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インターネット字書きマンの落書き帳

   
デートの時の勝負服の話(坂上くんと新堂さん)
坂上くんと新堂さんが出る話です。
元木さんと付き合っている坂上くんとか、福沢さんにいいように使われつつ連んでいる新堂さんとか、なんか下級生の間で半グレのヤベーヤツ扱いされている新堂さんが出ます。

何かこう……本編は終わらない6月末みたいな世界なので。(何せ彼らは25年前から高校生をやっているし、25年ずっと怪談を語り続けている)
続く日常というのも書いてみたいもんですな。

坂上くんと元木さんが付き合っているしわりとラブラブなカップルの話ですが、元木さん出ません。
坂上くんと新堂さんしか出ません。
まぁ、オールキャラほのぼのだと思って元気になってください!

俺が元気になるんだからお前らも元気になれよ!




『僕と彼女がすべき事』

 おい、坂上。
 昼休みになったらちょっとツラ貸せや。屋上で待っているからよ。

 朝のホームルームが始まる前、僕のクラスに来るなり新堂さんはそう告げるとさっさと教室から出ていった。

 それを見ていたクラスの友人たちはにわかにざわめき僕を心配そうに見つめる。

「なぁ、大丈夫か坂上。いまの3年の新堂さんだろ? あのボクシング部の……」
「めちゃくちゃ怖い人だって聞いてんだけど、坂上何したんだよ?」
「新堂さん、ケンカで不良5人を病院送りにしたって噂のあの新堂さん? おい坂上殺されるぞ!」

 親しい友人たちは励ましているのか脅しているのかよくわからない言葉を口々に投げかける。
 知らなかった……新堂さん、こんなに有名人だったんですね。

「いまの、新堂さん? あの半グレとつながっていてクラスメイトに薬売って稼いでるっていう……?」
「ヤバいよ新堂さんでしょ? 女の子を口説いたらみんなえっちなお店に売られててピンハネしたお金で豪遊してるって噂だよ」
「坂上くん新堂さんに売られちゃうの……?」

 女子は恐ろしいものでも見るように新堂さんが出ていったドアを見てそんな事を囁いていた。
 新堂さん、想像以上に女子の好感度低い上にヤバい噂しかないですが本当に大丈夫ですか?
 僕はいま、新堂さんが話してくれた怪談よりもここまで尾ひれがついてしまっている新堂さん本人の方が怖いです。

「だ、大丈夫だよ新堂さんとは知り合いだし! 別にケンカとか薬売られるとか僕が売られるとかそういうのは無いと思うから……」

 僕が笑顔を向ければ、皆は幾分か安心したようにそれぞれの席に戻っていった。
 一部の生徒は僕が新堂さんにひどい目にあわされるのを期待していたような目で見ていたのは若干気になる所だけれど、今は気にしないでおこう。

 僕は新聞部の活動で「学校の七不思議」を記事にする事になった。
 先輩の日野さん提案で行われた集会に怪談を語るために集まったうちの一人が新堂さんだったのだ。
 その時に集まった語り部の生徒はみんな怖い話しをする人だったし実際にちょっと危うい性格の人もいたけど思ったよりはいい人で、終わった後はみんなで連絡先を交換し、今でも互いに連絡しあったり会って一緒に遊びに行ったりしている仲だ。
 特に細田さんしつこいくらい毎日声をかけてくるので5回誘われたら1回だけ受ける事にしているけど、それでも一週間に一度は一緒に帰っているから僕が薄情なヤツという訳ではないのだと思いたい。

 と、とにかく僕のことを親友と呼んで可愛がってくれている細田さんや同学年の福沢さんはよく話したり一緒に帰ったりするコトもあるけどそれでも3年の新堂さんが話しかけてくるのは珍しいことだった。
 新堂さんはボクシング部のキャプテンとして忙しい日々を送っているから突然呼び出されるとは思っていなかったのが本音だ。

