新堂さんと荒井くんが恋人同士として付き合っている世界線のはなしをします。
（挨拶と幻覚を同時にお出しするスタイル）

今回の話は「明日の休日はデートだけど荒井にウチ泊まるか聞いてみるか……そうしたら迎えに行く手間は省けて楽なんだけど、あいつが来るワケねぇか……親もいるしな……」と思いつつ誘ってみたら「いいですね、行きますよ。迷惑じゃないのでしたら……」と思いがけずOKを頂いてしまい困惑しつつもちょっと嬉しい一夜をともにするはなしです。

いつもあらすじが具体的！
お出しするものをあらかじめ伝えておかないと落ち着かないタイプの人間です。

全体は新堂さん視点の一人語りで書いてありますぞい。

『温もりと微睡みと』

　悪いな荒井、さっきからお袋が珍しがって何度も見に来るもんだから落ち着かねぇだろ。
　俺が普段つれてくる奴らとお前とじゃ随分と系統が違うからよっぽど不思議なんだろうぜ。
　ありゃ、俺がイジメでもしてるんじゃないかって疑ってのかもしれねぇな……わざわざケーキまで買ってきて様子見にくるとは、そんなに実の息子が信じられ無ぇもんかね？

　最も、いつも来る連中は耳にピアスの穴ぁバチバチに開けてるか信号機みたいな髪の色に染めてるような奴らばっかりだ。
　何もしてねぇのに避けて通られてる自覚もあるからよ。
　お袋も俺らが何してるか気になってるけど怖くて近づけなかったのかもなァ。

　でもよォ、見た目が派手な連中は見た目こそワルそうな奴らだがそこまで怖い奴らじゃ無いんだぜ。
　むしろビビりだったり繊細だったり、見た目よりずっと怖がりな奴らが多いくらいだ。
　お前ほど怖ェ奴はいないぜ、本当に……これが「人は見かけによらない」って奴か。
　普通に見えるからって安全な奴だとは限らない、ってハナシだよな。

　普段は何してるんだって？
　別にお前とやってるコトそこまで変わってねぇよ。ゲームしたりしょうもねぇハナシで盛り上がったりしてな。
　何だ、酒飲んだり煙草とかヤベェ薬でも使って遊んでるんじゃないかとでも思ったか？
　一応これでもスポーツマンだからな、酒も煙草もしねぇんだよ俺は。
　そういうのをやると肺活量が落ちるって言うし、酒は百薬の長なんて言うらしいが飲まない方がよっぽいど健康にいいんだろ？
　仮にもボクシング部のキャプテンが身体壊してまでやるほどのアソビじゃねぇよな、そんなもんは。 いくら俺でも流石にそこまでリスクを負うようなアソビはしねぇよ。
　どうだ、思ったより真面目なもんだろ？

　しかし荒井お前本当にゲーム上手ぇな……いやァ、助かったぜ。
　何度狩ってもドロップしなかった逆鱗がようやく出来たからやっと装備がそろうってもんだ。
　持つべきモノは友達、ってやつだな。

　……何だよ、友達ってのは不服か？
　それだったら何て呼んで欲しいんだよ。
　恋人か？　彼氏か？

　……どっちもしっくり来ねぇんだよな。
　確かに、お前は他の奴らとは違う「特別」なのは間違い無ぇんだがな。

　恋人というのは少しくすぐったいような気持ちになるし、ガラじゃねぇ。
　でもな、彼氏だと思うのもまだ抵抗があるんだよな。
　お前のコトが嫌いだってワケじゃねぇ。むしろ自分じゃ抑えきれねぇ気持ちにどうしていいか分かんねぇくらいだ、が……。

　何だろうな、俺でもお前との関係をうまく説明できねぇな。
　友達じゃ物足りねぇが彼氏という感覚じゃねぇ……恋人がイチバン近いんだろうが今まで付き合った女たちとお前は違うんだよ。
　お前は……絶対に他の奴らに取られたくねぇ。独占欲か？　支配欲？　執着ってのか。
　わからねぇんだが……荒井、お前は俺のこと何だと思ってるんだ？

