インターネット字書きマンの落書き帳
C107告知だよ~ 告知だよ~
告知だよ~、告知だよ~。
C107の告知だよ~。
というワケで、来る12月30日。
冬コミのスペース頂けましたので、本を頒布しようと思います!
やったね!
――――
12月30日(1日目)
東5ホール
「ツ-53b」
くれちき連盟
――――
今回は「都市伝説解体センター」の山田ガスマスク本が……出ます!
ジャンルはホラー×ミステリ×サスペンス。
せっかくだから新刊の告知もさせてくださいッ!
俺やれますよ、新刊の告知……やれますから!
――――
新刊
「アッシュ・グレイの肖像」
1200円
A6(文庫)サイズ・152P
オカルト系のムック本で企画された「心霊スポット実録レポ」という記事の依頼を受けた山田ガスマスクは、依頼人である海野虫太郎とともに現場取材に出かける。
取材は順調に終わり、一泊することになった宿はネットで有名な「幽霊旅館」だという。
どんな宿かと思ったが、宿は何の変哲もない普通の旅館だった。
すっかり拍子抜けした山田は、油断から少しうたた寝をする。
そして、目覚めた時、依頼人である海野の姿が消えていた。
同時に、廊下には幽霊が現れ……。
一体この宿に何がおこっているのか。
ホラー×ミステリ×サスペンス
――――
新刊のサンプルはpixivにおいてありますぞい
詳しくは こちら からどうぞ。(こちらの部分にリンクがあるよ)
折りたたみにも置いておきます。
サンプル部分にはないんですが
なのでご注意くださいませ。
あと、このサンプルは実際の本と若干違うと思う! けど!
よりよくしようとした痕跡なので許してください!
C107の告知だよ~。
というワケで、来る12月30日。
冬コミのスペース頂けましたので、本を頒布しようと思います!
やったね!
――――
12月30日(1日目)
東5ホール
「ツ-53b」
くれちき連盟
――――
今回は「都市伝説解体センター」の山田ガスマスク本が……出ます!
ジャンルはホラー×ミステリ×サスペンス。
せっかくだから新刊の告知もさせてくださいッ!
俺やれますよ、新刊の告知……やれますから!
――――
新刊
「アッシュ・グレイの肖像」
1200円
A6(文庫)サイズ・152P
オカルト系のムック本で企画された「心霊スポット実録レポ」という記事の依頼を受けた山田ガスマスクは、依頼人である海野虫太郎とともに現場取材に出かける。
取材は順調に終わり、一泊することになった宿はネットで有名な「幽霊旅館」だという。
どんな宿かと思ったが、宿は何の変哲もない普通の旅館だった。
すっかり拍子抜けした山田は、油断から少しうたた寝をする。
そして、目覚めた時、依頼人である海野の姿が消えていた。
同時に、廊下には幽霊が現れ……。
一体この宿に何がおこっているのか。
ホラー×ミステリ×サスペンス
――――
新刊のサンプルはpixivにおいてありますぞい
詳しくは こちら からどうぞ。(こちらの部分にリンクがあるよ)
折りたたみにも置いておきます。
サンプル部分にはないんですが
・オリジナルキャラクター多数登場。
・陰鬱、シリアス描写大盛り。
・未成年が性的被害にあう描写あり。
なのでご注意くださいませ。
あと、このサンプルは実際の本と若干違うと思う! けど!
よりよくしようとした痕跡なので許してください!
【アッシュ・グレイの肖像】
考えろ、考えるんだ。
あの人が事件に巻き込まれているのだとしたら、ヒントは必ずこの中にある。
トラベルポーチに入っている着替えも洗顔料も、どこにでもある市販品だ。財布の中に入っていたレシートは昼間に寄ったコンビニのもので、別段変わった様子はない。スマートフォンはしっかりロックされており、中を見ることはできない。デジタルカメラの中に残されていたデータは、今日取材した心霊スポットの写真だけだった。
(この写真を撮っていた時は、楽な取材だと思っていたんだけどな)
山田は内心舌打ちをする。
ここに、あの人が――海野が消えた理由が、残されていればいいのだが。
はやる気持ちを抑えボイスレコーダーを手に取れば、中にはおおよそ8時間分の録音データが入っていた。
(――何だよ、8時間って! そんな長話を悠長に聞いている暇なんて無いっての!)
カチ、カチ。
「何だよもう……海野さん、一体どこにいったのさ……」
山田はため息混じりにぽつりと呟く。
同じ部屋にいたはずの海野が消えた。
それに気付いたのは、つい三〇分ほど前に目覚めた時だった。
海野と仕事をしたのは今回が初めてだったが、急にいなくなるほど無責任な人間ではないのは、今日一日の取材でわかっていた。
トイレは客室にあるから、部屋を出る必要はない。大浴場は午前0時に閉まるとフロントで注意されている。風呂に行った訳ではないだろう。車の鍵はキーケースの中にある。ということは、車で出かけた線も消える。この旅館は山中にあり、周囲に街灯はなく鬱蒼とした森に囲まれている。深夜に一人で散策するという環境ではない。一番近くにあるコンビニも、車で一〇分以上は走らなければいけない有り様だ。車の鍵がここにある限り、旅館から出ていないのは間違いない。
やはり、三〇分も姿を見せないのは不自然だ。
「もー、こんな田舎町に僕一人置いて行くとかひどすぎるって。僕、都会っ子なんだよ? どこいっちゃったのさ、海野さん」
苛立ちから乱暴に頭を掻く山田の脳裏に、海野の姿が浮かぶ。
『さぁ、どこに行っちゃったんでしょうね。山田さんは賢いですから、きっとすぐに見つけちゃいますよ』
コロコロと笑う様子は、まるで山田をからかっているようだ。本当に、かくれんぼでもして遊んでいるつもりなのだろうか。
(まったく、笑ってる場合じゃないでしょ。こんな辺鄙な田舎町に連れてこられた上、ただ働きなんて絶対に嫌だからね)
山田は焦りを吐き出すように大きく息をつくと、海野の荷物に視線を向ける。
だが、迷っていた。
余計なことをしない方がいい。
天誅事件は、まだ終わっていないのだから――。
彼方に押し込んだ暗闇と喧騒。そしてかすかな血の匂いが鮮明によみがえり、山田は小さく首を振る。
(――また、僕は見捨てるのか)
あの時、逃げろと言われその通りにした。だから、今の自分があるのはわかっている。
「あぁ、もう……仕方ないなぁ」
山田はわざとらしく声をあげると、スクラップブックを手に取り、パラパラとページをめくる。
「まさか、これ全部ノストラダムスの大予言集とかじゃないよね」
誰もいないのにおどけたふりをするのは、恐怖を隠すためだろう。
ウォオオオォ……オオオオ……オオ、オ……。
どこかから、奇妙な音が聞こえてくる。
山田はスクラップブックを置くと、窓の外を見る。月さえも出ておらず、辺りには木の陰しかない。目をこらして辛うじて認識できたのは、風にゆれる梢の影だけだった。
(どっちも代わりがないとすると、廊下も確認しておいたほうがいいよね)
山田はそう思い、ドアスコープを覗く。薄暗い廊下が視界に広がった。他に宿泊客はいないのか、板張りの廊下に人の気配もない。
あの音は、気のせいだったのだろうか……。
そうだ、何もいるはずがない。それが普通だ。
一体何だろう。目をこらしてよく見ると、ぎし、ぎしと微かな足音まで聞こえてきた。
正体を確かめるため、山田はドアスコープを凝視する。
ボサボサに乱れた長い黒髪。蝋のように青白い肌。闇の中、うっすら浮かび上がるような、白い着物……。
まさか、幽霊……?
