インターネット字書きマンの落書き帳
喧嘩が絶えないアットホームな眉ガスです(BL)
眉崎×山ガスってアプローチも結構面白いんじゃねーかな!
そう思って書いてみました。
お互いに口が悪くて悪態ばっかりついてる。
素直じゃないけどそこまでお互い嫌いじゃない、むしろメチャクチャに山ガスのこと好きだし独占したい眉崎お兄さんの話……してます!
いい感じに肋骨の隙間を狙って刺さるように書けたと思います♥
おまえも眉ガスというアプローチを開いてみないか?
今なら無料! いつも無料!
楽しんでいってくれよな!
そう思って書いてみました。
お互いに口が悪くて悪態ばっかりついてる。
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『悪態』
眉崎は自室のソファーで寝転び、スマホを眺める山田を睨むと、思い切りソファーを蹴飛ばした。
「おまえ、俺の部屋で何そんなくつろいでんだよ。ってか、何で俺の飯作ってねーんだよ」
その日、眉崎は午後の授業があり、戻ったのは夕方を過ぎていた。
これから食事をして、ホストクラブのフロアに立たなければいけないのを山田も知っているはずだ。
眉崎が時間に追われているのがわかっているというのに、どうしてこちらに気を遣わないのか。
募る苛立ちを隠さずぶつける眉崎を、山田は面白そうに笑った。
「いやいやいや、何で僕が眉崎サンのためにご飯とか作らなきゃいけないワケ? 確かに僕、眉崎さんの部屋でこうしてぐーたらすごさせて貰ってるけど、僕は眉崎さんに食事代も光熱費もちゃーんと支払ってるよね? だったら、僕がダラダラするのも当然の権利だし。眉崎さんのご飯を作る義理なんて、全然ないよねー」
淀みなく答える山田に、眉崎は小さく舌打ちをした。
山田の言っている事に反論出来なかったからだ。
「お前は一応、俺の恋人だろうが。恋人だったらそういう心遣いの一つくらい見せろっての」
負け惜しみのようにそう呟き、冷蔵庫を開ける。
大学に行きながらホストで稼ぐ眉崎は、帰宅が遅くなることも多い。
そのため、手軽にとれて健康に良いものを常にストックしていた。
ホストをしているとどうしても酒を飲む。少しでも身体に良いものを食べておきたかった。
無糖のヨーグルトにチーズ、無塩ナッツは常備品。ナッツを入れたヨーグルトでも食べればいい。
そう思い中を探したが、普段なら必ずあるはずのヨーグルトが見当たらなかった。
「……おい、山田。冷蔵庫に入ってたはずのヨーグルトが無ぇんだけど、おまえ、喰ったか?」
「んー? あぁ、それ食べちゃったよ。ってか、消費期限切れてたから。眉崎サン、健康に気をつかってるわりにそういうとこズサンだよね」
「はぁ? 何勝手に喰ってんだよ! 冷蔵庫に入ってるのは基本的に俺のモンなんだから勝手に喰うな!」
スマホを弄る山田に、眉崎は声を荒げる。
眉崎は期限が切れたものを食べる事はない。
自分の身体を作るために、不健康なものを取り入れたくなかったからだ。
山田が期限切れのヨーグルトを食べても、いつもなら気にしない。
山田が腹を壊そうが関係ないし、期限切れであれば捨てていたはずだ。
「おまえさぁ、仮にも俺の恋人だろ? 恋人ってのは、もっと俺に尽くすのがフツーなんじゃねぇの? 今までいろんな女と付き合ってきたけど、おまえみたいになーんもしないでゴロゴロ寝てスマホばっか見てる奴、一人もいなかったぜ?」
これは、ただの難癖だ。
抑えられない苛立ちをぶつけ、気晴らしに山田の失敗をあげつらっているだけ。
自分でも最低なことをしているのはわかっている。
それでもなお、眉崎は言葉を止められなかった。
不機嫌さを発散させなければ心の均衡が保てない弱い男なのだ。
「何いってんの、眉崎サン。僕、眉崎サンの恋人ってわけじゃないでしょ?」
