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インターネット字書きマンの落書き帳

   
ムーンブリダと秘密のレシピ
ウリエンジェさんとムーンブリダさんの話です。
うちのヒカセンもちょっとだけ出ます。

ウリエンジェさんはママっぽいけど、ムーンブリダさんはパパっぽいよね。
毎日の食事はウリエンジェさんが作ってくれてるけど、たまの休日に凝った料理を作ってくれるのはムーンブリダさんだよね……。

みたいな妄想をしてたら広がって収拾がつかなくなったので、つけずに書きました。
研究に没頭すると食事がおろそかになりがちのムーンブリダさんに差し入れをしていたウリエンジェさんという概念と、ちょっと時間があると凝った料理を差し入れてくれたムーンブリダさん概念です。

うちヒカセンは褐色白髪片目かくれの童顔ミコッテサンシーカー(21)という設定ですが、まぁそこまで関わってないので説明はこのくらいでいいでしょう。


『思いを繋ぐレシピ』

 ルガディン族は武力に長けるが粗野で座学を避ける傾向がある。
 そんな偏見が未だ蔓延る学術界の中で、ムーンブリダ勤勉であったと、少なくともウリエンジェはそう記憶している。

 数多の書物を読み込み、ノートには丸く小さな可愛い文字でびっしりと書込みをする。
 あまり要領が良い方ではなかったかもしれないが、その分長い時間を費やし腰を据えて研究する事には長けていた。

 ただ、研究に没頭するあまり身の回りの事がおろそかになりがちだった。
 動き出すまでやや腰が重い所があったが集中すると寝食すら忘れるほどで、しばしばウリエンジェは食事の差し入れをしていたのだ。

「ムーンブリダ、入りますよ」

 研究室のドアをノックすれば、彼女はいつでも笑顔で出迎えてくれた。

「ウリエンジェか! 良く来てくれたな。どうした?」
「貴方の事ですから、また研究に夢中で何も食べていないのではないかと心配になりまして……たいした物ではありませんが、差し入れをもってきました」

 ウリエンジェの差し入れはパンに少しの野菜とハムやチーズを挟みマスタードで味付けした簡素なサンドウィッチや刻んだ野菜を入れたトマト味のスープなど、あり合わせの材料を使い短時間で仕上げただけのやや薄味の料理ばかりだったが、それでもムーンブリダはいつも喜んでくれた。

「悪いなぁ、そういえばすっかり食べるのを忘れてたぜ。ちょっと紅茶でも煎れるからまっててくれ」
「気を使わないでください、まだ研究の最中でしょう。本を読みながらでも食べられるよう、今日はスコーンを焼いてきましたので……」
「こっちがもう少し話したいんだよ。いいだろ、付き合ってくれ……うわーッ、美味そうだな。有り難くいただくよ」
「あり合わせのものだけで申し訳ないのですが……」

 温かな紅茶を前に頭を下げるウリエンジェを前に、ムーンブリダは笑う。

「相変わらず謙虚だなぁ。あり合わせのものでパパッと料理を作れる方が凄いと思うぜ。アタシなんか、レシピと睨めっこしながらじゃないとちゃんとした料理にならないから、時間がある時くらいしか料理なんてしないさ」

 そして一口、焼きたてのスコーンを頬張ると。

「んー、やっぱ美味い。ウリエンジェの料理は世界一だね」

 大げさなくらいに喜んで見せる。
 彼女の言葉はいつだって真っ直ぐでそれが少々くすぐったく感じる事もあったものだが。

「ありがとう……ございます」

 いつしか回りくどい言い方で周囲を煙に巻くようにして語り自分の思いを覆い隠そうとしてしまう。そんな風になっていたウリエンジェにとって、彼女の言葉はいつも暖かくそして力強くその心を照らしてくれた。

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 ウリエンジェは、懐かしい匂いに急かされ目を覚ます。

「この匂いは……」

 記憶にある匂い。何年ぶりに嗅ぐ、懐かしい匂いだ。
 どうしてこの香りがするのだろうと不思議に思い部屋を出れば、調理台に立つ人影があった。

「あ、ウリエンジェさんおはようー。ごめん、調理台ちょっと借りてるね」
「いえ……貴方は……」

 暁では「光の戦士」と呼ばれ、イシュガルドでは「英雄」と呼ばれ、アラミゴでは「解放者」と呼ばれていた手練れの冒険者は今や多くの人々にその存在を知られ憧れの対象でもある存在だが、当人はまったくそのような雰囲気を感じさせないミコッテ族の青年に見えた。
 鍋で何かを煮込んでいるのか、火加減を注意深く見ている。

