インターネット字書きマンの落書き帳
令和で笹ヤコが……俺、出しますよ！ 笹弥子！
もしかしてだけど……もしかしてだけど……
ネウロの笹ヤコを求めている人が増えてきてるんじゃないの！？
と思って、昔描いた笹ヤコをサルベージしました。
この作品は、何と！
ネウロ連載当時に書いた笹ヤコです！
すごい……新鮮な笹ヤコを、古漬けにしましたよ！
流石に令和でお出しするのは少し恥ずかしいので加筆しました。
よろしければ令和でも笹ヤコ、お楽しみください。
ネウロの笹ヤコを求めている人が増えてきてるんじゃないの！？
と思って、昔描いた笹ヤコをサルベージしました。
この作品は、何と！
ネウロ連載当時に書いた笹ヤコです！
すごい……新鮮な笹ヤコを、古漬けにしましたよ！
流石に令和でお出しするのは少し恥ずかしいので加筆しました。
よろしければ令和でも笹ヤコ、お楽しみください。
「絆【あんそく】」
その日は非番で、一日ごろ寝をして凄そう。
そう決めてソファで寝ころぶと、笹塚衛士は立ち上る紫煙の形を目で追いかける。
日常の中にある、永久とも思える静寂。
その静寂を破ったのは耳障りな呼び鈴と聞き覚えのある声だった。
「笹塚さん、居ますか～？」
明るく屈託のないその声は、今巷を賑わしている女子高生探偵、桂木弥子のものだ。
一見ただの少女だがその実力は確かで、笹塚の前でも幾度か事件を解決しており、警視庁でも最も凶悪事件の犯人として追われているXi事件の解決にも一役買っている。
世間ではアヤ・エイジアの事件を解決した事件の方が有名だろうか。
あるいは、彼女自身の食いしん坊っぷりの方が周囲を賑わせているようだが、彼の推理力が並外れているのは確かなようだ。
ただ、それが本当に彼女の手によるものか、笹塚は疑いを抱いていたのだが。
それにしても、わざわざ何をしに来たのだろうか。
いや、何が目的であっても、居留守を使う訳にもいくまい。
彼女が事件解決の協力をしているのは確かだし、何より彼女はまだ少女と呼べる年頃だ。
言うなればまだ子供なのだ。
子供が、少女が傷つくのは見たくない。
彼女は特に、だ。
笹塚が億劫そうに立ち上がりドアを開ければ、嬉しそうに笑う弥子の姿があった。
「あ、笹塚さん。良かったぁ、近くに来たからちょっと顔を見に来ました。笹塚さん、一人でしょ。たまには手料理とか食べたいんじゃないかなーって思って、お料理作りに来たんですよ」
彼女はそう言いながら、両手いっぱいのビニール袋を持ち上げる。
中に入っているのは白滝にネギに椎茸と、見る限りはすき焼きの材料のようだ。
以前彼女が病室に見舞いに来た時は、持参した土産の誘惑に負けたらしく中身はほとんど食い尽くされ、土産は足ばかりという惨状になっていたが、さすがにまだ料理になる前の材料段階だと極端なつまみ食いはしないのだろう。
両手のビニール内にはちゃんと材料が残っている。
「あ、あの。本当は２，３品作る予定で材料かってきたんですけど、途中でつい、その……」
前言撤回。
どうやら途中で喰っていたらしい。
「あ、そ……腹壊さないようにな」
「大丈夫です、牛肉は生でもヘーキって言いますし」
しかも食べたのは牛肉らしい。すき焼きなのに。
「それに、おはじき３０コ食べても全然平気でしたから。お腹は丈夫なんです、私」
確かに腹は丈夫そうだが、別の臓器は大丈夫なのだろうか。
笹塚は本気で不安になる。とにかく、エンゲル係数は高そうだ。
「しかし、どういう風の吹き回しだい。弥子ちゃんが料理をつくりに来るなんて」
「えっと、実はうち。お母さんが働いていて、忙しいと帰ってこない日が結構あるんですよね。最近はそれが続いて、たまには誰かとご飯食べたいなーって思って。そう思ってたら石垣さんに会って、そしたら笹塚さん今日は非番だって言うから来てみたんですけど……迷惑でした？」
