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インターネット字書きマンの落書き帳

   
愛しているから別れる二人(黒ガス/BL/ネタバレあり)
学生時代に付き合ってた黒沢×山ガスの話をします。
付き合っていたけど、やむを得ぬ事情で別れる二人の話です。

お互いにメチャクチャ好きだし、今でもメチャクチャ引きずってる。
何なら今でも最高に好きだが?

くらいの関係のまま別れなきゃいけなくなる男が大好物です!

という人向けコンテンツです。
やったね♥

ニッチ産業で生きています。

別れる理由とか諸々、ネタバレあるのでプレイしてから見てね♥



『運命のレール』

 誰にでも夢を叶える権利があるのだとしたら、山田にとっての夢は愛する人に殺される事だった。

 出来るだけ若くして死にたいと思っていた。
 自分本位なのはわかっているが、それでも歳を取り思考も肉体も衰え老醜をさらすより、まだ自分が人間らしい状態で殺してほしいのが本音だった。

 日常の中にいる時も、漫然と30歳までに死んでいるんだろうと考えていた。
 大学で講義に出ている時も、5Sとして活動している時も楽しいと思っていたが、1日たち、一ヶ月が経ち、一年が経つと、全員が今のままではいられなくなると思っていたし、皆がバラバラになって各々やりたいことをやるようになったら、元より花も無く面白さもない自分は置いていかれる側だと思っていたからだ。

 30までに死んでいるんだろうという漠然とした思いは、30歳までには死にたいという希望であり夢にかわっていた。
 そして、死ぬのなら愛する人に殺されたいと思うようになっていた。

 愛する人が、自分の死を後ろ暗い秘密にして。
 あるいは人生の傷痕として生きてくれるのなら、自分には生きてきた価値があり、死ぬだけの価値がある。

 本気でそう思っていたのだが、それはただ自分が死というものを特別なものだと勘違いをし、神聖視していたからだろう。

 山田は家庭環境に恵まれていたわけではなかったが、それでも今に至るまで近しい人の死には触れてこなかった。
 誰かが死んだという話になれば葬儀場の祭壇に安置された棺の中、綺麗に化粧され人に見れるように整った姿でしか見た事がなかったし、病が悪化した人間は決まって入院していたから、死は白い壁と清潔なシーツに包まれてやってくるものなのだと、清らかで美しいものなのだと、心のどこかでそう思っていたのだ。

 あるいは、そうあってほしいという願いだったのかもしれない。

 だが、実際、死というのはもっと身近に、当たり前のように存在しているものなのだ。
 急に暴走したトラックが突っ込んできたら身体がペシャンコになって死ぬのだろうし、高い所から落ちればグズグズの水を身体中から拭きだして死ぬ。アパートの一室で不意に心臓が止まり、そのまま誰にも気付かれなければ部屋の中で黒いシミになって死ぬのだ。

 ひょっとしたら山田が知らないだけで、自分の住むアパートの隣にいる住人はもう死んでいるのかもしれない。
 大学で挨拶を交わした誰かが、帰り道の途中でマンホールの穴にでも落ち死んでしまうかもしれない。
 自分だって石に躓いた拍子に気を失って、水たまりで溺れ死ぬかもしれないのだ。

 死は特別ではなく日常の延長にすぎず、神聖なことでもなく、清らかなことでもない。
 そんな当たり前のことに否応なく向き合わされたのは、

「おい、こいつ死んでる?」
「カメラを止めろ! 誰も見てないうちに逃げるんだ、いいな!」

 あの日、捉えるべき相手を取り違え殺してしまったあの瞬間からだった。

 何故、ターゲットを取り違えたのかはわからない。
 だが、思いの外激しい抵抗をする男を夢中になって取り抑えているうちに、気付いた時にその相手は死んでいた。
 胸部を圧迫しすぎたはずみで心臓が止まったのか、誰かが無意識に首を絞めて窒息させたのか、今となってはわからない。
 ただ、黒沢が脈を確認した時にすでに心臓は動いていなかった。

 逃げたのは、恐怖心からだろう。
 今なら誰も見てない、バレないなんて甘っちょろい考えで逃げ出して、カメラを回していた谷原にデータを消させた。

 後から考えれば、あの時に心臓マッサージをしていれば助かっていたかもしれない。
 広い公園だからAEDを探せばあったろうし、救急車を呼べば死なずに済んでいたかもしれない。

 当然、5Sとしての活動を続けるのは難しくなるのだろうが、それでも今よりずっとマシな運命をたどっていたはずだ。

「なぁ山田、天誅事件の犯人に突撃しないのか?」

 5Sの活動をしない間に、大学の食堂であった顔もよく知らない相手が茶化すように言った時、自分は何と答えたのだろう。
 あの頃はもう、如月努犯人説がSNSで取り出されてていて、世間の空気もあの男が犯人説に染まっていた。
 5Sではない別の配信者やSNSのアカウントが如月努の自宅や家族についてある事無いことがSNSに散々書き込まれていた頃だ。