「はァ? おまえ、俺の家で寝泊まりして、俺に抱かれて、好きだの愛してるだの言ってるじゃねーかよ」
「んー……それは愛というか……僕、眉崎さんの身体とテクが好きってだけで……あれ? 眉崎さん、僕と割り切って付き合ってると思ってたんだけど。ひょっとして、本気で僕のこと恋人だと思ってくれてた?」
山田は小首を傾げ、まっすぐに眉崎を見る。
本当に、腹が立つ。
嫌いな男に合鍵を渡すはずもなければ、家で寝泊まりさせることも、ましてやベッドで抱くこともない。
確かに「付き合ってほしい」とか「恋人になれ」なんて恥ずかしい事は口にしてなかったが、唇も肌も何度も重ねた。
眉崎はそれで微かな愛を感じていたのに、山田はそうではなかったのか。
同じ行為に、こんなに大きな齟齬があるものだとは。
いや、慢心していたのは自分かもしれない。
これまでの相手は異性ばかりで、ほとんどが自分に好意を寄せてきた。
選ぶのはいつも眉崎で、選ばれた相手が機嫌を取り、喜ばせ尽くすのが当たり前だった。
だが山田は違う。
山田は「男に抱かれる方がいい」タイプの男だと聞き、興味本位で誘ったのは眉崎からだった。
思いのほか相性がよく、気持ちいいから抱き続け、やがて手元に置いておきたくなった。
だから鍵を渡し、帰らせないようにしたのだ。
初めて、自分から所有したいと思ったのがこの男だった。
他の相手は「眉崎と付き合える」こと事態で満足していたから、山田も同じだと思っていた。
それなのに。
「あははは、おっかしー。眉崎サン、本気で僕のこと好きだったの? え、ホント? 眉崎サンって、基本的に女の人好きだよね? だからホストやってるんでしょ? 本気で僕のこと好きなら……」
山田の笑い声が、やけに遠くに聞こえる。
そう、自分は基本的には女性が好きだ。
山田を引っかけたのは好奇心からで、今も続いているのは彼が同じ5Sのメンバーであるのもそうだが、生意気でこちらを煽るような言動ばかりする態度がどこか心地よかったから。
根幹が歪み、腐った性分を隠さず接してくるその対等な距離感に愛おしさを覚えたからだ。
だが、山田はきっとそうじゃない。
いずれ自分に好きな女性が出できれば、すぐに関係を切り、この生活を笑い話に変えるつもりなのだろう。
「うるせぇ! ほんっと、イラつくしムカつく奴だなテメーは。気遣いもしねぇし、クソみたいな口の利き方しかしねぇ。目障りなんだよ! 身体だけはいいからちょっと面白ェと思って遊んでやってるだけだ、調子乗るんじゃねぇよ!」
再びソファーを蹴る。
声は自然と大きくなっていくが、内心ひどく動揺していた。
何いってるんだ、違うだろうが。
こういう時は、俺の方が優しく言うもんだろ。
俺の方が年上なのに、なんでこんなに焦っているんだ。
みっともねぇ。
俺の方がよっぽどコイツを求めてるみたいじゃないか。
「眉崎サン……」
山田は何も言い返さず、悲しそうにこちらを見ている。
どうして言い返さないんだ。
「調子に乗ってるのはそっちでしょ」とか、軽口で返してくるだろう。
口が悪さなんていつものことじゃないか。それなのに、どうしてそんな泣きそうな顔をしている。
「チッ。もう仕事行く」
眉崎は乱暴に鞄を掴み、逃げるように外へ出た。
これ以上そばにいたら、惨めな姿をさらす。いや、もう十分にさらしている。
今は何を言っても、恥の上塗りだ。少し冷静にならなければ。
いつもの道を歩いているうちに、気持ちは段々落ち着く。
だが、冷静になるほど、後悔が溢れてきた。
謝らなければ。だが、どうやって謝ればいいのだ。
悶々としたまま店に着き、いつも通りに接客する。
笑い、甘い言葉を囁き、酒を飲んで相手にも飲ませる。
ルーチンをこなしながらも、胸の奥には黒いモヤのようなものが渦巻いていた。
「潤、おまえ今日ちょっとカタいけど、調子悪いのか?」