山田は大きく首を振る。
黒髪の下から、充血した赤い目が爛々と輝いていた。
激しい怒りと憎悪、恨み、悲しみ。その他様々な負の感情を混ぜこぜにした、鬼気迫る視線だ。
山田はつい「ひっ」と声をあげ、後ずさりをする。そしてうっかり畳のヘリにカカトをひっかけ、敷きっぱなしにしていた布団の上に尻もちをついていた。
「うう……なに、今の。ってか、僕ちょっとビビりすぎだって……もぅ、かっこ悪ぅ……」
山田は尻もちをついたまま、苛立ちを紛らわすよう強く爪を噛む。
『ねぇ、山田さん。人間のほうが、幽霊なんかより、よっぽど……』
彼の言葉が、ざらりと肌の上をなぞる。
※※※
「うわっ、眩しッ」
山田はそう言いながら、視界を手で遮る。それでも指の隙間から強い陽光が漏れていた。初夏の日差しにしては鋭い。今年の夏も暑くなるのだろう。
その日、山田は取材のため、都心から車で2、3時間はかかる田舎町まで来ていた。
そうは思うが、田舎には娯楽が少ない。車で行ける範囲にある心霊スポットなどは、地元の若者からすればお化け屋敷の代用品にすぎないのだろう。
「さて、っと。ちゃんと写真撮れてるかなー?」
山田は手にしたデジタルカメラのデータをその場で確認する。
「ちょっとは怖い写真が撮れていればいいんだけどな。ま、撮れてなくても後でそれっぽいエフェクトをかければいっか」
そう独りごち、次々とデータを確認する。
撮影したのはまだ昼前だったが、ほとんどの写真は薄暗く灰色がかっている。周囲に草木が生い茂り、建物全体を包んでいるからだろう。廃屋には、初夏の強い日射しも届かなかった。
「もう少し明度が欲しいかな……これは、後でデータをいじればいいか」
それにしても、不気味な写真が多い。
「いやー、ほんと、こわーい。僕って怖い写真撮る才能あるかも。これ、いい写真だから、僕のSNSにUPしようかな」
恐怖心を紛らわすよう、山田はわざと大きな声をあげる。すると、その声に呼応するよう、ガサガサと藪が揺れ始めた。
まさか、幽霊か。
僅かな恐れと尊大な好奇心から音の方を見れば、山中にある廃墟には似つかわしくないスーツの男が現れる。
「すいません、山田さん。ホテル内の撮影、任せっきりで……」
片手をひらひらと振りながら申し訳なさそうに笑うこの男が、今回のクライアントであるフリー編集者・海野虫太郎だ。
今回は夏に向けた心霊特集のムック本を企画したそうで、短編の実録風小説の他、心霊スポット実録ルポもいくつか入れる予定だそうだ。
本来、山田とは畑違いのジャンルだ。
抜擢された理由は、山田がまだライターとしては無名で、時間に余裕があったというのが一つ。最近書いたWEB記事がたまたま海野の目にとまり、それが高く評価されたというのがもう一つだ。
選ばれた理由に、記事の質が高いと認められたのは素直に嬉しい。
一泊二日の取材という拘束時間はあるものの、取材先の選定から宿泊先の手配まで、すべて海野が段取りをつけてくれている。取材費もクライアント持ちだ。その上、原稿料がかなり良いのだから、断る理由はない。
「全然大丈夫でーす。僕、こういう写真を撮るのに慣れてるんで。それより海野サンこそ、もう用事は終わったの? なんか、急ぎの電話っぽかったけど」
廃ホテルに入ってから、しばらくは海野も一緒に中を回っていた。だが、途中で海野のスマホが鳴り、慌てて外に出ていったのだ。
「おかげさまで、用事は済みましたよ。まったく、ラブコールが多いのも困りものですね」
まさか、そんなマンガのような人間が存在するわけがない。きっと、海野なりの冗談なのだろう。
(海野さん、真面目そうに見えるのに結構こういう冗談言うんだよね)
山田は笑いながら海野を見つめた。
(それにしても、海野虫太郎か……)
初めて海野と出会った時、差し出された名刺には、確かにそう書かれていた。
(……そういうところは、ちょっと信頼できないんだよね)
笑顔を絶やさず穏やかだが、どこか腹の底が読めない海野のことを、山田は計りかねていた。
「海野サンが抜けた後も、資料の写真は撮っておいたよ。一応、チェックしてくれる?」
山田がデジカメを差し出すと、海野はすぐさまデータを確認する。
(きっと、この人も何かを隠しているんだろうな……)
山田がそう思ったのは、海野の振る舞いが自分と似ていたからだ。
(それでも、僕の抱えている秘密と比べたら、きっと些細なことだよね)
突然強い風が吹きつけ、周囲の木々がざわざわと揺れる。
(やめろよ……今、そういう時じゃないだろ……)
思い出すまいとする山田の気持ちとは裏腹に、あの夜の記憶が蘇った。
天誅事件の記憶だ。
人を、殺した。
どうやって家に帰ったのかは、今でもひどく曖昧だ。ベッドに潜り、震えて、眠れぬ夜を過ごしたのはよく覚えている。
(僕は、悪くない……)
自分たちは、正義だ。そしてあれは、不幸な事故だった。
「罪悪感とは、即ち傲慢ですよ」
海野の涼しい声が、山田を現実に引き戻す。
いや、そんなはずはない。
「なに? 急に……罪悪感、とか……」
それでも不安が募り、ついそう口に出る。
「罪悪感というのはね、山田さん。自分は正しい人間のはずだ。そんな傲慢から生まれるものなのですよ」
喉元に食らいつかれたように、呼吸が苦しくなる。何か言おうと思うのに、口がうまく開かない。肺の中に十分な空気はあるのに、吐き出す方法がわからない。
「ですから、そんなに思い悩まないでください。廃ホテルに不法侵入したくらいで、罪悪感を抱く必要はありませんよ。」
そして、山田の肩を両手でポンと叩く。
その事実に、山田は安堵する。
「ちょっと、大げさだって。急に説法みたいなこというから、びっくりしちゃったよ」
気遣ってくれるのはありがたいが、少々大げさすぎる海野の言動に、山田はつい苦笑いをしていた。
(……僕の場合は、そうなのかもしれないな)
背負ったまま向き合えない罪が、未だ心の奥底に張り付いている。これは確かに罪悪感なのだろう。
「山田さん。データ確認終わりました。写真、OKです」
海野は自分の鞄に、デジカメをしまう。
「さて、用が済んだら長居は無用です。そろそろ行きましょうか」
海野はポケットから車のキーを取り出し、指先でくるくると弄ぶ。
心霊スポットの取材ということだが、山田が担当するのはこの廃ホテルの記事だけだ。今回の遠出も写真をとるのがメインで、他に仕事らしい仕事はない。
(海野さんは、小旅行だと思って気楽に受けていいって言っていたけど。こうも呆気なく進むと、ちょっと拍子抜けだな)
