インターネット字書きマンの落書き帳
深淵のテレパス、犬井のファン創作です
以前からやりたかった「深淵のテレパス」の犬井の二次創作を書きました。
以前からやりたかったんだ……ようやく時間ができて書ける気持ちになったので!
書きます!
一般成人男性(オカルト系雑誌のフリー編集者)が、時々犬井の生存確認をするついでに手料理を振る舞う話です。
犬井、いっぱい食え!
酒も飲め!
犬井可愛いから深淵のテレパス読んでくれよな!
以前からやりたかったんだ……ようやく時間ができて書ける気持ちになったので!
書きます!
一般成人男性(オカルト系雑誌のフリー編集者)が、時々犬井の生存確認をするついでに手料理を振る舞う話です。
犬井、いっぱい食え!
酒も飲め!
犬井可愛いから深淵のテレパス読んでくれよな!
『ケチャップたっぷりのオムライス』
最初に卵焼きを薄く作ったら、それを皿にとりわける。
それからみじん切りにしたニンジンとタマネギを油で炒め、輪切りにしたソーセージを軽く炒めた後、冷えたご飯を入れる。
もう少し塩コショウを入れた方が良かったかと後悔するが、どうせ最後はトマトケチャップをたっぷり入れるのだから別にいいだろう。そう思い直し、豪快にケチャップを絞る。
ワンコンロの小さなキッチンで炒め物をする音と匂いに気付いたのか、それまで毛布を被っていた犬井はもぞもぞと起き出すと眠たそうに目を擦りながら顔を上げた。
「なんだァ、お前さん来ていたのか」
犬井は男を見ると、幾分か残念そうな顔をした。
どうせ食事を作ってくれるのなら、綺麗なオネーチャンの方がいいといった様子がありありとうかがえる。
だが、犬井の知り合いで親しげに話しかけてくれる女性など芦屋晴子くらいのものだろう。そして彼女は、料理に関してはからっきしである。
「何ですか、その言い草は。私より晴子さんの方がいいっていうなら次回は彼女に来るよう行っておきましょうか? 手料理もお願いしておきますよ」
男の言葉を聞き、犬井は大きく首を振った。
「いや、そいつは勘弁してくれ。高く付きそうだ」
そして、大きくため息をつく。
男は芦屋晴子や越野草太の勤める映像制作会社と接点がある出版社の編集者だった。
厳密にいえばあくまでその出版社に出入りすることがあるフリーの編集者なのだが、晴子や越野の顔見知りという事実だけあれば充分だろうから細部はいいだろう。
主にオカルト系雑誌や書籍の編集を担当していた男にとって、犬井という名前は懐かしいものだった。
バブル景気も終焉を迎え日本全体がゆるゆると熱狂から醒めようとしている中もオカルトブームの波は衰えること知らず、霊媒師や超能力者がテレビに出突っ張りだった頃、スプーン曲げを得意とし綺麗に曲げてみせるとはにかんだ笑顔を母親に向けていた少年が、確かそのような名前だったはずだ。
超能力少年のブームは、ある超能力者がトリックを使ってスプーンを曲げていた事をゴシップ系雑誌にすっぱ抜かれたのをきっかけに終焉を迎えた。
犬井少年も詐欺師や嘘つきのレッテルを貼られ、寂しい少年時代を過ごしたのだとは聞いている。
だから男も、犬井の過去にあえてふれる事は無かった。
オカルト雑誌編集者の男が犬井の家に来るようになったのは、別に取材のためなどではない。
晴子から「忙しくて様子を見に行けない知り合いと連絡がとれない、死んでいるといけないから様子を見にいってくれ」と頼まれたからだ。
その時、エアコンもきかない部屋で寝転んでいて危うく熱中症になりかけていたため、それから心配になり晴子のかわりに時々見に来る用になったのが腐れ縁のはじまりである。
犬井がかつて超能力少年として名を馳せていたのを知ったのは、それからずっと後になってからだった。
「はい、できましたよ。ご希望のオムライスです」
チキンが一切入ってないチキンライスの上に薄焼きの卵を乗せたものを犬井の前に差し出せば、犬井はまるで一週間ぶりに食事に有り付いたような勢いでそれをがっついた。
