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インターネット字書きマンの落書き帳

   
俺が最後であればいい。(みゆしば)
平和な世界で普通の恋人同士として付き合ってる手塚と芝浦の話です。
(端的な幻覚の説明と挨拶を一行でしていくスタイル)

芝浦くんは、若い頃に埋められない悲しみやら愛情やらを色々な男に抱かれる事で慰めていてほしいね……。
なんて、そんなぼくの強めの欲望から「過去に色々な男と遊んでいたけど、今は手塚だけが好きだから後悔している」という設定でかいてみました。

わぁい! 過去に色々な男と関係のあった男!
おれ、色々な男と関係のあったおとこ、だぁいすき!
ヤッホーイ!




「俺の隣にいればいい」

 過去はいつだって、自分が一番「暴かれたくない時」にその思いを裏切るよう現れる。
 芝浦は大金持ちのドラ息子という立場上、向上心のある若者や野心家の実業家などを多く見ていたが、そういった連中の多くは後ろ暗い過去をもっていた。
 そしてその過去は、本人が一番危惧している時期に暴かれる。

 例えば学生時代の熾烈なイジメであったり、例えば大学時代の交際相手が妊娠したのを知り逃げるように姿を消したり、痴漢癖や万引き癖、セクハラ・パワハラ・モラハラ気質で相手を追い遣り自殺させた過去など、あげたらきりがないほど人間の業は深く残酷なものだ。

 そして世間一般的に「悪」あるいは「汚点」と呼ばれる部分は、当人にとって一番大切な時に本人が思いもしない所で現れるものなのだ。

 もっと上を目指そう、もっと出世しよう、もっといい稼ぎを、もっと名声を……。
 そういった欲望で我武者羅に生きる人間は元より他人の心にたいして鈍感であったり、自分の境遇が恵まれている事にさえ気付かない高慢さをもっていたりする。
 そしてそれに気付かないまま上を目指そうとすれば、それを良しとしない輩に梯子を蹴落とされるのが世の常だからだ。そいつが「出る杭」ならば尚更である。

 芝浦にはそういった野心はないが、芝浦家の跡取りという生まれもっての立場が消えるわけではない。
 これから先、芝浦の就職先は少なからず親の息がかかった場所になるだろう。

 今の芝浦にはそれほど大きな野心もなければ出世欲もなかった。
 父の息がかかった会社で普通の業務をこなせばいいし、親の金は充分にあるんだから暫くは研究職をしてみるのもいいだろう。起業するのも悪くない。
 何をするにしても時間に余裕があるほうがいいとは思っていた。
 できるだけ定時で帰って手塚が待つ家に帰り、二人でゆっくりとすごず。目指すのはそんなライフスタイルだ。
 その時は周囲に堂々と「手塚が恋人である」と言えてれば、なおいいだろう。

 大学生である芝浦は、周囲に恋人の存在を黙ったままでいる。
 大学では深く親しく付き合っている友人はおらず、広く浅くの付き合いしかしていないがそれでも芝浦に恋人がいる事に気付いている生徒はいるだろう。
 だが芝浦の恋人が手塚海之という名の男性である事にまで気付いているものはいないようだった。
 大学生ともなれば常識や価値観はそれなりに身についてきているとはいえ、世間的にはまだ子供のように扱われる事もあるし実際子供のような残酷さを見せる事もある。
 残酷で純粋な良識を振り回し、芝浦の事を蔑んだり茶化したりする事に何ら罪悪感を抱く事もないだろう。
 マイノリティの思考や思想、フェチズムなどはマジョリティにとって玩具かピエロのようなものなのだから。

 芝浦はそういった連中から好奇の目にさらされるのは面倒だと思っていたし、この件で手塚の事を馬鹿にされたら冷静である自信もなかった。
 社会人になってからは自分の事を隠す事はせず、手塚を堂々と「恋人」として紹介できればいい。そんな思いを抱いていたから、この嗜好が自分の将来で足を引っ張るという事はないだろう。

 だが、不安はある。
 それこそが芝浦の抱える「浅はかだった過去の自分」そのものだった。

 唯一の家族である父は、芝浦に愛情を示そうとはしなかった。
 ただ「立派であれ」「堂々たれ」と、芝浦家の跡取りとして相応しい振る舞いを求めるばかり。父の望み通り、完ぺきな知性に完ぺきな教養をたしなみ、人を操る話術を自在に扱えるように尽力してきた。
 完成されつつある「跡取り」の姿は彼の父を喜ばせたが、彼の望む言葉も愛情も得られなかった。