休憩中、先輩の一人が声をかけてくる。
平然を装っていたが、見る人にはわかるようだ。
客に気付かれてなければいいが、客はほとんど女性であり、感情の機微に敏感だ。ひょっとしたら普段と違うのを見抜かれているかもしれない。
「いーえ。別に、何でもないっすよ。夕飯食い損ねたから、腹減ってるのかもですね」
なんともないように返し、スマホを見た時、眉崎は我が目を疑った。
5Sのリーダー・黒沢からグループメッセージが入っていたからだ。
『今、連絡があったんだが、山田の奴、事故っていま病院にいるらしい』
『詳しい事はわからない。今は病院にいるらしいが、誰か見に行ってくれないか?』
『俺いま、そっちにいないんだ。行ける奴がいたら頼む。まだ山田から連絡がない』
時間を見ると、一報は家を出てから30分も経ってない。
あの後、家から出て事故に遭ったのだろうか。普段の山田なら家に引きこもっているはずなのに。
「俺があんなこと言ったから……」
だから出ていったのか? 怪我の程度は?
「……すいません。今日、もう帰らせてもらいます!」
周囲が止める間もなく、夢中になって走り出す。
急に店を出てしまい、とんでもない穴を開けた。信用を落とせば水商売は致命的だ。
クビになるかもしれない。
だが、そんなことはどうでもいい。
会いたい。その気持ちだけが、全てだった。
病院に着くと、派手なホスト姿のせいか外来の患者や看護師が驚いたように眉崎へ視線を向ける。
「あの……すいません。俺、山田の友達なんですけど。あいつ、事故ったって聞いて……」
焦りを押し殺して、受付に声をかけたそのとき――。
「あっ、眉崎サン。どうしたのさ。まだ仕事中でしょ?」
聞き慣れた声の方を見れば、手に包帯を巻いた山田が笑って立っていた。
「おまっ……だ、大丈夫だったのか? 事故ったんだよな? 怪我は……」
「え? 心配してくれたの? んー……確かに事故ったんだけど、自転車が突っ込んできただけ。大したことないよ」
「自転車?」
「うん。相手が逃げちゃって、ひき逃げ扱い。僕も派手に転んじゃって、通行人が大騒ぎでさ。救急車とか警察も来ちゃって、それで時間とられただけ。怪我は大した事ないよ、ちょっと手首をひねっただけかな」
「……そうか」
普段なら「その程度で騒ぐな」くらいの悪態をついていただろう。
だが、今は――。
「……良かった」
無事で良かった。その事実で胸が一杯になり、他の言葉が出てこない。
両肩を掴み安堵の息を吐けば、山田は少しばつの悪そうに頬を掻いた。
「あー、その……ごめんね、心配した?」
「はぁ? してねぇよ。黒沢に言われたから来ただけだ。今、近くにいるの俺くらいだったしな。てか、お前なにフラフラしてんだよ。いつもなら俺の家でずーっと引きこもってんだろ」
「それなんだけど……流石に、眉崎サンのもの勝手に食べたのは悪かったなーと思ってさ。お詫びにヨーグルト買いに行ったんだよ。でも、事故で全部ぐっちゃぐちゃ。また買い直すから……」
そんなことで――そう思ったが、ぐっと言葉を飲み込む。
きっと山田は、そういう自分を求めていない。
「……ばーか。慣れない事するからだ。これに懲りたら素直に、おとなしーく俺に従っておけよ。もう、勝手に出ていくんじゃねーぞ。次やったら、マジで怒るからな」
「ははっ、何いってんの。いつも怒ってるくせに。ま……今回は僕のミスだから、大人しくしてあげる」
悪態をつけば、悪態が返ってくる。
あぁ、本当に素直じゃない。
だけど、だからこそ心地よい。
再び息を吐き、包帯が巻かれた手にそっと触れた。
二度とこの手が、自分から離れていきませんように――そう、願いながら。
眉崎は自室のソファーで寝転び、スマホを眺める山田を睨むと、思い切りソファーを蹴飛ばした。
「おまえ、俺の部屋で何そんなくつろいでんだよ。ってか、何で俺の飯作ってねーんだよ」