「ちょっと、落ち着いて食べてくださいよ犬井さん。別にオムライスは逃げたりしませんから」
冷蔵庫から麦茶を取り出しそれをグラスにそそぐと、犬井のそばに置く。
男が犬井の家で時々料理をするようになったのは、犬井が「人の手料理なんて全く食った事がない」「たまには暖かい手料理が食べたい」とごねたのがきっかけだ。
たまに様子を見に来てコンビニ弁当を渡しているだけでも世話を焼きすぎなくらいなのに、何と贅沢ことを言うのだろう。
そうは思うが、普段からスカンピンで一体何で稼いでいるのかも全くわからない上、詐欺師扱いの汚名を雪ぐ機会もなかった犬井だ。
これで勉強や運動方面で世間を見返してやろうという気概を抱いたのなら気運も変わっていたのだろうが、犬井はあくまで自分の超能力と、超能力少年だった自分を信じていた母親の思いに縋り付いた。
オカルトという存在そのものが、信じているヤツはダサい・非論理的だという風潮が広がる最中、変わり者として扱われ続けた彼が人並みの友情と接する事ができたとは到底思えない。
それに、暖房をつける費用も惜しみ毛布にくるまり震えながら「暖かいものが食べたい」なんて言われたら、どうにも同情してしまう。
そうして作ってやったキムチ鍋をきっかけに、男は時々犬井の家で手料理を振る舞うようになっていた。
一方的な施しのようにも見える男の手料理だが、普段から自分のためにしか食事を作らず、また料理をしても誰にも褒められる事がなかった男にとって。
「うめぇ! うめぇなおまえの飯は。やっぱり出来たてで暖かいってのも最高だが、お前さんは腕がいいや。店ももてるんじゃないか」
なんて、大仰に喜ばれると、満更でもない気持ちになる。
それでなくとも男は普段から名前を表に出さないタイプの編集として、あくまで裏方に徹していた。当人がそれを選んでそうしていた事だから、その立場に不満はないのだが、褒められることもなければ認められる事もない状況に思ったより寂しさを感じていたらしい。
だからこそ、犬井の家で料理を振る舞うのは男にとっても楽しみであった。
それに、犬井のリクエストはスパゲティのナポリタンだとか、ハンバーグ、オムライス、カレーと比較的に単純なものばかりだ。
手の込んだものではなく、男にとっては比較的短時間で終わらせられる料理が多いというのも面倒ではない理由の一つだったろう。
それに。
「俺がまだ超能力少年って呼ばれていた頃な。母ちゃんに連れられて、デパートの喫茶店でカレーやら何やら、そういうのを食ってたんだよ。それが美味くてなぁ……俺は、洋食ってのが結構好きなんだよな」
細い目をして懐かしそうに語る犬井の顔が、少年の頃の面影を色濃く残しているのを見ると、何とも言えぬ気持ちがこみ上げてくる。
犬井少年にとって、一番の栄華は母親とともにいた頃なのだろう。
男の感性からすると、超能力者の息子を一目に晒し小銭を儲けていた母親はお世辞にも良い母親像とは思えなかったのだが、犬井にとっては自分の力を一切疑うことがなく、自分の力をずっと頼っていた母親が唯一の肉親であり、唯一の理想であり、最も輝いていた過去なのだろう。
男は自分の胸にある大事な宝物をこちらに見せてくれる時の犬井が、男は嫌いになれなかった。
「また、来る時は洋食を作りますよ。このアパート、コンロが一つしかないからあまり凝ったものは無理ですけどね」
だからつい、甘やかしてしまう。
屈託なく笑う犬井は乏しい頭髪に白髪と痩せぎすの身体から40代にも60代にも見える年齢不詳の男だったが、飯を頬張り笑う姿だけは少年のようだった。
ただ、一つ困った事があるとするのなら。
「おう、また来てくれよな兄ちゃん。ほら、これ、お礼だ」
そう言いながら、曲がったスプーンをポケットにねじ込んでくることだろう。
スプーンを曲げるのが一番得意な超能力だからか、犬井は手持ち無沙汰になるとフォークでもスプーンでも金属類なら何でも曲げてしまうのだが、記念にとそれを善意で手渡してくるのだ。
