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インターネット字書きマンの落書き帳

   
山ガスを監禁している異常成人男性の夢男子BLです
なんで 異常成人男性 夢男子が山田ガスマスクを監禁している話がまだ続いているんですか!?
俺が書きたいからです!

はい、挨拶おわり。

本題です。

人魚姫という物語に囚われた 異常成人男性 夢男子が、
山田ガスマスクを監禁して愛でるだけの話です。

あと1話書いたら終わると思うよ。
最後まで楽しんでいってくれよな♥



『籠の中の駒鳥』

 ……どうして、あたしたちには、魂がさずかりませんの?

 今日も男は揚々と物語を諳んじる。
 内容は相変わらず、アンデルセンの人魚姫だ。

 山田は、男が諳んじる物語で、はじめて人魚姫の物語を正しく知った。

 子供の頃、絵本で読んだ記憶はあるが、その内容は王子に恋をした人魚姫が恋に破れ、愛した王子を殺すことができず海に飛び込み、そして泡となって消えたという話だ。

 今、男が話しているのは違う。
 元々、人間のような魂をもっていなかった人魚姫が、王子を殺さず身を投げるという筋道は一緒だが、泡になる意味が違うのだ。

 魂をもたない人魚姫が、人間と同じように魂をもつ可能性を与えられ、希望をもって祈る。
 たとえ人間の魂を持たない者であっても、真実の愛と行いによって救われる物語であり、これがアンデルセンの書いた原作に、より近い翻訳らしい。

 綺麗事だ、と思った。
 天国ではなく、今生きているこの世界で救われたいともだ。

 だが、それが許されないからこそ、死に救済を見たのだろう。
 それはわかる。なぜなら、山田もまた誰にも許されない存在だったからだ。

 「さぁ、綺麗に爪を塗ったよ。キミは肌が白いから、あまり派手な色にしないほうが似合うだろう。だから、薄紅色のマニキュアだ」

 山田の手をとり、丁重に爪を塗り終わると男は嬉しそうに笑う。

 この男が、誰なのか山田は相変わらず知らないでいる。
 男も山田の前では、名乗らないでいる。

 相変わらず、山田を監禁し、その体を玩具のように好きなように飾り、好きなように貪る。
 愛し、愛されているという相互の思いがある関係ではない。
 山田からすれば一方的な愛であり、尊厳の蹂躙だ。男は時に乱暴に山田の体を組み敷き、好き勝手に突き上げる。
 そうかと思えば今のように優しく、宝物を愛でるように扱うのだ。

 しかもこの男には、愛でる時と貪る時、そこに一切の感情変化が見られない。
 穏やかに笑って、あくまでも大事な「人魚姫」を抱き慰める清廉な王子として振る舞うのだ。

 狂人と呼んでも、決して言い過ぎではないだろう。
 人魚姫という物語に執着し、山田にそれを投影し、自分の手元に置き、着せ替え人形のように飾る人間が、まともなはずもない。

 王子と人魚姫。
 狂人と人形。

 閉ざされた部屋で行われる、児戯に等しいごっこ遊びは粛々と続けられる。

「マニキュアが乾いたら、またお薬の時間だからね」

 男は笑いながら山田の髪を撫でると、キッチンで薬を弄り始める。
 ベリーとバニラの甘ったるい匂いは、離れたベッドまで届く。

 山田は男からいつも、口移しで薬を注がれていた。
 吐き出そうと思ってもすぐに口を押さえつけられ、鼻までつままれるものだから、どうやっても飲み込んでしまう。
 薬を飲めば、手足の自由はたちどころに奪われ、身動きとれぬ傀儡となるのだ。

 だが、最近は以前と少し様子が変わってきたのに、山田は気付いていた。

 調合が上手くいかないのか。それとも山田の体が薬になれてきたのか、最近は少しなら体が動かせるようになったのだ。

 以前はベッドで横になるだけだったが、今はベッドから這い出して、室内を動き回れる。
 実際、キッチンまで這いずって、中から銀のナイフを一つくすねてきた。
 男はまだ、気付いていない。

 ――人魚姫は、自分を愛さない王子を殺せば、また人魚に戻れるはずだった。

 山田は枕元に隠していたナイフを、そっと握る。
 男はいつも、山田の前では無防備だ。

 人魚姫は、真実の愛と献身で、永遠の魂を得た。
 だが――。

 ――僕はそうじゃない。
 僕の魂は、もう穢れて救いようのないのだから――。

 山田は強く、ナイフを握る。
 そして――。

「……山田くん?」

 目の前に広がる真っ赤な血を、男は驚きの目で見つめていた。
 今さっきまで白いシーツがきっちりと敷かれていたベッドが、薔薇を散らしたように赤く染まっている。

 山田は手にしたナイフで、自らの両足を切り刻んでいた。

「山田くん! 山田くん、どうして……どうしてこんなことを。キミは……」

 呆れるほど、血が溢れてくる。
 腕に力が入らないから、体重をかけて思い切り足を突いたから、かえって深い傷になったようだ。

「あぁ、キミがこんなに傷ついて……」

 珍しく狼狽える男を前に、息絶え絶えで顔をあげると、山田は彼の手をとって、自分の血で文字を書いた。

『人魚姫の足は、歩くと剃刀で刻まれるよう、激しく痛むものでしょ』

 ――男から幾度も聞かされている。
 人魚姫は、薬で尾びれを足にかえた。だがその足は、歩くと錐で突いたように。あるいは剃刀の上を歩くように、激しい痛みを伴うのだ。

『僕が人魚姫なら、そうしないと嘘になる』

 続いて、シーツの上に辿々しく字を書く。
 それを見て、男は山田の手をとるとしばらく静かに目を閉じる。

 そして、血濡れた指先に優しい口づけをした。

「大丈夫、私はキミを赦すし、愛するよ」
「私がキミの魂になる」
「真実の愛をもつ魂は、天国に行けるんだからね」

 陶酔し、信望し、どこへも定まらない視点で、男は恍惚の表情を浮かべる。
 そんな彼を見つめた後、山田は静かに頭を垂れた。

 ――僕は、魂なんていらない。真実の愛も。
 僕がほしいのは、ただ一つ――。

 僕が存在することを許してくれる、この籠だけが、あればいい。

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