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インターネット字書きマンの落書き帳

   
悪い教師に拐かされるあらいくんと助けに入るシンドーさん(BL)
新堂さんと荒井くんが付き合ってます。(挨拶)

今回の話は、男子高校生を監禁してエロい写真をバンバン撮り逆らえなくなった状態で無体を強いるクズの美術教師が荒井くんの身体に目をつけ教室内で乱暴を働くも、それに気付いた新堂さんが助けに来て事なきを得る話です。
(挨拶から一気に突き放すよう語られる作者の狂った精神状態)

荒井くんをイチャイチャさせる普通の話を書きたいと思うのに、いつも気付くと手が犯罪めいた話を書いているんです!
本当なんです! これでも普通のデートとかイチャイチャを書きたいんですよォ!

でも犯罪めいた行為により追い詰められる荒井くんは健康にいいと思うので元気になってください!
(自分の好きな話は栄養素があるに違いないと信じて疑わない顔で)




『恐怖と安堵の狭間』

 荒井昭二が声をかけられたのは友人の時田を手伝って映画の編纂をし視聴覚室から出て間もなくの事であった。

「悪いけどそこのキミ、荷物を運ぶ手伝いをしてくれないか」

 話しかけてきたのは見知らぬ教師だった。絵の具で汚れたエプロンにポケットからは使い込まれた筆やペインティングナイフが覗いている事から美術教師かあるいは美術部の指導をする臨時講師だろうというのは分かるが 少なくとも荒井は知らない顔である。
 とはいえ鳴神学園は生徒だけではなく教師も多く、授業を受けていなければ一度も顔を合わせないまま卒業する教師だっているくらいだ。 知らない教師に声をかけられるというのも別段これが初めてではなかったので特に気にせず男へと近づけばそこには画材道具や小型の石膏像が乱雑に入れられた箱がいくつも置かれていた。

「一人で運べると思ったんだけど、どうにも重すぎてね……悪いけど手伝ってくれないか? 美術室まででいいんだけれども」

 男が荒井よりも大柄であり美術教師というよりもアメフトやラグビーのコーチと言った方が納得するような体型であったがいくら身体が大きくてもこれだけの段ボールを一人で一度には運べないだろう。
 美術室は特別棟のなかでもいっとうに遠くにありうんざりするほど長い廊下を歩かなければいけないのだが、男は明らかに荒井へ向けて話しかけているのだから聞こえなかったフリは出来そうにない。また、荒井は時田よりも早く作業を終えたので先に帰る所だったから傍にいる他の生徒もいない。
 早く帰るつもりがとんだ貧乏くじを引かされたとは思うがそれを断るほど仕方ないだろう。  教師直々に頼まれたことを断るほど急ぎの用もなかったし、荒井が断るより先に男は「ではこれを頼むよ」と言いながら重い段ボールを二つも手渡してきたのだから断る暇さえないかった。
 荷物をもたされた荒井は気乗りしないまま長廊下を歩く。目の前がよく見えなくなるほどの荷物を持たされているというのに隣を歩く教師らしい男は石膏像を一つ担いで荒井と並び歩いていた。

「悪いねぇ、あれこれ運ぶものを選んでいたら存外にものが膨れてしまって……キミが来て助かったよ。ほら、鳴神は広いだろう? ここから特別棟まで行くのにも随分距離がある。一人で運ぶなら何度往復しなければいけないんだって思っていた所なんだ」

 男は人なつっこい笑顔で荒井へ話しかけてくる。その身体から古い油が酸化した独特の腐敗臭が漂っていた。
 悪いと思うのなら荷物を一つくらい多めにもって欲しいと思うのだがそんな事を言っても仕方ないだろう。荒井は愛想笑いもせず荷物を持つと記憶にある美術室への道を早足で進んでいた。一刻も早く雑務を済ませたかったのは新堂との約束があったからだ。
 約束といってもただ新堂の部活動が終わるまで待って途中まで一緒に並んで歩くだけのことだったがそのたかだか20分程度の帰り道が今の荒井にとっては退屈な学校という空間に来ようと思うだけの意欲になっていたのは新堂と会う時間が今の彼にとってそれほど有意義なものだったからだろう。
 自分でもそんな時間を大切に思える心があった事には驚いているがこのくすぐったいような気持ちに浸るのは嫌いではなかった。