「えっと、暁でも色々あっただろ? 今は石の家と砂の家と両方で活動してる人もいて、こっち。砂の家に残っている人たちにもたまには料理でも振る舞おうと思って」
「料理を……されるのですね」
「うん、冒険者やってると干し肉とか固パンとか携帯食料が増えがちなんだけど、モンスター討伐とかで手に入ったお肉を捨てるのも勿体ないよなーと思ってるうちに、自然と覚えちゃったんだよね」

 出来上がったのだろうか。彼は器に料理を取り分ける。

「ウリエンジェさんの分も準備してあるよ。イシュガルドの伝統料理だから口に合うかわからないけど……」
「……あの、失礼ですが、これは何という名前の料理なんでしょうか」
「フリカデレだよ」

 屈託無い笑顔でこたえるその姿に、一瞬懐かしい顔が過ぎる。

「そう、ですか……フリカデレというのですね」

 ウリエンジェは静かに目を閉じた。
 奇しくもその料理は、ムーンブリダが得意としていた料理の一つだったのだ。

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 研究が一段落した時、あるいは逆に酷く行き詰まってしまった時などにムーンブリダはよく料理に没頭した。
 研究が一段落した時はそれまで出来なかった凝った料理をするために。
 逆に行き詰まった時は料理に没頭し一時研究の熱を冷ますために彼女は調理台へと向うのだ。

「ウリエンジェ。ちょっと作りすぎたみたいだから、片付けるの手伝ってくれよ」

 そしていつも彼女は沢山の料理を作るのだ。
 取り置きがきかないからとウリエンジェにもよく振る舞ってくれたが、今考えると日頃から差し入れをしているウリエンジェのために多めに作ってくれていたのだろう。
 レシピ通りにしか作れないという彼女の料理はスパイスや香草をふんだんに使いじっくりと煮込むタイプのボリュームが多い肉料理が主だったが、食の細いウリエンジェでもつい食べ過ぎてしまうほど美味しかったのは、はっきりと覚えている。

「あなたの料理は、いつも美味しいですね」
「はは、レシピ通りにやればアタシでもちゃんと料理ってのが出来るんだよ。見直したかい?」
「元より、あなたを一度だって見限ったり見捨てた事などありませんよ」

 そう言うと、ムーンブリダはやけに照れくさそうに笑ったのを覚えている。

「ところで、これは何という料理ですか?」

 そう聞くと、ムーンブリダは笑顔のまま首を傾げて見せた。

「さぁ? レシピは見るけど料理名なんてあんまり気にしないからね。そうだな、鶏肉を煮た奴でいいんじゃないか」
「それでは困ります……美味しいので私も作ってみたいと思ったので」
「ははッ、食べたくなったらまた作ってやるって! いつだってアタシが作ってやるから、ウリエンジェは食べる方をやってくれよな」

 そう言われたから、レシピの名前も料理の名前も知らなかった。
 ただ彼女は約束通り時間があればその料理を作ってくれて、ウリエンジェはその料理の名も知らず、レシピも知らないまま彼女の料理を食べて……。

 ……彼女を喪った今となってはもう食べる事の出来ない料理だと。
 どこかそう思って居たのだが……。

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 砂の家にいる面々に、フリカエデが振る舞われる。
 見た目も、匂いもムーンブリダが作ったものと殆ど変わりなかった。
 徐ろにナイフとフォークを手にし口にすれば懐かしい味が広がる。レシピ通りに作ってあるのだから当然なのだろうが、ムーンブリダが作ったフリカエデとよく似た味がした。

「どう、ウリエンジェさん。ちゃんと美味しく出来てる?」

 それを口にするウリエンジェの顔を、英雄と呼ばれた男は心配そうに見つめている。

「えぇ、美味しいですよ。ですが、どうしてそれを?」
「よかった! ……実はそれね、ムーンブリダさんから教わったレシピなんだよ」

 それを聞いた時、ウリエンジェは思わず目を見開く。
 普段から分厚いゴーグルをつけた彼の表情が変わった事は気付かれなかっただろうが。

「ムーンブリダさんが作ったフリカエデが美味しかったからね、レシピを聞いたら、色々教えてくれたんだ。ウリエンジェさんが好きな料理だから、アタシが帰ってからウリエンジェさんに作ってやってくれって……おれがちゃんと作れるようになるまで手間取っちゃって、振る舞うの遅くなっちゃったけどね」

 ウリエンジェが聞いても教えてくれなかったレシピを彼に托したのは、彼女も何か感じていたのだろうか。
 わからない、だが……。

「ありがとうございます、とても……とても、美味しいですよ」

 ウリエンジェは笑っていた。
 ムーンブリダの思いと、それをつなげてくれた彼に感謝の思いを抱きながら。

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