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インターネット字書きマンの落書き帳

   
トイレでヌン蔵と鉢合わせする一般成人男性(トシカイ二次創作)
フォロワーが「トイレで富入さんと鉢合わせして慌てる俺くん」シチュを見たい。
と申し上げていたので……。

希望シチュとは少し違うンですが、トイレで富入さんが隣に立ってしまい異常な緊張感を抱いてしまう一般成人男性の話を書きましたので、置いておきます。

一般成人男性は、おおよそ一般人ではないんですが富入の協力者として立ち回っているオカルト系雑誌の編集者というオリジナルキャラです。

富入さんに俺が個人的に言って欲しい成分が含まれているので……。
ま、いいよね!

楽しんでいってくれ。
俺はこの味しか出せないよッ。



『緊張感と威圧感』

 勢いよく水を吹き出す噴水に、まだ未就学児と思しき子供たちが立ち入って水を掛け合い笑うのを近くで親らしい夫婦が笑顔で見守っている。
 初夏の風は少し寒いくらいだが、刺すような日差しもあってじっと座っていれば汗が噴き出す程の気温だ。服がびしょ濡れになっても水遊びに興じたくなる気持ちもわかるというものだ。

 男はネクタイを少し緩めると、スマホを取りだし時間を確かめた。
 待ち合わせ時刻まであと20分はある。家を出る前に急な電話が入り、その対応に手間取られてしまったから遅刻するかと思い急ぎで来たのだが思った以上に早く到着したようだ。

 だが、電話に気を取られて普段より身支度を疎かにしてしまった気がする。
 顔は洗ってきたが、服装など細かい部分はチェックしていなかった。今日会う相手はネクタイの色から靴の先にある汚れまで見落とさないタイプの人間だから、あれこれ言われる前に少し身なりを整えておきたい。

 それに、少し催してきた。出かける間際にペットボトルの茶を一気に飲んできたせいだろう。
 男はベンチから離れると、近場にあるトイレへ向かった。

 都内では座る場所も限られていればトイレがある公園というのも少ないのだが、この公園は近くにトイレがある場所でよかったと小便器に向かい用を足そうとしたその時、長身の男が足音もたてずに現れ気付いた時には隣に並んで立っていた。

「……と、富入さん? もう来てたんですか」

 男はつい声を上げる。
 突如現れ隣に並んで用を足しはじめた男こそ、今日待ち合わせをしていた相手だったからだ。

 いつもは時間ピッタリに来るから、20分も早く待ち合わせの公園で。しかもトイレで鉢合わせするとは思っていなかった。
 富入は男を見ることもなく、黙って隣で用を足しはじめる。

 突然現れた知り合いが、隣に立って用を足している事実に何とも言えぬ居心地の悪さを感じる。相手が富入だからなおさらだ。出てきた小便が引っ込むかと思ったが、存外に勢いよく出ていることも、かえって気恥ずかしく思えた。

 富入は公安警察である。いわゆるテロや政治事件などの捜査を担当している刑事であり、一つのチームを率いている立場でもある。
 強い権力をもち、周囲を威圧する業務を生業にしているからか、富入は人を警戒させる雰囲気を常にまとっていた。

 男と富入は表向き赤の他人として接しており、会う時もほとんど人目のつかない場所か通りすがりで偶然を装った形が多いが、実際の関係は公安警察とその協力者というものである。

 警察という組織は民事不介入の原則から事件にならない捜査はしないのだが、公安警察はそうではない。事件の火種になりそうな組織や団体を事前に調査するというのはザラにあるのだが、公務員の建前上できない捜査も多く、そういう時は彼のように民間の協力者を通じて捜査を依頼することも多い。

 そしてその、民間の協力者による情報提供の多くは違法に手に入れた情報がほとんどなのだ。
 今日も男は頼まれていたとある団体の調査結果を届ける予定で待ち合わせをしていたのだ。

「ところでアナタ」

 それまで黙っていた富入に急に話しかけられ、危うく小便の軌道を外しそうになる。すんでのところでもちなおし、男は富入を見ないようにした。

「何ですか。見ての通り、取り込み中ですけど」
「知ってるわよ。私も取り込み中だもの。でも、言っておかなきゃいけないことがあるの。アナタ、ずっと尾行(つ)けられてたわよ。気付いていた?」

 まさかの言葉に、男は声も出さず首を振る。
 公安の隠れた協力者ではあるものの、男は一般人だ。独身で仕事以外の交友関係は極端に薄い。誰かに後を付けられ動向を探られるような真似をされるほど、立派な身分ではないと思っていたからだ。