「急ぎの用とか無かったか? ……呼び止めて悪かったな」

 教師はさして悪びれた様子もなくそんな事を聞く。もし急いでいたといってもきっとかまわず呼び止め荷物を持たせていただろうに。そんな思いはおくびにも出さず荒井は冷めた表情のまま告げる。

「いえ、大丈夫です。特に用事もなかったので……」

 本当は早く帰りたいところだったし呼び止められたのは迷惑でしかなかったが露骨にそれを示しても今更仕方が無いことだ。変に不機嫌になり教師の不況を買うのも面倒になる。うわべだけの返答でその場を取り繕うことでとにかく早く仕事を済ませたいというのが荒井の秘めた本音であった。
 特別棟にある美術室は生徒通用口からも特に離れた辺鄙な場所にあり放課後という事もあってか人の気配もせず、鬱蒼と生い茂る木々のせいで周囲がやけに暗くなっているのと持たされた荷物の重さも相まって荒井の気持ちを憂鬱にさせていた。

「よし、着いた……荷物はそこの机に置いてくれ」

 散々と歩かされ美術室に到着した時、梢の隙間からは微かに西日が差し込んでいた。周囲の木々はまるで目隠しのよう生い茂っているこの教室でも西日が届くのかと思いながら中へ入ればデッサンでもしていたのか教室内の机はほとんどが後ろに引っ込められている。
 まさかここに来てまだ少し歩かねばならないとは。荒井は内心の舌打ちをこらえ教室の奥まで行き重い荷物を机にのせた。

「ありがとう、荒井くん。悪いね、キミの方に沢山荷物を持たせてしまって」

 ようやく重い荷物から解放され帰れる。その安堵を得るより先に不穏な違和感が脳内へと広がっていく。荒井はこの教師のコトを知らない。鳴神学園は広く生徒も教師も沢山いるから接点のない教師の顔など知らなくても当然だ。だから相手も自分のことなど知らないと思っていたのだが、どうやら向こうはこちらのコトをすでに知っている様子だった。
 だが廊下では一度もこちらの名前を呼ぼうとはしなかったのは何故だろう。まるで一度も見たコトがないように振る舞っていたのにどうしてそんな真似をしたのだ。 まるで荒井の事を知っている、その事実を隠していたようではないか。
 荒井は美術教師の知り合いなどいなかった。美術ジャンルに興味がないという訳ではないし手先もどちらかといえば器用な方だ。絵でも造形物でも頼まれれば人並みに作る事は出来る。
 だがこれまでコンクールのように人前へ作品を出すような事は一度たりともしたことはなかった。それは自分の絵などはあくまで趣味の制作であり優劣を競うような場に出す優等生の作品などとは縁遠いと思っていたからというのもあるし、目立った行動は避けたいというのもある。
 だから数多の生徒がいる鳴神学園で美術教師に名前など覚えてもらえる理由は何もないはずなのだが、この教師はたかが一生徒である荒井の名前を知っていたのだ。

