インターネット字書きマンの落書き帳
ベレトちゃまにお洋服を渡す話。
モンモンとベレトちゃまの話です。
モンモン、ベレトちゃま、バルバトスが出ます。
(ちょっと話の脇にハルファスちゃんやサキュバスちゃん、アミーちゃん、ベリト様も出ます)
ベレトちゃまがいつも奴隷の頃の服を着ているのが気になってしまったモンモンが、ベレトちゃまにお洋服をプレゼントしたけど……。
みたいな話ですよ。
やさしい話に……なってるといいね。(希望)
モンモン、ベレトちゃま、バルバトスが出ます。
(ちょっと話の脇にハルファスちゃんやサキュバスちゃん、アミーちゃん、ベリト様も出ます)
ベレトちゃまがいつも奴隷の頃の服を着ているのが気になってしまったモンモンが、ベレトちゃまにお洋服をプレゼントしたけど……。
みたいな話ですよ。
やさしい話に……なってるといいね。(希望)
『怒り続ける覚悟を背負って』
アジトで一人、ソロモンは仕立屋が仕上げたばかりの服を眺めていた。
動きやすさを重視したあまり派手になりすぎない、今時の少年少女が当たり前のように着ているような服だ。
(うーん、派手すぎはしないと思うけど、どうだろうな? 気に入ってくれるといいんだけど)
それはソロモンがベレトにプレゼントするために作った服だった。
以前、ベレト本人にそれとなく「街に行くのならどんな服を着てみたいか」と聞いた事があるのだが、ソロモンの聞き方が悪かったのか恥ずかしがって答えてくれなかったので、同年代のハルファスや可愛いものが好きなサキュバスらと相談して特注したものだった。
普段から辺境で護衛役をしているベレトが動きづらくないよう華美な装飾は極力減らし、目に眩しいような色使いも避けている。
普段の生活をする時はもちろんのこと、戦う時に服が邪魔になる事もないよう仕立屋のアミーが型紙を作ってくれたから機能的にも問題はないはずだ。
着ていて素材が肌にかぶれるといった事もないよう手触りの良い布を仕入れたから、着心地が悪いといった事はないだろう。
だが本人の意向を聞いて作ったものではないので、やはり渡した時に。
『こんなものでワシが喜ぶとでも思ったのかー!?』
なんて、怒り狂ったりしないか心配はあった。
(大丈夫、だよな……変なものでもないし、ベレトが怒ったりしなければいいけど……)
ベレトが何も言わないからこちらで勝手に準備したため、いざ渡すとなると躊躇いが出る。そんなソロモンの様子に気付いたのだろうか。バルバトスは彼の肩を軽く叩くと笑って見せた。
「やぁ、ソロモン。それが新しくベレトのために準備した服かい? ……へぇ、皆であれこれ話考えただけあって、素敵な服が出来たじゃないか。きっと彼女も喜んでくれるはずさ」
畳んだ服を前に、流れるように語る。
自分一人で考えている時は不安が大きかったが、バルバトスがそう言ってくれてようやく少し安心出来た気がした。
「ありがとうバルバトス。俺だとベレトの好きそうな服ってどうしても分らないから困っていたんだけど、バルバトスから見ても良さそうなら安心かな」
ベレトに何か新しい服をプレゼントしてあげたい……それは以前からソロモンが思っている事だった。
何故なら彼女は出会った時からずっと奴隷時代の服を着ていたからだ。
本人が言うには、ずっとこの服で不自由もしていないし辺境の地にいて誰かに外見をとやかく言われる事もないのだから着替える必用などないといった理由で同じ服を着ているようだが、それが『奴隷であった頃の服』というのがずっと気になっていたのだ。
奴隷であったという事は、その人生を誰かに奪われて生活していたという事だ。
攫われたにしろ、肉親により売られてしまったにしろ、辛い別離を経験しているのは間違いないだろう。
その上で自分の意思にかかわらず、誰かに飼われその命運を握られていた生活を続けていたのだからその辛さ、苦しさは想像に難くない。
ベリトは、奴隷をもつような金持ちにとって奴隷は財産の一つであり、自分の財産を粗末に使うものはないとは言った。
