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インターネット字書きマンの落書き帳

   
今度の男は殺してくれるのかと考える山ガスの話(松ガス/BL)
罪悪感共鳴BLです。
何いってんだ? いや、俺にもよくわかんねーけどそういっておけばカッコイイと思って。

という訳で、松田×山ガスの話をします。
かつて黒沢と付き合っていて、黒沢から散々虐待されることを愛情だと思わされている……というか、誰かに乱暴にされないと愛しているような気がしない、ってタイプの山ガスの話をしてますよ。

松田にすでに何度も抱かれているし、松田のこと結構好き。
だから何とか松田が僕を殺してくれないかなぁ~と思っているタイプの山ガスが出ます。

あと、松田が古代史よりの博物館職員なので、研究者っぽい風に書いてます。
インテリゴリラ側の松田です。

話全体として この話の黒ガス の流れをひいてますよ。

元カレ黒沢だった松ガスみたい奴~。
おまたせ~♥

ニッチ需要をチャームポイントみたいにして生きてます。


『囀り』

 ベッドに寝転び、山田はぼんやりとてのひらをシーリングライトに掲げる。
 青白いライトの光は元よりあまり外に出ず白い肌をした山田を、病的なまでに蒼白に照らした。

 セックスを終えたばかりだというのに、手首はもちろんのこと首にも肩にも、身体のどこにだって傷らしい傷は残ってない。

 当然だろう。大多数のセックスは愛を確かめ合うもので、お互いの身体を壊れ物のように扱い、退屈なくらい優しく声も漏らさぬほど静かに行われるものなのだ。

 これが当然のこと。
 普通のことだ。

 この7年間、ずっと自分にそう言い聞かせていたじゃないか。

「何やジブン、時々そうやって手を掲げてるけど何か意味あるんか?」

 内心呟く山田に、松田が声をかける。
 事が終わった後、山田は疲れから眠ってしまったのだが松田は起きていたのだろう。どうやら本を読んでいたようで、眼鏡をかけていた。

「うーん。特別な意味はないかな。それより松田さん、わざわざ老眼鏡かけて本読んでるとか、そんな面白い本読んでるの?」
「老眼鏡ちゃうわ。この歳になるとこまい字を読む時、眼鏡がないと何かと面倒なだけや」

 世間ではそれを老眼と言うんだよ。
 そう言いかけて、山田は言葉を飲み込む。
 松田が年齢のことを気にしているのを知っていたからだ。

 自分より一回り年上のこの男は見た目よりずっと若く見えるし、言動も行動もファッションも随分と若い方だろう。
 周囲に若い人間が多いから流行に気を遣って若く見せようとしてる松田を年寄り扱いしてへそを曲げられたら、後でご機嫌取りが面倒だ。

 それに、松田は実際のところかなり若いと思う。
 とりわけ体力に関しては、アラサーと呼ばれる歳とはいえまだ20代の山田を圧倒している。
 子供の頃から野球をやっていたとか、ちょっと格闘技も囓っていたことがあると、酒の席で聞いたことはあるのだが無尽蔵なのかと思うほど体力があるのは事実だった。

 実際、松田に抱かれる時はいつも抱き潰されてしまい、最後はほとんど疲れ果て松田に支えられながら何とか体制を保っているような有り様なのだ。
 下になる山田の方が体力を使うとはいえ、あまりに体力差があり時々満足してもらえているのか心配になる。

 松田の場合、山田に対し何らひどいことをしないからなおさら、その思いは強かった。

 真剣な表情で本を読む横顔は、いかにもヤンチャをしていたガキ大将の面影と違い物静かで大人の雰囲気を抱かせる。
 初めて松田と会った時は、周囲にいる誰に対しても大声を上げ威嚇するよう粗野な言葉をかけていたが、あれは自分が犯人だと疑われる場所にいた自己防衛反応のようなもので、普段はそれほど強い言葉を使うこともなければ態度が大きいという訳でもなかった。

 むしろその生活は地味なくらいで、職場に向かうまでは読書をし、職場では館内の管理の他、研究者の補佐として立ち回り古代史の資料や文献を読みあさる日々を送っているのだから、勤勉で慎ましい生き方といえるだろう。