スプーン曲げは見ていて「すごい」と思うもので、曲がった後のスプーンはただの曲がったスプーンなのだが。
「それ、いらないっていってますよね? メーワクなんですけど」
「そんな悲しい事言うなって、ほら! ほら!」
結局押し負け、ポケットに曲がったスプーンがねじ込まれる。
男の家はいま、捨てるのも惜しい気がしてためこんだ曲がったスプーンの山が出来ていたのだが、それも悪い事ではないのだろう。
最初に卵焼きを薄く作ったら、それを皿にとりわける。
それからみじん切りにしたニンジンとタマネギを油で炒め、輪切りにしたソーセージを軽く炒めた後、冷えたご飯を入れる。
もう少し塩コショウを入れた方が良かったかと後悔するが、どうせ最後はトマトケチャップをたっぷり入れるのだから別にいいだろう。そう思い直し、豪快にケチャップを絞る。
ワンコンロの小さなキッチンで炒め物をする音と匂いに気付いたのか、それまで毛布を被っていた犬井はもぞもぞと起き出すと眠たそうに目を擦りながら顔を上げた。
「なんだァ、お前さん来ていたのか」
犬井は男を見ると、幾分か残念そうな顔をした。
どうせ食事を作ってくれるのなら、綺麗なオネーチャンの方がいいといった様子がありありとうかがえる。
だが、犬井の知り合いで親しげに話しかけてくれる女性など芦屋晴子くらいのものだろう。そして彼女は、料理に関してはからっきしである。
「何ですか、その言い草は。私より晴子さんの方がいいっていうなら次回は彼女に来るよう行っておきましょうか? 手料理もお願いしておきますよ」
男の言葉を聞き、犬井は大きく首を振った。
「いや、そいつは勘弁してくれ。高く付きそうだ」
そして、大きくため息をつく。
男は芦屋晴子や越野草太の勤める映像制作会社と接点がある出版社の編集者だった。
厳密にいえばあくまでその出版社に出入りすることがあるフリーの編集者なのだが、晴子や越野の顔見知りという事実だけあれば充分だろうから細部はいいだろう。
主にオカルト系雑誌や書籍の編集を担当していた男にとって、犬井という名前は懐かしいものだった。
バブル景気も終焉を迎え日本全体がゆるゆると熱狂から醒めようとしている中もオカルトブームの波は衰えること知らず、霊媒師や超能力者がテレビに出突っ張りだった頃、スプーン曲げを得意とし綺麗に曲げてみせるとはにかんだ笑顔を母親に向けていた少年が、確かそのような名前だったはずだ。
超能力少年のブームは、ある超能力者がトリックを使ってスプーンを曲げていた事をゴシップ系雑誌にすっぱ抜かれたのをきっかけに終焉を迎えた。
犬井少年も詐欺師や嘘つきのレッテルを貼られ、寂しい少年時代を過ごしたのだとは聞いている。
だから男も、犬井の過去にあえてふれる事は無かった。
オカルト雑誌編集者の男が犬井の家に来るようになったのは、別に取材のためなどではない。
晴子から「忙しくて様子を見に行けない知り合いと連絡がとれない、死んでいるといけないから様子を見にいってくれ」と頼まれたからだ。
その時、エアコンもきかない部屋で寝転んでいて危うく熱中症になりかけていたため、それから心配になり晴子のかわりに時々見に来る用になったのが腐れ縁のはじまりである。
犬井がかつて超能力少年として名を馳せていたのを知ったのは、それからずっと後になってからだった。
「はい、できましたよ。ご希望のオムライスです」
チキンが一切入ってないチキンライスの上に薄焼きの卵を乗せたものを犬井の前に差し出せば、犬井はまるで一週間ぶりに食事に有り付いたような勢いでそれをがっついた。
「ちょっと、落ち着いて食べてくださいよ犬井さん。別にオムライスは逃げたりしませんから」
冷蔵庫から麦茶を取り出しそれをグラスにそそぐと、犬井のそばに置く。
男が犬井の家で時々料理をするようになったのは、犬井が「人の手料理なんて全く食った事がない」「たまには暖かい手料理が食べたい」とごねたのがきっかけだ。
たまに様子を見に来てコンビニ弁当を渡しているだけでも世話を焼きすぎなくらいなのに、何と贅沢ことを言うのだろう。