ソロモンが思っているよりずっと奴隷というのは大事にされているものだとも語っていたが、それでも他人に生きる道を買われ奪われているのは事実であり、たとえ充分な生活が保証されていたとしてもそれは幸福な事ではないように、ソロモンには思えていた。
それに、初めて出会った時のベレトは行き場の無い怒りを周囲にぶつけ回るだけのメギドであったのだ。
彼女のあの怒りは理不尽に踏みにじられた自らの境遇からだったのではないだろうか。
怒りを抱き、それを周囲にぶつけ回る事がベレトというメギドの個だったとしても、ソロモンが出会った時のベレトが抱いていた怒りはヴィータとしてのベレトがその人生を軽率に踏みにじられた経験が起因しているのではないか。
ベレトは奴隷時代の事を決して話そうとしないし、ソロモンもそれを無理に聞こうとは思っていない。
だがもし彼女が奴隷時代に辛い経験をしていたとしたのなら……。
(ベレトは今でも奴隷時代の服を着ているけど、ベレトにとってそれは思い出したくない記憶かもしれない……だとしたら、せめて服くらい着替えさせてあげたいもんな……)
余計なお世話かもしれないが、辛い過去をあまり思い出させたくはない。
それに今は辺境にいる事が多いのでベレトもあまり気にしないだろうが、いずれ人の多い街や王都に出かける事になった時、麻布と腰紐だけのような服で出かけさせる訳にもいかないだろう。
新しい服をプレゼントするにはいい時期のはずだった。
「見てばかりいないで、早く渡してきた方がいいんじゃないかい?」
バルバトスの言葉に背を押され、ソロモンはベレトのために準備した服を抱える。
「それじゃ、ちょっとベレトの所まで行ってくる」
「あぁ、気をつけて……」
そしてゲートをくぐり、彼女の元へと急いだ。
いつも怒ってばかりの彼女が少しでも笑ってくれればいいと思いながら。
・
・
・
それから数日の月日が経った。
ベレトは戸惑い、赤くなりつつもソロモンからのプレゼントを受け取ってくれた。
中の服を見て、それが少し可愛すぎないかと心配そうに呟いていたがもらった服を大事そうに抱えていたから別段、嬉しくなかった訳ではないようだ。
だが。
「ベレト? いや、いつもと同じ服をずっと着ているが……」
ガープが言うには、ベレトは今でも奴隷時代の服を着ているそうだ。
特別に誂えたものではあるが、普段着にしてもいいようにデザインしたものだ。気軽に着ても良いと伝えたのにまだ着てないのだと言う。
「ベレトか……あぁ、ちゃんと覚えてるぞ。服……? 服がかわったのか? そうか……そういえば、部屋で服をじっと見ている事があるな……」
ベリアルはそう言う。本当にちゃんとベレトを区別できているかは少し怪しいが、別に捨てたりはしていないようだ。
もしそうなら、しまわず着てくれればと思ったのだが……。
(やっぱり、あんまり気に入らなかったのかな……)
ペルペトゥムに出向いてベレトの様子を聞くが、誰も彼女が新しい服を着ているところなど見た事ないという。
喜んでくれていたように見えたが、余計なお世話だったのだろうか……。
「おいっ、貴様! 久しぶりにここに来たというのに儂に挨拶もしないとは何様のつもりだ! しかも儂についてコソコソ嗅ぎ回っているそうだな……どういうつもりか説明してみろ、この愚か者が!」
立ち止まり考えるソロモンの背後から、激しい怒声が聞こえる。
振り返ればそこにはベレトが立っていた。いつも不機嫌そうに怒っている彼女だが、ペルペトゥムに来たというのに顔を出さなかった事がよほど腹立たしかったのだろう。いつもの倍、頬がふくれている。
「べ、ベレト。いたんだ……ごめん、挨拶が遅くなって……」
「謝って済むか! 儂がいるのを知って、儂に挨拶もしないとは……貴様は儂に対しての礼儀が足りんな。しかも、儂について聞き回っているそうじゃないか……ちゃんと、儂直々に話すのが道理だろう! コソコソ内緒話など……」
しかもソロモンがベレトの様子を伺っていた事が耳に入っていたらしい。
だが確かに彼女の言う通りだ。周囲に聞くのなら、本人に聞いた方が早いだろうしベレトも自分がいる前で明らか様に自分の様子を探られていたら気分も悪いだろう。