「いや、そういう訳では……」
「やったぁ、それじゃ、お料理作らせてもらいますね」
弥子はそう言うと、持参のエプロンに着替え台所に立った。
薄桃色のエプロン、その裾が揺れる。
彼女が笹塚の部屋に来たのはその日が初めてであったが、その立ち姿は、何故か懐かしい。
『いいよ、兄貴。今日はあたしが作るからさ』
その瞬間、笹塚の脳裏に影が浮かんだ。
この光景、見た事あると思ったが、そうだ。彼女は死んだ妹と同じ年頃なのだ。
笹塚は彼女を傷つけまいと振る舞う理由に改めて気付く。
いや、最初から気づいていたが、普段は気づかないふりをしていただだろう。
気づいてしまうと、妹を失っていることを思い出してしまうからだ。
そして、願ってしまうのだ。
もう二度と、失いたくはないと。
「あつっ、あっつぅーい」
熱した鍋に手が触れたのか、右手をぱたぱた振り動かす。
「大丈夫か、弥子ちゃん」
笹塚はその手を掴むと、赤くなった指先を口に含む。
そこで互いに視線があい、その時ようやく笹塚は自分のしている事に気づく。
しまった。
過去の情景を思い出しつい妹を扱うみたいに振る舞ってしまったが、彼女は自分の身内ではない。
「悪い、つい……」
慌てて手をはなす笹塚の姿を、彼女はしばらく見つめていた。
頬が僅かに赤いのは、気のせいではなかったろう。
「い、いいんです。笹塚さん。その……」
沈黙。 気まずいような、気恥ずかしいような、苦手な沈黙だ。
だが、その沈黙は彼女の腹からする「ぐぅ」という音ですぐに笑いに変わった。
「あ、もぅ。こんな時に私のお腹ッ。においに反応してつい……」
「いや、いい……そういう所が、君らしい」
程なくして、鍋から暖かな湯気と食欲を誘う臭いが漂ってきた。
「これであとは、春菊さんをいれて少し煮立てばできあがりでーす。あ、笹塚さん。あと少しでできあがりますから、良かったらお風呂にでも入ってきてくださいよ」
「風呂……？」
「どうせずっとゴロゴロしてたんでしょ、シャツがしわしわでくたびれたみたいで、ちょっとかっこわるいですよ。せめてお風呂にでも入って、しゃきっとしてから、ご飯食べましょう」
「だが、俺は昔から飯を食ってから風呂に入るんだが……」
「じゃ、食べてからまた入ればいいじゃないですか。笹塚さん、そうじゃなくてもタバコ臭いんですから」
何となく釈然としない気はしたが、あれこれ言い争っても意味はないだろう。
笹塚は弥子に押し切られる形で、風呂へと追いやられた。
元々、低血圧なのもあって湯船につかりじっくりと風呂に入るタイプではないのだが。
「ちゃんと、しんまで暖まってくださいよ！」
なんて、ちょくちょくドア越しで声をかけられたのでは入らない訳にはいかない。
かといって風呂につかっているだけというのも味気ない。
笹塚は以前、何処かの神父から聞いた心を落ち着かせる方法を試してみる事にした。
「確かそう、素数を数えると心が落ち着くんだよ。」
素数とは１とその数以外では割り切る事の出来ない、孤独な数字である。
その神父は素数を数えると勇気がわいてくるのだという。 変な性癖だ。
「素数か……考えて見ればどういうのが素数だ。３、５、７と、１１……」
冗談で始めた遊びだったが、以外と面白い。
「えぇと、３００代の素数はなんだ……」
気づいたら３００過ぎまで数えていたが、特に心が落ち着く事も、勇気がわく事もなかったが、流石に長風呂すぎたのだろう。
「あの、すいません、笹塚さん……その、もう出てもいいです、すいません……」
力無い弥子の声で、なんとなく、すき焼きはもうこの世にいないのだと悟った。
「気にするな、弥子ちゃん。別に俺はすき焼きがなくとも、塩と焼酎だけあれば……」
そう言いながら風呂からあがる笹塚の目に最初に入ったのは、すでに食い散らかされたすき焼きでもなければ、それで申し訳なく頭を下げる弥子の姿でもない。
