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インターネット字書きマンの落書き帳

   
襟尾純は後悔をする(パラノマ二次・通常ルートネタバレあり)
襟尾純が出る話です。(挨拶)
パラノマサイトの通常ストーリーをネタバレしているのでそのへんヨロシクおねがいします。
何をよろしくしているのか俺もよくわかりませんが。

という訳で、通常ルートの最終局面に至るとき襟尾の心境を勝手に夢想しました。
悲しんだりするのは全てが終わってからだ!
そんな風に気丈に振る舞ってみたものの志半ばで倒れ、後悔をして死んでいくエリオの話をしてます。

後悔をする襟尾。
圧倒的光の男が後悔するという概念、健康にいい気がします。



『覚悟の一歩、後悔の最後』

 不意に息苦しくなり襟尾はその場に膝を付く。
 隣にいたはずの黒鈴ミヲも似たような状態なのか、視界の片隅で倒れ伏し苦しそうに身もだえしていた。
 これは、呪いだ。自分たちは呪いを受け、そして死ぬのだろう。
 普通だったら考えられない理由で死に至るのを当然のように受け入れ、そして逃れられないと悟ったのは今日という一日で散々と呪詛による死を見てきたからだ。

 内側からこみ上げてくる苦しみで海で溺れかけた時の記憶が呼び覚まされる。
 子供の頃に出かけた林間学校で友人たちがふざけて遊び海に突き落とされた時の記憶だ。もがいても浮き上がらない身体と口からも鼻からも容赦なく入ってくる海水にみるみる身体が沈んでいく恐怖が今になって鮮明に思い出される。
 泳ぎは得意だったが突然突き落とされたため海に落ちたのだという認識は随分と遅れた。水の中にいるのだから泳がなけれが沈んでしまう、それを認識したときには随分と海水を飲み込んでいた。
 突き落とした連中はまさか自分が溺れるなんて思ってもおらず、ふざけているのだと勘違いし陸の上で笑っている。あの時近くで見ていた他の友人がとっさに浮き輪を投げ込んでくれなければきっとのそまま溺れていただろう。

 いま、襟尾の肺を満たしているのはあの時と同じ大量の水を飲み込んだような感覚だった。呼吸をしようとしても口や鼻が水気に塞がれゴボゴボと音をたてるばかりで息苦しく、視界も徐々に薄れていく。脳へ空気が行かなくなり、色々と考える事ができなくなっていた。
 傍らに立つ女は何も言わず襟尾とミヲが死ぬのをじっとまっているように見える。
 恐らく彼女が使った呪詛だ、最初からこちらを殺すつもりで声をかけたのだから助けるつもりは毛頭ないのだろう。
 そもそもこの呪詛は強力だ。一度行使されたら例え術者本人が止めて欲しいと願っても相手が死ぬまで終わらず、例え救急車を呼んだとしても助からないのはわかっている。
 実際に灯野あやめは途中で止めて欲しいと願っていた。もういい、充分だ。わかったから止めてと強く思ったがすでに止める事はできず津詰は無惨に死に絶えたのだ。

 そう、津詰徹生は殺された。呪詛の力で、自分の娘に。
 あやめが持つ呪詛が隠しごとを持つ相手を打ち殺すということを知ってなお、津詰は呪詛を受け入れた。
 娘への愛情を示す方法がそれしか見つからなかったのか、自分が最後の犠牲になればいいと願っての行動か今になってはわからない。

 ただそれを前にした襟尾は叫び出したい衝動を抑えるのに必死だったのは生々しい記憶として胸へ焼き付いている。

 泣いて喚いて激昂しあやめを詰る事ができたらどれだけ気楽だったろう。
 子供のように駄々をこねどうして死んだと津詰の身体へすがりつく事ができたのなら、どれだけ気持ちが楽になっていただろう。
 全てを投げ出し他の刑事に任せ悲しみと後悔で倒れ伏すのは無様だろうが、それを知ってもなお倒れ泣き狂いたい気持ちであったが、襟尾はそれをしなかった。

 それは隣には襟尾より津詰との付き合いが長いミヲがいて、彼女は激しいショックを受け涙をこぼしていたのもあっただろう。
 憧れていた時は自分の方が長かったろうが、実際に津詰を知り彼と親しく過ごしていたのはミヲの方が長い。そんな彼女が涙を流し悲しみにくれながらも自分の使命を全うしようとしているというのに、自分が取り乱して全てを放棄する訳にはいかないと思ったからだ。

 また、自分は刑事という立場である。市民の安全を守り、正義を行使するため戦う義務がある。事件による死は日常茶飯事の立場であり、死を前にしても極力冷静さを保つというのが彼の仕事なのだ。泣いたり悲しんだりするのは全てが終わってからでいい。

 全てが終わったら津詰の葬式で思いっきり泣くか、墓参りでたっぷり愚痴を言えばいいのだ。
 それまでは全てを飲み込み、今はただ前を向こう。

 強く自分に言い聞かせ、襟尾は涙を見せぬまま最後の地へと向かう。
 歩みを止めなかったのは津詰への弔い合戦といった気概を抱いていたのもあったろう。刑事という立場から泣いてる暇がないのも、自分が立ち止まれば解決へ向かう方法が潰えてしまうというのも理解していたのだ。
 それは長らく警察と協力関係にあるミヲも同じようで、津詰の死を前にした時は非道く鳴き出したものの今は随分落ち着いたようで気丈にも蘇りの秘術を解呪するため協力を申し出てくれていた。まだ高校生のミヲがこれほどまで頑張ってくれているというのに年上の男であり刑事でもある自分がメソメソして彼女に気を遣わせる訳にもいかないだろう。

 それに、事件はあと僅かで終わるはずだった。
 蘇りの秘術を解呪するための方法はすでに手中にあり、あとはその意味をミヲと確認して必要な存在をすべてそろえるだけ、という段階までこぎ着けていたのだはずだったのだ。

 けれども、襟尾は失敗した。
 それまでずっと隠れていた一人の呪主により呪い殺されてしまったのだ。

 遠のく意識は襟尾の目は微かに笑う女の姿だけを映す。
 見覚えのない顔だ。名前も知らない相手だが、きっと昨晩からずっと様子をうかがっていたのだろう。確かに呪詛はあと一つが回収できていないままだったが、まさかこの瞬間を狙っていたというのだろうか。
 全ての呪主が消えたいま、集めた滓魂を独占できるのは彼女だけだろう。呪詛の正体も知れぬ状態では彼女を止めるものももういない。
 津詰が命を賭して守りたかったこの街は程なくして呪詛と恐怖に支配されるのだ。

 悔しさはあった。
 だが襟尾はそれ以上に深い悲しみと後悔に打ちひしがられる。

「あぁ、こんな事なら……」

 声を出そうとするが全て言葉にならず、ただ喉の奥からごぼごぼと水が震える音だけがした。故に襟尾が何を言いたかったのかなど、誰の耳にも届かなかっただろう。
 死ぬ前に走馬灯の如く過去の風景が巡るのだとはよく言うが、襟尾はただ一つの思いだけを抱いていた。

 こんな事なら、もっとみっともなく泣いて取り乱し狂うほど嘆いていればよかった。
 もっと素直にもっと自分らしく、津詰のために泣きたかった。それができればどれだけ楽だったろうか。どれだけ自分の心が救われていただろうか。

「ボス……津詰さん、津詰さん、本当に……」

 言葉は声にならぬまま、襟尾の意識は闇へと消える。
 死に至る絶望や未来への不安より襟尾を後悔させたのは、津詰への信頼と敬愛からくる深くも悲しい思いだけだった。

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