 あの時、自分は何と返事をしただろうか。

「もう、手垢のついたネタになっちゃったから今さらって感じだよねー」
「谷原サンは今やらなきゃいつやるの、って言ってたけど、最近黒沢サンも眉崎サンも忙しいみたいだし」
「僕は、5Sとしての活動ではやるけど個人ではそういうの、興味ないかな……」

 大体、こんなことを言って場を誤魔化していた気がする。
 実際、天誅事件の後から5Sの活動は急激に減っていった。

 殺人現場のデータを消した後、谷原はオカルトや呪いなどが自分に降りかからないか酷く神経質になり、それから徐々にオカルトに傾倒していった気がする。
 清水は、その頃すでに5Sの活動の他に自分を慕ってやってきた女子学生の「就職相談」をしていた。ようは金持ちのパパに若い学生を紹介するという、ヤバい仕事だから、天誅事件がなかったとしても5Sの活動は長く続けられなかっただろう。
 眉崎は5Sとホストの活動から一線を引き、美容系のチャンネルの活動に集中しはじめた。元々、5Sの中で美容やコスメ系のチャンネルを個人でもっていて人気も高かった眉崎はすぐにインフルエンサーとして開花し、5Sの活動に出る暇がなくあんる程の人気を得ていった。

 だが、5Sの活動が終了する決定打になったのは黒沢が抜けたことだろう。

「卒業したら、起業する予定なんだよ。要人警護ってやつ? サーバーの運営とかデータの細々した管理もあるから、山田も卒業したらうちに就職しないか?」

 黒沢が父親の意向で、堅い仕事に就くことが決まったのに作為的なものを感じなかったワケではない。
 警察のお偉いさん、その息子である黒沢の不祥事だと知った黒沢の父親が手を回したということも、その代償として黒沢が権力者の息子らしい仕事をするよう強いられたのも、何とはなしに察することはできた。

 それでも黒沢は、自分をそばに置こうとしてくれた。

「秘書でもいいし、何ならいつも家にいてくれてもいい。そばにいてくれるよな……?」

 時に、彼らしくないほど不安そうな顔で聞くこともあった。
 必要としてくれるのは嘘ではないのだろう。山田のことを愛しているのもまた、嘘ではないのだ。

「どうしようかな……今日、僕を抱いてくれたら考えてあげてもいいよ」

 茶化すように笑って告げれば、黒沢はそれが当然というように山田の身体を抱き、快楽を貪り尽くした。
 すでに身体のどこに触れれば彼が喜び、どこを刺激すれば仰け反りながら声をあげるのかも知っている黒沢と、身体の相性は抜群に良かっただろう。
 山田は黒沢のことを本当に愛しているのだと思ったし、黒沢もきっとそうだったろう。

 だからこそ。

「黒沢サン。もう、いいよね。僕と別れてよ」

 それを最後に、別れるのを決めた。
 黒沢は優しいからズルズルと言わないまま山田との関係を続けると思っていたからだ。

 天誅事件の真実を父親に握られているのなら、黒沢はこれから堅い仕事をして、固い人生を歩むのだろう。
 山田の耳を擽る「愛している」の言葉に嘘偽りはないだろうが、黒沢のパートナーとして山田が表舞台に立たされるようなことは決してない。
 堅い仕事というのは伝統や俗習を当然とし、マイノリティの趣味は暴かれるだけで信用を失うものなのだ。

 黒沢も堅い仕事をし、数年で起業の運営が軌道にのったら、30歳前後で結婚をしなければいけないだろう。そうして結婚相手に黒沢家を担う長男を産んでもらう。
 そしてまたその子も世間から立派と言われる仕事についてもらうため、一流の教育を施していくのだ。

 愛されているのがわかっていたとしても、自分の目の前で愛する男が幸せな家庭を作る姿など見たくはなかった

 それに、もう黒沢の手で殺されたとしても、自分は黒沢に殺された特別な一人ではないのだ。
 すでに一人の男を手にかけた黒沢にとって、殺す必要があった二人目の男。
 一人目と二人目では傷の深さも、思いも、全て違うのだろう。

 愛する人に殺されたい。
 そしてその人が背負う一生の傷になりたい。

 それが叶わないというのなら、一緒にいるだけ苦しかった。

「僕、けっこう幸せだったからさ」

 黒沢は追いすがって泣いて山田を留めるような真似はしなかった。
 黒沢もまた、山田をそばに置くことの残酷さに気付いていたのだろう。

 別れると決めたその日にしたセックスは、今までで一番激しく、むせかえるほどの血と死の。性と生とが入り交じった匂いに包まれていた。

 散々抱かれて、喘ぎ、愛の言葉を漏らして縋り付き、気を失い、起こされまた抱き潰される。
 繰り返される営みと交わりの中、温かな眠りから覚めた時、すでに隣には黒沢の姿はなかった。

 自分と黒沢には、ふさわしい最後だ。
 むしろ、これだけの罪を背負った自分にとって勿体ないくらいの終わり方だろう。

 そう、思っていたのだが。

「……もっと、強く絞めてくれてもよかったのにな」

 首元に残る痣に触れ、自然とそう呟く。
 もう山田には、生きていく喜びというものが一体何なのかわからなくなっていた。

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東吾
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紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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