車窓から外を眺め、山田はトントンと指先で膝を叩く。
「えーっと、ホントにこれだけで良かったの? 取材、思ったより呆気なかったけど」
考えても仕方ない。ここはハッキリ聞いておこう。山田の質問に、海野はきょとんとした様子だった。
「はい? これだけ、といいますと……」
出版業界が全体として苦境にある、というのは山田も知っている。
「なるほど。山田さんは、今回の依頼の後、他にも余計な作業を押し付けられないか心配なんですね」
海野はクスクス笑いながら、慣れた様子でハンドルを切る。
「山田さんは真面目なんですねぇ。心配しなくとも、この仕事だけですよ」
海野の言葉は、少し白々しくはあった。だが、仕事に関して嘘はなさそうだ。
「ふーん、それならいいけど」
山田は素っ気なく言うと、視線を車窓に向けた。
(あの建物のほうが、よっぽど心霊スポットっぽかったよね)
頬杖をつき、外観を思い出す。蔦に隠れていたが、無機質ながらモダンさを感じる建物はこんな田舎町に似つかわしくない。
「何なら、他のところの取材もしようか? ほら、行きがけに病院か、研究室みたいな建物あったよね? あれ、かなり心霊スポットっぽいけど」
海野はアクセルを踏みこむと、「あぁ」と嘆息をついてから曖昧に笑う。
「あれはダメなんですよね。殉教者の光、って新興宗教の分派が持っていた建物なんで」
殉教者の光。
殺人事件だった気がする。教祖が猟奇殺人に関わっていた事が知られ、当時はかなりのスキャンダルだったはずだ。
「今はもう活動してないんですけど、元々黒い噂が多い宗教でしたからね。迂闊に扱えないんです」
事件を起こしたのだから、てっきりそのまま消滅したのだろうと思っていた。危険思想の新興宗教でも、分派があるということは、意志を受け継ぐ信徒がいたということか。
「そっかー。マジの宗教はヤバいから仕方ないね」
珍しく、海野の顔から笑顔が消える。
(んー……でも、あの場所って確か……)
どこまで進んでも、緑・緑・緑。芽吹いた葉の形だけが少し違うだけの代わり映えのしない車窓を眺めながら、山田は廃ホテルの噂を思い出していた。
海野からは「気軽に受けてほしい」と言われていたが、流石に何の下調べもせず取材に行くのは失礼だろう。そう思った山田は、せめてネットで場所くらいは調べておこうと思った。
場所と地名で検索すれば、すぐに目的の情報をいくつか見つける事ができた。心霊スポットとして取り上げられているのが5件ほど。廃墟マニアの穴場としてあげられているのも3件ほどはある。他は、巨大掲示板の書き込みが主だが、どの書き込みも4、5年ほど前で途切れていた。
詳しい内容は朧気だが、どの記事も、「以前、本当に事件があった場所」という文句がお決まりになっていた気がする。
「そういえば、海野サン。あの廃ホテル、リアルに事件があった場所って聞いたけど、それって大丈夫なやつ?」
山田は眉間に皺を寄せ、記憶を手繰る。全て古い内容だったが、随分と物騒な事件だった気がするが……。
「そうだ、思い出した。確かあのホテル、客室でカップルが痴話げんかして、女の人が殺されたんじゃないっけ?」
だから夜な夜な、血まみれの女が立っている。というのが主な噂だった。実際に、幽霊を見たという話は一つもなかったが。
「それ、本当だとしたら、不謹慎ビーム喰らうんじゃない? 僕、炎上だけは絶対イヤ。矢面に立たされるとか、無理よりの無理だからね」
山田は自然と口を尖らせる。目立ちたくない山田にとって、自分の記事が炎上するのは最も避けたい事態なのだ。
「あはは、心配しなくても大丈夫ですよ。あの場所は過去に何度か記事にした事もありますが、一度もクレームは無いですから」
海野は山田の尖った口を見てクスクス笑う。
「それに、私ってクレーム対応や火消しは得意なんですよ」
そして、軽くウインクした。その裏には、不謹慎が怖くて「そっち系」の企画に関わっていられるかという強い意志も見える。
「それにしても、わざわざホテルの噂まで調べてくれたんですね」
車はゆるいカーブを曲がる。舗装もろくにされてないガタガタ道にも関わらず、車内はほとんど揺れていない。山道の運転には慣れているのだろう。
「いっそ心霊スポットの突撃取材は全部山田さんにお任せしましょうかね?」
海野はクスクス笑いながら、ちらりと山田を見る。口元こそ穏やかだが、目だけは笑っていない。
「そうだね。今回の記事がウケたなら、また声かけてよ」
山田は極力表情を出さないよう、どうとでも取れる返事をした。
「ところで、その噂、最近調べたものですか?」
車が長い坂道にさしかかった頃、海野はさりげなく問いかける。
「えっ? 出発前にちょっとネットで調べた話だけど……」
山田は、WEB上で見た噂だった事と、記事の内容は4、5年前とやや古くなっていた事を伝える。
「そうですか……」
すると、海野は何か考えるように、きゅっと口を結んだ。
「どうしたのさ、海野サン。何か、気になる事でもある?」
含みのある言い方に、山田は少し不安になる。海野は一体、何を知っているのだろうか。
「そんな、心配そうな顔しなくても大丈夫ですよ、山田さん。ほら、口がムスッとしてますよ。せっかくの可愛い顔が、台無しですよ」
海野はまたクスクス笑う。一瞬だけ見せた緊張感も、何か思案するような素振りも一切ない。
「可愛いとか言われても嬉しくないし。そういうの、令和ではセクハラだよ?」
はは、と乾いた笑いが響く。
(もし、本当にオカルトブームを経験してるなら、僕より一回りは上なんだよね)
話すほど、謎が深まる海野の横顔を見つめていると
「それに、あのホテルでは誰も死んではいませんよ」
ハンドル片手に、海野は呟く。
「事件はありましたが、誰も死んではいません。それだけで、十分ですよね」
誰も人は死んでいない。
だが、事件があったという一言が、やけに引っかかる。
(勘弁してよ。一体どんな事件があったのさ……かえって気になるって)
苛立ちか、それとも不安か。心が波立つのを抑えるため、山田は自分の頬に手をあてる。頬に手をあてるのは、考え事をする時の癖だった。手の温もりが頬に伝わると、少し落ち着くのだ。
(何かあったのかな……過去、この辺りで事件が……)
目を閉じ、記憶を手繰る。何か、この辺りで大きな事件があったか。あるいは妙な噂があったか、考えようとしたその時。
「でも、心配しなくても大丈夫ですよ。取材はこれで終わりですけど、まだまだお楽しみはこれからですから」