「待ってください。どうして先生が、僕の名前を?」

 不穏な思いを打ち消そうと声をかけるが、逆に嫌な予感を裏付けるかのように扉の鍵が閉まる音が響いた。

 「どうして鍵を閉めたんですか……先生? あなたは……」

 荒井はすぐに教室の様子を探る。 入ってきた扉にはあの教師がいるからそちらから逃げようとしても容易く捕まってしまうだろう。それにたった今鍵までかけられているのだから鍵を開けるのに手間取ってしまったらやはり簡単に捕縛されてしまう。
 だが奥の扉は下げられた机のせいで塞がっていて簡単に開きそうにはなかった。少なくとも机を乗り越えてドアまで行かなければならない。それなら窓から出ればと思うが教室の窓は荒井の腰あたりの高さにある。小柄な荒井では窓を開けて外に出るにはそれでこそ勢いつけて窓ガラスを破るくらいの覚悟は必用だろう。
 声をあげるにしても特別棟のなかでも離れたところにある美術室では助けを呼ぶ声が誰かに気付かれる可能性など限りなく低い。
 それらをすべて理解した上で、荒井ははっきりと認識した。
 ここは猟場だ。あの男が意図的に作り出した罠であり生徒を陥れなぶり楽しむために作られた遊技場なのだ。
 荒井の事を知っていたのも最初から獲物として狙っていたからで、歩く最中に荒井のことなど知らないふりをして見せたのはターゲットである自分を罠へと誘導するためだ。
 きっと荒井に声をかけた時から入念に仕組まれた計画だったに違いない。聡いが故に荒井はすぐにそれに気付いてしまった。

「はは、紹介されたんだよ。キミみたいな生徒にね……私の題材に相応しいような、綺麗で華奢で従順な男の子はいないか……って聞いたらキミの名前が出てきたんだ。いやぁ、まさか二年生でもキミみたいな逸材がいるなんて、私としたことがすっかり見落としていたよ。この学校は生徒が沢山いるから仕方ないとはいえ、キミほど綺麗な子を見逃していたなんて我ながら大失態だ」

 見知らぬ男は嫌な笑顔を浮かべると唇を舌でぬらす。
 無駄だとわかっていても助けを呼ぶべきだろうか。それとも今から無茶苦茶に暴れて抵抗すれば逃げおおせる事が出来るだろうか。相手は大柄だから今から走れば逃げられるのではないか。まだ何もされていないが明らかにこの男は異常だし、これから何をされるのか想像に難くは無い。様々な考えが巡るがどれも現実的ではない方法ばかりであり、考えれば考えるほどこの罠が巧妙である事ばかりを疾患した。
 そんな荒井の肩を男は強く掴む。グローブのような大きい手は荒井の肩をしっかり固定しそれだけで歩くのも億劫になるほどの重みがあった。

「荒井くん、先生の芸術になってみる気はないか? キミは美しい顔をしている。神々の愛した成長途中の身体を芸術として留めてみたいとは思わないかなぁ」

 張り付いたような笑顔を向け迫る男の吐息が肌へとかかる。強い悪意と下卑た欲望の入り交じった視線が荒井の身体を包み込み危機感を募らせた。
 逃げないといけない、声をあげなければ。無駄かもしれないが誰か来てくれるかもしれない。少なくとも拒絶の意思は伝わるはずだ。
 そうは思うが人間はいかに危険な時でもとっさに声など出すコトは出来ないものだ。これほどまでに強い危機感を抱いているというのに声は喉で留まり思ったように出てはくれなかった。

「何を、するんですか……やめてください……大きな声出しますよ……」

 乾ききった口から出たのは弱々しい声だった。腕から逃れようと男の手をはたくも丸太のように太い腕は依然として動かず、荒井の身体を捕らえたままである。
 こんな警告などきく相手だとは思えなかったがそれでも先に警告をしたのは男に言い聞かすというよりも自分自身に大声を出すよう暗示をかける意味合いが大きかったろう。
 だが男は意に介さずといった様子で笑うとむしろその言葉を待っていたかのように笑って見せた。
 やはりこの相手は危険だ。誰かが聞いてくれる保証はないが声をあげよう。考えている合間に状況は刻一刻と悪くなっていく。
 そう思い口を開くより先に視界が大きく揺れ、気付いた時は蛍光灯が目に映っていた。その後、背中と足に鈍い痛みがある。蹴倒され仰向けにされたのだというのに気付くほんの数秒の合間で男はすでに荒井の上へ乗り、その喉元にペインティングナイフを突きつけた。

「大きい声を出されるのは少し困るから、静かにしてくれないかな? 先生もね、できるだけ荒井くんの身体を傷つけたくはないんだ。芸術性を損なう傷はキミのその陶磁器のような肌に相応しくないだろうからねぇ」