「そう、気付いてなかったのね。まぁ、仕方ないわね。相手の尾行は下手くそだからプロじゃないと思うんだけど、自分が後を付けられてるなんて普通に生活してたらわからないものね。それで、後を付けられるような心当たり、あるのかしら?」
「いえ……確かに私はオカルト雑誌の編集者なんて妙な仕事をしている自覚はありますが、身辺を探られるような真似はしてないはずですよ」
「ホントかしら? アナタいい男だから、妙な女引っかけて火遊びしてそうだけど」
「失礼なこと言わないでください。私は身持ちが堅いんですよ。最も、何の恨みも買わずに生きてきたかといわれれば、少々自信がありませんね。ご存知の通り、人に言えない過去がある身の上ですから」

 男が公安警察である富入と知り合ったのは随分前になる。彼にとって人に言えない過去こそが公安警察にとって利用する価値のある過去であり、それを大っぴらにしない代わりに協力者をしている、というのが実状だった。

 とはいえ、別に強制されているわけではない。
 男もまた、過去の自分のような立場の人間をこれ以上増やしたくはないという使命感を抱いて始めたことだから、その点で富入と男は対等だ。
 少なくても彼はそう思っていた。

「わかったわ。何にしても、詳しい話は相手側に直接聞いてみるしかないわね……アナタ、私の後から来なさい。先方、よっぽどアナタに会いたいみたいだから」
「了解です。荒事になりそうですか?」

 男の問いに、富入は黙り込む。どうやら状況は思ったより切迫しているようだ。

「……わかりました。では、番号だけ伝えておきます。13番、0919です」
「あら、アナタにしては随分とシンプルな番号ね」
「最近一緒に仕事した若手ライターの誕生日ですよ。彼はスジが良さそうだから、面倒な仕事も頼む事になりそうだと思って覚えておいたんです。猜疑心が強くて神経質、そしてやけに慎重。あの手合いは潜入取材にうってつけですよ」
「誕生日を覚えてあげるなんて随分とお気に入りなのね。妬けちゃうわ」
「私は今まで仕事した相手の基本的な情報は全部頭に入れてますよ。誕生日に一言でも添えておけば、後の仕事も頼みやすいですから」
「しっかりしてるわね」
「打算的なんです」

 富入は小用を終え手を洗うと、ポケットに突っ込んでいた黒革の手袋を付ける。
 そして革靴の音を鳴らして外に出た。
 男の隣に並んだ時は何ら足音もたてなかったから、あの音は意識して聞かせるためわざと響くように鳴らしているのだろう。

 その直後、外から取っ組み合いの喧嘩が始まる音が聞こえ、さしもの男もただ事では無い雰囲気を察した。
 慌てて手を洗い慎重に外の様子を覗えば、ちょうど大柄な男が富入に投げられ地べたに倒れ伏している。

「もう、そういう強引なアプローチって好きじゃないのよね」

 富入はそういいながら、男の腕を押さえつけていた。
 鮮やかな捕縛術により見知らぬ男は身動きもとれないようだったが、それでも必死に逃げようと身体をねじらせている。

 どうしたんですか、富入さん。
 その言葉を飲み込み、男は冷静に状況把握につとめる。

 きっと、この男が自分の後を追跡していた輩に違いない。トイレに入った自分を待ち伏せしていたが、先に出てきた富入を間違えて襲いかかったか、富入に何かしら言われやむを得ず姿を現したのだろう。

 そうだとすると、自分のすべきことは富入に声をかける事ではない。
 通りすがりの第三者として、しかるべき機関に通報すべきだ。

 男はスマホを取り出すと、警察へと連絡する。
 それを見た富入は、片手で「もう大丈夫」「今はこの場を立ち去るように」とジェスチャーを送った。

 先に情報をまとめたデータが入っているロッカーと暗証番号を伝えておいて正解だったな。  そう思いながら男は頷くと、あたかも犯罪に巻き込まれるのを恐れて逃げ出したかのように振る舞って早足で駅に向かう。

 警察は呼んだが、自分と富入が一緒にいるところをあまり見られたくはない。警察と公安は何かと軋轢も多いと聞く。トラブルの火種になりそうな事は避けるのも、協力者の役割だ。

 誰にも後を付けられてないのを幾度も確認し、駅のホームに入った時、男はようやく人心地ついたように深い息を吐いた。

「……驚いたな」

 無意識にそう呟いている自分に気付き、一体何に驚いたのか自問自答する。
 知らない男に後を付けられていた事か。いや、それも当然驚いた。だが、トイレで富入に並ばれた時の方が幾分か緊張感があった気がして、今になって笑えてくる。

「本当に、怖い人だよあの人は」

 男は一人笑うと、深く息を吐くのだった。

 後日、尾行した人物の正体が男に一方的な好意を寄せ動向を探っていたストーカーだった事が明らかになったのだが。

「やっぱり強引な男ってダメよね。アナタも、私みたいに奥ゆかしい方が好きでしょ?」

 なんて富入から茶化されるハメになるのだが、それほど大きな事件にはならずに済んだ事だけは、語っておいてもいいだろう。

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インターネット駄文書き
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紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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