不意に海野は、明るい声を出す。
「はぁ? いやいやいや、どういうこと? 急に何さ、海野サン」
嬉々として語る海野を見て、山田はつい大きな声を出す。「そっち系」の編集者である海野が「出る」というのなら、それは鹿や猪の類いではないだろう。
「まさか、これ?」
両手を前にだし、だらりと下げて「うらめしや」のお化けのポーズをすれば、海野は小さく頷いて笑う。
「そう、それですよ。以前からネットで、噂になっているんですよね。今日泊まる宿には、幽霊が出ると」
山田は軽く、頭を抱える。別に言われても逃げたりはしなかった。むしろ、黙って連れてこられる方が心外だ。
「別に、怖くはないよ。僕、オカルトとか信じてないから。けどさ、それって騙し討ちだって」
追加依頼。つまり、報酬がさらに増え、自分の名を売るチャンスが増すのだ。それなら、悪い話ではない。
「……ちなみに、どんなのが出るの? ほら、幽霊でも色々あるでしょ。座敷わらし的なやつとか、あんまり怖くないのだったらありがたいんだけど」
これで、見たら呪われたとか、7日以内に確実に死ぬ。みたいな話だったら流石に断ろう。山田にとって、静かに安寧に暮らすのが一番大事なのだ。幽霊だの呪いだのに煩わされたくはない。
「女性の幽霊みたいですよ。髪が長くて、白い服を着ていたなんて話が多いみたいです。これぞ王道って感じですよねぇ」
海野の口から出たのは、ベタな女の幽霊像だった。目撃談が噂になっているのなら、タタリの類いはなさそうだ。
(あーあ、本来はこの仕事、僕じゃなくて谷原サンの担当だと思うけどなぁ)
山田は頬杖をついて車窓に視線を向ける。
それに、本当に幽霊がいて、それを撮影出来たのなら、きっと谷原は歯をむき出しにして悔しがるだろう。
(それ、悪くないかも。谷原サンが悔しがってキーキー言う顔、絶対見たいし。たまには怪異と付き合ってみようかな)
山田は覚悟を決め、助手席で一度大きく背伸びをする。
「痛ぁッ!」
それを聞いて、海野は目を丸くした。
「……山田さん、姿勢悪すぎますよ。今度、いい整体紹介しますね」
腰を押さえ、呻くように呟く山田を前に、海野はクスクスと笑う。
スマホにキーケース。財布、スケジュール帳、着替えの入ったトラベルポーチ。鞄の中身をぶちまけ、山田ガスマスクはくしゃくしゃと頭を掻いた。
考えろ、考えるんだ。
あの人が事件に巻き込まれているのだとしたら、ヒントは必ずこの中にある。
トラベルポーチに入っている着替えも洗顔料も、どこにでもある市販品だ。財布の中に入っていたレシートは昼間に寄ったコンビニのもので、別段変わった様子はない。スマートフォンはしっかりロックされており、中を見ることはできない。デジタルカメラの中に残されていたデータは、今日取材した心霊スポットの写真だけだった。
(この写真を撮っていた時は、楽な取材だと思っていたんだけどな)
山田は内心舌打ちをする。
他に確認できそうなものといえば、やたらと付箋の貼り付けられたスクラップブックと、取材の時には一度も出していなかったボイスレコーダーくらいだろう。
ここに、あの人が――海野が消えた理由が、残されていればいいのだが。
はやる気持ちを抑えボイスレコーダーを手に取れば、中にはおおよそ8時間分の録音データが入っていた。
(――何だよ、8時間って! そんな長話を悠長に聞いている暇なんて無いっての!)
カチ、カチ。
焦れる山田を嘲笑うかのように、時は無情に過ぎて行く。
客室に置かれた時計の秒針がやたらと大きな音をたてて聞こえてきた。
時刻は間もなく午前2時。草木も眠る丑三つ時、という奴だ。
「何だよもう……海野さん、一体どこにいったのさ……」
山田はため息混じりにぽつりと呟く。
同じ部屋にいたはずの海野が消えた。
それに気付いたのは、つい三〇分ほど前に目覚めた時だった。
ビールを2,3本飲んでからすっかり上機嫌になり、そのまま布団に寝転がったのは覚えている。ウトウトしはじめた時には、海野は確かに部屋にいた。だが、目覚めた時には消えていたのだ。
海野と仕事をしたのは今回が初めてだったが、急にいなくなるほど無責任な人間ではないのは、今日一日の取材でわかっていた。
そもそも、荷物を部屋に置いたまま姿を消すなど不自然だ。
何かあったに違いない。
山田は頬に手を当て思案する。考えごとをするとき、頬に触れるのが山田の癖だった。
トイレは客室にあるから、部屋を出る必要はない。大浴場は午前0時に閉まるとフロントで注意されている。風呂に行った訳ではないだろう。車の鍵はキーケースの中にある。ということは、車で出かけた線も消える。この旅館は山中にあり、周囲に街灯はなく鬱蒼とした森に囲まれている。深夜に一人で散策するという環境ではない。一番近くにあるコンビニも、車で一〇分以上は走らなければいけない有り様だ。車の鍵がここにある限り、旅館から出ていないのは間違いない。
やはり、三〇分も姿を見せないのは不自然だ。
嫌な予感がする。
「もー、こんな田舎町に僕一人置いて行くとかひどすぎるって。僕、都会っ子なんだよ? どこいっちゃったのさ、海野さん」
苛立ちから乱暴に頭を掻く山田の脳裏に、海野の姿が浮かぶ。
『さぁ、どこに行っちゃったんでしょうね。山田さんは賢いですから、きっとすぐに見つけちゃいますよ』
コロコロと笑う様子は、まるで山田をからかっているようだ。本当に、かくれんぼでもして遊んでいるつもりなのだろうか。
(まったく、笑ってる場合じゃないでしょ。こんな辺鄙な田舎町に連れてこられた上、ただ働きなんて絶対に嫌だからね)
山田は焦りを吐き出すように大きく息をつくと、海野の荷物に視線を向ける。
宿についた時、海野はあのスクラップブックを手にしていた。あれを調べれば、何かわかるかもしれない。
山田はスクラップブックを睨み付けた。
これを手に取り、何があったのかを調べる必要があるのは理解している。一刻も早く行動しないと、海野の命も危ういのかもしれない。
だが、迷っていた。
余計なことをしない方がいい。
放っておいても、朝になったらひょっこり姿を現すかもしれないのだ。
わざわざ自分から首を突っ込んで、目立つ訳にはいかない。
天誅事件は、まだ終わっていないのだから――。
彼方に押し込んだ暗闇と喧騒。そしてかすかな血の匂いが鮮明によみがえり、山田は小さく首を振る。
(――また、僕は見捨てるのか)
あの時、逃げろと言われその通りにした。だから、今の自分があるのはわかっている。
だが、逃げた事で得られたものは、何だった?
