インターネット字書きマンの落書き帳
愛とはしょせんエゴなのだろう。(ヤマアル)
アルフレートくんの事が好きだし、幸せになってほしい。
だけど、自分だけのものにもなってほしい……。
そんな気持ちに揺れているヤマムラさんの話ですよ。
何度も同じようなネタを繰り返す……独り言みたいに小さな声で……。
そう思っても、何度もやりてぇんで許して……許してくれッ……。
保護欲の強い、父性あるヤマムラさんが……好きすぎるんだッ!
すまんな!
だけど、自分だけのものにもなってほしい……。
そんな気持ちに揺れているヤマムラさんの話ですよ。
何度も同じようなネタを繰り返す……独り言みたいに小さな声で……。
そう思っても、何度もやりてぇんで許して……許してくれッ……。
保護欲の強い、父性あるヤマムラさんが……好きすぎるんだッ!
すまんな!
『手の中にある幸福なエゴ』
アルフレートは時々、ひどく寝込む事があった。
熱があるとか咳が出るといった症状はないのだが、どうにも身体の動きが鈍りがちになるのだ。
迷いがあるのか、悩みがあるのか。
そう思って本人にそれとなく聞いて見たが、特に心当たりはないのだという。
ただ漫然と倦怠感があり、何をするにも億劫な気になってあれこれ考え込んでしまい普段より動きが鈍くなるとは話してくれた。
アルフレートの狩りは血族専門。
血族は獣と違い夜ともなれば何処からともなく現れ、当然のように街を闊歩するといった事はない。
平時であれば身を隠し滅多に姿を現さない反面、知性は失っておらず極めて冷静に攻めてくる。
特殊な仕掛け武器は熟練の狩人であっても斃される事がある程の使い手も多い。
判断が鈍っている時に戦うのは得策ではないだろう。
そんな理由から、アルフレートの具合がいかにも悪そうな時は休ませるようにヤマムラは心がけていた。
黙っていればそのまま出かけてしまうのだろうが、ヤマムラが「休んでいろ」といえば足を留める。
「今日は一緒にいるから」といえば確実に横になってくれる。
だからヤマムラはアルフレートの様子に違和感が見えた時は早めに休むよう促すのだった。
「いつもすいません……私がこう寝込んでしまうとヤマムラさんも何も出来ませんよね」
その日、アルフレートは毛布を被りながら申し訳なさそうにそう言った。
見るからに立派な体躯をもつアルフレートにしては弱々しい声を聞き、ヤマムラはアルフレートの頭を撫でてやる。 そうするとアルフレートが幾分か安心したような顔を見せ微かにだが笑うのだった。
「気にしなくてもいいさ。どうせ外は雨だから、出かける予定もなかったしな」
ヤマムラはそう言いながら外を見る。
木でふさがれた窓は激しく雨粒が打ち据え、時折吹き付ける強い風は室内にまるで法螺貝のような音を響かせる。
春の嵐であった。
「すいません、ヤマムラさん……すいません、すいません……」
アルフレートは小声でそう繰り返すうちにうとうとしはじめたのだろう。ヤマムラが顔を見た時は、静かに寝息をたてていた。
外は相変わらず狂ったように風がうなりをあげている。
アルフレートは特に、雨かあるいは雨が近くなると調子を崩しがちだった。
熱や咳といった症状はなくただ倦怠感で動くのが億劫そうといった様子が見られるのは、肉体というより心に影を落としているからだろう。
心の器に罅をもつものは、とりわけ雨風が強い日に寝込みやすいといった話は以前聞いた事がある。
暖かくしたり薬湯を煎じてみたりと色々手を尽くしてみたがアルフレートの調子がよくなる事は一向に無かった。
それは彼が隠している傷や闇がそれだけ大きく、そして深い証拠でもあるのだろう。
ヤーナムに暮すというのは、それほど辛く厳しい日々を強いられるという意味でもある。
最初は、何とかしてやりたいと思った。
限られた時間の中、少しでも多くアルフレートの笑顔を見たいと思っていたからだ。
だが最近になって、この時間も悪くないと考えているヤマムラがいた。
「まったく、君がこんなにも苦しんでいるというのにこの俺ときたら……」
ヤマムラはそう呟きながらベッドに腰掛けるとアルフレートの寝顔を優しく撫でる。
アルフレートの睫毛が微かに揺れるが、起きる気配はない。
今、この時だけアルフレートはヤマムラの傍らにあり、決して何処にも行く事はない。
それは今ならアルフレートの全てを独占できているようで、優越感に近い密かな喜びをヤマムラへと与えていた。
(こんな事を思っているのは口に出してはいえないが……やはり、君が俺の手のなかにあるというのは嬉しいものだな……)
自分だけのアルフレートがここにいる。
自分の手の中にあり、自分の自由に触れる事が出来るアルフレートが。
口ではアルフレートに対して「その笑顔が見たい」と言っている癖に、ただじっと動けずにいる凍えた雛鳥のような彼を愛でているのだ。
限られた時間の中でアルフレートには少しでも幸せでいてほしいという思いに偽りはない。
だが身体が自由にならず、ただ湖に沈む泥のごとく動かずにいるアルフレートを見る事で安心している自分もいる。
言葉とは裏腹の行動に戸惑う気持ちもあるが、やはり傍にアルフレートという花が横たわって存在しているのが嬉しいのは事実だった。
(俺はエゴイストだな。結局のところ、アルフレートの気持ちより自分の気持ちを優先してしまうんだ。アルフレートがこんなに辛そうだというのに……)
そう思いながら、ヤマムラは再びアルフレートの頬を撫でる。
艶やかな肌の上に僅かにのびた髭の感触がざらりと触れ、その指先に気付いたのかアルフレートは目を開けた。
「あぁ……悪いな、起こしてしまったか?」
少し触れすぎたかと思いつつそう問えば、アルフレートはどこか寝ぼけた様子でヤマムラを見たかと思えばふっと笑顔となりヤマムラの指を握りしめた。
「ヤマムラさん、傍にいてください……傍にいてくれる……嬉しい。ヤマムラさん……好きです、好き……好き……」
きっと寝ぼけているからこんな事を言うのだろう。
まるで愛を乞うように同じ言葉を繰り返すその言葉を聞き、ヤマムラは彼の額に口づけをした。
「あぁ、俺も……大好きだよ。君のことが、誰よりも。何よりも愛しい……」
自分の愛情はエゴなのだろうと思う。
だが例えそうであっても、誰よりも彼を愛しいと思っているその事実に偽りはないからヤマムラは握られた指先を暖かく包み込む。
せめて愛しい人が少しでも安らかに眠っていられるようにと願いを込めて。
PR
COMMENT