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インターネット字書きマンの落書き帳

   
僅かに揺らぐ光の道筋(ヤマアル)
処刑隊に心酔しているアルフレートくん概念のはなしです。
ずっとローゲリウス師の言葉を信じ、その言葉を信じていれば自分も輝きに導かれるはず。
それを信じて歩き続けているアルフレートくんですよ。

それが、ヤマムラさんの出会いで少しばかり戸惑いを見せてしまう。
みたいな話なってますが、俺の心にあるヤマアルの自我が強すぎたから、ヤマアルを書きたかった気持ちがおさえられなかったのでヤマアルを好きになってください。




『光は揺らぐ』

 アルフレートは窓辺に腰掛けると弱まってきた雨音を聞きほつれた狩装束を直していた。
 ヤーナムの街から処刑隊が消えてから随分と時が経つ。アルフレートの装束はあまり傷んでいなかったがそれでも古いものだ。 作られた当時は最も誉れある栄光の狩人集団であった処刑隊だからその装束も強固に作られていたため今使っても獣狩りに何ら支障のない機能性を備えていたがあまりに作りが精巧なため今直そうとしてもこれをきちんと手直し出来る職人はない。
 斜陽の街となったヤーナムは獣狩りに耐えうる程に強靱な肉体を持つ市民による狩人もいなければ狩人を補佐する武器を扱えるような職人や技師も、装束をあつらえる職人さえもいなくなっていたからだ。
 最も、もし処刑隊の装束を直すことが出来るような職人が生きていたとしてもアルフレートは装束を誰かに託したりしなかっただろう。 元々この装束はアルフレートのものではない。 いくつかの偶然が重なりアルフレートの手元へ渡った装束だ。 どこで手に入れたのかなど色々探られるのも面倒だし、他者の手に渡り奪われるような事などは考えるのもおぞましい。
 それほどまでにアルフレートは処刑隊というものに心酔していた。
 だが彼に処刑隊の生き方や教えを伝えたのはローゲリウスではない。ローゲリウスの言葉を語りついできた者からの伝聞と当時に残された手記がアルフレートの知る師の言葉の全てである。
 言うなれば今のアルフレートを正しくアルフレートとして構築させている要素のほとんどが他人からの受け売りであり借り物であった。
 もし処刑隊が存在した当時に生きていたらアルフレートは迷わずその魂を処刑隊へ差し出していただろう。 ローゲリウスが生きていたのなら近くでも遠くでもその言葉を全て聞き逃す事なく過ごしていただろうし、師が志しを果たすためなら殺すことも死ぬことも厭わなかっただろう。
 だがアルフレートが生を受けた時にはすでに処刑隊は過去のものとなっていた。それだけではなく、存在そのものが消されようとしている最中だったのだ。
 過去を知るものの語りでは当時の処刑隊は熱狂のままに受け入れられ華々しく旅立ったとの話だが今は誰も語るものはない。全ての理由はアルフレートが師と崇めるローゲリウスが処刑隊を伴いそのまま帰ってこなかったことだろう。 若き精鋭の狩人を率いて戻ってこなかったのだから当然と言えば当然なのかもしれない。
 もとよりヤーナムにおいて狩人の命は道ばたの小石程度の扱いでしかないが、処刑隊は当時の精鋭であり若く逞しい狩人がほとんどだったという。 それを獣狩りではなく血族狩りという共闘に至らずも同じ「獣」あるいは「獣の病」と戦っていた相手に刃を向け互いの信頼を損ねたのだから非難するものがいるのも仕方ないだろう。
 血族に対して好意的なものはヤーナムにはいない。だが血族は儀式やら儀礼という懐古的な理由と方法とで獣狩りを行う数少ない存在であり、血族の狩人が減ったのはヤーナムの衰退を少なからず早めただろう。
 ヤーナム全体を見ずとも、処刑隊を信じて送り出した市民の期待を裏切ったのは変わりない。
 だがそれでもアルフレートはローゲリウスの言葉こそ正しく清浄なるものだと信じていた。
 今の市民からすると処刑隊もローゲリウスも過去の存在であり血族討伐に失敗した存在でしかないが、例えそれが失敗だったとしてもアルフレートは師の言葉もにも行動にも一片の間違などないと思っていたしそれは讃えられるべきだとも思っていた。
 それでも世間は冷酷だ。
 いくら正しくとも、いくら清らかであってもきちんとした実績がないものの言葉を聞き入れはしない。世界は成功者の言葉にしか価値を見いださないのだ。
 ローゲリウスの言葉を正しきものとしてヤーナムに再認識させるには、ローゲリウスの旅路が無駄ではなかった事を示さねばならない。 アルフレートはそのために命を賭すつもりでいたし、そうなる事で自分が処刑隊の輝きとなれるのを信じていた。