虚構に虚構を重ねる生き方しか、自分には残っていないではないか。
「あぁ、もう……仕方ないなぁ」
山田はわざとらしく声をあげると、スクラップブックを手に取り、パラパラとページをめくる。
随分と古い新聞記事がいくつも張られていた。
一番古い記事は、1999年の7月になっている。そういえば、ノストラダムスの大予言は1999年の7の月だったか。
「まさか、これ全部ノストラダムスの大予言集とかじゃないよね」
誰もいないのにおどけたふりをするのは、恐怖を隠すためだろう。
いけない。深夜の古ぼけた旅館というシチュエーションに思ったより飲まれている。平常心を保たなければ、冷静な判断ができなくなる。
山田は軽く咳払いをし、改めて記事をたどろうとした、その時。
ウォオオオォ……オオオオ……オオ、オ……。
どこかから、奇妙な音が聞こえてくる。
木の虚から風が吹きすさぶような音にも、誰かのうめき声のようにも聞こえる、腹の奥底まで響く不快な音だ。
一体なんの音だ。どこから聞こえてきたのだろう。
山田はスクラップブックを置くと、窓の外を見る。月さえも出ておらず、辺りには木の陰しかない。目をこらして辛うじて認識できたのは、風にゆれる梢の影だけだった。
外の景色に異常がないのを確認すると、一応部屋も見渡す。山田がぶちまけた海野の荷物があるだけで、ここも代わりはない。
(どっちも代わりがないとすると、廊下も確認しておいたほうがいいよね)
山田はそう思い、ドアスコープを覗く。薄暗い廊下が視界に広がった。他に宿泊客はいないのか、板張りの廊下に人の気配もない。
あの音は、気のせいだったのだろうか……。
そうだ、何もいるはずがない。それが普通だ。
幽霊なんて非科学的なもの、いるわけがない。今の音もきっと、隙間風か何かだろう。
そう自分を言い聞かせ納得しようとする山田の視界に、ちらりと何かが揺れる。
一体何だろう。目をこらしてよく見ると、ぎし、ぎしと微かな足音まで聞こえてきた。
廊下が全て板張りで古い作りのせいか、些細な足音でもやけに響く。こんな時間に、誰がいるのだろうか。
正体を確かめるため、山田はドアスコープを凝視する。
暗く、長い廊下の向こうで、ぼんやりとした人影が浮かび上がる。
ボサボサに乱れた長い黒髪。蝋のように青白い肌。闇の中、うっすら浮かび上がるような、白い着物……。
まさか、幽霊……?
山田は大きく首を振る。
いや、幽霊なんているはずがない。あれは、人間だ。白い着物を着ているから、暗闇でも目立つだけだ。幽霊はいない。そんな非科学的なものは……。
山田の考えなど、まるで全てお見通しとでも言いたげに、その人影は山田が覗くドアを見る。
黒髪の下から、充血した赤い目が爛々と輝いていた。
激しい怒りと憎悪、恨み、悲しみ。その他様々な負の感情を混ぜこぜにした、鬼気迫る視線だ。
山田はつい「ひっ」と声をあげ、後ずさりをする。そしてうっかり畳のヘリにカカトをひっかけ、敷きっぱなしにしていた布団の上に尻もちをついていた。
「うう……なに、今の。ってか、僕ちょっとビビりすぎだって……もぅ、かっこ悪ぅ……」
山田は尻もちをついたまま、苛立ちを紛らわすよう強く爪を噛む。
幽霊なんて、いない。
だとしたらあの人影は、一体なんだというのだ。
部屋に聞こえた、亡者のようなうめき声の正体は?
何より、海野は一体どこに消えてしまったのだ。
幽霊。謎の声。海野の失踪。
これらは全て、関係している一連の出来事なのだろうか。それとも、全部無関係の出来事がたまたま重なっただけなのだろうか。
考えがまとまらない。もし海野がそばにいたら何といっていただろう。
山田は海野との会話を、ぼんやりと思い出す。
思い出の中にいる海野は人を食ったようにクスクス笑うと、山田に視線をあわせるようにして、ゆっくりと口を開いた。
『ねぇ、山田さん。人間のほうが、幽霊なんかより、よっぽど……』
彼の言葉が、ざらりと肌の上をなぞる。
そのざらつきは、昼間に取材した廃ホテルの雰囲気に似ていた。
パキリ。
誰もいないはずなのに、枝が折れる音がする。
あれは、たしか昼での事だった――。
※※※
廃ホテルから出た瞬間、梢の隙間から強い太陽の光が注ぐ。
「うわっ、眩しッ」
山田はそう言いながら、視界を手で遮る。それでも指の隙間から強い陽光が漏れていた。初夏の日差しにしては鋭い。今年の夏も暑くなるのだろう。
その日、山田は取材のため、都心から車で2、3時間はかかる田舎町まで来ていた。
目的地は、廃墟となったラブホテルだ。
オーナーが夜逃げし、そのまま捨て置かれているのだという。
山田にはただの廃墟にしか見えないが、オカルト界隈や廃墟マニアの間では有名な心霊スポットらしい。
実際に肝試しをする連中も多いのだろう。通り道の藪を踏み分けた靴跡は、まだ新しいものもいくつか含まれていた。
(まったく、何が楽しくてこんな所まで来るんだろ。ダニとかいそうだし、僕なら絶対嫌なんだけど)
そうは思うが、田舎には娯楽が少ない。車で行ける範囲にある心霊スポットなどは、地元の若者からすればお化け屋敷の代用品にすぎないのだろう。
「さて、っと。ちゃんと写真撮れてるかなー?」
山田は手にしたデジタルカメラのデータをその場で確認する。
今回の仕事は、いつものWEB記事ではない。「心霊スポット実録レポ」と銘打った、オカルト雑誌向けの記事だ。普段の仕事と勝手は違うが、インパクトのある写真のほうが目に留まるのは一緒だろう。
「ちょっとは怖い写真が撮れていればいいんだけどな。ま、撮れてなくても後でそれっぽいエフェクトをかければいっか」
そう独りごち、次々とデータを確認する。
スプリングの出たベッドや、ガラスの割れた浴室。光沢を失ったミラーボール。カラオケ用のテレビは配線がねじれて錆が浮かび、それは巨大な蛇がのたうち回っているようにも見えた。
撮影したのはまだ昼前だったが、ほとんどの写真は薄暗く灰色がかっている。周囲に草木が生い茂り、建物全体を包んでいるからだろう。廃屋には、初夏の強い日射しも届かなかった。
「もう少し明度が欲しいかな……これは、後でデータをいじればいいか」
それにしても、不気味な写真が多い。
からっぽのフロアに錆ついたロッカーが、ぽつんと一つ取り残された写真などは、幽霊を信じていない山田でも薄気味悪く思えた。
「いやー、ほんと、こわーい。僕って怖い写真撮る才能あるかも。これ、いい写真だから、僕のSNSにUPしようかな」
恐怖心を紛らわすよう、山田はわざと大きな声をあげる。すると、その声に呼応するよう、ガサガサと藪が揺れ始めた。
まさか、幽霊か。
僅かな恐れと尊大な好奇心から音の方を見れば、山中にある廃墟には似つかわしくないスーツの男が現れる。
「すいません、山田さん。ホテル内の撮影、任せっきりで……」
片手をひらひらと振りながら申し訳なさそうに笑うこの男が、今回のクライアントであるフリー編集者・海野虫太郎だ。
ホラーや心霊、都市伝説という、いわゆる「そっち系」の企画ばかりを手がけているらしい。
