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インターネット字書きマンの落書き帳

   
彼シャツするヘンリックさん(ガースーとヘン)
ブラッドボーンのガスコインとヘンリックがキスするだけの話です。
(気軽な挨拶)

昔かいた話で、ぷらいべったーにだけupしていたものですがなんだか!
ガスコインとヘンリックの話を楽しんでくれる人がいたので!
蔵出しを致しました! 致しましたよッ!
やったー! 褒められると蔵出しします!

内容は、油断していて大けがをするヘンリックをガスコインが介抱するような話です。
どぞっ!
俺は体格差がある男が彼シャツをするのが好きッ!



『血と脂の心地よい香り』

 訪れた目覚めと同時にヘンリックの身体には鈍い痛みが降りかかる。
 あまりの痛みにうめき声をあげれば心配そうに顔をのぞき込むガスコインの姿が目に入った。 

「気付いたのか?」

 普段から粗野で無骨な彼にしてはやけに優しい声なものだから据わりが悪い気持ちを抱きながら、ヘンリックは頭に手をあてると、意識を失う前の記憶をたぐり寄せる。
 最後にあるのは、豚の嘶きだ。突進してくる足音に気付き、危ないと思ってガスコインを押しやったのだが、自分が避けるのは間に合わなかった。
 元々、一回り以上の体格差があるのだ。ガスコインを押しのけた時点で普段よりずっと不利な状態だったろうが、所詮は豚ださしたる敵では無い。そんな慢心がヘンリックの油断を誘った。
 人喰い豚はヘンリックが仕掛け武器をかまえるよりずっと早くに迫ると彼の身体を小石のように軽々とはねのけ、そこからもう記憶がない。
 そのまま谷川へと落されたのだろう。身体に水が絡みつく冷たい感覚だけをぼんやりと覚えていた。谷川なんぞで意識を失ったら溺れ死ぬのが道理だろうが、どうやら死に損なったようだ。

「道中らしい男が、川に落ちたお前を見つけてすぐに助けてくれたんだ。東洋人みたいだが……礼儀の正しいいい奴だったよ」

 ガスコインが助けてくれたのかと思ったら、どうやら道中の狩人が助力してくれたらしい。谷底に落とされたのだから、その狩人がいなければ溺死していただろう。い

「それは僥倖だ。礼はしてくれたか?」
「あぁ。謝礼を払おうとしたら断られたから、水銀弾をいくつか融通した。そいつも狩人だったからな」

 ガスコインらしからぬ気の廻し方である。あるいはヘンリックの処世術を見て、少しずつでも常識的な狩人の振るまいを覚えていったのかもしれない。どちらにしても、もう力で推し進める荒くれ者ではなくなってきているのだろう。最も、コンビを組んでから随分と長い時が過ぎているのだ、昔のまま青臭いガスコインであるはずがない。成長して当然なのだ。
 ヘンリックはそんな当たり前の事を実感しながら鈍く痛む身体を押して動く。そして、その時ようやく自分の服がいつもの狩装束と違っている事に気が付いた。
 袖口にかなりボロがきているが、これはガスコインのワイシャツだろう。

「お前の狩り装束は水で濡れて酷いモンだったからな。いま渇かしてるが、全然渇きやしねぇ」

 見れば焚き火の前にヘンリックの装束が無造作に連なっている。
 ヘンリックが気を失っている間に、ガスコインなりに精一杯の介抱をしたのだろう。不器用にテントがはられ、ヘンリックの周りは枯れ草がたっぷり敷かれた簡易ベッドが出来上がっていた。 あまり手先が器用ではなく目も見えないガスコインが一人でしたなら上出来ともいえる野営の準備である。
 ヘンリックは安堵の息を吐くと簡易ベッドに身を委ね、ボロのワイシャツが袖口に鼻を近づけた。汗と獣の返り血が残るのは、ガスコインが盲目であるため洗濯が行き届かないからだろう。酷く汚れている服は不愉快なはずなのに、何故かその匂いに酷く落ち着く自分がいる事に、ヘンリック自身も驚いていた。

「ヘンリック、朝になったら動くからそれまで辛抱してくれよ。朝になればお前を抱えて街に戻ることが出来るだろうからな……動け無ぇだろ、そんな身体じゃ」

 ガスコインは焚き火に薪をくべる。ガスコインは普段、怪我を推してでも戦うと言いだしてきかない性分だったからヘンリックの怪我で野営をしその場に留まろうと率先して提案したのはかなり意外だった。

