつけ、馬乗りになって首を絞める。気付いた時には翌朝になっており、グチャグチャになった部屋の隅っこでメソメソ泣いていた女が

「お父さんのことあんまり怒らせないで、ね? お願いだから」

 そういって泣きついた。
 自身もパートで幾ばくか稼いでいるはずだが、財布に入った金も取り上げられるのが日常だ。
 殴られ、怒鳴りつけられる生活が当たり前になっているから、できるだけ被害を少なくしてやり過ごす方法しか考えられなくなっているのだろう。

 ――家に帰りたくない。

 かといって、誰かと連むのも億劫だ。
 互いに家や学校、先生、社会などの愚痴を言い合って傷を舐め合うことが出来れば孤独ではないと錯覚できるが、現実の何が変わっているというのだ。
 一時だけ、寂しさの慰めになるようには見える。
 だが孤独につけ込みやすい集団のようにも見える。
 あの手合いの共同体は、危うい。わずかにバランスが崩れれば、逃れる暇もなく飲み込まれ、二度と這い上がれない奈落にまで引きずり込まれるものだ。

 世の道理もわからぬまま、災禍に飲み込まれてうち捨てられるのは嫌だ――。

 だから、行き場のない孤独と寂しさを埋める術も知らないまま、冬のベンチに座っていた。
 家に帰りさえしなければ、苦痛の時間が引き延ばせる。
 遅い時間に帰った事で受ける説教や暴力なら、自分が悪かったとまだ理解できるぶん、いわれのない暴力よりずっとマシだ。

 とはいえ、いつまでもここにいられる訳ではない。
 いっそこのまま、どこかに消えてしまえればいいのだが――。

「ほら、置いとくで」

 その時、誰かが山田の隣に缶を置く。
 触れれば暖かいホットココアの缶だ。見れば、自分よりずっと背の高い男が隣に立っていた。
 背が高すぎる上、暗闇だから顔も表情も読み取れない。
 何だかわからないままココアの缶を両手で握る。凍えた指先がわずかだがほぐれた気がした。

「ブラックのボタン押したのに、そんなん出てきおってな。俺は甘いの飲まんから、お前にやるわ」

 西の人間なのか、ぶっきらぼうな口調とは裏腹にアクセントが柔らかい。
 本物の関西弁、というやつか。自分の周囲には都内に住んでいる家族ばかりだから、テレビで見る以外では久しぶりに聞いた気がする。

「何でこんな所におるんかわからんけど、それ飲んだら今日は帰れや」

 ――だが、やっぱり大人だ。
 こっちの事情も考えず、子供は家に帰れという。
 帰る場所なんて、ないというのに――。

「……帰りたくない、ってのはあると思う。そりゃ、わかっとるわ。せやけど、今日はじきにみぞれが降る。雪やったらマシだったんやろが、雨と雪とが交じったらアカン。外におったら凍えてしまうで。そうなったら、居たくもない家で寝込んで面倒になるん違うか?」

 男は、さらにそう告げる。
 空は鉛のような色の雲に包まれ、月明かりさえ見えない。
 雨が降る、というのは嘘ではないだろう。この寒さなら、みぞれになるというのもおそらく本当だ。

「……ん、ありがと。もらっとく」
「そうか、助かったわ。甘ったるい飲みモンの処分が出来てな」

 ひらひらと手を振りながら、男は去って行く。
 山田は缶を開けると、ちびちびとココアを飲む。
 甘い砂糖の味と温もりが、体の中に満ちていく。

 家に帰るのが嫌なのはかわらない。クソみたいな家庭なのも。だが、今日は何とか、我慢できそうだ。

 ……知らない人だった。
 だが、自分もあんな風に大人になって、誰も気に留めないような誰かに、寄り添わなくともほんの少し優しく出来たのなら、きっとそれは素晴らしい事なんだろう。

 あんな、大人になりたい。
 まだ幼かった山田にとって、見知らぬ背中とわずかに交わした言葉が、鬱屈した人生で数少ない、尊敬できる大人との出会いだった。

 最も――。
 山田自身が「良い大人」になるという希望も、あの時助けてくれた誰かのの心も、全てを自ら壊してしまうのだが――。

 それはもう少し、先の話になる。

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紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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