 寂しい心を埋めるように、男へ身体を許すようになったのは今よりずっと子供の頃だ。
 名門男子校の看板と男子学生という肩書きをちらつかせれば、大概の男たちは貪るように彼を求めた。どちらかといえば童顔で可愛らしい印象をもつあどけない彼の容姿と名門男子校の現役男子学生という肩書きは、たとえ罠だとしても思わず食らいつきたくなる程に美味そうな餌だったろう。

 あの時、いったい何人の男に抱かれたのか今でもはっきりと思い出す事が出来ない。
 決まって付き合っていた相手の他に、一夜限りの相手や複数人の相手に一人いた、というような顔すら覚えてない相手もいるのだから。

 ……過去にしてしまった事を、今更変える事は出来ない。
 悔いても嘆いてもそれが「なかったこと」になるワケではないのはよく分っていた。

 だからこそ、恐ろしいのだ。
 もし、手塚の前に「過去の男」が現れたとしたら……過去に芝浦がしてきた奔放な行動を手塚に語ったのだとしたら。
 あるいは、そういった過去から道を踏み外した男が恨み言などを囁いたとしたら、果たして自分は今まで通り手塚の隣で笑っていられるだろうか。

 今の自分は幸せだ。
 手塚と喧嘩をする事もあるが、彼は理不尽に怒鳴り散らしたり威圧するように声を荒げるような事はない。いつだって芝浦の事を心配し、彼に危険がないか。彼が軽率な行動で自分を傷つけたりしないか。そういった事を心配してくれる男だった。
 芝浦には出来すぎたくらいの恋人といってもいいだろう。

 だが、だからこそ恐ろしいのだ。
 満たされた生活の中でいつ、自分の過去が牙を剥き幸せを奪うのだろう。
 そう思ってしまうから……。

「どうした、淳」

 ソファーに寝転がりながら少しばかり黙っていた芝浦の様子が普段と違う事に気付いたのだろう。 手塚はどこか心配そうにこちらの顔をのぞき込んできた。
 心配そう、とは思ったが普段の手塚はかなりのポーカーフェイスだ。喜んでいるのか、怒っているのか、それとも悲しんでいるのかは一見すると判別できない。
 そんな手塚の顔を見るだけで今、何を思っているのか。どういう気持ちでいるのかが分ることに小さな優越感を抱いていた。  

 だがそれは、すぐに不安に変わる。
 他でもない自分自身の過去が。 浅はかで軽率だった子供の頃の過ちが、今の幸せを崩してしまうかもしれないと思ったばかりだからだ。
 それが「もしも」の話でも非道く気持ちが揺らぐのは、それだけ今が大切だからだろう。

 手放したくない、何があっても。
 自分のことを「愛している」と言ってくれて、自分もまた「愛している」と思った相手に出会える事など、たぶんこの一生では二度とないだろうから。

「……そんな心配そうな顔をするな。お前はいつも暫く黙っていると思うと、あれこれ思い詰めて考える癖がある。どうせまた、難しく考えていたんだろう」

 手塚はそう言いながら、くしゃくしゃと芝浦の頭を撫でる。
 手塚は占い師だから、人の表情や仕草を無意識に観察しているから考え込んでいるのが分ったのか。 それとも芝浦がよっぽど暗い顔をしていたのか、その言葉からは分らなかったが。

「お前が過去に何をしててもいい。今、俺の傍にいてくれるお前が俺の全てだし、今後お前に何があっても俺の傍にいてくれればそれでいい……俺が望むのはいつだってそれだけだ」

 真っ直ぐに芝浦を見て薄く笑う手塚の言葉も表情も、嘘偽りなどない。
 そもそも手塚は嘘や冗談は苦手だし、世渡りレベルのおべっかも使うことすら出来ないのだ。
 手塚がそう言うのなら本心からの言葉だろう。

 同時に彼がそう言うのなら本当に、芝浦の過去に何があろうとその未来に食らいついてくるに違いない。

「……わかってるって。俺は海之の傍にいる。だから海之も、ずーっと俺の傍にいてくれよな」

 鉛のように重く、深淵の如く暗い感情は決してまともな愛ではなかっただろう。
 だが、芝浦は元より「まとも」に人を愛した事などないのだからむしろこの関係が心地よい。
 そもそも愛なんて脳の異常が生み出した感情なのだから、「まとも」でいる方が無理なのだ。

 芝浦は手塚の手を握ると、その手を自らの頬に当てる。
 いつでも、どんな時でも、何があったとしてもこの手はいつも傍らにいてくれるし、この手の傍らに自分がいる事ができる。
 今はただそれだけが嬉しかった。

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インターネット駄文書き
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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