 何の用だろう?
 あの集会で新堂さんは顔に似合わず……というと新堂さんは怒るんだけど、いかにも強そうで幽霊なんて信じてないって印象とは別に正当派ともいえる都市伝説めいた話を聞かせてくれた。
 それで怯える僕が面白かったのか、今でも時々怖い話を聞かせてくれたり危ない心霊スポットを教えてくれたりするんだけど、新聞のネタになるようなとびきり怖い話でも仕入れてきたのだろうか。

 だったら困るな、僕は怖い話は好きじゃないんだけど……。
 でも新堂さんも日野さんも僕が怖がるのが面白いからって捨て置かれた廃屋とか人のいない神社なんてのをよく見つけてくるんだ。
 それで僕が怖がる姿を見て面白がっているんだから本当に非道い。
 新堂さんと日野さんはタイプが違うから何で友達なんだろうと疑問に思うけど、あの二人基本的に人が困ったり嫌がったりする姿を見て面白がるから気が合うんだ。
 性格悪いんだ、うん、そうだ。きっとどSなんだよ二人とも。

 あぁ、それとももっと別の用があるのかもしれない。
 新堂さんはパフェが好きだけど一人で喫茶店に入るのは躊躇するって言ってたから、パフェのお誘いかな。
 一緒にパフェを食べるくらいなら別にいい。少なくとも怖い場所に連れて行かれて僕一人で放っておかれるよりはずっといい。
 だけどあんまりキラキラしたお店は流石に恥ずかしいから、ら細田さんも誘おうかな……いや、だめだ。細田さんは新堂さんを見ただけでびっくりして大きい身体を小さくし僕の後ろに隠れてしまうんだった。
 福沢さんは新堂さんとも仲が良いみたいだし、もしそうだったら福沢さんを誘おうかな……。
 でもそんな用だったら新堂さんは直接福沢さんを誘うはずだ。

 いったい僕に何の用なんだろう。とんと見当がつかない。

 結局僕はそればかりが気になって、あまり授業に集中できないまま昼休みを迎えた。
 先輩を待たせちゃいけないだろう。そう思ってお弁当も食べずに真っ直ぐ屋上に向かう。

「おう、坂上。早かったな」

 僕も授業を終えてすぐに駆けつけたというのに新堂さんは先に屋上へついていた。
 三年生の教室は三階にあるから授業終わってすぐに屋上へ向かえば僕よりずっと早く到着するのは当然だろうけど、新堂さんの事だから四限目を受けていなかったのかもしれない。

「あ、すいません遅くなって……」

 僕が頭を下げると新堂さんは手をひらひらさせて見せる。待たせたのは気にするな、といった様子だ。 そして僕に隣に来るよう促した。
 普段から屋上は開放されている訳ではない。 鳴神学園の場合、屋上から飛び降りて自殺する生徒が多いから閉鎖されているのだ。
 だが一部の生徒は鍵を勝手に作るなり壊すなりして屋上へ立ち入ると聞いていたが新堂さんも鍵を何かしら悪い方法で開けて立ち入っているのだろう。
 おかげでここは普段から人がいないので内緒話をするのはうってつけだった。もちろん、見つかったら黒木先生のところへ強制的に運ばれてお説教になるからここを使うリスクはそれなりに高いのだけれども。

「どうしたんですか、新堂さん。僕に話って……」

 僕がそう聞くが早いか新堂さんは僕の首に手を回すと内緒話をするような姿勢になる。
 そんな事をしなくとも今は屋上に誰もいないのだから話を聞かれる事はないと思うのだけどそれだけ注意するという事はよほどのことなのかもしれない。
 僕は姿勢を正して新堂さんの言葉を待った。

 本当に薬とか売られたらどうしよう……このままさらわれて売られたりしないかな……そんな事を微塵も考えていなかったといえば嘘になる。
 新堂さんは顔が怖いのだ。
 あれこれ悪いことを考えてしまう僕をよそに、新堂さんは意を決したように話し出した。