そうは思うが、普段からスカンピンで一体何で稼いでいるのかも全くわからない上、詐欺師扱いの汚名を雪ぐ機会もなかった犬井だ。
これで勉強や運動方面で世間を見返してやろうという気概を抱いたのなら気運も変わっていたのだろうが、犬井はあくまで自分の超能力と、超能力少年だった自分を信じていた母親の思いに縋り付いた。
オカルトという存在そのものが、信じているヤツはダサい・非論理的だという風潮が広がる最中、変わり者として扱われ続けた彼が人並みの友情と接する事ができたとは到底思えない。
それに、暖房をつける費用も惜しみ毛布にくるまり震えながら「暖かいものが食べたい」なんて言われたら、どうにも同情してしまう。
そうして作ってやったキムチ鍋をきっかけに、男は時々犬井の家で手料理を振る舞うようになっていた。
一方的な施しのようにも見える男の手料理だが、普段から自分のためにしか食事を作らず、また料理をしても誰にも褒められる事がなかった男にとって。
「うめぇ! うめぇなおまえの飯は。やっぱり出来たてで暖かいってのも最高だが、お前さんは腕がいいや。店ももてるんじゃないか」
なんて、大仰に喜ばれると、満更でもない気持ちになる。
それでなくとも男は普段から名前を表に出さないタイプの編集として、あくまで裏方に徹していた。当人がそれを選んでそうしていた事だから、その立場に不満はないのだが、褒められることもなければ認められる事もない状況に思ったより寂しさを感じていたらしい。
だからこそ、犬井の家で料理を振る舞うのは男にとっても楽しみであった。
それに、犬井のリクエストはスパゲティのナポリタンだとか、ハンバーグ、オムライス、カレーと比較的に単純なものばかりだ。
手の込んだものではなく、男にとっては比較的短時間で終わらせられる料理が多いというのも面倒ではない理由の一つだったろう。
それに。
「俺がまだ超能力少年って呼ばれていた頃な。母ちゃんに連れられて、デパートの喫茶店でカレーやら何やら、そういうのを食ってたんだよ。それが美味くてなぁ……俺は、洋食ってのが結構好きなんだよな」
細い目をして懐かしそうに語る犬井の顔が、少年の頃の面影を色濃く残しているのを見ると、何とも言えぬ気持ちがこみ上げてくる。
犬井少年にとって、一番の栄華は母親とともにいた頃なのだろう。
男の感性からすると、超能力者の息子を一目に晒し小銭を儲けていた母親はお世辞にも良い母親像とは思えなかったのだが、犬井にとっては自分の力を一切疑うことがなく、自分の力をずっと頼っていた母親が唯一の肉親であり、唯一の理想であり、最も輝いていた過去なのだろう。
男は自分の胸にある大事な宝物をこちらに見せてくれる時の犬井が、男は嫌いになれなかった。
「また、来る時は洋食を作りますよ。このアパート、コンロが一つしかないからあまり凝ったものは無理ですけどね」
だからつい、甘やかしてしまう。
屈託なく笑う犬井は乏しい頭髪に白髪と痩せぎすの身体から40代にも60代にも見える年齢不詳の男だったが、飯を頬張り笑う姿だけは少年のようだった。
ただ、一つ困った事があるとするのなら。
「おう、また来てくれよな兄ちゃん。ほら、これ、お礼だ」
そう言いながら、曲がったスプーンをポケットにねじ込んでくることだろう。
スプーンを曲げるのが一番得意な超能力だからか、犬井は手持ち無沙汰になるとフォークでもスプーンでも金属類なら何でも曲げてしまうのだが、記念にとそれを善意で手渡してくるのだ。
スプーン曲げは見ていて「すごい」と思うもので、曲がった後のスプーンはただの曲がったスプーンなのだが。
「それ、いらないっていってますよね? メーワクなんですけど」
「そんな悲しい事言うなって、ほら! ほら!」
結局押し負け、ポケットに曲がったスプーンがねじ込まれる。
男の家はいま、捨てるのも惜しい気がしてためこんだ曲がったスプーンの山が出来ていたのだが、それも悪い事ではないのだろう。
PR
COMMENT