 言葉こそ優しいが声色には凶器と熱情が入り交じっている。それはすでに常識や倫理などを飛び越し自分の欲望と本能のままに生きている獣の唸り声に等しかっただろう。 ペインティングナイフの切っ先はこちらへ向いている。それは絵の具がこびりついた画材道具ではあり普通のナイフのように尖っている訳でもなければ切れ味が鋭い訳でもないがもし抵抗したのなら躊躇いなく切るだろうし刺すだろう。男からはそれだけの狂気を充分すぎるほどに感じられたから、荒井は声を飲み込む押し黙る事しかできなかった。

「物わかりの良い子だねぇ荒井くんは。でも先生は、もっと怯えて怖がるキミの姿が見たいんだよなぁ。怯えて許しを乞い涙を流す綺麗な顔はきっともっと美しいと思うんだよ」

 そして言うが早いかペインティングナイフを突き立て手慣れた様子でワイシャツを切り裂く。おおよそ切るのに向いていない道具だというのにボタンは綺麗にはじけ飛び荒井の白い胸元が西日の下へと晒された。
 シャツを裂く時にナイフの先端が肌に触れたのだろう。縦についた傷からはじわりと血がにじみ、痛みと恐怖に羞恥心が入り交じった感情が傷を中心に広がっていった。

「やめてください! 僕は……こんな事ッ……」

 思わず声をあげれば、男は舌なめずりをして嬉しそうに頷く。

「そう、その表情だ。先生はね、キミたちくらいの年頃の……自分の身体に性的な価値があるというコトなんて微塵も思ってなかったキミたちがいざ自分が性的に見られているコトを知った時に見せる恐怖の顔を見ると創作意欲がそそられるんだよ」

 そのような創作意欲など枯れてしまったほうが世のためだと心の底から思ったがはねのけようにものしかかる相手の重みから身動きすらとれそうにない。
 成人した大柄な男にとって荒井など血肉のある人形程度に容易く壊せる脆い存在なだろう。

「や、めてください……やめ……っ、僕はあなたの創作になんて興味もない……」

 何ら抑止力にならないのをわかっていながらそう声を出すのがやっとの姿を見ると男はますます嬉しそうに笑い、血の滲む胸元へと舌を這わせた。
 生暖かく不愉快な濡れた舌が身体中を這い回り、吐き気を催す程のおぞましさが脳の芯まで響いていく。

「恐れ拒むその顔はとても素敵だよ、荒井くん。キミは肌が白くとても綺麗だ……どうしてそんな綺麗な顔を隠しているのかな? その顔を隠してなければもっと早くキミのコトを芸術的に彩るコトも出来たのに……」

 男はどこか自分に酔ったような言葉を並べると、荒井の胸に滲む血を美酒でも味わうかのように舐り続けそれでも足りなくなったかのよう肩へと軽く噛みついた。

「痛ッ……」

 声をあげ身体を震わせるがやはり男は動かない。
 噛み傷から血は珠のように滲み、男はそれを聖なる葡萄酒でも飲むかのように啜るよう舐め続けていた。

 せめてこの舌が新堂のものだったらどれだけ良かったろう。
 同じ事でも新堂にされている時は微塵も嫌だとは思わないし新堂と交わす肌も唇も心地よく温かいというのに、知らない相手にされるというのはこんなにも不快なのか。

「……荒井くん、キミさぁ。まさかこういう事初めてじゃない……とか、ないよね」

 はだけた胸を味わい尽くすように舐っていた男は不意に顔をあげるとさも不愉快そうにこちらを見ていた。何て顔をしているんだ、不愉快なのはこっちだというのに。それでも男はかまわず続ける。

「胸元に痣があるんだけど、キミは不純異性交遊を楽しんでいるのか? 最近の高校生はませてるとは思うけど、ダメだろキミの体は少年と青年の揺らぎにある一等に美しい身体なんだ。女の身体にのぼせ上がって貪るようなセックスはキミには似合わないよ……あぁ、でも男の良さをまだ知らないんだから仕方ないね。私がちゃんと教えてあげるから……」

