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インターネット字書きマンの落書き帳

   
タテノとサクラとコンビニ強盗
オリジナル創作も時々書きます。(挨拶)

という訳で、一次創作で好きなタイプの男と女のコンビを書きました。
極めてマイペースで凡人気質な男・桜井達乃(さくらい・たての)と極めてマイペースであまりに動じない女・館野(たての)サクラの二人が買い物に行ったらコンビニ強盗と出くわす話です。
話はすべてタテノ視点。
この話の長い奴は pixivに乗せてある んですが自分のwebサイトに移動したらpixivのは消しちゃうかもしれません。消さないかもしれません。何もわからない、予定は未定……。
と言ってる傍から自分のサイトに移動しましたやったね!

全体的にゆるいコメディのノリで比較的ヤバい目にあうタテノくんが可愛そうな話ですよ。
登場人物の紹介もしておきます。

<登場人物の紹介>

桜井 達乃(さくらい たての)
 とある大学に通う青年でサクラとは同学年だが訳あって1歳年上。
 インドア派でオタク気質。普段は口数が少ないが頭の中はやたら能弁。
 サクラとは気が合いよく連んでいるがその結果なんか巻き込まれる。
 背は高いがそれ以外は目だったところがない自覚のある地味男。


館野 サクラ(たての さくら)
 とある大学に通う普通の女子大生。タテノと気が合うのでよく連んでいる。
 ゲームや映画、マンガ、アニメなど家から出ないでゴロゴロしながら見るのが大好き。
 タテノとは趣味もあい気も合うからよく連んでいる。
 傍目から見るとタテノと付き合っているようだが付き合っている訳ではない。

※桜井達乃のなまえがタテノで、館野サクラとはちょうど名前と名字をひっくりかえしたような状態なのでお互い親近感を抱いて連むようになった
※田舎から出て一人暮らしだが家も近いので違いの家でダラダラする泊まったりもしてる
※一番親しい友達だが付き合ってはいない