今回は夏に向けた心霊特集のムック本を企画したそうで、短編の実録風小説の他、心霊スポット実録ルポもいくつか入れる予定だそうだ。
本来、山田とは畑違いのジャンルだ。
だが海野曰く、馴染みのライターが季節外れのインフルエンザでぶっ倒れ、急遽の代役として、山田に白羽の矢が立ったらしい。
抜擢された理由は、山田がまだライターとしては無名で、時間に余裕があったというのが一つ。最近書いたWEB記事がたまたま海野の目にとまり、それが高く評価されたというのがもう一つだ。
選ばれた理由に、記事の質が高いと認められたのは素直に嬉しい。
それに、WEB中心で活動している山田にとって、雑誌という別媒体の仕事は名前を売る絶好のチャンスでもあった。
一泊二日の取材という拘束時間はあるものの、取材先の選定から宿泊先の手配まで、すべて海野が段取りをつけてくれている。取材費もクライアント持ちだ。その上、原稿料がかなり良いのだから、断る理由はない。
端的にいえば、実にオイシイ仕事だ、というわけだ。
二つ返事でOKし、〆切が近い仕事を無理矢理仕上げたのが昨日のことだった。
「全然大丈夫でーす。僕、こういう写真を撮るのに慣れてるんで。それより海野サンこそ、もう用事は終わったの? なんか、急ぎの電話っぽかったけど」
廃ホテルに入ってから、しばらくは海野も一緒に中を回っていた。だが、途中で海野のスマホが鳴り、慌てて外に出ていったのだ。
そこから山田は一人廃屋に残され、取材を続ける羽目になる。
とはいえ、残りの部屋はたった二部屋だ。さして恐ろしい思いをした訳でもない。海野は謝罪したが、怒るようなことではない。
全ての業務を投げっぱなしにするクライアントが多い中、海野は色々と気を回してくれている方だろう。
山田が愛想よく笑うのを見て、海野はどこか安心したように頬を緩めた。
「おかげさまで、用事は済みましたよ。まったく、ラブコールが多いのも困りものですね」
「ラブコールって、海野サンって時々古い言い方するよね。……恋人から?」
「いえ、知人です。スマートでダンディな、オネエ言葉を使う可愛いオジサマですよ」
「ふはは……何それ。属性盛りすぎなんだけど」
まさか、そんなマンガのような人間が存在するわけがない。きっと、海野なりの冗談なのだろう。
(海野さん、真面目そうに見えるのに結構こういう冗談言うんだよね)
山田は笑いながら海野を見つめた。
(それにしても、海野虫太郎か……)
初めて海野と出会った時、差し出された名刺には、確かにそう書かれていた。
もちろん、本名ではないだろう。
作家、海野十三と小栗虫太郎を足した名前は、きっと筆名だ。
編集者がライターも掛け持つのも珍しくはない。そのために筆名を名乗るのもよくある。
だが、これだけふざけた名前は珍しい。まるで、わざと戯けた名を名乗り、自分を誤魔化しているようだ。
(……そういうところは、ちょっと信頼できないんだよね)
笑顔を絶やさず穏やかだが、どこか腹の底が読めない海野のことを、山田は計りかねていた。
最も、ふざけた名前はお互い様である。
山田ガスマスクなんて筆名も、立派な道化だろう。WEB上ではガスマスクの扮装をしているのだから、なおさらだ。
「海野サンが抜けた後も、資料の写真は撮っておいたよ。一応、チェックしてくれる?」
山田がデジカメを差し出すと、海野はすぐさまデータを確認する。
廃墟の前でスーツのままデジカメを見つめる海野の姿は、新緑に包まれた山中では随分と浮いていた。
(きっと、この人も何かを隠しているんだろうな……)
山田がそう思ったのは、海野の振る舞いが自分と似ていたからだ。
ふざけた名前を名乗りながら、人当たりのよい振りをする。それでも決して本性は見せず、無難に仕事を仕上げる。それだけを目標に、普通を擬態する仕草はどこか空々しい。
海野にも、自分のように触れられたくない過去があるのだろうか。
本名を詮索されると、困るような理由が――。
(それでも、僕の抱えている秘密と比べたら、きっと些細なことだよね)
突然強い風が吹きつけ、周囲の木々がざわざわと揺れる。
その音が、山田が頭の奥にしまい込んだ記憶をガリガリと引っ掻き、無理矢理に引き出そうとする。
(やめろよ……今、そういう時じゃないだろ……)
思い出すまいとする山田の気持ちとは裏腹に、あの夜の記憶が蘇った。
ざわざわと揺れる、公園の梢。ビルの隙間風が吹きつける、そんな夜だった。
仲間たちと影に隠れる緊張感。クスクスと笑いあう呼吸の生ぬるさ。標的を確認し、疾走する。そして、突撃。人を突き倒した衝撃。鈍い音をたて、倒れる男。誰かの、逃げろと叫ぶ声。息を弾ませながら逃げる中、目まぐるしく変わる景色。捕まるのではという強い恐怖。風で木々が揺れる音――。
天誅事件の記憶だ。
人を、殺した。
殺して、逃げた。
どうやって家に帰ったのかは、今でもひどく曖昧だ。ベッドに潜り、震えて、眠れぬ夜を過ごしたのはよく覚えている。
怖かった。捕まりたくない。責められたくない。刑務所には行きたくない。心底そう思い、しばらく外に出られなかった。
(僕は、悪くない……)
自分たちは、正義だ。そしてあれは、不幸な事故だった。
僕は、悪くない。そう、僕は悪くない。僕は悪くない……。
「罪悪感とは、即ち傲慢ですよ」
海野の涼しい声が、山田を現実に引き戻す。
口角を僅かにあげて笑顔をつくっている。だがそれは、冷めた嘲りに見えた。
まさか海野は、山田が天誅事件の罪悪感に蝕まれていることを見透かしたとでも言うのか。
いや、そんなはずはない。
天誅事件では、ネット上で犯人と目された男が死んでいる。
それで一応は、決着がついているのだ。自分が疑われるはずはない。
「なに? 急に……罪悪感、とか……」
それでも不安が募り、ついそう口に出る。
すると海野は、まるで聖書を朗読する司祭のように滔々と話し始めた。
「罪悪感というのはね、山田さん。自分は正しい人間のはずだ。そんな傲慢から生まれるものなのですよ」
喉元に食らいつかれたように、呼吸が苦しくなる。何か言おうと思うのに、口がうまく開かない。肺の中に十分な空気はあるのに、吐き出す方法がわからない。
なんで急にそんなことを語るのだ。
海野は、何かを知っているのか。
驚きから声が出ない山田を前に、海野は相変わらず張り付いたような笑顔を向けた。
「ですから、そんなに思い悩まないでください。廃ホテルに不法侵入したくらいで、罪悪感を抱く必要はありませんよ。」
そして、山田の肩を両手でポンと叩く。
海野は、暗い顔のまま黙って俯いていた山田に気付いたのだろう。
そして、沈んだ顔を見て廃ホテルの不法侵入を後悔しているに違いないと、勝手に思い込んだようだ。
励ましのつもりで、声をかけただけだったのか――。
その事実に、山田は安堵する。
だが背中は、冷や汗で濡れていた。
「ちょっと、大げさだって。急に説法みたいなこというから、びっくりしちゃったよ」
「おやおや、それはすいません。昔から大仰な物言いをする癖がありまして……」