　……何だ、お前もよくわかってないのか？
　もっとも、いちいちこの関係に名前をつける必用もないのかもな。

　俺にとって荒井が荒井であるのは代わりねぇし、お前にとって俺は「新堂さん」のままなんだろ？

　今は曖昧のままで、すぐに終われば夢とか気の迷いだったで済むかもしれねぇ。
　長く続けばもっとふさわしい言葉が見つかるかもしれねぇ。
　その時までは……そうだな、友達ってのとは違う。それだけ分かっていれば充分かもな。

　なぁ、荒井……いま、いいか？
　……心配すんなって、親がいる時に無茶しねぇよ。俺だって親に見られてしたくなんか無ぇし、そのつもりだったら親がいない日に呼ぶっての。

　今日だって誘ってはみたけどよ、まさか本当に来るとは思わなかったぜ？
　明日はお前と出かける予定だったろ。だから声をかけてみたけど親がいるのに本当に来るとはな。

　それなら何で声をかけたのかって？
　そりゃ、夜のうちから一緒にいけばお前を迎えに行く手間も省けるだろ？
　それだけ長くいられるってのも悪くねぇ……って、俺にそう言わせたいのか？

　だったら趣味悪ィぜ……だが言って欲しいなら言ってやる。
　少しでもお前と長く一緒にいたいからだ……なんてな。
　どうだ？　これで満足か？

　……お、おいッ！
　言わせておいた癖にお前が恥ずかしがるなよ。言ったこっちがバカみてぇじゃ無ぇか……ほら、顔あげろ。真っ赤になってるんじゃ無ェよな。
　お前さ、普段は無表情で何考えてんのか分かんねぇように見えるけど結構顔に出る方だよな。
　前髪やけに長ぇのも顔隠すためか？　ほら……おい、逃げンなこら！　いいだろ、俺になら見せてもよ。

　まじまじ見られるのは恥ずかしい？
　おまえ、俺の前でもっと恥ずかしいカッコしたコトだってあるだろうが……。

　あー……けどそうだな、普段とそれとじゃ違うっちゃそうだ。 酒を飲んでるワケじゃ無ェが、しらふだと恥ずかしいってのはあるよなァ。
　でも、今はいいだろ？　俺しかいねぇんだし……お前とこうしてる時間は悪く無ぇからよ……。 　

　……ん、そうだな、遅くなってきたしそろそろ寝るとするか。
　布団敷くから荷物どかすぞ。床で寝るコトになるけど別にいいよな？

　はぁ！？　……一緒に？
　っバカか、おまえ……分かってンだろ親父もお袋もいるんだぞ今日は。
　確かに親父たちは一階だから気づかねぇかもしれねぇし部屋は鍵もかけられるけど、お袋がなぁ……やけに早く起きる時があるんだよ。俺だって別に朝が弱いってワケじゃ無ェんだけどな。

　あぁ、そりゃ……ただ一緒に寝るだけってんなら別にいいだろうが、そうはならねぇだろ？
　お前、我慢できるのかよ。

　……俺次第だって？
　バカなこと言ってんじゃ無ェ、とっとと寝るぞ。明日はアサイチで出かけんだからな……。

　おい……おい、荒井。もう寝たか？
　……そっち行っていいか？ 　心配すんな、何もしねぇよ……。

　俺のベッドだと狭ェからお前が落ちるといけねぇだろ？
　そこまで寝相悪くねぇつもりだが、二人で寝るには小さいベッドだ。それなら俺がそっちに行った方がいいもんな。

　だから何もしねぇって……何だ、さっき一緒に寝るか聞いたのは冗談だったのか？
　いや……せっかくお前がいるんだからよ。
　何もしなくてもそばにいたい……なんて俺が思うのはおかしいと思うか？

　……だったらそっちに行かせてもらうぜ。
　何もしなくてもよ……こうしているだけで落ち着くってのは、案外と悪くねぇもんだしな。