『破れた傘が置いてある理由』

 俺の名前は桜井達乃、どこにでもいる普通の大学生だ。
 明日は大学が休みだから友人の館野サクラとともに夜通し対戦ゲームをし怠惰に過ごそうと思っていたのだが時刻も深夜にさしかかる頃小腹が減ってきたのに買い置きのスナック菓子もジュースもあらかた食べ尽くしてしまい急遽食料を確保するため勇んでコンビニへと向かった。
 アパートから5分もかからないコンビニだ。何か買っても往復10分程度で済む用事のはずだったのだが、今俺の目の前に強盗が立っている。
 今日はしばらく帰れそうにない。ひょっとしたら一生帰れなくなってしまうかもしれない。俺は最悪の事態を想定し死んだひい婆さんに思いを馳せていた。
 ニュースでしばしば深夜のコンビニに強盗が入ったという話を聞く。報道されてないだけでそういった事件は案外と多いのだろうとは思っていたし都会ともなればどこぞのコンビニに金目当てで現れるよからぬ人間もいるだろうとは思っていたがよもや実物と会う機会があるとは思わなかった。
 いやはや、強盗って本当にいるんだな。もっといかにも凶悪そうな顔をしているのかと思ったが俺よりもやや背が低く年は中年ぐらいだろう。さして男前という訳ではない垢抜けない印象はあるが会った感動というのは一切湧かないのはそもそも会いたいと思った事など一度もないからだろう。
 幸か不幸か強盗はレジ前にいる店員側に視線が釘付けであり客である俺やサクラの存在には気がついていないらしい。もともとコンビニは商品が所狭しと陳列され死角になる部分も少なくはないし強盗をするつもりで周囲に気を配れなくなるという事もあるだろう。
 店員さんには悪いが強盗がこちらに気付いてない今のうちに速やかに死角に隠れスマートに警察へ通報するというのが一番手っ取り早い解決法に思えた。
 もし俺が身長223cm、体重は236kgに迫る巨漢であれば警察など呼ばずとも己の力で取り抑えていたかもしれないが所詮俺はどこにでもいる小市民だ。背は178cmあって日本人の平均身長よりは高いという自覚はあるが身体はマッチョに程遠いむしろガリガリのガリだ。ゴボウ男と呼ばれても甘んじて受け入れるしかない貧相な体格でありニンテンドーSwitchより重いものなどもったことはない。そのニンテンドーSwitchでさえ寝ながらゲームをしていると腕がビシビシと引きつるように痛くなるという体たらくなのだから颯爽と現れて徒手空手で強盗を倒し去っていくような正義のヒーローにはなれないのだ。よしんば俺が筋骨隆々のヒーローで強盗を片手でひねりあげ一気に駆逐した結果強盗が骨折などをして過剰防衛で罪に問われるというのもあまりにも悲しい。
 とにかく、電話をしなければ。落ち着いてスマホを取りだして警察に電話をするのだ。警察は110番かそれとも119番だったか。いかん、気が動転して指が思うように動かない。人間は突発的な事態が目の前にあると落ち着いて行動なんて出来ないものなんだな。
「あー、見て見てタテノ。あれ、コンビニ強盗じゃないのかな。レジにいる店員さんに刃物突きつけて凄んでる人がいるよー」
 完全にテンパって思うようにスマホが押せない俺の隣から顔を出すとサクラは普段と変わらぬ暢気な声をあげた。しかもコンビニ強盗とおぼしき人物を指さしている。
 見て見て、じゃないんだよサクラ。ダメだろ人の事を指さしたりしたら相手が傷つくからそういう事はやめなさいって親に言われたりしなかったのか、俺は結構言われたぞ。そりゃ、確かに強盗なんて一生で一度会えるか会えないかの存在だから珍しいといえば珍しいだろうが会ってはしゃげる程に嬉しい相手でもないだろう。
 これがアイドルだったらいる事に気付いたら嬉しいかもしれないし「ファンです」とか「応援してます」なんて声をかければサービスにウインク一つくらいしてくれるかもしれないが、強盗に「あっ、強盗だ」と声をかけても凄まじい視線で睨み付けてくるだけだ。ましてや強盗に「応援してます」なんて言えないだろう何を応援しているというのだ、うまくお金を盗めますようにか。それとも早く捕まって更生しますようになのか。
 事実強盗らしき男はサクラの声でこちらに気付いたのだろう、凄まじい形相でこちらを見据えると小ぶりなナイフをちらつかせた。
「何だお前たち、こんな時間にクソッタレ。窓から見た時は誰も居なかったってのにツイてねぇなッ」
 一応、突入する前に外から店内の様子を窺っていたらしい。さして広くもない駐車場には車、バイク、自転車とおおよそ乗り物らしいものは止まっていなかったし俺とサクラはしばらくスナック菓子の陳列棚あたりで低い棚に置かれている駄菓子を座って吟味していたからすっかり見落としていたのだろう。