気遣ってくれるのはありがたいが、少々大げさすぎる海野の言動に、山田はつい苦笑いをしていた。
それにしても、罪悪感とは傲慢か――。
(……僕の場合は、そうなのかもしれないな)
背負ったまま向き合えない罪が、未だ心の奥底に張り付いている。これは確かに罪悪感なのだろう。
だが、海野の言う通り、傲慢な罪悪感だ。未だに山田は、正義があった過去の幻想と欺瞞に縛られている。到底向き合えてはいないだろう。
自分は、まだ正しい人間側にいたいと思っているのだから。
「山田さん。データ確認終わりました。写真、OKです」
海野は自分の鞄に、デジカメをしまう。
「さて、用が済んだら長居は無用です。そろそろ行きましょうか」
海野はポケットから車のキーを取り出し、指先でくるくると弄ぶ。
山田は小さく頷くと、空き地に止めた海野の車へと向かった。
車に乗り、シートベルトをしめればすぐにエンジン音が響く。
心霊スポットの取材ということだが、山田が担当するのはこの廃ホテルの記事だけだ。今回の遠出も写真をとるのがメインで、他に仕事らしい仕事はない。
(海野さんは、小旅行だと思って気楽に受けていいって言っていたけど。こうも呆気なく進むと、ちょっと拍子抜けだな)
車窓から外を眺め、山田はトントンと指先で膝を叩く。
あまりにも順調に進んでいる。ここまで大きな苦労はない。よもや、後出しでとんでもない要求を出すつもりではなかろうか。
「えーっと、ホントにこれだけで良かったの? 取材、思ったより呆気なかったけど」
考えても仕方ない。ここはハッキリ聞いておこう。山田の質問に、海野はきょとんとした様子だった。
「はい? これだけ、といいますと……」
「だから、取材のことだって。写真撮影だけ、実働二時間くらいで一泊旅行、費用も全部そっち持ちなんて、ちょっと割が良すぎるからさ」
出版業界が全体として苦境にある、というのは山田も知っている。
オカルトブームは去り、心霊中心のムック本などはコアなファンでなければ手にしないのも分かっている。
大きな予算が付く事のないマニア向けのムック本に、これだけの取材費が出るとはとても思えない。
目的地の心霊スポットは、確かに都心から離れているが、十分日帰りできる距離だ。わざわざ取材費で一泊するというのも、違和感があった。
山田の素直な疑問を前に、海野はようやく合点がいったような顔をした。
「なるほど。山田さんは、今回の依頼の後、他にも余計な作業を押し付けられないか心配なんですね」
「そう、それ。普段の僕は、今回の依頼料ならもう2つは取材してるからさ。ホント、何か隠してない?」
海野はクスクス笑いながら、慣れた様子でハンドルを切る。
「山田さんは真面目なんですねぇ。心配しなくとも、この仕事だけですよ」
海野の言葉は、少し白々しくはあった。だが、仕事に関して嘘はなさそうだ。
「ふーん、それならいいけど」
山田は素っ気なく言うと、視線を車窓に向けた。
相変わらず、山道が続いている。眩しい新緑の木々が風に揺れ、目にも心地よい。だが延々と同じ景色で少々飽き始めていた。
辺りには家はなく、行き交う車すらないのだからなおさらだ。
きっとこの地域には、長らく人の流れもないのだろう。閉鎖的で排他的な田舎町。典型的な過疎地区という奴だ。
そういえば、最後に建物らしい影を見たのはいつだろう。山道に入る前、ちょっと変わった廃屋が最後だった気がする。
誰かが住んでいる家というより、病院か研究施設のような建物だった。門だけはやたら立派だったから印象に残っている。
(あの建物のほうが、よっぽど心霊スポットっぽかったよね)
頬杖をつき、外観を思い出す。蔦に隠れていたが、無機質ながらモダンさを感じる建物はこんな田舎町に似つかわしくない。
不自然な建物が、ほとんど風化せず残っている。そのほうが、ベタな心霊スポットよりよっぽど写真映えするだろう。
「何なら、他のところの取材もしようか? ほら、行きがけに病院か、研究室みたいな建物あったよね? あれ、かなり心霊スポットっぽいけど」
海野はアクセルを踏みこむと、「あぁ」と嘆息をついてから曖昧に笑う。
「あれはダメなんですよね。殉教者の光、って新興宗教の分派が持っていた建物なんで」
殉教者の光。
どこかで聞いた名前だと思い、記憶をたどる。確か、山田が生まれるよりずっと前に大きな事件をおこした宗教団体だ。
殺人事件だった気がする。教祖が猟奇殺人に関わっていた事が知られ、当時はかなりのスキャンダルだったはずだ。
「今はもう活動してないんですけど、元々黒い噂が多い宗教でしたからね。迂闊に扱えないんです」
事件を起こしたのだから、てっきりそのまま消滅したのだろうと思っていた。危険思想の新興宗教でも、分派があるということは、意志を受け継ぐ信徒がいたということか。
「そっかー。マジの宗教はヤバいから仕方ないね」
「えぇ、その通りです。今、オカルト業界は宗教の話題を絡めるのをタブー視していますからね」
珍しく、海野の顔から笑顔が消える。
一九九〇年代にあったテロ事件以降、オカルト業界は、宗教の話をタブーにした。他にも、実在する事件をテーマにするのもNGなど、以前よりよっぽどプライバシー配慮が求められている。
最も、WEB媒体においてもクレームほど面倒なものはない。ヘタを打てば炎上し、ライター本人の顔や名前、家まで晒されかねないからだ。
配慮は他者だけでなく、自分の身を守る術、という訳だ。
(んー……でも、あの場所って確か……)
どこまで進んでも、緑・緑・緑。芽吹いた葉の形だけが少し違うだけの代わり映えのしない車窓を眺めながら、山田は廃ホテルの噂を思い出していた。
海野からは「気軽に受けてほしい」と言われていたが、流石に何の下調べもせず取材に行くのは失礼だろう。そう思った山田は、せめてネットで場所くらいは調べておこうと思った。
場所と地名で検索すれば、すぐに目的の情報をいくつか見つける事ができた。心霊スポットとして取り上げられているのが5件ほど。廃墟マニアの穴場としてあげられているのも3件ほどはある。他は、巨大掲示板の書き込みが主だが、どの書き込みも4、5年ほど前で途切れていた。
詳しい内容は朧気だが、どの記事も、「以前、本当に事件があった場所」という文句がお決まりになっていた気がする。
「そういえば、海野サン。あの廃ホテル、リアルに事件があった場所って聞いたけど、それって大丈夫なやつ?」
山田は眉間に皺を寄せ、記憶を手繰る。全て古い内容だったが、随分と物騒な事件だった気がするが……。
「そうだ、思い出した。確かあのホテル、客室でカップルが痴話げんかして、女の人が殺されたんじゃないっけ?」
だから夜な夜な、血まみれの女が立っている。というのが主な噂だった。実際に、幽霊を見たという話は一つもなかったが。
「それ、本当だとしたら、不謹慎ビーム喰らうんじゃない? 僕、炎上だけは絶対イヤ。矢面に立たされるとか、無理よりの無理だからね」