 そうやって早口でまくし立てたのは、身体に残ったキスマークに気付いたからだろう。
 それはいつかの夜に新堂が残したものだ。普段の新堂は体育の授業もあるからと目立った所に所有印を残したりはしないのだがあの時はお互い夢中になっていたからつい、残してしまったのだ。
 自分より先に誰かとセックスしている事が男にはショックだったのだろう。
 今時、高校生にもなればそれなりの性知識もある。恋人関係になれば自然とセックスの事も考えるだろうからいわゆる清らかな身体である方が珍しいだろうと思うが、男は癇癪をおこしたようナイフを喉元に突きつけ不愉快そうに顔をゆがめた。

「どこの売女が! どこのアバズレがキミの体を犯したっていうんだ? ……まだその女を愛してるとか言うんじゃないよねぇ? ……だったら殺してきてあげるんだけど」

 ナイフの側面で荒井の頬を叩きながら、男は喉を鳴らすように笑う。
 女ではないのだが、そんな事を伝える必用もないだろう。それにキスマーク一つでこれだけ激昂するのなら裸になったらそっとうするのではないか。
 新堂は見えない所により多く所有印を残すから、太ももにはさらに多くの痕が残っているからだ。
 男はやや興奮気味に早口でまくし立てたがやがて「いや、私が間違った認知を正しくしてあげないとね、教育者なんだから。女の身体よりイイことを覚えさせて、私が導いてあげなければ」なんて独り言を繰り返しまたこちらへと向き直った。

「取り乱してごめんね、荒井くん。先生は少しばかり嫉妬してしまったよ……うん、これから先生は芸術のため、キミのまだ知らなかった世界を開いてあげるから安心するといい。当然それは痛みも伴うし怖いとも思うだろう。嫌がって泣き叫び顔を歪ませることだってある。そういった表情もあますところなく写真におさめてキミの成長として残してあげるから心配しなくていいよ。それで、気持ちよくてドロドロになってしまう顔に変わった写真と見比べていこう。そうさ、キミは今からエロスとヒュプノスの芸術品として捧げられるんだ」

 そうして尻ポケットに入れたデジタルカメラを取り出し、また喉を鳴らすように笑う。
 やはりこの男は手慣れている。日常的にこうして品定めした相手を連れ込み似たようなことをしているのだろう。そういえば男は「紹介された」と言っていたが、他に似たようなコトをされた誰かが解放する条件に自分の情報を売ったのかもしれない。だがこのような下劣な男にいいようにされ、それから逃れる方法があれば相手が約束を反故にする可能性があったとしてもそれにすがるのは仕方ないように思えた。
 目の前の男はそれほどまでに醜く歪んだ存在でありおおよそ誰かに愛されるような人間ではなかったからだ。

「……クソ野郎ですね、あなたは」

 荒井の口から、ついその言葉が出る。腹が立ったのもあるし、相手があまりに自分勝手なのもあるだろう。当然男は腹を立てたように口をとがらすと荒井の頬を叩く。それはよく吠える犬を殴って躾けようとする身勝手な飼い主にも似た行動であった。

「反抗的なのはいいけど、先生の悪口はいけないぞ。先生は尊敬されるべき存在で、キミはそんな私のモチーフとして生きる権利を得た幸福な生徒なんだ」

 男はこの領域なら自分に逆らえないことを知っているのだろう。
 絶対的な力の差を前に男はただ優越感を抱きながら相手の同意など意に介すこともなく身体を貪り快楽を蹂躙していくのだ。
 一体誰がこんな男を尊敬するというのだ。誰がこんな人間を教師だと思うものか。いくら抱かれそれが快楽を与えたとしても快楽がそのまま幸福に転じる訳でもない。
 拒絶の気持ちから、荒井は口に含んでいた唾を吐きかけていた。今の彼に出来る精一杯の抵抗だ。唾を吐きかけられ、男は濡れた頬を拭うとその顔を笑顔から怒りの表情へ変えていった。