その日、眉崎は午後の授業があり、戻ったのは夕方を過ぎていた。
これから食事をして、ホストクラブのフロアに立たなければいけないのを山田も知っているはずだ。
眉崎が時間に追われているのがわかっているというのに、どうしてこちらに気を遣わないのか。
募る苛立ちを隠さずぶつける眉崎を、山田は面白そうに笑った。
「いやいやいや、何で僕が眉崎サンのためにご飯とか作らなきゃいけないワケ? 確かに僕、眉崎さんの部屋でこうしてぐーたらすごさせて貰ってるけど、僕は眉崎さんに食事代も光熱費もちゃーんと支払ってるよね? だったら、僕がダラダラするのも当然の権利だし。眉崎さんのご飯を作る義理なんて、全然ないよねー」
淀みなく答える山田に、眉崎は小さく舌打ちをした。
山田の言っている事に反論出来なかったからだ。
「お前は一応、俺の恋人だろうが。恋人だったらそういう心遣いの一つくらい見せろっての」
負け惜しみのようにそう呟き、冷蔵庫を開ける。
大学に行きながらホストで稼ぐ眉崎は、帰宅が遅くなることも多い。
そのため、手軽にとれて健康に良いものを常にストックしていた。
ホストをしているとどうしても酒を飲む。少しでも身体に良いものを食べておきたかった。
無糖のヨーグルトにチーズ、無塩ナッツは常備品。ナッツを入れたヨーグルトでも食べればいい。
そう思い中を探したが、普段なら必ずあるはずのヨーグルトが見当たらなかった。
「……おい、山田。冷蔵庫に入ってたはずのヨーグルトが無ぇんだけど、おまえ、喰ったか?」
「んー? あぁ、それ食べちゃったよ。ってか、消費期限切れてたから。眉崎サン、健康に気をつかってるわりにそういうとこズサンだよね」
「はぁ? 何勝手に喰ってんだよ! 冷蔵庫に入ってるのは基本的に俺のモンなんだから勝手に喰うな!」
スマホを弄る山田に、眉崎は声を荒げる。
眉崎は期限が切れたものを食べる事はない。
自分の身体を作るために、不健康なものを取り入れたくなかったからだ。
山田が期限切れのヨーグルトを食べても、いつもなら気にしない。
山田が腹を壊そうが関係ないし、期限切れであれば捨てていたはずだ。
「おまえさぁ、仮にも俺の恋人だろ? 恋人ってのは、もっと俺に尽くすのがフツーなんじゃねぇの? 今までいろんな女と付き合ってきたけど、おまえみたいになーんもしないでゴロゴロ寝てスマホばっか見てる奴、一人もいなかったぜ?」
これは、ただの難癖だ。
抑えられない苛立ちをぶつけ、気晴らしに山田の失敗をあげつらっているだけ。
自分でも最低なことをしているのはわかっている。
それでもなお、眉崎は言葉を止められなかった。
不機嫌さを発散させなければ心の均衡が保てない弱い男なのだ。
「何いってんの、眉崎サン。僕、眉崎サンの恋人ってわけじゃないでしょ?」
「はァ? おまえ、俺の家で寝泊まりして、俺に抱かれて、好きだの愛してるだの言ってるじゃねーかよ」
「んー……それは愛というか……僕、眉崎さんの身体とテクが好きってだけで……あれ? 眉崎さん、僕と割り切って付き合ってると思ってたんだけど。ひょっとして、本気で僕のこと恋人だと思ってくれてた?」
山田は小首を傾げ、まっすぐに眉崎を見る。
本当に、腹が立つ。
嫌いな男に合鍵を渡すはずもなければ、家で寝泊まりさせることも、ましてやベッドで抱くこともない。
確かに「付き合ってほしい」とか「恋人になれ」なんて恥ずかしい事は口にしてなかったが、唇も肌も何度も重ねた。
眉崎はそれで微かな愛を感じていたのに、山田はそうではなかったのか。
同じ行為に、こんなに大きな齟齬があるものだとは。
いや、慢心していたのは自分かもしれない。
これまでの相手は異性ばかりで、ほとんどが自分に好意を寄せてきた。
選ぶのはいつも眉崎で、選ばれた相手が機嫌を取り、喜ばせ尽くすのが当たり前だった。