 おまけに今の時刻は深夜2時半といった頃だ。一昔前なら草木も眠る丑三つ時などと呼ばれる時間帯なのだからこんな時間に客がいるなんて思わないのは仕方ない。
 それによく見れば強盗は声を震わせている。刃物を持つ手も小刻みに揺れているのだから本当は強盗なんてするようなタイプではないのかもしれない。
 小心者が喰うに困って犯罪に手を染めたのだろうか。生活苦というやつだ。貧乏故の悲しき犯罪だ。痛ましい、彼は社会の犠牲者なのだろう。
「タテノ、あの人指がぷるっぷるに震えてるよ。ヤバいおくすりの常習とかかなー」
 やめてくれサクラ。俺は危険な可能性はなるべく排除したいんだ。こんな状況であってもポジティブに生きていきたいんだよ。より状況が悪くなる可能性を指摘して現実を悪化させるのはやめようじゃないか。それじゃなくても今の状況は人生においてだいぶ悪い展開なんだ。 だけど俺も一目見てこいつはヤバいやつだと思ったよ、目は血走っているし挙動にもやけに落ち着きがないし、多分シャブやってるんだろう。
 強盗は客がいる事など想定していなかったのか思わぬ俺たちの存在を前に多少は狼狽した様子を見せていた。
「テメェら何でこんな所にいるんだよ……」
 ナイフを店員と俺たちとに交互で向けながらこちらを威嚇するように唸る仕草は人間らしさよりどこか獣じみている。やっぱりシャブやってんだろうか。
「何でって、ここコンビニだよコンビニ。コンビニにいる理由なんてほとんどが買い物じゃないのかなー。そりゃ、いまのコンビニは便利だからATMもあるしコピーもあるよ。電気料金の支払いとかもできるようになったし、住民票とかもとれるんだっけ? でもさ、深夜のこんな時間帯であんまりそういうのしないよね? それにねー、夜のこの時間帯ってなんか小腹が空いちゃうんだよねー。アタシもそうでさ、ゲームやってたらおなか減っちゃって-。ポテチとかコーラとか買いに来たんだよー」
 こらサクラさん、普通に会話を試みようとかするもんじゃないよ。確かに今の強盗の質問は「何でいるって? いや買い物だろ?」としか思えないトンチキな質問だったけど。
「そんな事聞いちゃいねぇんだよ!」
 ほら強盗もだいぶ激昂していらっしゃる。いや、それを聞いてきたのは強盗の方なんだけど強盗も強盗なんて犯罪に手を染めるだけあってだいぶ気が動転し自分の考えがまとまらない状態なんだろう。あるいは本当にシャブやってるのかもしれない。
 強盗さんは刃物を向けたまま苛立った様子で地団駄を踏むような貧乏揺すりにも似たビートを刻んでいる。かなり冷静を欠いている状態だろう。この状況で俺の脳内がやたら饒舌なのは完全にヤバい状況だからこそ脳も心も冷え切っているだけであり身体は不安と緊張からとても動きそうにない。背筋はもうキンッキンに冷えており心臓はノミのサイズまで縮んでる気がした。
「だいたいテメェら何だ男と女二人で、アベックかよ」
 レジの前にいた強盗は刃物を俺の方へと向ける。サクラが俺と話しているのもあり俺たちが仲間だと認識したようだった。ひとまずレジにいる店員は刃物の恐怖から逃れたが災厄はまだ終わっていない。だた怒りの矛先とナイフの切っ先が俺たちのところへ来ただけだ。
「いえ、俺たちはカップルとかそういうのじゃないんです。ただ暇な時にあつまって一緒にゲームしたり漫画読んだりアニメ見たりしてるだけの顔見知りって奴で特に付き合ったりとかしてませんので、俺はフリーだから彼女募集中です」
 危険な状態だ、だがこれだけは否定しておかないとと思い俺は自然と口が動いていた。そう、俺はまだフリーなのだ。大概のところにサクラが付いてくるから大学でも俺とサクラは付き合っているのだと思う奴が多く俺には合コンのお誘いや女性からのお誘いがとんとないのだがサクラは俺の好みとは少し外れているのだ。
 と、つい口にしてみたが強盗にそんなアピールをする必用がないのに言ってから気がついた。普段からあまりにカップルと間違えられるのでサクラのことを「恋人か」と言われると自然と否定する癖がここにきて暴走してしまったのだ。波動拳ばっかり出していたら昇龍拳を出そうとしたときにも波動拳を出してしまうようなモノである。
「そうだよー、アタシとタテノは週に半分くらいお互いどっちかの家にいて大長編ドラえもん映画を全部見よう会を開いたりバイオハザードナイフだけでどこまで行けるか大会をしたりFPSで味方同士撃ち合って足の引っ張り合いするうちに寝ちゃったりしてる、ただの友達だよー」
 FPSはサクラが勝手に俺を後ろから撃つだけで味方同士の打ち合いはしたくないのだがな。俺が味方である時もいち早く俺を見つけて撃つのをやめてくれ。だが週に半分は言い過ぎじゃないか。もっと一人で過ごす時間が長い気がするが。
「週に半分も一緒にいるかぁ? 二、三日くらいじゃないか」
「授業ある時に2,3日部屋に遊びにいってるし、休日があったらどっちかの家でダラダラしてるから半分くらいじゃないかなー」