「唾をかけるなんて下品だなキミは! ……優しくしてやろうと思ったが気が変わった。今すぐ裸にして屈辱のまま犯し貫いてやるから覚悟しておけこのクソガキがっ……」

 一瞬、身体にかかる重みが消え逃げる隙かと思ったがすぐに髪を掴まれ頭を床へと押しつけられる。 逃げようと藻掻いた身体はただうつ伏せにされただけで、頭をしっかり押さえ込まれたまま無理矢理ズボンのベルトをはずそうとする音だけが聞こえた。

「や、めっ……やめ、やめてくださ……やめろ、やめ……」

 声をあげようとすればますます頭を強く床へと押しつけ呼吸さえ苦しくなる。 実際、首を絞められているのだろう。少しずつ意識が朦朧とし声を出すのも億劫になる。
 気を失ってしまうのか。それならそのうちに全て終わっている方が幾分か気が楽だ。死んでしまうのは嫌だがこんな男にいいようにされ汚された身体を新堂の前に晒すくらいならいっそ殺された方がマシなのかもしれない。そんな考えがぼんやり浮かぶなか。

「カギなんてかけてんじゃ無ぇぞオラァっ!」

 威勢の良い声と同時に、扉が開く音がした。 いや、扉が開くというより壊れるという音の方が近いだろう。流石に男も驚いたのか押さえつける力が緩み、半ば朦朧とする意識のまま荒井は這いずり何とかその腕から逃れることに成功した。
 それでも強く締められた首は呼吸をするのを忘れ、逃れ壁を背もたれにし咳き込んでもなお立つほどの力が戻らないまま視線を音の方へ向ければそこには仁王立ちをする新堂誠の姿があった。
どうして新堂がここにいるのだろう。何故この場所にいるのがわかったのだ。疑問はいくつもあったが、驚いたのは男も同じようだった。

「誰だ? 今日は美術部の活動もないはずだが……」

 あくまで教師としての体裁を保とうと毅然とした態度で立ち上がる男を前に、新堂は威嚇するようにらみつける。刺すような殺意は荒井の場所にまで伝わった。

「ンで、テメェは部活動も無ぇ日に生徒ツレこんで何してんですかセンセ? ……荒井は美術部でもなければオタクの授業も受けてないと思うんスけど」

 声だけでも強い怒りと殺意にも近い衝動がハッキリとうかがえる。 これは怒っているなんて生やさしい言葉では済まない。相手の出方次第では今すぐ息の根を止めるくらいの意思さえも感じる。荒井さえも見た事がない本気でネジが外れそうな時の新堂だった。
 男も新堂のただならぬ気迫に気付いたのか、新堂から視線をそらし俯くとあれやこれやと言い訳じみた言葉ばかりを並べた

「いや、違うんだ。その、ちょっとした事故で……別に何かするつもりはなかったさ。でも、ちょっと転んでしまって、その……ごめんね、荒井くん……」

 か細い声は先ほどまでの強気な姿は見えず、大柄に思えた身体もまるでネズミのように小さく怯えて見える。勢い勇んで飛び込んだ場所が冷水ですっかり意気消沈したようだ。
 もともと自分より弱そうな生徒を相手に無体を強いるような男だ。自分より強い相手を前にするととたんに萎縮してしまう意気地なしなのだろう。そのような相手だからこそ慎重にこざかしく立ち回っていたのだろうが。

「はぁ、事故ですかー。せんせ、事故で生徒のシャツ破って、身体に怪我させてェ……いいんですかねぇ? おい、荒井。立てるか?」

 気付けば新堂は荒井の傍まで来て手を伸ばしていてくれた。そんな時でも男を前に油断せず様子を窺っている。 今、男がどんな行動をとったとしても新堂の間合いだ。男は確かに大柄で体格だけなら新堂よりもずっと良いだろうが格闘技の経験者でありボクシング部のキャプテンとして今もなお現役で拳を振るっている新堂が本気で殺す目をして睨んでいるのだ。
 喧嘩慣れしているような不良でも新堂へ向かっていくのはよほどの物好きか死にたいヤツだとまで言われる不良学生が多い鳴神学園でも屈指の武闘派は伊達ではない。荒事に慣れた不良たちでさえ立ちすくむ程の恐ろしさなのだから、弱い相手をなぶることしか出来ない卑怯者など睨まれたらただ小さくなることしか出来ないのだろう。
 むしろこのままでは怒りに流された新堂が何をするか分からない。