「おい、坂上。テメェ……この前の日曜、元木早苗とデートしただろ?」
「えっ!?」

 思いがけない言葉に、思わず声が裏返る。
 確かにこの前の日曜日、僕は元木さんとデートをしてきたばかりだ。

「えっ、でもデートといってもその。元木さんが映画のチケットもってきて、一緒にどうかなって言われたからそれで一緒に映画を見て、ごはんを食べてすぐに帰りました何もしていません!」

 本当に何もしていないし映画を見るだけの健全デートだったから大丈夫だ。
 それに元木さんとは普通にお付き合いしているし、他の女の子と出かけている訳でもない。清い交際というやつだし、その後本当に何もしてないのだ。
 それよりどうして新堂さんがそれを知ってるのだろう。どこかで見られていたのだろうか? 元木さんのデートを何で新堂さんが気にしてるのかもわからない。実は新堂さんは元木さんの事が好きだったのだろうか?

 いや、いくら新堂さんでも元木さんは渡せません。僕の事を生涯の伴侶と思ってくれているし、確かにご先祖様はちょっとうるさい所があるけど元木さんはとってもいい子だから。
 倉田さんだったら紹介するからそっちにしてくれないかな……いやいや、それは関係ない。
 でも倉田さんなら本当に紹介しますよ? 新堂さんどうですか?

「テメェ、女に誘われるまで放って置いたのか? 元木早苗と付き合ってんだろ? ちゃんとお前から誘うとか、次はこっちから誘うから行きたい所とか聞いておけよな」

 そんな事を考えていたら怒らてしまった。やっぱり倉田さんは嫌ですか。
 いや、違う今は倉田さんは関係ない。

 でも確かにそうだ。
 元木さんは照れ屋なのに僕を頑張って誘ってくれたのに僕は次の約束とか全然してなかった。

 ご飯もおごるよって言ったけど元木さんは割り勘にしてくれたし、確かに次は僕が誘うのがスジってやつだよねごめん元木さん放課後会ったらちゃんと話そう。

「わわわわ……ごめんなさい新堂さん! 僕、デートとか久しぶりだから何か浮かれてて」
「俺じゃなくて元木早苗に謝れよったく……」

 はい、その通りです後で謝ります。でも何で新堂さんにこんなに怒られているんだ。
 というか、どうして元木さんとのデートの事知ってるんですか……特に誰にも言ってないんですが……。
 僕が何か言いたそうなことを察したんだろう。新堂さんは僕から手を離すと考えるような仕草を見せた。

「いや、悪ぃないきなり……で、どうだった元木早苗とのデートは」
「え!? いえ、別にその……た、楽しかったです、けど……」
「そうじゃなくてな……いや、それも大事だがよ。元木早苗の服はちゃんとキマってたか、っての聞いてんだ俺は」

 元木さんの服?
 そう言われてデートの時に着ていた元木さんの服を思い出す。
 普段は制服しか着てないからわからないけど私服はとんでもないセンスでがっかりした、なんてのはよく聞くけど元木さんは私服でもとても可愛かった。
 いや、元木さんはもともと可愛いんだけど、白い半袖のブラウスはレースをポイントにつかっていて清楚な印象で、シックな色合いのロングスカートを会わせているのが大人っぽく見えてドキドキしたのを覚えている。
 スカートの色にあわせたベレー帽はリボンのアクセントがついていて、それもすごく可愛かった。
 元木さんはもっと可愛い色合いの服を着てくるんだろうと思っていたから大人っぽいブラウンの装いは少し意外だったし同じ歳なのに普段より大人びて見えてすごく良かったな……。

「あ、あの。もっと可愛い感じかと思ってたら、結構大人っぽくて……いつもと違う気がして、その……」
「良かったのか悪かったのかで聞いてんだよオイ、どうなんだ?」
「よ、良かったです……すごくドキドキして……」

 思い出しただけで顔が赤くなる僕を前に、新堂さんはどこか安心したような顔をしていた。
 いや、どうして新堂さんが安心するんですかと突っ込みたくなるが、その謎はすぐに解ける。

「そうか、良かったぜ。実はあの服、俺がコーディネートしたんだ」

 謎はそう、すぐに解けたのだ。
 だけど僕の脳内は「は? 何いってんだコイツ」でいっぱいになっていた。

 いや、本当になんで新堂さんが元木さんの服をコーディネートしてるの?
 なんでその服で元木さんが来たの? えっ、何で? 訳が分からないよ!