 俺はついサクラの会話に突っ込むが、サクラに言われてみると確かにその位はどちらかの家で過ごしているかもしれない。思ったより入り浸ってしまっているようだ。いや、それをいったらサクラも俺の家に随分と入り浸っているのだが。などと思っていたら強盗は手をますます震わせて叫んだ。
「そりゃアベックじゃ無ぇんかおまえら!」
 つっこむところそこか。別にキスやセックスをしてるって訳でもないし実際にそういた粘膜の接触はないからアベックという範疇に入れていいのかは微妙なところだと思うのだけれどもなぁ。いや、そんな事を考えている場合じゃないのだ。先方は怒ってらっしゃるのだから。
 だが俺とサクラが仮にアベックだったとしても強盗に怒られる筋合いはないと思うのだがこれは男女間にある情愛への羨望や嫉妬からだろうか。それともジャブでもやっているから見境がなくなっているだけだろうか。
 向けられたナイフは刃渡りこそそこまで長いものではなく果物ナイフ程度の小ぶりなものだったがそれだって立派なナイフだ。刺されれば痛いし血だって出る。どんなにチャチに見えたって頸動脈など切られれば人生終了のお知らせだ。なるべく怒らせたくはない。これ以上刺激しないようにしなければ。
「だから、アタシとタテノはアベックでもカップルでもないよー。それに、強盗さん刃物小さくないかなー? その小さいナイフだったらおうちの包丁とかもってきたほうが強そうじゃない? それとも自炊しないひと? よかったらアタシが何かおいしいご飯作ってあげようか。得意料理とかないけど、カレーだったら作れるよ。いいでしょ、カレーおいしいし元気出るよー」
 刺激したくないのにサクラは何をいってるんだよッ。ナイフが小さいとか言って「実はちゃんと大きいのを準備してあるんだよ」って背中から大人の背丈ほどある黒塗りの剣とか出したらどうするんだよ。あるいは「武器がこれだけと思ったのか」と右手をおもむろに外すと義手の下からレーザーガンが出てきたりとか、「俺の身体は剣で出来ているんだよ」とかそんな展開があったらどうするっていうんだよ。
 いやそれはない、冷静になれ桜井達乃。オタク脳が疼いてしまい余計なことを考えているが今は危機的状況だ。目の前にいる男は目が血走っているしいまにもこっちに飛びかかりそうだ正直めちゃくちゃ怖い。
「何だよこのアバズレがぁ、人のことコケにしてんのかよォウザいなこのッ、このォ……」
 男はいよいよ苛立ってきたのか頭をかきむしり怒鳴り散らす。これ完全にやばやばのやばだ。マジの不審者だ。明日を生きるための金がなく貧しさから仕方なしに犯罪へ手を染めたとかではなく犯罪に対する敷居が元々低いタイプの生き方をしている奴だ。あるいはシャブやってるのかもしれない。だが散々シャブやってるのかもしれないな、と思ってきたが出来ればシャブはやっていてほしくない。その手のお薬を処方されてもいないのに自己判断で摂取したり自主的に取引をして購入し摂取する人々は自制心がグラグラで衝動的な暴力が及ぼす危険性に対しての想像力が欠如したりするのだ。
 これを簡単に言うと軽率に人を殺すためにナイフを振るうってことであり今の状況だと俺やサクラが殺されかねないってことである。
 流石に相手がやべーやつだと察したのかサクラはすっと俺の後ろに隠れていた。おい俺を盾にするなお前が言ったから怒らせたんだろうが。
「はい、タテノこれ渡しておく」
 半ばキレそうになる俺を横にサクラは平然とした様子でビニール傘を手渡した。これはコンビニの商品だ。袋が破られて開けてあるがまだ買ってもいない商品を開けたのかサクラは。それに今日は雨なんて振っていないのだが。なんて考えているうちに男は俺たちへ距離を縮めてきた。まずい、相手は刃物もってんだぞ。
「タテノ、傘前に出して距離とってほら、ほら」
 俺の背中を押しながらサクラはそんな事をいう。俺だって後ろに逃げたいがサクラのせいで逃げられない。おまえは格闘ゲームにある見えない壁か? このままじゃ相手のナイフラッシュで壁ハメされて俺のライフがゼロになるのは確実だ。ゲームだったら現実で落とすのはコインだけだろうがここでのライフはたった一つの人生というライフが断ち切られる事になる。
 それでも距離を取る必用があるのは確かだろう。言われた通り俺は傘を突き出すと男から距離をとることにした。コンビニの通路は人一人通るのがやっとだから傘を突き出すことで距離は稼げる。男よりも俺の方が背丈だけは高いからリーチのぶん分がありそうだ。よし、何とか距離はとれたこれで時間が稼げればいいんだが。
「舐め腐ってんじゃねぇぞぼんくらガキどもがららぁるうらぁあああおぁら」
