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インターネット字書きマンの落書き帳

   
クジンシーという名の小市民へ。
七英雄のダンターグとクジンシー、架空の友情ストーリーです。
ンま、二次創作はみんな架空の物語だから多少はね?

七英雄になってからも臆病でぴぃぴぃしてる小市民・クジンシー。
そんな彼を呆れながらも見守る(?)ダンターグみたいな話ですよ。

古代人の社会レベルは、わりと現代社会並に色々発展しているようなイメージで書きましたよ。
焼き肉屋もある! サラリーマンもいる!

俺の古代人には……あるんだよ!



『少しマシなドブネズミたち』

 クジンシーが英雄となったのは、誰かに見下されて生きるのに耐えきれなかっただけだった。

『どうしてお前はこんなにも判断力が鈍いんだ? ノロマめ』
『視界に入らないでくれる? 目障りだから』
『こいつは殴ってもいい奴なんだよ。なーんにも役に立ってないからな』

 別に、今まで馬鹿にしてきた奴を見返したいとまでは思っていない。
 いや、まったく思っていなかったといえば嘘になる。これまでバカにしてきた連中が自分の才能に驚き、跪いてあがめてくれれば気持ちいいだろうとは思った事は一度や二度ではないが、それが力を求めた直接の理由ではない。

 ただクジンシーは、人並みの生活をしたかった。
 それだけだったのだ。
 自分が他人と比べてとうていマトモな仕事が出来ると思っていなかったから。人並みではない、ずっと劣っている存在だと思っていたから。

 だがワグナスの与えた力はクジンシーの想定していたものよりも遙かにおおきかった。
 他人に見下されない程度に仕事を処理できて、他愛もない会話を楽しむ余裕があって、偉い人や絶世の美女を前にしても舞い上がってしまう事がなくて……。
 そんな、普通の。人並みの生活をしてみたかっただけだったクジンシーにとって英雄の力は遙かにおおきいものだったのだ。

 ただの人間になりたかった男が、コミックスのヒーローになるほどの力を与えられてしまったと言うべきだろうか。
 彼が得た力は想像を遙かに超えるものであると同時に身に余る程のにおおきかった。

 素手で魔物を屠り、引き裂き、その力を得てさらに強い力を得る。
 得た力で魔物たちを倒せば、守られた街の人々は誰もが頭を垂れ、自分たちの事を「英雄」として讃えた。

 その中にはかつて自分に罵声を浴びせ、まるで蟲でも見るような目を向けた輩もいると思えば多少は溜飲も下がったのは事実だったがそれ以上に得た力の大きさにクジンシーは怯えた。

 それは彼が他の英雄たちより弱く、より人間らしい倫理観の中で生きていたからだろう。

 日に日に力が溢れていく。
 今まで出来なかった事が出来るようになるのではなく、常人であればやれるはずのない事が出来るようになる。

 それはクジンシーが人並み以上の知識や身体能力を持ち合わせていたら。
 あるいはワグナスやノエルに対して心酔をしてたのなら気にはしない程度の変化だったかもしれない。
 だが人より脆弱で、自己評価が低いクジンシーにとって溢れるばかりの力は猟奇的にすら感じたのだ。

 単純に自分だけの力ならまだしも、魔物という外の力を得るというのも恐ろしかった。
 自分のような弱い心の持ち主は、魔物に精神を乗っ取られるのではないか。
 力が制御できず、大事な存在を壊してしまうのではないか……。

 そんな妄想にとりつかれても、仕方なかった事だろう。

「……怖い、怖いんだよ戦場に出るのが。死ぬとは思ってないけど、それでも怖いんだ」

 何時しかクジンシーは戦場に向う前、そんな泣き言を繰り返すようになっていた。
 自分が自分でなくなる気がして。大事なものを壊してしまうような気がして。いずれこの強大な力を恐れ、誰も近寄らなくなってしまうような気がして。
 ただ怖いと、恐ろしいと繰り返し戦場に行くのをぐずるクジンシーは大概、ダンターグに殴られるかスービエに首根っこを捕まれて戦場へと放り出された。

 戦場へさえ出てしまえば、一応は英雄だ。
 身に降りかかる火の粉を払っていればそれだけで充分な活躍が出来る。
 そうして敵を倒して来さえすればまた、英雄として迎え入れられるのだった。

 その時誰もクジンシーを日陰者とは見ない。
 下にも置かぬ扱いで崇め、畏怖の念さえ抱いているように見えた。
 そうして人々にちやほやされる生活はいやではなかったが、それ以上に「バケモノになっていく自分」がただ怖くて、恐ろしくて。

「やだ……怖い。怖い……怖い……」

 クジンシーは自然と、日中に外へ出ないようになっていった。
 人付き合いというものは殆どなくなり、唯一話をするのは同じ「英雄」となった仲間たちだけである。
 とはいえ七英雄は同じ適合手術を受けた身というだけであり、仲良しこよしの一枚岩ではない。