「実はな、この前の休みに頼まれたんだよ。福沢に」
「ふ、福沢さんに!?」

 新堂さんと福沢さんがあの集会からわりと仲良く連んでいるのは知っていた。
 二人ともちょっとパンクな性格だから気が合うのだろう。
 とはいえ別に恋人として付き合っている訳ではなく、お互い興味があるものに対して連んで出かけているような関係のようだから、どちらかといえば仲の良い兄妹みたいな印象だ。

「そう、福沢からな……元木早苗がお前とデートするから服を見て欲しいって頼まれてよ」
「な、何で新堂さんが……」
「知らねェよ。ただ、福沢たちだとどうしても女の子の視点ってのか? そういう風に見て可愛いヤツを選びがちだから、男の目から見てイカしてる服を選びたいって話だったぜ」

 男の僕から見た可愛いと女の子たちの見た可愛いが違うってのはちょっとわかる気がするけど、だからってどうして新堂さんが。
 不思議だけど結果として新堂さんの見立ては良かった訳だから福沢さんの判断は正解だったのだろう。あの日の元木さんは本当に可愛かったのだから。

「買い物に付き合うついでに、千轢屋のフルーツパフェを食うのに付き合ってもらったからな……一度行ってみたかったんだよな、フルーツパーラーのパフェ」

 何で新堂さんがそんな事をわざわざするのかと思ったけど、どうやら一人では入りづらいデパートのフルーツパーラーに入るためにショッピングに付き合ったみたいだ。
 腕っ節も良いし強面の新堂さんがボディーガード兼荷物持ちなら安心してショッピングも出来そうだな、なんて僕は考えていた。

「それで、まぁ俺が服を選ぶ事になってよォ。俺なりに似合うヤツを選んだつもりだったんだが、もしテメェがダサいと思ってたなら元木早苗にも悪いだろ? だからこう、一応聞いておいたって訳だ……」

 一応聞いたとか、むしろそれは種明かしをしたらダメな部分なのでは?
 そうは思うけど元木さんがそこまで僕とのデートを真剣に考えてくれているのは嬉しいしありがたい。
 本当に僕のことが好きで僕のことを一途に考えてくれているんだな、と思うと嬉しくなる。

「何かスイマセン、新堂さんにまで気を遣ってもらって……」
「いや、いいんだそれは。俺がビビっときたヤツがテメェも良いと思ったなら結果オーライだしな」

 新堂さんはそう言いながら僕にコーヒーを差し出す。もらっていいのかと思ったけど「呼び出したワビだ」と言ったから下手に遠慮するとかえって新堂さんの顔を潰す事になる。ここは素直にもらっておこう。

「あ、ありがとうございます。何か……」
「いーっての、こっちも福沢には世話になってるしよ……あー……だが、テメェもう少し元木にちゃんと話しておけよ? デートに誘うとか、結構勇気いるだろうからな」

 それは、新堂さんの言う通りだ。
 元木さんに誘われたうれしさで僕はその後の事などあまり考えていなかった。
 せっかくデートの後なんだから、もっと色々話そう。

 あの日着ていた服が可愛かったこと、見た映画が面白かったこと、一緒にした食事は楽しかったこと、そして次に行きたい場所を聞いて、今度は僕から誘うんだ。
 浮かれていてわすれていた大切な事を思い出せた気がする。

「本当に、ありがとうございます。新堂さん」

 屋上から出ようとする新堂さんに、僕はもう一度呼びかける。
 新堂さんは一度振り返るとニヤリと笑い、手をひらひらさせてから階段を降りていった。

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プロフィール
HN:
東吾
性別:
男性
職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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