 師の栄光を取り戻すためならば何をするのも厭わなかった。必要なら手を汚すことにためらいは無かったし、身体を汚したとて今更どうでも良い事だった。うわべだけの美辞麗句を延べるのも媚びへつらったような笑みを顔に貼り付けるのも手慣れたものだ。
 どのような過去をもっていても、どのように今汚れていても、この街を清潔するため邁進した事実さえあれば自分の魂は輝きにある。 そう思えばアルフレートは何だって出来る気がした。
「大丈夫か?」
 そうして普段通りにヤーナムの片隅に立ち、物腰柔らかに市民や狩人へ清らかな問いをしている最中に立ち止まった男はそう聞いた。 近頃ヤーナムにも増えてきた異邦人の狩人だ。片目にかかる黒髪とこのあたりでは見ない民族衣装のような装束をまとっている事と狩人にしては珍しい眼鏡をかけている事は特徴的だったろう。
「大丈夫……とは、どういう事でしょうか……」
 突然にそう聞かれ、アルフレートは困惑する。  普段通り狩人たちに情報を与え、その見返りとして血族や招待状の情報を得る。無記名の招待状など実在するかも怪しい品だがそれが故に多くの狩人が存在を知っている事が大事だろうとすでに日常的となった聞き込みで逆にこちらを心配されたのは初めてのことだったからだ。
 そう、大概の狩人は軽く聞き流すか良くても気にとめてくれる程度で長くこういった行動を続けているが招待状について有効な情報を得た事は一度たりともない。 ましてやそんな事を聞いてくる者など一度だっていなかったからだ。
 不思議に思って聞き返せば、異邦の狩人はおおよそ狩人とは思えない程穏やかな表情をアルフレートへと向けた。
「いや、君が何だかとても無理をしているような気がして……思い過ごしだったらいいんだ、気にしないでくれ」
 異邦の狩人はそう告げると、帽子を取り一礼して振り返る。 その男が腰に帯びた得物をアルフレートは見逃さなかった。
 一見なんの変哲もない刀剣の類だろうが束にみえる意匠は間違いなく血族が好むものだ。丁重に施された繊細すぎる豪奢な細工は無駄な手間ばかりかける血族らしい品といえよう。
 どう見ても血族の末裔にはみえない異邦人だが、それでも何処でどのようにしてその武器を手に入れたかは知る必要がある。血族と何らかの関係があるのならこの街をより清潔にするため必要な処置があるからだ。
「あぁ、すいません。あなたの、名前は……」
 そう問いかけようとするが、すでに異邦の狩人は人混みに消えていた。 名前を聞けなかったのは惜しいが増えてきたとはいえヤーナムで異邦の狩人はまだ目立つ。黒髪で眼鏡という風体なら尚更だ。そう苦労することもなく探し出す事はできるだろう。見つけて何としてもその武器をどこで手に入れたのか問いただす必要があると思った。
 だが妙な胸騒ぎがする。彼に深入りしてはいけない。深入りしてしまえば自分の求める輝きに必要のない陰りが出てしまうような、まっすぐに伸びていた一筋の光が揺らぎぼやけてしまうような、そんな気がしたのだ。
 ローゲリウスの言葉と出会ってから一度だってこんな惑いを抱いたことなどないのだが。
「さて……そろそろ行きますか。名前は確か、ヤマムラ……連盟の一員でしたね。きっと禁域の森で虫のように這いつくばり隠れて生活してることでしょう。やれ……あの場所は入り組んでいてあまり行きたくないんですけどね」
 直したばかりの狩装束を身にまとうと、アルフレートはゆるゆる立ち上がる。目的はヤマムラという異邦の狩人からどうしてその武器をもっているのか聞くため。必要ならこの街をより清潔にするためにだ。
 いつもの仕事だ。自分が手抜かりすることはない自身はある。
 だが、どうして今でも何処か疼くような惑いが胸に燻るのだろうか。目を閉じるとこうも鮮明に寂しそうに笑う男の笑顔が蘇るのだろうか。
「……いまさら、もう遅いんです。私にはもう、処刑隊しかないんですから」
 アルフレートは自分に言い聞かせるよう独りごちる。胸にあるほのかな迷いを断ち切ろうとするように。
 雨はいつのまにか止んでおり、外には二重になった虹がかかっていた。

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インターネット駄文書き
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紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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