だが山田は違う。
山田は「男に抱かれる方がいい」タイプの男だと聞き、興味本位で誘ったのは眉崎からだった。
思いのほか相性がよく、気持ちいいから抱き続け、やがて手元に置いておきたくなった。
だから鍵を渡し、帰らせないようにしたのだ。
初めて、自分から所有したいと思ったのがこの男だった。
他の相手は「眉崎と付き合える」こと事態で満足していたから、山田も同じだと思っていた。
それなのに。
「あははは、おっかしー。眉崎サン、本気で僕のこと好きだったの? え、ホント? 眉崎サンって、基本的に女の人好きだよね? だからホストやってるんでしょ? 本気で僕のこと好きなら……」
山田の笑い声が、やけに遠くに聞こえる。
そう、自分は基本的には女性が好きだ。
山田を引っかけたのは好奇心からで、今も続いているのは彼が同じ5Sのメンバーであるのもそうだが、生意気でこちらを煽るような言動ばかりする態度がどこか心地よかったから。
根幹が歪み、腐った性分を隠さず接してくるその対等な距離感に愛おしさを覚えたからだ。
だが、山田はきっとそうじゃない。
いずれ自分に好きな女性が出できれば、すぐに関係を切り、この生活を笑い話に変えるつもりなのだろう。
「うるせぇ! ほんっと、イラつくしムカつく奴だなテメーは。気遣いもしねぇし、クソみたいな口の利き方しかしねぇ。目障りなんだよ! 身体だけはいいからちょっと面白ェと思って遊んでやってるだけだ、調子乗るんじゃねぇよ!」
再びソファーを蹴る。
声は自然と大きくなっていくが、内心ひどく動揺していた。
何いってるんだ、違うだろうが。
こういう時は、俺の方が優しく言うもんだろ。
俺の方が年上なのに、なんでこんなに焦っているんだ。
みっともねぇ。
俺の方がよっぽどコイツを求めてるみたいじゃないか。
「眉崎サン……」
山田は何も言い返さず、悲しそうにこちらを見ている。
どうして言い返さないんだ。
「調子に乗ってるのはそっちでしょ」とか、軽口で返してくるだろう。
口が悪さなんていつものことじゃないか。それなのに、どうしてそんな泣きそうな顔をしている。
「チッ。もう仕事行く」
眉崎は乱暴に鞄を掴み、逃げるように外へ出た。
これ以上そばにいたら、惨めな姿をさらす。いや、もう十分にさらしている。
今は何を言っても、恥の上塗りだ。少し冷静にならなければ。
いつもの道を歩いているうちに、気持ちは段々落ち着く。
だが、冷静になるほど、後悔が溢れてきた。
謝らなければ。だが、どうやって謝ればいいのだ。
悶々としたまま店に着き、いつも通りに接客する。
笑い、甘い言葉を囁き、酒を飲んで相手にも飲ませる。
ルーチンをこなしながらも、胸の奥には黒いモヤのようなものが渦巻いていた。
「潤、おまえ今日ちょっとカタいけど、調子悪いのか?」
休憩中、先輩の一人が声をかけてくる。
平然を装っていたが、見る人にはわかるようだ。
客に気付かれてなければいいが、客はほとんど女性であり、感情の機微に敏感だ。ひょっとしたら普段と違うのを見抜かれているかもしれない。
「いーえ。別に、何でもないっすよ。夕飯食い損ねたから、腹減ってるのかもですね」
なんともないように返し、スマホを見た時、眉崎は我が目を疑った。
5Sのリーダー・黒沢からグループメッセージが入っていたからだ。
『今、連絡があったんだが、山田の奴、事故っていま病院にいるらしい』
『詳しい事はわからない。今は病院にいるらしいが、誰か見に行ってくれないか?』
『俺いま、そっちにいないんだ。行ける奴がいたら頼む。まだ山田から連絡がない』
時間を見ると、一報は家を出てから30分も経ってない。
あの後、家から出て事故に遭ったのだろうか。普段の山田なら家に引きこもっているはずなのに。
「俺があんなこと言ったから……」
だから出ていったのか? 怪我の程度は?