「祝、笹塚刑事完全復活。快気祝いおめでとうパーティ」
と、手作りで描かれた横断幕だった。
「弥子ちゃん、これは……」
「えと。笹塚さんとは、事件の時色々お世話になって……Xiはあんな事になっちゃったけど、あの時笹塚さんが居てくれたから、私たちとっても助かって。それで、怪我がなおってからちゃんと復帰のお祝いってしてないなって思ったんでパーティしようと思ったんですけど」
テーブルには彼女の手料理他、恐らく彼女がかってきたであろうスナック菓子やケーキの類も綺麗になくなっていた。 横断幕は予想外だったが、食事が平らげられていた事は予想通りだったわけだ。
「ごめんなさい、つい……」
弥子は申し訳なさそうに謝るが、その点は料理を作りに来たという時点でもう覚悟していた事だ。
「いや、いいんだ……」
笹塚は慰めるよう、弥子の頭を撫でる。
彼女はその手が頭に触れると、何故かビクっと身体を振るわせたが、照れくさそうに笑って見せた。
「……なんか、笹塚さん」
「ん、なんだ」
「いえ。その、なんでも」
「歯切れが悪いな。言いかけて言わないのは一番気になるんだ。言って見ろ」
「え、えーと……なんか、笹塚さん。お兄ちゃんみたいだなぁ……って。私、兄さん居ないけど。お兄さんが居たら、笹塚さんみたいな人だったらなって。そ、それだけです。あの、ごめんなさい。変なこと言って」
そう変なことでもない。
笹塚にとっても弥子は、妹みたいに大切な……。
「あ、すき焼きは食べちゃったけど、うどんすきもやろうと思ってかっておいたうどんもあるんです。これで、せめてうどんすきしましょう。ね」
彼女はそう言いながらうどん玉をすき焼き鍋にぶち込んでいく。ざっと十人前はありそうだ。だがきっと、笹塚の口に入る分はないのだろう。
賑やかで穏やかでいつも笑っている、弥子と笹塚の性格は、まったく逆といってもいいだろう。
だがこの賑やかさは苦痛ではない。穏やで、心地よくさえある。
静寂ではない日常など、もう味わえないと思っていたが……。
「弥子ちゃん」
「はい？」
「ありがとう、な」
そう言われ、彼女は笹塚へ屈託ない笑顔を向ける。
この笑顔だけは、護る価値がある。何を犠牲にしてももう、失いたくはない。
それは穏やかな休日の一幕だった。
その日は非番で、一日ごろ寝をして凄そう。
そう決めてソファで寝ころぶと、笹塚衛士は立ち上る紫煙の形を目で追いかける。
日常の中にある、永久とも思える静寂。
その静寂を破ったのは耳障りな呼び鈴と聞き覚えのある声だった。
「笹塚さん、居ますか～？」
明るく屈託のないその声は、今巷を賑わしている女子高生探偵、桂木弥子のものだ。
一見ただの少女だがその実力は確かで、笹塚の前でも幾度か事件を解決しており、警視庁でも最も凶悪事件の犯人として追われているXi事件の解決にも一役買っている。
世間ではアヤ・エイジアの事件を解決した事件の方が有名だろうか。
あるいは、彼女自身の食いしん坊っぷりの方が周囲を賑わせているようだが、彼の推理力が並外れているのは確かなようだ。
ただ、それが本当に彼女の手によるものか、笹塚は疑いを抱いていたのだが。
それにしても、わざわざ何をしに来たのだろうか。
いや、何が目的であっても、居留守を使う訳にもいくまい。
彼女が事件解決の協力をしているのは確かだし、何より彼女はまだ少女と呼べる年頃だ。
言うなればまだ子供なのだ。
子供が、少女が傷つくのは見たくない。
彼女は特に、だ。
笹塚が億劫そうに立ち上がりドアを開ければ、嬉しそうに笑う弥子の姿があった。
「あ、笹塚さん。良かったぁ、近くに来たからちょっと顔を見に来ました。笹塚さん、一人でしょ。たまには手料理とか食べたいんじゃないかなーって思って、お料理作りに来たんですよ」
