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インターネット字書きマンの落書き帳

   
図々しくか弱い男
オリジナル作品という名の概念を置いておきます。
時々「よし書こう!」「書けたわ」がすぐ出来るような話が生まれるんですよね……。
それで本来書くネタは塩漬けにしておくんですが……ま、それはそれ! これはこれ!

今は生まれてきた作品の誕生を祝いましょう。
誕生おめでとう! やったー!

この話は「愛しい人が高潔でいてほしい、自分の届かない存在でいてほしい、そのために自分は汚れ仕事などいとわない」と思っている男と「おまえに汚れて欲しくない」と思っている愛しいひと、という概念です。

概念概念。
概念のはなしをしよう!




『よわいおとこ』

 折り重なる骸の山そのてっぺんに座り男はやっと一息ついた。
 額から生ぬるい血が流れ左目を覆う。
 腕っ節には自信があるし荒事にも慣れている。戦の場数も随分と踏んだつもりだったが流石にこれだけの人数を一人で相手すれば怪我の一つもするだろう。流れた血を拭えばますます顔は血で汚れる。両手はすでに返り血で真っ赤になっていた。

 もういい、帰ろう。役目は果たした。

 血濡れた手も服も水で流せば何とかなる。汚れた着物は捨てればいい。
 死体はこのままでいいだろう。もっと無惨にそして派手にあちこち臓腑をばらまいた方がより周囲に畏怖を与え大切な「あの人」の威厳が増すとは思ったが今は疲れの方が大きかった。

 鏖(みなごろし)にしたのだ、見せしめとしては充分だろう。

 重い足を引きずり、男は一人で影を引きずる。
 あの人を嘲笑し弓を引こうとしたのだ、反逆の芽を潰すのは当然だろう。あの人の貶めようとしたのだからその罪は死でさえ生ぬるい。
 殺した後死体を引き裂き野ざらしにした首へ小便を引っかけた今でもまた憎さが収まる事はなかった。

 だが胸の奥には悲しそうにこちらを見るあの人の姿がある。
 あの人は憐憫と悲哀の入り交じった目でこちらを見て唇だけで訴えるのだ。

『そこまでおまえがする必用があったのか』
『おまえが殺した兵もまた我らが守るべき民ではなかったのか』

 あなたのためにした事なのに、どうしてあなたが攻めるのだ。
 そんな思いが湧き出る自分に舌打ちをする。

 いや、あなたは高潔だ。汚れた自分を責め、突き放し、貶め、恥さらしだと罵ればいい。
 そうして自分は仲間のうちいっとうに汚れた男になろう。
 あの人に嫌われても良いから、あの人の輝きを守り続けよう。

 それが自分の決めたあの人への接し方であり、自分の生き様なのだから。


 家に戻った時、明かりのない部屋にあの人がいた。
 まるで全てを見透かしたような目でこちらを見据え、黙って一人たたずんでいた。

 どうしてここにいるのだろう、誰にもこの計画は話してなどいないのに。
 ほとんど考える力を失っていた男は反射的にいつもの振る舞いを見せようとわざとおどけて笑うのだ。

「あちゃー、見つかっちゃいました? ちょっと野暮用で出かけたら手荒い歓迎されちゃいまして。礼儀を教えてやったらこのざまですよ。どうです、男っぷりが上がったでしょう」

 自分は普段と変わりない、汚れ仕事などどうとでもない。
 だから自分などに構わずあなたにはただ前を見て真っ直ぐに突き進んで欲しい。
 輝きの影にある汚さは全て自分が飲み下して見せるから。

 そう思っていたいのに、あの人はただ悲しそうにこちらを見て血濡れた手に触れる。

「なぜ、汚れようとする。どうして一人で背負おうとする……こんな事をさせるために……おまえを……」

 血の汚れがあの人の身体もまた汚す。
 どうして自分を嫌ってくれないのだろう。穢らわしく卑怯で卑屈な人間だと突き放してくれないのだろう。 そうしてくれればもう少し楽に汚れた男でいられたろうに。

「気にしないでくださいよ。皆の中でいっとうに弱い俺ですから、いっとうに汚れてもあなたを守ってみせますから……」

 愛しい人を前に、男はぎこちなく笑う。
 その笑顔を、あの人はただ悲しそうに見つめるだけだった。

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東吾
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インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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