インターネット字書きマンの落書き帳
好きな人のにおいの話(石動とアントニオ)
令和に石動とアントニオを求められたから、私はここへやってきた。
というわけで……。
だいたい1年ぶりくらいに、石動とアントニオを書きました。
理由は、SNSで「石動とアントニオは落ちてないのか……」と彷徨う心があったからです。
さすらい、発掘、いのれ、新作!
いや、新作はもう永遠にないんで……。
せめて二次創作の新作はお出しします♥
仲のいい石動とアントニオだよ♥
というわけで……。
だいたい1年ぶりくらいに、石動とアントニオを書きました。
理由は、SNSで「石動とアントニオは落ちてないのか……」と彷徨う心があったからです。
さすらい、発掘、いのれ、新作!
いや、新作はもう永遠にないんで……。
せめて二次創作の新作はお出しします♥
仲のいい石動とアントニオだよ♥
『愛しさと心地よさ』
黄夢通りと呼ばれているその通りは、中華街ほど雑多な品揃えはないがそれでも滅多に手に入らない香草や珍味を多く販売している。
その店の一角に、普段は座布団にあぐらをかいてウトウトしている老婦人がいるのだが、その日は珍しく待っていたかのように笑顔を向けてきた。
「坊や、坊や。アントニオの坊や、久しぶりだねぇ」
声をかけられた時は、面倒だと思った。
この老婆は物腰柔らかい話し方と裏腹に、面倒なことを色々押し付けてくるからだ。
特に多いのは、オリジナルで生み出した呪術の類いを実験したい、という依頼である。
老婆は独学で呪術を学んでいるため、大きな破壊をもたらすような危険な呪詛こを使わないが、砂糖と塩を入れ替える、なんて小さいながらに迷惑をかけるような術を作るのが得意だった。
「何ですかねぇ、あたしも暇だってわけじゃないんですが……」
「やぁね、暇だろう? あんなちんちくりんのダルマみたいな男の下にいたんじゃ、毎日が日曜日みたいなもんじゃないか。勿体ないねぇ、あなたほどの能力がある子がこんなところでくだ巻いているなんて……」
「おっと、大将の悪口を言うなら、話は終わりですよ。それじゃ」
「あぁん、まってよぉアントニオ。実は、私の作った術を試してほしいんだよぉ」
老婆の説明が事実なら、彼女は当初誰と会ってた時でも相手に好印象を与える香水というのを当初は考えていたらしい。
だが自分で香料をいじるのに飽きた老婆は、「誰から見ても好きな匂いになる術をつくればいいのでは」と方向転換したそうだ。
大したことのない術だろうと思ったし、お礼に鉄観音をくれるというのなら話は別だ。
すぐさまその場で試した後。
「……あんまり代わり映えはしませんねぇ?」
「そうねぇ、アントニオの坊やだったら元々の顔がいいから、匂いなんて術なんてなくても平気ってことかしら?」
二人で首を傾げながらも、約束は約束と鉄観音の茶葉を一袋もらってから、アントニオは事務所に帰ってきた。
珍しい茶葉だから、石動が戻ったら温かいお茶をすぐに出そうか。
石動は汗っかきのところもあるから、たっぷり出したあと冷やした方が飲んでくれるだろうか。
あれこれ考えている最中、事務所の奥にいた石動がのろのろと部屋から出てくる。
そして開口一番。
「臭ッ!」
そう、大きな声をあげた。
「えっ!? あたし、臭いですか……」
「臭い! っていうか何だ、ほこりっぽいし汗臭いし、敷きっぱなしの万年床みたいなかび臭いにおいがするぞ。アントニオ、どうしたんだ……いつものお前は、なんかもっといい匂いがするよな?」
ほこりっぽく、汗臭い。敷きっぱなしの万年床のようなかび臭さ。
それらを聞いて、すぐにピンとくる。
それは、アントニオが常々石動に対して思っている匂いだったからだ。
あまり金がないうえ、どこかぐうたらな石動は滅多に布団も干さないし、銭湯も毎日いけるほど金持ちではない。
酸っぱい匂いがしないよう、洗濯と風呂は気をつけているのだが、どうしても夏場は汗臭さが残ってしまう 。
アントニオはその匂いが嫌いではなかったのだが……。
「そういえば、誰から見ても好きな匂いになる、とはいってましたが……あくまでアタシの主観でしたら、大将の匂いになっても不思議じゃないですねぇ……」
アントニオはカンカンに沸かした茶葉をヤカンごと水につけおく。
「大将、あたしが汗臭いなら、一緒に銭湯にでも行きましょうよ。お互いそろそろしっかり身体を洗っておかないと、元々こない依頼人がますます来なくまりますからねぇ」