 なんて思っていたら男が突然奇声を上げて走り出してきた。より正確にいえば走りだそうとしている所を確認しただけだ。つま先を蹴って動きだすような姿を目が捉えていて、あぁコイツ走ろうとしていると頭で感じた時、サクラが「いまだー」と声をあげたのだけは聞こえてきた。
 次の瞬間、俺の目に入ったのは開いたビニール傘に突き刺された小ぶりのナイフと突然開いた傘に驚き尻もちをつく男だった。俺の後ろで待機していたサクラがワンタッチで開く傘のボタンを押しそれで急に開いた傘にナイフが突き刺さったようである。ついでに男は驚いて尻もちをついたのだろう。
「タテノ、傘を上にあげて」
 サクラの言葉に促されるように傘をあげるとサクラはナイフがぶら下がった傘を手に取ってナイフをするりと取り上げる。サクラ、おまえナイフの扱いに慣れてんだな。つい感心してしまうほどサクラは顔色ひとつ変えずにナイフを手にとり笑って見せた。
 一方の強盗は武器をとられてすっかり戦意喪失したのだろうか尻もちついて「ひぃ」と情けない声をあげ這いつくばって逃げようとした。
 俺はそれで自分の意思を取り戻したみたいになり、とにかく捕まえなければととっさに男の腰へと乗る。 俺はお世辞にもマッチョとは言えない体型だがそれでもコイツよりは背が高い。地面に腹ばいになっている男の上に座ったら流石に簡単にはどかせないだろう。男は「ぐぇぇ」と呻きながら全てを諦めたようにその場へと突っ伏した。
「あ、タテノー。あんまり胸のところとかに乗らないであげてね。そういう所に乗ると圧迫して死んじゃったりするから、乗るなら腰。そうそう、タテノえらいよー。もう強盗に会っても大丈夫だね」
 バカ言うな。二度と会ってたまるか。なんて思っているうちに窓の外からパトランプの色が射し込み制服に身を包んだ警察官が現れる。レジの店員が通報したのだろうか。ここは駅からそう遠くないコンビニだし交番もある。近頃は物騒だから早く来てくれただのろう。ありがたいことだ。
「あはは、警察さん思ったより早かったねー。やっぱ都会ってすごーい。あたしね、今まで5,6回は強盗ってのとあったことあるんだけど、そのなかでも一番早く来てるよー」
 二度と会ってたまるかと思ったが、ここに二度どころじゃない奴がいた。いったいどうしたら人生でそんな片手の数をこえる強盗と出会えるんだ。どんな治安の街に住んでいたっていうんだ。やけに強盗を前にしても落ち着いていたしナイフを取り上げるのも手慣れた様子だったがそれも数多い強盗経験の場数あってのものか。そんなスキルを得る機会、人生に早々ないだろうに。
 それともサクラの言う強盗は猿とかも含めているのか。猿だったら仕方ない、猿が土産屋の饅頭なんかを盗んでいくのもあれ強盗みたいなもんだからな。猿だということにしておこう。人間の強盗に5,6回も出会う人生なんてあってたまるものか。
「そっか……で、ベテラン強盗遭遇者のサクラさん的に、この後の展開どうなるか教えておいてくれるか? 俺は強盗初めてだから何もわかんねーや」
 軽口のつもりで引きつった笑いを浮かべて言うと、サクラは小首を傾げた。
「うーんとねぇ……いろいろ。調書とかとるのに話聞かれたりすると思うけど、とりあえず……むちゃくちゃ怒られると思うよ」
「むちゃくちゃ怒られるのかよ!?」
「うん、一般市民が刃物をもつ強盗を取り抑えようとしないでくださーいって。絶対言われる! だって普通そんなことしちゃいけないもんねー」
 サクラは言ってる物騒な言葉とは裏腹に鈴を転がすような声で笑う。俺は何だかもう全てがどうでも良い気分になりつつ、せっかくの休みだというのにダラダラとゲームをして寝転がり怠惰に過ごす計画は台無しなのだろうな、と思っていた。
 その後、強盗は無事に逮捕された。警察からはそれなりの感謝も受けたもののサクラの言う通りそこそこキツめに「無理をしないでくれ」と釘を刺されてしまったがこれは仕方ないだろう。
 勝手に使ってダメにしたビニール傘はサクラが買い取ったようだ。コンビニの店員は俺やサクラに助けてもらったと思っているようで傘の一つくらいはいいとひどく恐縮した様子だったがサクラが記念に欲しいのだといって買ってきたのだ。
 強盗に切り裂かれたナイフなんてこの世に二つもないだろうし、幸いに誰もけが人が出なかったのだから縁起もいいに違いないとサクラは笑っていた。
 という訳でいま、サクラの家にはナイフで切り裂かれた傘が置かれている。

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プロフィール
HN:
東吾
性別:
男性
職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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