インターネット字書きマンの落書き帳
雨の匂いを感じる同田貫正国くんのはなし。(少したぬしし)
戦場で隊を任された同田貫正国くんが、雨の気配を感じ取る。
ただそれだけの一幕を書いた作品です。
たぬしし前提ではあるけど、たぬしし要素は薄いかなッ。
とうらぶは、こういった戦の一幕だったり、日常の一幕だったりでも色々な解釈とか書ける部分は楽しいですねッ。
戦うたぬきは美しい!
そう、たぬきだからね!
ただそれだけの一幕を書いた作品です。
たぬしし前提ではあるけど、たぬしし要素は薄いかなッ。
とうらぶは、こういった戦の一幕だったり、日常の一幕だったりでも色々な解釈とか書ける部分は楽しいですねッ。
戦うたぬきは美しい!
そう、たぬきだからね!
『雨の疼きと匂いと』
小高い丘の上で握り飯を食べながら、同田貫正国は時間遡行軍の様子を見ていた。
敵は大ぶりの太刀や大太刀、槍などが多い。
偵察から戻った小夜左文字の報告を受けた同田貫正国は、皆にその場で待機を命じた。
実戦経験の乏しい短刀ばかりを率いた部隊だ。
太刀が獅子王ただ一人しかおらず、打刀の自分を除けばあとは全て短刀の部隊で昼間からやり合うのはやや分が悪いと言える。
「同田貫さん、いつ攻めるの? 相手は向こうから動かないみたいだけど」
時間遡行軍を見つけてから動こうとしない同田貫正国にしびれを切らしたのか、乱藤四郎がそう問いかけてきた。
長い待機時間でつかれて座っていたのか、膝丈ほどのスカートは僅かに土で汚れている。
「なに、じきに仕掛ける。お前たちも準備しとけよ。あと、そうだな……小一時間ほどで出るだろうからな」
それまで微動だにしなかった同田貫正国が当然のようにそう告げたのがよほど不思議だったのだろう。 乱藤四郎は小首を傾げながら問いかけた。
「なんで? なんであと小一時間もまつの? もう結構ここで待ってたから、つかれちゃったよ……それとも、何か理由があるの?」
そして少し乱れた毛先を弄る。
同田貫正国はそんな彼を横に、微かに空を眺めた。
「そうだな……あと小一時間ほど待てばひでぇ雨が降るはずだ。それを待ってんだよ」
「えっ、雨?」
乱藤四郎は驚いて空を見る。 山の中腹から眺める空は、遙か微かに雲が漂うだけに見えた。とてもあと一時間で雨が降るとは思えない程良い天気だ。しかも同田貫正国が言うにはそれがひどい土砂降りになるというのだ。
「全然雨がふる様子なんかないけど、本当に降るの? 同田貫さん」
驚いてそう問いかける彼に、同田貫正国は「まぁ、俺のカンにすぎねぇって言えばそうだけどよ」と、そう前置きしてから続けた。
「この身体になってから気付いたんだが、俺ぁどうやら雨の降る前に傷が疼く体質みたいでな。雨が酷ければ酷い程、傷の疼きも非道ぇんだ。だから来る。間違い無く、ひでぇ雨がな」
ただのカンだ。そう前置きした割りに、同田貫正国の言葉はやけに自身に満ちていた。
それはおそらく何度も積み重ねた経験からの言葉なのだろう。
「わかった、同田貫さんがそう言うならもう少し待つようみんなに言うね」
「あぁ、頼むぜ。雨になったらお前たち短刀に仕事してもらうだろうからな。それまでにちゃんと、飯食っておけよ」
乱藤四郎はひらひらと手を振りながら、短刀たちの元へと走って行く。
今日の遠征でのベテランはこの乱藤四郎と小夜左文字だが、小夜左文字は繊細ではあるのだが口下手であまり他人の世話を焼く方ではない。
戦に不慣れで浮き足立っている短刀たちの面倒を見るのは乱藤四郎の方がよく心得ているように見えたので、不安がる短刀たちの世話は彼に任せる事にした。
「おーい、たぬきー」
乱藤四郎と入れ替わるように、今度は獅子王が顔を見せる。
獅子王は同田貫正国の隣に座ると、ほどけかけた脚絆の紐を締め直した。
「さっき乱から聞いたけど、もうすぐ雨降るんだって?」
獅子王はそう言いながら鼻をひくつかせる。
将軍の太刀だったという育ちの良さと裏腹に、どこか野性味が残る獅子王は状況や戦況の変化にはやけに敏感であった。
「あぁ、たぶんな。傷が疼くんだ、大雨になると思うぜ」
「ふぅん……山の天気は変わりやすいっていうもんな。確かに、土が少し湿ってきたような匂いがする」
獅子王は同田貫正国の言葉を疑っている様子は見られない。むしろ雨が降るのを確信しているような素振りさえ見えた。
「待ってたんだろ、雨を。たぶん、もうすぐ降るだろうから」
「ん……まぁな」
部隊はまだ戦慣れしてない短刀が多く、時間遡行軍は一撃が重い太刀と大太刀の集団だ。普通に戦っていればこちらの被害は甚大になる。
だが土砂降りの雨ならば、ほとんど先も見通せないような雨の中であるのなら、それは夜戦とほとんど変わるまい。
それならば、小回りのきく短刀が多いこちらのほうが幾分か有利になる。足が泥でとられるのなら尚更だ。
「雨かぁ……視界が悪いと思ったより活躍できないかもな」
獅子王も小柄ながら太刀である。夜のように暗い場所や視界の断たれがちな場所では思うように刀を振るえないのは当人も自覚していた。
「あぁ、お前は足がとられてうまく動け無いだろうから、先頭で敵を引きつけていい塩梅に短刀たちまで運んでくれ」
「ひぇっ……俺、泥とか苦手なんだけど厳しい注文するなぁ」
「心配するな、今日はお前の隣に俺がいてやる。お前がしくじっても、俺が何とかしてやるよ」
ぶっきらぼうな物言いだが、獅子王の事を心配しているのだろう。
まだ戦に不慣れなものが多い隊だ。隊長である同田貫正国は勿論のこと、戦い慣れている獅子王の活躍も皆期待しているのだ。
不得手な戦場となっても、堂々たる立ち振る舞いをしなければ新参の刀剣たちが臆してしまう。だからこそ獅子王には先陣を切ってもらおうと思っているし、その隣に自分がいて隊を守ろうという算段からの言葉だろう。
獅子王は、それだけ同田貫正国に信頼されていること。そして自分の隣に同田貫正国がいてくれることが、ただただ嬉しかった。
「わかった。それじゃ、短刀たちにもそれ伝えておくな。作戦、ちゃんと短刀たちに伝えておかないと足並み揃わないだろ?」
「あぁ、そうだな。悪ぃな、頼んでいいか」
「いいよ。たぬきはあんまり説明得意じゃないもんな。俺がちゃーんとみんなに伝えておくから、たぬきも俺の事ちゃーんと守ってくれよ」
「心配すんなって。この俺が戦で遅れをとる事なんてねぇよ」
刀の柄に触れ自信満々に語る同田貫正国の笑顔ほど頼れるものは無い。
獅子王は満足したように頷くと、皆の元へと向う。
その背は同田貫正国の隣にいられる自信と誇り、そして沢山の喜びで輝いていた。
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