「も、元々こないとかいうな! ……でも、それもそうだな。よし、今から銭湯に行くから準備しろ。着替えとタオル、もってくるから!」
上機嫌で部屋に戻る石動を見て、アントニオは自然に笑顔になる。
それにしても、匂いがかわってすぐに気付くくらい、自分の匂いを石動が気に入ってくれていたのだとしたら、それは少し嬉しいことだ。
アントニオは冷たくなったヤカンに触れる。
温泉から帰ってきた時、この茶葉もちょうど飲み頃の冷たさになっているだろう。
黄夢通りと呼ばれているその通りは、中華街ほど雑多な品揃えはないがそれでも滅多に手に入らない香草や珍味を多く販売している。
その店の一角に、普段は座布団にあぐらをかいてウトウトしている老婦人がいるのだが、その日は珍しく待っていたかのように笑顔を向けてきた。
「坊や、坊や。アントニオの坊や、久しぶりだねぇ」
声をかけられた時は、面倒だと思った。
この老婆は物腰柔らかい話し方と裏腹に、面倒なことを色々押し付けてくるからだ。
特に多いのは、オリジナルで生み出した呪術の類いを実験したい、という依頼である。
老婆は独学で呪術を学んでいるため、大きな破壊をもたらすような危険な呪詛こを使わないが、砂糖と塩を入れ替える、なんて小さいながらに迷惑をかけるような術を作るのが得意だった。
「何ですかねぇ、あたしも暇だってわけじゃないんですが……」
「やぁね、暇だろう? あんなちんちくりんのダルマみたいな男の下にいたんじゃ、毎日が日曜日みたいなもんじゃないか。勿体ないねぇ、あなたほどの能力がある子がこんなところでくだ巻いているなんて……」
「おっと、大将の悪口を言うなら、話は終わりですよ。それじゃ」
「あぁん、まってよぉアントニオ。実は、私の作った術を試してほしいんだよぉ」
老婆の説明が事実なら、彼女は当初誰と会ってた時でも相手に好印象を与える香水というのを当初は考えていたらしい。
だが自分で香料をいじるのに飽きた老婆は、「誰から見ても好きな匂いになる術をつくればいいのでは」と方向転換したそうだ。
大したことのない術だろうと思ったし、お礼に鉄観音をくれるというのなら話は別だ。
すぐさまその場で試した後。
「……あんまり代わり映えはしませんねぇ?」
「そうねぇ、アントニオの坊やだったら元々の顔がいいから、匂いなんて術なんてなくても平気ってことかしら?」
二人で首を傾げながらも、約束は約束と鉄観音の茶葉を一袋もらってから、アントニオは事務所に帰ってきた。
珍しい茶葉だから、石動が戻ったら温かいお茶をすぐに出そうか。
石動は汗っかきのところもあるから、たっぷり出したあと冷やした方が飲んでくれるだろうか。
あれこれ考えている最中、事務所の奥にいた石動がのろのろと部屋から出てくる。
そして開口一番。
「臭ッ!」
そう、大きな声をあげた。
「えっ!? あたし、臭いですか……」
「臭い! っていうか何だ、ほこりっぽいし汗臭いし、敷きっぱなしの万年床みたいなかび臭いにおいがするぞ。アントニオ、どうしたんだ……いつものお前は、なんかもっといい匂いがするよな?」
ほこりっぽく、汗臭い。敷きっぱなしの万年床のようなかび臭さ。
それらを聞いて、すぐにピンとくる。
それは、アントニオが常々石動に対して思っている匂いだったからだ。
あまり金がないうえ、どこかぐうたらな石動は滅多に布団も干さないし、銭湯も毎日いけるほど金持ちではない。
酸っぱい匂いがしないよう、洗濯と風呂は気をつけているのだが、どうしても夏場は汗臭さが残ってしまう 。
アントニオはその匂いが嫌いではなかったのだが……。
「そういえば、誰から見ても好きな匂いになる、とはいってましたが……あくまでアタシの主観でしたら、大将の匂いになっても不思議じゃないですねぇ……」
アントニオはカンカンに沸かした茶葉をヤカンごと水につけおく。
「大将、あたしが汗臭いなら、一緒に銭湯にでも行きましょうよ。お互いそろそろしっかり身体を洗っておかないと、元々こない依頼人がますます来なくまりますからねぇ」
「も、元々こないとかいうな! ……でも、それもそうだな。よし、今から銭湯に行くから準備しろ。着替えとタオル、もってくるから!」
上機嫌で部屋に戻る石動を見て、アントニオは自然に笑顔になる。
それにしても、匂いがかわってすぐに気付くくらい、自分の匂いを石動が気に入ってくれていたのだとしたら、それは少し嬉しいことだ。
アントニオは冷たくなったヤカンに触れる。
温泉から帰ってきた時、この茶葉もちょうど飲み頃の冷たさになっているだろう。
PR
COMMENT