彼女はそう言いながら、両手いっぱいのビニール袋を持ち上げる。
中に入っているのは白滝にネギに椎茸と、見る限りはすき焼きの材料のようだ。
以前彼女が病室に見舞いに来た時は、持参した土産の誘惑に負けたらしく中身はほとんど食い尽くされ、土産は足ばかりという惨状になっていたが、さすがにまだ料理になる前の材料段階だと極端なつまみ食いはしないのだろう。
両手のビニール内にはちゃんと材料が残っている。
「あ、あの。本当は２，３品作る予定で材料かってきたんですけど、途中でつい、その……」
前言撤回。
どうやら途中で喰っていたらしい。
「あ、そ……腹壊さないようにな」
「大丈夫です、牛肉は生でもヘーキって言いますし」
しかも食べたのは牛肉らしい。すき焼きなのに。
「それに、おはじき３０コ食べても全然平気でしたから。お腹は丈夫なんです、私」
確かに腹は丈夫そうだが、別の臓器は大丈夫なのだろうか。
笹塚は本気で不安になる。とにかく、エンゲル係数は高そうだ。
「しかし、どういう風の吹き回しだい。弥子ちゃんが料理をつくりに来るなんて」
「えっと、実はうち。お母さんが働いていて、忙しいと帰ってこない日が結構あるんですよね。最近はそれが続いて、たまには誰かとご飯食べたいなーって思って。そう思ってたら石垣さんに会って、そしたら笹塚さん今日は非番だって言うから来てみたんですけど……迷惑でした？」
「いや、そういう訳では……」
「やったぁ、それじゃ、お料理作らせてもらいますね」
弥子はそう言うと、持参のエプロンに着替え台所に立った。
薄桃色のエプロン、その裾が揺れる。
彼女が笹塚の部屋に来たのはその日が初めてであったが、その立ち姿は、何故か懐かしい。
『いいよ、兄貴。今日はあたしが作るからさ』
その瞬間、笹塚の脳裏に影が浮かんだ。
この光景、見た事あると思ったが、そうだ。彼女は死んだ妹と同じ年頃なのだ。
笹塚は彼女を傷つけまいと振る舞う理由に改めて気付く。
いや、最初から気づいていたが、普段は気づかないふりをしていただだろう。
気づいてしまうと、妹を失っていることを思い出してしまうからだ。
そして、願ってしまうのだ。
もう二度と、失いたくはないと。
「あつっ、あっつぅーい」
熱した鍋に手が触れたのか、右手をぱたぱた振り動かす。
「大丈夫か、弥子ちゃん」
笹塚はその手を掴むと、赤くなった指先を口に含む。
そこで互いに視線があい、その時ようやく笹塚は自分のしている事に気づく。
しまった。
過去の情景を思い出しつい妹を扱うみたいに振る舞ってしまったが、彼女は自分の身内ではない。
「悪い、つい……」
慌てて手をはなす笹塚の姿を、彼女はしばらく見つめていた。
頬が僅かに赤いのは、気のせいではなかったろう。
「い、いいんです。笹塚さん。その……」
沈黙。 気まずいような、気恥ずかしいような、苦手な沈黙だ。
だが、その沈黙は彼女の腹からする「ぐぅ」という音ですぐに笑いに変わった。
「あ、もぅ。こんな時に私のお腹ッ。においに反応してつい……」
「いや、いい……そういう所が、君らしい」
程なくして、鍋から暖かな湯気と食欲を誘う臭いが漂ってきた。
「これであとは、春菊さんをいれて少し煮立てばできあがりでーす。あ、笹塚さん。あと少しでできあがりますから、良かったらお風呂にでも入ってきてくださいよ」
「風呂……？」
「どうせずっとゴロゴロしてたんでしょ、シャツがしわしわでくたびれたみたいで、ちょっとかっこわるいですよ。せめてお風呂にでも入って、しゃきっとしてから、ご飯食べましょう」
「だが、俺は昔から飯を食ってから風呂に入るんだが……」
「じゃ、食べてからまた入ればいいじゃないですか。笹塚さん、そうじゃなくてもタバコ臭いんですから」
何となく釈然としない気はしたが、あれこれ言い争っても意味はないだろう。