「ごめん、ただ以前プレゼントした服があるだろう? ベレトがそれを着てないみたいで……やっぱり、気に入らなかったのかなと思って心配だったんだ。もし気に入らなかったら、今度はちゃんと一緒に街にいってベレトの好きなものを選ぶから……」
「なぁっ……あ、あの服のことか……」
ベレトは顔を赤くするが、怒りは随分と納まったようだった。
むしろ、少し狼狽の色が見える。
「……何で着てくれないんだ? あぁ、別に気に入らなかったら言ってくれれば次からは気をつけるから」
「き、気に入らなかった訳ではない。ただ……儂にとって、この服が。今着ているこの服が、特別なものなのだ。ただ、それだけの事だ」
「特別?」
奴隷時代の服が、といいかけてソロモンは口を噤む。
奴隷の頃はきっと彼女にとって良い思い出ではないと思っていたからだ。
だがそんなソロモンの態度で察したのだろう。ベレトは幾分か優しい顔をすると、どこか遠くを見るような視線を向けた。
「……ふん、相変わらず貴様は甘っちょろい奴だ。儂にとって、怒りこそ力であり己であるというのは貴様でも分るだろう」
「あぁ……何となく、だけど」
「儂はヴィータの奴隷として産まれた。しかも商品にならん奴隷として、長く奴隷商人の下で殴る蹴るの扱いを受けていた……命を取られないのが約束されているだけで、ろくな扱いではなかったろうな」
あぁ、やはり。とソロモンは内心で呟いた。
出会った時に彼女が抱いていた怒りはソロモンが計画を阻止したから、ただそれだけではないとは思っていたからだ。
「だが、勘違いするな。儂は……儂はその扱いがあったが故に、メギドとして己の力を取り戻す事に成功した。そうでなければもっと目覚めるのが遅かったかもしれん。そういった意味では儂は別にその事を『怒り』はするが悲しみはしない。だがこの服は……」
ベレトは自らの胸に手を当て、一瞬俯く。
だがすぐ顔を上げると、ソロモンを真っ直ぐ見据えた。
「この服は、儂の怒りの象徴だ。この服を着ている限り、儂は自分の怒りが生まれ、滾るようなこの力をぶつけ続ける己の個を思い出せた証であり、忘れない証だ。だから……これは儂の戦装束のようなものだから、別に、その、何だ……貴様からもらったものが嬉しくなかった訳ではない! 心配するな!」
と、そこまで言いベレトは慌てて言い訳をする。
彼女にとって怒りが個であり、力の源泉だ。
だが怒り続けるという事は、弱さや無力さ、力なきものに対しての憤りなど怒りに至るだけの理由が必用だ。
追放メギドとしてヴィータの感情も持ったベレトにとって最も身近であり、そして忘れがたい怒りが「奴隷だった自分」であり、その服は彼女にとって忌まわしい記憶でありながら、彼女が彼女たり理由でもあるのだ。
……戦装束、というのはまさしくその通りなのだろう。
「そうか……ベレトがそうしたいっていうなら、俺も無理には勧めないよ。でも……」
それでも、思う。
彼女の個が例え「怒り」であったとしても。
「でも、もし力を使わないでもいい時は……そう、街でゆっくり休める時なんかは、戦装束なんて必用ないだろ? そういう時に、あの服を着てくれれば嬉しいかな」
少しでも彼女に笑って欲しいと思った。
ベレトは自分のためだけではなく、誰かの怒りも背負って戦える追放メギドなのだから。
「う、む……わ、わかった。貴様が街に行く時なら……着てやろう」
「うん。それと、いやじゃなかったらまた服をプレゼントしていいかな」
「べ、別にかまわんがっ……あ、あまり儂に優しくするな! 貴様とは違う大メギドなのだからな!」
「わかった。それなら、いつか一緒に街にいったら服とか、鞄とか……ベレトに似合いそうな奴を買おうな」
「か、勝手に決めるな馬鹿者。だが……付き合ってやらんこともない」
怒りながらも素直に応じてくれるベレトと並び、ソロモンは笑う。
己の個が例え激しい怒りに身を焦がす事であったとしても、ヴィータの心も持ち得ているのなら時には笑って安らいで欲しい。
そんな事を思いながら。
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