 この男の人生を、僕が狂わせたのだ。

 山田の胸に、黒い染のような感情が広がっている。
 もし、あの事件がおきなければ松田は今とは違う人生を歩んでいたのかもしれない。
 殺人犯の汚名を着せられることもなく研究を続けていれば、結婚くらいはしていたのだろう。子供だって一人か二人はいてもおかしくない。

 松田はあの事件から自分の環境が大きく変わったのだとよく口にしていた。
 家族や友人、かつての恩師など、連絡が乏しくなった相手も多いという。
 自分の身内だと悟られないよう、もう里帰りすらしてないとも語っていた。

「松田サン、あの時の犯人、僕なんだよ」

 もしそう言ったら、松田はどんな顔をするのだろうか。
 その太い腕で思い切り首を絞めてくれるのだろうか。目を見開き、怒りの形相で散々罵倒し、殴りつけ足蹴にして身体中がボロボロになるまで殴りつけてくれるのだろうか。刃物をもち、胸や背中をめった刺しにして返り血を浴びてくれるのだろうか。

 空想だけで身体中の毛が逆立つ程の興奮と歓喜が身体を包み込む。
 すでに松田に抱かれるのは片手では数え切れない程だが、いつでも優しく決して乱暴には扱わない松田の態度は自分のことを慮ってのことだとわかっていても、どうしても物足りなかった。

 もっとひどいことをして。

 そう願えば、松田も自分の内にある暴力性を多少は発露させるのだろう。
 だがきっと、あくまで山田の感情をごまかすためのポーズだ。
 肌に傷が残らない程度に爪をたて、首筋を甘噛みし、ゆるい力で首を絞める。山田に願われたからするだけの偽りの暴力だ。

 黒沢のように心から渇望した、生と死の狭間に迫るほど責め立てることは決してないのだろう。

 松田は優しく、至って常識のある人間なのだから。

 あぁ、最低だ。また黒沢サンと比べてる。
 過去の男と比べるなんて、僕って本当に嫌な奴。
 それで物足りないとか思ってるなんて、本当に嫌な奴。

 殺してほしいと思っているから、松田サンが殺してくれるのなら、僕が犯人だってバラしてもいい。
 そんなことさえ思っているんだから、本当に本当に嫌な奴。

 心の中で何度も同じ言葉を繰り返す山田の頭を、松田がくしゃくしゃと撫でた。

「何やおまえ、さっきからずーっとこっち見て。まだ何かしてほしいんか?」

 にかっと歯を見せて笑う松田は、自分よりずっと年上なのに少年のように見える。

 あぁ、好きだなぁ、この顔。

 そう思いながら、山田はごろりと横になり松田へ背を向けた。

「別に。ただ、松田さんって物好きだなーって。僕みたいに嫌な奴に付き合ってるんだからさ」

 松田はその言葉に何もこたえず、ただ山田の頭をわしゃわしゃと撫でる。
 こうしているのは幸せだと思った。
 何か特別なことがある訳でもなく、気が向いた時に顔をあわせ、一緒に食事をして、昂ぶったら抱いてもらう。
 大きな変化もないが、小さな幸福がいくつもある。
 多くの人は、これを幸せと呼び、平穏と呼んで、この穏やかな日々の恵みに感謝をするのだろう。

 だが、彼らはすでに平穏から見放され日常に爪弾きにされた存在なのだ。
 冷たく重い人の死が、彼らを平常から遠ざけたのだから。

 だからいつも、いつでも、心の奥底で囁く声がする。

 僕が殺した。
 あなたの人生をメチャクチャにしたのは僕なんだよ。

 そう告げた時の松田がどうか怒りで我を忘れ、常識すら曖昧になって自分を縊り殺し、正しく犯罪者として裁きを受けることで、一生自分を背負って欲しい。
 そうなって、くれないだろうか。

 きっと、そうなる。
 そうなるように、仕向けてみせる。
 自分なら、それが出来るはずだから。

 山田の胸の内で囁くその声は、いつだって天使の囀りのように美しい声をしていた。

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