笹塚は弥子に押し切られる形で、風呂へと追いやられた。
元々、低血圧なのもあって湯船につかりじっくりと風呂に入るタイプではないのだが。
「ちゃんと、しんまで暖まってくださいよ！」
なんて、ちょくちょくドア越しで声をかけられたのでは入らない訳にはいかない。
かといって風呂につかっているだけというのも味気ない。
笹塚は以前、何処かの神父から聞いた心を落ち着かせる方法を試してみる事にした。
「確かそう、素数を数えると心が落ち着くんだよ。」
素数とは１とその数以外では割り切る事の出来ない、孤独な数字である。
その神父は素数を数えると勇気がわいてくるのだという。 変な性癖だ。
「素数か……考えて見ればどういうのが素数だ。３、５、７と、１１……」
冗談で始めた遊びだったが、以外と面白い。
「えぇと、３００代の素数はなんだ……」
気づいたら３００過ぎまで数えていたが、特に心が落ち着く事も、勇気がわく事もなかったが、流石に長風呂すぎたのだろう。
「あの、すいません、笹塚さん……その、もう出てもいいです、すいません……」
力無い弥子の声で、なんとなく、すき焼きはもうこの世にいないのだと悟った。
「気にするな、弥子ちゃん。別に俺はすき焼きがなくとも、塩と焼酎だけあれば……」
そう言いながら風呂からあがる笹塚の目に最初に入ったのは、すでに食い散らかされたすき焼きでもなければ、それで申し訳なく頭を下げる弥子の姿でもない。
「祝、笹塚刑事完全復活。快気祝いおめでとうパーティ」
と、手作りで描かれた横断幕だった。
「弥子ちゃん、これは……」
「えと。笹塚さんとは、事件の時色々お世話になって……Xiはあんな事になっちゃったけど、あの時笹塚さんが居てくれたから、私たちとっても助かって。それで、怪我がなおってからちゃんと復帰のお祝いってしてないなって思ったんでパーティしようと思ったんですけど」
テーブルには彼女の手料理他、恐らく彼女がかってきたであろうスナック菓子やケーキの類も綺麗になくなっていた。 横断幕は予想外だったが、食事が平らげられていた事は予想通りだったわけだ。
「ごめんなさい、つい……」
弥子は申し訳なさそうに謝るが、その点は料理を作りに来たという時点でもう覚悟していた事だ。
「いや、いいんだ……」
笹塚は慰めるよう、弥子の頭を撫でる。
彼女はその手が頭に触れると、何故かビクっと身体を振るわせたが、照れくさそうに笑って見せた。
「……なんか、笹塚さん」
「ん、なんだ」
「いえ。その、なんでも」
「歯切れが悪いな。言いかけて言わないのは一番気になるんだ。言って見ろ」
「え、えーと……なんか、笹塚さん。お兄ちゃんみたいだなぁ……って。私、兄さん居ないけど。お兄さんが居たら、笹塚さんみたいな人だったらなって。そ、それだけです。あの、ごめんなさい。変なこと言って」
そう変なことでもない。
笹塚にとっても弥子は、妹みたいに大切な……。
「あ、すき焼きは食べちゃったけど、うどんすきもやろうと思ってかっておいたうどんもあるんです。これで、せめてうどんすきしましょう。ね」
彼女はそう言いながらうどん玉をすき焼き鍋にぶち込んでいく。ざっと十人前はありそうだ。だがきっと、笹塚の口に入る分はないのだろう。
賑やかで穏やかでいつも笑っている、弥子と笹塚の性格は、まったく逆といってもいいだろう。
だがこの賑やかさは苦痛ではない。穏やで、心地よくさえある。
静寂ではない日常など、もう味わえないと思っていたが……。
「弥子ちゃん」
「はい？」
「ありがとう、な」
そう言われ、彼女は笹塚へ屈託ない笑顔を向ける。
この笑顔だけは、護る価値がある。何を犠牲にしてももう、失いたくはない。
それは穏やかな休日の一幕だった。
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