「あ、ありがとうございます……新堂さん。僕は大丈夫です……本当に、何もされてませんから……どうか、穏便に……」

 荒井は彼の手をとって立ち上がるとそのまま縋るように抱きついた。 新堂の怒りは明白だ。もし荒井が留めておかなければ爆発した感情の赴くまま相手を殴るだろうし今の勢いであれば確実に死に至らしめると、そう思ったからだ。
 新堂も自分自身の衝動に気付いてはいるのだろう。荒井が無事だったのを見て幾分かは怒りがおさまったようではあるが、なおも納得しかねるといった顔で男の方を一瞥する。

「以前からアンタの趣味についてのウワサは俺も聞いてますよ。お盛んなのは結構。ですが、生徒に手ぇ出したり嫌がる生徒相手ってのは流石に趣味悪いんじゃないですかねぇ……」
「いえ、そんなことは……嫌がる生徒になんて……」

 男は身体を小さくし、俯きがちに喋る。その姿はさっきまで王のように振る舞っていたふてぶてしさなど微塵も無く、不快さより哀れみが勝るほどにしおれた態度へと変貌していた。
 最もその態度も一時しのぎのものでしかなさそうだが。

「とにかく、コレは俺のツレなんでね。手ぇ出さないでもらえますかね? ……次ィこいつにちょっかい出したら命ねぇと思え? な?」

 後半のドスがきいた声に、男はとうとうその場で土下座をしはじめていた。 こんなにも小心者が自分をいいようにしていたのだと思うと腹が立つが今はそれ以上に新堂が何をしでかすか分からない恐怖が勝る。

「……新堂さん。もう、いいです……大丈夫ですから」

 荒井は新堂を留めるつもりで強く手を握れば新堂もまたその手を握り返すと荒井のはだけた上着を隠すようにジャージを羽織らせた。
 何とか気持ちを収めてくれたかのだろう。そう思ったのもつかの間、新堂は土下座する男の横っ腹を勢いよく蹴飛ばせば男はその場で嘔吐をし転がって苦しむ。それを見て新堂はようやく満足したように笑うと荒井の肩を抱いた。

「よし、行くぞ」

 大丈夫だろうか。仮にも教師を思いっきり蹴飛ばしていたが。 あんなクズ男は痛い目を見るくらいがちょうど良いとは思うが新堂に何かしら処罰が下るのは嫌だったし、教師への暴力だったら充分退学の理由にもなるとは思ったのだが。

「あのクズはよォ……前から気に入った顔の生徒連れ込んでタチの悪い『悪戯』をしてンだ。すぐにお前のコト助けられなくて悪かったと思ってるけどよ……お前が非道ェことされてるって証拠が無ェと教師殴ったクズ扱いされるだろ? ……あいつがしでかしてる証拠、スマホに録画してて遅くなった。悪ィな……」

 だが一応は対策をしていたらしい。腹を蹴飛ばしたのは擁護できないが荒井を助けようとしたという理由があれば幾分かこちらに分はあるだろう。

「以前からそういうウワサのあるヤツだったんだ、アイツ。だからコッチが証拠握ってる限りはもう手ぇ出しては来ねぇよ……どういう伝手があるのか、気付いたらちゃっかり非常勤講師に戻ってきてたりするクズだけどな。あぁ……坂上には伝えてなかったが、お前には言ってなかったよなアイツのこと。お前は二年だからスルーされてるんだろうと思って油断してたぜ、クソ……」