「妙に優しいんだな」

 半身を起こし、火にあたるヘンリックにガスコインは慣れた手付きでハーブティを注ぐ。

「……お前が、川に落ちた時。俺は、すぐに助けにいけなかった。目の前に獣がいて、とにかくそれを殺さなければ助けられないと……そう思った時、その……何だ」  
「まさかお前、俺が死ぬと思ったのか」

 茶化したつもりだったが、ガスコインはその巨躯を小さくまるめると無言のまま頷く。その姿は普段よりもずっとずっと小さく見えた。
 事実、通りかかった狩人がすぐさま飛び込みフォローしていなければヘンリックは川で意識を失い、そのまま溺れ死んでいただろう。
 ガスコインは薪を掴むと、見えてない目でじっと火を向いていた。

「おまえが死ぬなんざ思ってねぇよ……ただ、もしかしたら……なんて、ちょっとでも考えたら、何て言うんだろうな……谷底に落されたみたいに背中がぞっとして……周囲が真っ暗で見えなくなるようで、ひどく恐ろしかったんだ。すでに何も見えてない俺が……さらに光が喪われたようでな……」

 そこからガスコインは黙り込んでしまうので、ヘンリックは静かに目を閉じた。
 実際、かなり危険な状態だったろう。狩人としてはベテランと呼ばれるようになり、ガスコインとのコンビも随分と馴染んできた。その慣れが油断を産んだのだか。
 あるいは、ヘンリックがガスコインのことなど気にせず彼を庇わないで真っ先に豚を始末していたら、こんなヘマはしなかったはずだ。
 それだというのに何故、彼は身を挺してまでガスコインを庇おうとしてしまったのだろうか。豚の突撃くらいでガスコインが膝を付く事などないとわかっていたはずなのだが。
 ヘンリックは、ガスコインのシャツが袖にまた鼻をつけてその匂いを嗅ぐ。やはり、落ち着く。どうやらヘンリックはガスコインを相棒と認め、彼に少し頼りすぎているようだと、彼は改めて自覚した。
 ガスコインとの狩りは楽しく、また彼はいつも獣の気配に関して敏感だったから、知らない間に自分の方から獣に対する危機感が随分と薄れていたらしい。
 切り替えないといけないだろう。
 そう思うヘンリックを横に、ガスコインは珍しく困惑したような様子を見せた。

「ヘンリック……俺の服、臭うか?」
「ん? あぁ、そうだな……獣の血と脂のにおいが残っているな」
「悪かったな、汚くて……洗濯はしてンだぞ。でもこう……俺もあまり自由にならん所があるから、得手不得手がどうもな……せめてシャツくらい綺麗に洗いたいんだが」

 どうやら、さっきからヘンリックがしきりに袖の匂いを嗅いでいるのに気付いたのだろう。よほど臭いと思われているんだと勘違いしたらしい。

「たしかに臭うが、別にクサい訳じゃない。このシャツからはお前の匂いがして……それが酷く安心するから、こうしているだけだ」

 思わず口から零れた言葉に、ヘンリックははっと顔をあげる。 自分が普段は言わないような酷く恥ずかしい事を告白しているのに気付いたからだ。

「本当かぁ? 俺の匂いが落ち着くとか……」

 訝しげにヘンリックの方を向くガスコインを見て、ヘンリックは口から漏れた言葉の勢いにまかせ、痛む身体を起こすとガスコインの身体へもたれた。

「あぁ、お前の匂いは落ち着く……その髪も、身体も……その唇もだ。ガスコイン。お前のそばだから、俺は安心していられるんだ」

 ヘンリックは指先でガスコインの髪に触れ、身体に触れ、唇には触れるだけのキスをすると、再び軋む身体を無理にうごかして簡易ベッドへ転がった。

「ばぁっ! 馬鹿野郎ッ、な、にして……ヘンリック! おまっ……」

 目を閉じて、ヘンリックはガスコインの声だけ聞く。 存外に初心な男だ、きっと驚いて、その顔は耳まで赤くなっている事だろう。
 そんな事を考えながら、彼はそのまま眠りに落ちていく。
 内心、密かに目覚めた後もこの心地よい匂いが隣にある事を願っていた。

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