インターネット字書きマンの落書き帳
いつか死ぬ、どこかで殺せる。(ヤマアル)
ヤーナムは夢を見続けているから、繰り返し繰り返し世界が続いているのではないか。
もしそうなら、時には「同じ時間を繰り返していること」に気付いてしまう狩人もいるのではないか……。
なんて「もしも」のはなしをします。
今回は「何回もアルフレートくんを愛しているけど、最後には絶対に死に別れてしまう」というのを繰り返し続けて、疲弊し狂ってしまったヤマムラさんの話ですよ。
どこで殺せるかは選べる。
そう、ブラッドボーンならね。
もしそうなら、時には「同じ時間を繰り返していること」に気付いてしまう狩人もいるのではないか……。
なんて「もしも」のはなしをします。
今回は「何回もアルフレートくんを愛しているけど、最後には絶対に死に別れてしまう」というのを繰り返し続けて、疲弊し狂ってしまったヤマムラさんの話ですよ。
どこで殺せるかは選べる。
そう、ブラッドボーンならね。
『愛しい貴方の心に刃物を』
ヤーナムの空はいつも同じような夜を与える。
いや、以前は違う時を刻み、市民に、医療教会の民に、狩人に、それぞれ同じ時の流れを与え別々の人生を与えていたような気がする。
いつからだろう。
ヤマムラの時間が「巻き戻っている」と感じるようになったのは。
同じようにヤーナムへ流れ着き、恩人の仇討ちを果たす為雷獣の獣を倒す。
復讐を遂げもはや思い残す事などないと影を引きずり歩いていた所で、新たな使命を与えられる。
蟲を倒し続ける中で、やがて出会うのはどこか張り付いたような笑顔の青年……。
「アルフレート……」
彼の事は、良く知っている。
その身体も、心のあり方も。
繰り返す時間のなか、何年も、何十年も、ひょっとしたら何百年もともに過してきた間柄なのだから。
だがとうとう一度だって、添い遂げる事はできなかったのだが。
この記憶は、一体何だろう。
自分はまだヤーナムに来て間もなく、雷獣を倒したばかりでただ影を引きずって歩いているだけのはずだが。
本当にこれから新たに生きる道としてやるべき事を与えてくれる男が現れるのだろうか。
どうしようもない虚無感を抱いたまま、ただ死なないから生きている。
胸に開いた虚ろを埋めるに至る程の情熱が自分の身に訪れるのだろうか。
いや、訪れはしない。
ただ自分が思った以上に仇敵の最後があっけなかったから。
あれほど強大で恐ろしいと思っていた黒き獣は哀れにも鎖に繋がれ蹲り、やせ細った見窄らしい姿を晒していた所を討ち果たしたから自分の中で仇討ちをしたという感覚が薄いのだろう。
最初から打ち勝てるとは思っていなかった。
相打ちすら覚悟していたから尚更、生き残った自分の生を持て余していた。
そんなやり場の無い気持ちと燻る殺意を抑えるため、ただ連盟に力を貸したににすぎない。
そうして怠惰な生を得ているうちに、いずれ出会うのだ。
微笑みを絶やさず傍らに立つ、あの青年に。
あの歓喜と幸福とは、深淵とも思われた深い穴を封じるには充分すぎる程だった。
だがそれは仮初めの幸福。
その笑顔もいずれ自分の手から離れていくのだ。
いつまでたっても何もなせず苛立ちばかりが募る中、ある日突然煙のように消えてしまうのかもしれない。
何かを見つけ満足な笑顔を浮かべて、そして旅立ち戻ってこないのかもしれない。
あるいは尊敬する師の唯一の軌跡を前に冷たい身体で倒れているのかもしれない。
いずれにしても、報われる事はない。
彼が報われていたとしても、自分が救われる事はないのだ。
いくら一時の慰みだと自分に言い聞かせても。
この愛を最後に生きていけると、そう思っていても繰り返し繰り返し目の前で幸福を取りこぼし続けていれば疲弊していく。
繰り返し与えられ繰り返し奪われて、何も守れない自分のまままたヤーナムへと戻ってくる。
一体何度そうしてきただろうか。
それともこの繰り返し歩んできた記憶、全てが自分の幻か夢なのだろうか。
もう何処までが現実で、どこからが夢なのか。自分が本当に生きているのか死んでいるのか。それさえも分らないまま、ヤーナムの街を歩き続ける。
せめてまだアルフレートが「師の言葉」と出会う前であれば運命が如何様にも転がったのだろうが、何度繰り返してもアルフレートはすでに師の言葉に触れた状態であり、ヤマムラが自我を取り戻すのもまた復讐を終えた後である。
何も変えられない状態で出会うのだ。
もし変えられる事があるのならただ一つだけ……そう……。
「今なら、アルフレートはきっとそうだ……あの場所にいる……」
ヤマムラはヤーナムの雑踏へと消える。
この頃は、まだヤマムラとアルフレートは出会ってはいない。
アルフレートがヤマムラに興味をもつのはヤマムラの扱う武器が千景という血族とゆかりのある武器だからであり、それを切っ掛けに親密になっていくのだ。
今ならまだアルフレートはヤマムラを知らないか、知っていてもどうやら変わった武器を扱う狩人という事くらいだろう。
こちらの様子など気にする事もなく、いつものように碑の前で祈っているに違いない。
夕暮れ時、ヤマムラが碑の前に立てば静かに祈りを捧げるアルフレートの姿があった。
変わりなく美しい彼は、茜色に染まり輝いて見える。
そうだ、輝いている。
彼はいつだって輝いていて、その輝きを生涯失われないのだ。
それならば。
「……誰か、いるんですか?」
アルフレートが振り返った時、千景はその心臓を貫いていた。
殺気は完全に消していた。いや、殺気などあるはずがない。元々アルフレートに対して、愛しいとしか思っていないのだから。
突然刃物を向けられた。気付いた時にはもう刺し貫かれていた、アルフレートの視点からすればきっとそうだったろう。
だが下手に殺気を出せばアルフレートならきっと気付く。
本気で相対したアルフレートに対してヤマムラの勝率は3割か、もっと低かったろう。
アルフレートはそれだけ強く、ヤマムラは彼と戦うには傷つきそして老いていた。
故に不意打ちで、そして一撃で仕留める必用があったのだ。
「どう、し……貴方が……? ヤマムラ……さ……」
自分が何故殺されるのか、理解などしてないのだろう。
だがこれでヤマムラはやっと救われる。
ずっと彼には置いて逝かれていた。
それならば一度くらいその命を背負って生きてみたいと思ったのだ。
彼と、添い遂げたかったのだ。
「許してくれ、アルフレート。アルフレート……アルフレート、君に成すべき事があるのはわかっている。だけど、一度くらい。この一度くらい、君の生を背負って生きたいと思う俺を許してくれ……」
どうあっても死んでしまう、愛しい人。
だがいつ死ぬか。それだけは「選べる」のなら一度くらいは自分の手で、自分の意思で、何も知らないうちに殺してみたい。
そう思ったのはこの繰り返す夢で、とうとう狂い墜ちてしまったからだろうか。
血の泡を吐きながら、アルフレートはヤマムラに手を伸ばす。
その目に光るのは憎悪か、それとも……。
「愛してる、アルフレート。愛してるよ……」
やがて息絶える冷たい身体に口づけをする。
日は落ち、青白い月光が世界を照らしていた。
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