 廊下に出た後も新堂は荒井の手を握っていた。鳴神学園は生徒数の多い学校だが今の特別棟に人はなく二人の足音だけがやけに響いている。
 それにしても、そんなに非道い教師が潜伏しているとは。怪異だけではなく犯罪者まで飼っているのは流石におかしいと思うが道理が存在しない学校なだけある。

「いくら鳴神でもやっていいコトと悪い事があるでしょう……」
「まったくだ……だがもう二度とお前には手ぇ出してこねぇよ。結局アイツも仕事失いたくねぇ小心者だからな……今回も大事にしたくねぇから黙ってるさ」

 それでは後にまた誰かが犠牲になるのではと思うが、ここは鳴神学園だ。自分の身を守れない生徒は容易く蹂躙されるような魔境なのだ。荒井は深く考えないコトにした。

「それより、お前……本当に大丈夫だったか? ひでぇツラしてるけどよ……」

 そこで新堂は立ち止まり、荒井の方を見る。
 荒井からすれば新堂の鬼気迫る表情の方がよほど心配だったし後で教師を闇討ちでもしないかと不安になるくらいだったが今は新堂の目がこちらに向いているのは嬉しかった。

「えぇ、僕は別に……」

 大丈夫、何もなかった。そう言おうとした荒井の思いと裏腹に、その身体は急に支えを失ったかのようにその場へと座り込んでいた。 助かったという安堵の後、恐怖心が急に溢れてきたのだ。震えが止まらず、立ってもいられなくなる。

「お、おい……大丈夫か? ……仕方ねぇな」

 新堂は腰が抜けてしまった荒井の身体を抱きかかえると傍にある空き教室へ入っていった。 幸いに鍵もかかってないその部屋はただ広いだけの多目的室らしく今は誰もいない。少なくとも廊下に座り込んでいるよりは人目につかないだろう。

「おい、大丈夫か荒井? 怪我とかしてねぇよな」
「は、い……ただ、急に……怖く、なってしまって……」

 ただ広いだけの教室は机や椅子もなく、ひとまず床に座らせて問いかければ荒井の目から涙がこぼれおちる。 動揺と恐怖を畳みかけられた後も冷静なふりをしていたが緊張の糸がぷっつり切れあふれだす感情をおさえるコトができなかった。

「あ。あぁ……あぁっ、新堂さっ……」

 抑えてもこぼれ出す涙に荒井自身も困惑していた。ここまで自分が恐怖していた事実も驚いたが新堂を前にして明らかに安心している自分にも戸惑っていたのだ。

「おい、そんな……泣くなよ、って言っても無理だよなァ……くそ、ほら、こっち来い」

 新堂はそう言い、荒井の身体を抱きしめる。暖かな体温と新堂の匂いに包まれ、荒井の心は少しずつ恐怖と緊張感が薄れていく。

「泣き止むまでこうしててやるから……安心しろ。何処にも行かねぇよ、何処にも……」
「はい……ありがとう、ございます……」

 そうして新堂の胸へと顔を埋めれば新堂は恐る恐る身体を抱きしめ頭を撫でてくれる。 力加減が分からないのか壊さないよう優しく触れるそのぬくもりはくすぐったい程に暖かい。

「……他に俺に出来る事があるなら、何でもしてやるからよ」
「そう……ですか。じゃぁ……」

 荒井は新堂と顔を近づけ、彼の顎に口づけする。

「キスしてください。新堂さんから……大丈夫です、あいつにはされてませんから……」

 妖しく笑う荒井を前に、新堂は一瞬戸惑う。だがすぐに優しく笑うと「仕方ないヤツだな」そんな事をつぶやいて静かに唇を重ねた。
 舌を絡め違いの思いを混ざり合わせる最中、何とも言えぬ幸福が身体の中を駆け巡る。
 きっとあの男からすればこんな事おおよそ芸術的ではない子供の戯れにすぎないだろう。だが何ら芸術性もないまま唇を重ね舌を絡めるキスは何より幸福と安堵で満たされるのだった。

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インターネット駄文書き
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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