山田は自然と口を尖らせる。目立ちたくない山田にとって、自分の記事が炎上するのは最も避けたい事態なのだ。
「あはは、心配しなくても大丈夫ですよ。あの場所は過去に何度か記事にした事もありますが、一度もクレームは無いですから」
海野は山田の尖った口を見てクスクス笑う。
「それに、私ってクレーム対応や火消しは得意なんですよ」
そして、軽くウインクした。その裏には、不謹慎が怖くて「そっち系」の企画に関わっていられるかという強い意志も見える。
「それにしても、わざわざホテルの噂まで調べてくれたんですね」
「そりゃ、ライターの端くれだし。事前調査って基本でしょ?」
「それが意外と、何も知らずに現地まで来るライターも多いんですよ。山田さんは、真面目な方なんですね」
車はゆるいカーブを曲がる。舗装もろくにされてないガタガタ道にも関わらず、車内はほとんど揺れていない。山道の運転には慣れているのだろう。
「いっそ心霊スポットの突撃取材は全部山田さんにお任せしましょうかね?」
海野はクスクス笑いながら、ちらりと山田を見る。口元こそ穏やかだが、目だけは笑っていない。
「そうだね。今回の記事がウケたなら、また声かけてよ」
山田は極力表情を出さないよう、どうとでも取れる返事をした。
「ところで、その噂、最近調べたものですか?」
車が長い坂道にさしかかった頃、海野はさりげなく問いかける。
気軽に聞くように装ってはいたが、言葉と態度に微かな緊張の色が見えた。
「えっ? 出発前にちょっとネットで調べた話だけど……」
山田は、WEB上で見た噂だった事と、記事の内容は4、5年前とやや古くなっていた事を伝える。
「そうですか……」
すると、海野は何か考えるように、きゅっと口を結んだ。
「どうしたのさ、海野サン。何か、気になる事でもある?」
「いえ……ただ、私の知っている話とは随分と違っていたので。ネットではそんな噂になっているんですね」
含みのある言い方に、山田は少し不安になる。海野は一体、何を知っているのだろうか。
「そんな、心配そうな顔しなくても大丈夫ですよ、山田さん。ほら、口がムスッとしてますよ。せっかくの可愛い顔が、台無しですよ」
海野はまたクスクス笑う。一瞬だけ見せた緊張感も、何か思案するような素振りも一切ない。
「可愛いとか言われても嬉しくないし。そういうの、令和ではセクハラだよ?」
「おっと、そうですね。これだから、私のようなオジサンはデリカシーがない、なんて言われるんですよね」
はは、と乾いた笑いが響く。
オジサンの呼称を受け入れてはいるが、海野はそれほど年上に見えない。初対面のときは、自分より2、3才くらいしか違わないと思っていた。
しかし、その言動から、オカルトブームがあった頃にはすでに活動している素振りが見られる。
(もし、本当にオカルトブームを経験してるなら、僕より一回りは上なんだよね)
話すほど、謎が深まる海野の横顔を見つめていると
「それに、あのホテルでは誰も死んではいませんよ」
ハンドル片手に、海野は呟く。
「事件はありましたが、誰も死んではいません。それだけで、十分ですよね」
誰も人は死んでいない。
確かにそれだけわかっていれば、気持ちは楽だ。幽霊が出る理由は、少なくともあの場所にはないのだから。
だが、事件があったという一言が、やけに引っかかる。
(勘弁してよ。一体どんな事件があったのさ……かえって気になるって)
苛立ちか、それとも不安か。心が波立つのを抑えるため、山田は自分の頬に手をあてる。頬に手をあてるのは、考え事をする時の癖だった。手の温もりが頬に伝わると、少し落ち着くのだ。
(何かあったのかな……過去、この辺りで事件が……)
目を閉じ、記憶を手繰る。何か、この辺りで大きな事件があったか。あるいは妙な噂があったか、考えようとしたその時。
「でも、心配しなくても大丈夫ですよ。取材はこれで終わりですけど、まだまだお楽しみはこれからですから」
不意に海野は、明るい声を出す。
白々しいほど明朗な様子に、山田の思考は強制終了させられた。
「はぁ? いやいやいや、どういうこと? 急に何さ、海野サン」
「だから、お楽しみの話ですよ。実は山田さん、今日泊まる旅館、出るらしいですよ」
「はぁ? 出るって……」
嬉々として語る海野を見て、山田はつい大きな声を出す。「そっち系」の編集者である海野が「出る」というのなら、それは鹿や猪の類いではないだろう。
「まさか、これ?」
両手を前にだし、だらりと下げて「うらめしや」のお化けのポーズをすれば、海野は小さく頷いて笑う。
「そう、それですよ。以前からネットで、噂になっているんですよね。今日泊まる宿には、幽霊が出ると」
「えぇ、本当? まってよ、そんなの聞いてないんだけど」
「言ってませんでしたからね。ほら、言って怖がられて断られたら、困るじゃないですか。山田さん、幽霊は苦手ですか?」
山田は軽く、頭を抱える。別に言われても逃げたりはしなかった。むしろ、黙って連れてこられる方が心外だ。
「別に、怖くはないよ。僕、オカルトとか信じてないから。けどさ、それって騙し討ちだって」
「ちょっとしたサプライズ演出ですよ。でも、もし本当に幽霊が出たのなら、追加依頼してもいいですよ」
追加依頼。つまり、報酬がさらに増え、自分の名を売るチャンスが増すのだ。それなら、悪い話ではない。
「……ちなみに、どんなのが出るの? ほら、幽霊でも色々あるでしょ。座敷わらし的なやつとか、あんまり怖くないのだったらありがたいんだけど」
これで、見たら呪われたとか、7日以内に確実に死ぬ。みたいな話だったら流石に断ろう。山田にとって、静かに安寧に暮らすのが一番大事なのだ。幽霊だの呪いだのに煩わされたくはない。
「女性の幽霊みたいですよ。髪が長くて、白い服を着ていたなんて話が多いみたいです。これぞ王道って感じですよねぇ」
海野の口から出たのは、ベタな女の幽霊像だった。目撃談が噂になっているのなら、タタリの類いはなさそうだ。
(あーあ、本来はこの仕事、僕じゃなくて谷原サンの担当だと思うけどなぁ)
山田は頬杖をついて車窓に視線を向ける。
だが、今さら何をいっても仕方ない。宿に泊まるのはもう決まっているのだ。嫌です、帰りますといっても素直に帰してくれそうにない。
それに、本当に幽霊がいて、それを撮影出来たのなら、きっと谷原は歯をむき出しにして悔しがるだろう。
(それ、悪くないかも。谷原サンが悔しがってキーキー言う顔、絶対見たいし。たまには怪異と付き合ってみようかな)
山田は覚悟を決め、助手席で一度大きく背伸びをする。
パキポキと背骨が鳴る音がして、僅かに腰に痛みが走った。
「痛ぁッ!」
それを聞いて、海野は目を丸くした。
「……山田さん、姿勢悪すぎますよ。今度、いい整体紹介しますね」
「うう……お、お願いしようかな」
腰を押さえ、呻くように呟く山田を前に、海野はクスクスと笑う。
車はもうすぐ山道を抜けようとしていた。
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