 ワグナスとノエルは日々、自分たちのした研究や実験の調整を微細に渡りしておりロックブーケは専ら彼らの手伝いをしていた。
 ボクオーンの知識はワグナスたちと違う方面のものであったから実験にかかわる事はなく自分の仕事をしながら、時に彼らから意見を求められたらそれに答えるような日々を送っていたようだ。
 知識を与える事が出来ないダンターグは、ただひたすらに己の身体をイジメ抜いて鍛錬を欠かさなかった。
 そんなストイックな彼と比べるとスービエは幾分か楽観的だったろう。いつ、いかなる時に「英雄」という立場では死ぬかもしれないのだから。そんな思いから後悔のないようにと、日々遊び尽くして楽しんでいるようだった。

 皆がそうしている中、クジンシーはただ自分の殻に引きこもっていた。
 その殻は、彼が弱かった頃よりも遙かに厚く閉ざされていただろう。

 つまるところ、クジンシーという男は英雄の器ではなかったのだ。
 人々にどやされながらも、小さな仕事を積み重ねやっと出来た成果に喜んで僅かな給料で小さな幸せを感じる。そういうのが似合いの男だったのだろう。

 敵から皆を守るため。
 そのような大義名分が出来てからも、クジンシーはぐずり戦場に出る事を拒む癖はなおらなかった。 数多の人々の期待など、クジンシーにとってどうでもよかったからだ。

 ただ人並みに生きたいだけ。道場に落ちている小石にように何者にも相手にされず、邪魔であったら蹴飛ばされるだけの生活が嫌だった。そこから脱却したいがための男にとって、英雄の名はあまりに重すぎたのだ。

 嫌われ者のクジンシー。
 世の人間が彼を密かにそんな風に侮蔑したのも、彼が戦いに二の足を踏んだり、時には逃げだそうとする姿が人の目に入ったからだろう。
 力を得れば人並みになれると、そう思っていた。
 だが力を得てもなおクジンシーは世間から爪弾きにされるのだった。

 それだったら、力なんてなかった頃の方がいい。
 怒鳴られても殴られても、命の危険などはなかったのだから。

 だがすでに適合手術を澄ませたクジンシーの身体は、元の人間に戻す事はできなかった。
 核となる部分はうかつに外せば命の危険があるのだし、何より魔物を吸収した身を制御する事が出来なくなるからだ。

(何でこんな事になったんだ……怖い、怖い……)

 クジンシーは1日の殆どを薄暗い部屋で一人で過すようになっていた。
 元々あまり派手な交友もなく、酒など飲みに行くようなタイプでもなかったが、一日部屋で呆然と過すようになった今は英雄と呼ばれるようになる前よりふさぎ込んだ風だったろう。
 今までは会社という狭い単位での「役立たずで嫌われ者」だったクジンシーは、今は英雄でありながら「役立たずで嫌われ者」なのだから。

(こんなに、俺が恐ろしい日々を送っているなんて誰も知らないで、みんな勝手に嫌って。勝手に役立たず呼ばわりだ……自分たちが何かしてるって訳じゃないのに、勝手に期待して……迷惑なこと、この上ないよ……)

 そう思うが、勝手に自分へ期待の眼差しを向けた人々を責める事はできないのもクジンシーはまた知っていた。 クジンシー自身が『自分にはまだ可能性がある、出来る事があるはずだ』なんて、実際はありもしない実力を信じて手に余る程の力を手に入れてしまったのだから。
 そういった事を理解できないほど愚かであればクジンシーは力を得た境遇をもっと気楽に喜ぶ事が出来たのだろう。
 だがあいにくと彼はそこまで愚かな道化にすぐには落ちる事が出来ず、それが彼を燻らせていた。
 せめてもっと多くの魔物と融合し、知性も理性も本能も全て曖昧に溶かしてしまえば多少は楽になれたのだろうが、その域に達するまでまだ数百年の月日が必用であった。

「おい、クジンシー。いるか? 開けるぞ」

 ドアを閉め忘れていたのか。
 ダンターグは扉を開けるとその大きな身体を揺らしながら部屋へと入ってくる。
 そしてベッドの上で無気力に横たわるクジンシーの首根っこを捕まえるとまるで子猫でも捕まえるように彼の身体をつまみ上げた。

「……相変わらず辛気くせぇ顔してんなァ。お前、またろくなもん食べずにゴロゴロしてんだろ? まったく、魔物退治も身体が資本だぞ? たまにはちゃんといいモノ喰え……ほら、奢ってやるから店に行くぞ」

 クジンシーはダンターグより元々頭一つは小さかったが、魔物を吸収するようになりますますおおきくなったように思えた。
 今や丸太ほどの大きさに見える片手で持ち上げられたら英雄の力をもってしても逃れるのは難しい。
 今一番多くの獣を吸収している彼の外見は他の英雄たちよりやや獣じみた風貌をしていただろう。