「……すいません。今日、もう帰らせてもらいます!」
周囲が止める間もなく、夢中になって走り出す。
急に店を出てしまい、とんでもない穴を開けた。信用を落とせば水商売は致命的だ。
クビになるかもしれない。
だが、そんなことはどうでもいい。
会いたい。その気持ちだけが、全てだった。
病院に着くと、派手なホスト姿のせいか外来の患者や看護師が驚いたように眉崎へ視線を向ける。
「あの……すいません。俺、山田の友達なんですけど。あいつ、事故ったって聞いて……」
焦りを押し殺して、受付に声をかけたそのとき――。
「あっ、眉崎サン。どうしたのさ。まだ仕事中でしょ?」
聞き慣れた声の方を見れば、手に包帯を巻いた山田が笑って立っていた。
「おまっ……だ、大丈夫だったのか? 事故ったんだよな? 怪我は……」
「え? 心配してくれたの? んー……確かに事故ったんだけど、自転車が突っ込んできただけ。大したことないよ」
「自転車?」
「うん。相手が逃げちゃって、ひき逃げ扱い。僕も派手に転んじゃって、通行人が大騒ぎでさ。救急車とか警察も来ちゃって、それで時間とられただけ。怪我は大した事ないよ、ちょっと手首をひねっただけかな」
「……そうか」
普段なら「その程度で騒ぐな」くらいの悪態をついていただろう。
だが、今は――。
「……良かった」
無事で良かった。その事実で胸が一杯になり、他の言葉が出てこない。
両肩を掴み安堵の息を吐けば、山田は少しばつの悪そうに頬を掻いた。
「あー、その……ごめんね、心配した?」
「はぁ? してねぇよ。黒沢に言われたから来ただけだ。今、近くにいるの俺くらいだったしな。てか、お前なにフラフラしてんだよ。いつもなら俺の家でずーっと引きこもってんだろ」
「それなんだけど……流石に、眉崎サンのもの勝手に食べたのは悪かったなーと思ってさ。お詫びにヨーグルト買いに行ったんだよ。でも、事故で全部ぐっちゃぐちゃ。また買い直すから……」
そんなことで――そう思ったが、ぐっと言葉を飲み込む。
きっと山田は、そういう自分を求めていない。
「……ばーか。慣れない事するからだ。これに懲りたら素直に、おとなしーく俺に従っておけよ。もう、勝手に出ていくんじゃねーぞ。次やったら、マジで怒るからな」
「ははっ、何いってんの。いつも怒ってるくせに。ま……今回は僕のミスだから、大人しくしてあげる」
悪態をつけば、悪態が返ってくる。
あぁ、本当に素直じゃない。
だけど、だからこそ心地よい。
再び息を吐き、包帯が巻かれた手にそっと触れた。
二度とこの手が、自分から離れていきませんように――そう、願いながら。
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