「い、いいよ別にっ……お、お腹とか減ってないし……」
「お前の意見はどーだっていーしどーでもいい。ま、とにかく付き合え。俺が飯食ってる所見てるだけでもいいからな」

 ダンターグは理屈で動くタイプでは無い。クジンシーがあれこれ言っても効果などあるはずないだろう。
 そもそもリーダーであるワグナスの指揮を無視して直感で相手を仕留めてくるような奴なのだから。
 クジンシーは当然抵抗する事もできず外へ連れ出されると、山のように肉を出してくる店へと放り込まれた。

「どうした? 喰わないのか?」

 クジンシーは黙々と肉を焼くと、まるでスナック菓子でも頬張るように次々と皿を空にしていく。クジンシーはそれを見て居るだけで胸焼けがした。
 だが、どうして自分をこんな場所まで連れて来たのだろう。
 ダンターグは七英雄でも荒くれ者であり、仲間の言う事すらろくに聞かなければ誰かと連む様子は見せないタイプだ。
 戦場では臆病風に吹かれ震えているクジンシーの尻を蹴飛ばして前線に送り出していたから自分の事など厄介者くらいに思っている気がしたのだが。

「う、うん……お腹いっぱいだし。それに、お前が俺を誘うとか意外で……俺、もっとお前に嫌われてるかと思ってたから……」
「はぁ? アッタリマエだろ、戦場でビビって逃げようとするドブネズミの事なんかウゼェと思えど好きになる理由なんてねぇっての」

 どうやら、嫌われているような気がするのは気のせいではなかったようだ。

「うっ……じゃ、何でそんなドブネズミを飯に誘ったりするんだよッ……」
「はぁ? そりゃ、お前がドブネズミの中じゃマシなドブネズミだからだろうが。少なくとも安全な所に隠れておきながら、他人の陰口たたいて嘲笑ってる奴らよりよっぽどマシだからな」

 ダンターグはそう言いながら肉と飯を交互に食べる。
 その言葉で、クジンシーは改めて彼はただの荒くれ者ではないという事を知った。

 彼は戦闘狂に見えるが引き際は弁えているし、直感的に強いと思った相手には策を弄する事もある。 戦場全体を俯瞰的に見る能力に長けており、だからこそワグナスも独断専行する彼に注意はするものの留めはしないのだ。

「マシなドブネズミかぁ……でも、お前の思ってるほど俺強くないし……ホント……」
「わかってるよそんな事ぁ。オメーは七英雄の中でも最弱。ワグナスが力を与えてなければ這いつくばってヒィヒィ言いながら毎日過してるのが似合いって男だって事くらいよ。ンでもお前は、俺がケツ蹴ったら戦場出るじゃねぇか。スービエが首根っこつかまえて引きずったら、逃げやしねぇだろうが」
「そりゃ、お前やスービエのが怖いから……」
「例え追い立てられてても、よく分らない相手を前に戦って生き残ってンのはお前の才能だぜ、クジンシー。お前は仕方なくやってるかもしんねーが、仕方なくでも生き残っていられるのは簡単な事じゃねぇよ」

 そういうものだろうか。
 戦場に出たら素人ながら矢鱈と力を振るって、無我夢中でいたから実感がないのだが傭兵として各地を転戦していたダンターグがそう言うのなら、そうなのかもしれない。

「臆病なのも才能だ。いいか、戦場ってのはつまるところ強い奴が勝つって場所じゃねぇんだ。生き残った奴が勝つ場所なんだよ。どんなに賢くても強くても、死んだらオワリ。それまでさ。たとえ伝説の勇者だって死んだらそれ以上伝説を作りようがないからな」

 それに、とそこでダンターグは食べる手を休めてクジンシーの方を見る。
 珍しく真剣な表情は、存外に端正な顔立ちであるのも相まってクジンシーを戸惑わせた。

「それに、俺ぁお前がちょっと羨ましいんだ。素直にヤベェと思った時、無様でも何でも泣いて喚いて無力さを嘆く事ができるほど弱くいられるお前がな」

 ダンターグがどういう意味でその言葉を告げたのかは分らない。
 ただクジンシーは、以前よりダンターグが自分の近くにいるような、そんな気がしたから。

「お、俺も頑張って少し食べようかな……戦うには、筋肉必用だもんなッ」
「その気になったか? いいぜ、喰え喰え。奢ってやるからな」

 ダンターグは笑いながら、クジンシーの皿に肉を盛る。
 クジンシーはその肉を、ぼそぼそと食べ始めた。

 彼が七英雄たちと少しだけ話をするようになったのはその頃からであり、七英雄という呼び名が古代人の間に定着するようになるのも、ちょうどその頃からだった。

 そして彼らが皆同じ場所へ封じられるのは、それから千年ほど経った後である。

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東吾
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インターネット駄文書き
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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