インターネット字書きマンの落書き帳
欺瞞の秘跡(サクラメント)
俺がどんな風に作品を書いているのか……。
俺も自分のメモとして残しておきたいな、と思ったので、オリジナルの短編を書いてみたよ。
孤独と絶望で街を彷徨う男が、廃教会で出会った謎の青年。
彼との会話で男が「救済」される、カルト系の宗教ホラーだよ。
制作過程は、ツイッタに載せてるから興味があったら見てね!
今回は、1時間で書いて、1時間で推敲してるよ。
ホラーなので人を選ぶ作品なんだけどね。
じわ……と嫌な気持ちになってくれたら嬉しいんだよ。
俺も自分のメモとして残しておきたいな、と思ったので、オリジナルの短編を書いてみたよ。
孤独と絶望で街を彷徨う男が、廃教会で出会った謎の青年。
彼との会話で男が「救済」される、カルト系の宗教ホラーだよ。
制作過程は、ツイッタに載せてるから興味があったら見てね!
今回は、1時間で書いて、1時間で推敲してるよ。
ホラーなので人を選ぶ作品なんだけどね。
じわ……と嫌な気持ちになってくれたら嬉しいんだよ。
『欺瞞の秘跡』
廃教会に立ち入ったのに、深い理由などはない。
強いて言うのなら、雑踏から離れ思案に耽りたいと思ったからだろう。
だが、都会はどこにも人がいる。
他人に無関心なくせに、どこにでも人の視線があり、誰もが聞き耳を立てているのだ。
いや、それが錯覚だというのは自分でもわかっている。
人は、他人のことをうっすら嫌っているものだ。だからこそ、他人の領域に入ろうとはせず、人と向き合おうとしない。
俺はただ、逃げ場所を探していただけだ。
街の中にいて、うっすらと人の気配を感じながら、辛うじて誰かとつながっている。
淡い期待を抱く距離感で、覚悟をしたいと思ったからだ。
――人を、殺す覚悟を。
俺は――孤独だった。
幼い頃、母が再婚してから愛情を受けられずにいた。
学校生活はうまくいかず、ひどく虐められていた。
高校を卒業し、家から追い出されるような形で寮付きの仕事をはじめたが、物覚えが悪く口下手な俺は周囲に溶け込めず、すぐに逃げるよう職場を去った。
それから、職を転々とした。
人並みに恋をしたいと思い奔走したこともあるが、全て徒労に終わった。
金もない、見た目も悪いの俺を相手にする奴など、誰もいないのだ。
同じ年頃の連中は、当然のように恋愛し、当然のように結婚し、家庭をもち子供を育てている。
俺を虐めていた連中すら、普通に生きていられるのだ。
それなのに、どうして俺だけがこんなにも惨めで、こんなにも孤独なのだろう。
俺は、多くを望んではいない。
人並みの幸せ。誰かが寄り添い、些末な言葉を交わして、僅かにふれ合い心を満たす。
そんなささやかな願いさえ、抱いてはいけないのだろうか。
俺にとって生きることそのものが、絶え間ない苦しみの連続だった。
一体俺が、何をしたというのだ。どこかで間違えたのか。
因果応報という言葉が本当なら、どうして俺を虐め、俺の尊厳を蹂躙した連中が平和に過ごしている?
例えそれが俺の宿業だとしても、もう十分苦しんだ。
だから、もう終わらせたいと思う。
だが、報われたいとも思う。
この俺が、この不条理な世界に、生きていた証を立てることができるとするのなら――。
――人を殺す。
殺した罪で、俺は俺自身の存在を証明する――。
それくらいしか、方法がない。
だから、それくらいしてもいいだろう。
覚悟を決め、思い切り息を吸う。
廃屋に漂う塵や黴の不快な臭いが肺を満たしていった。
「告解が必要ですか?」
その時、不意に背後から風が吹く。
黄金色に輝いた麦畑と、それを照らす太陽のイメージが一瞬脳裏によぎる。温かで力強い風だ。
一体、誰だ。いや、『何』だ――。
振り返った俺の前に、静かな笑みを浮かべた青年が立っていた。
当然、知らない顔だ。神父だとか牧師だとか、そういう風体でもない。廃屋に迷い込んできたという様子でもない。
「怪しいモノではないですよ。私は――」
青年は、俺の前であれこれ語る。だが、頭には何も入ってこない。
ただその所作だけを、俺はぼんやりと眺めていた。
こちらに手を向ける仕草は、白鳥の羽ばたきのように清廉だ。
祝福の鐘のように鳴る声は俺の脳を震わせ、鬱屈した心を晴らしていく。
誰だか。いや、『何』だかわからないが、内側から安寧が広がり、肌を震わせた。
「……告解?」
俺は、恐る恐る声を出す。
喋っただけで睨まれるような日々を続けていたから、他人と喋るのが恐ろしかった。
それに、この人に嫌われたくない。
畏れから自然と小声になる俺を、青年は決して責めることはなかった。
「はい――」
青年は、告解とは何なのか滔々と語る。
どこにでもあるパーカーにどこにでもあるジーンズといういたって普通の姿をしているのに、その肌は青白い月光のように輝いている。
俺は、僅かに天を仰いだ。
礼拝堂と思しき場所に置かれた長机は全て腐り落ち、十字架がかかっていたと思われる壁には微かな十字の痕しか残っていない。
かつては立派なステンドグラスがあったと思われる窓ガラスは割れ、枠組みだけになっている。
それでも、ここは聖域だ。
いま、この青年が舞い降りたのだから、間違い無く聖域だろう。
「……俺の。どうか、俺の話を聞いて、聞いて……くれますか」
俺は自然と、頭を下げ、胸にたまった澱を全て吐き出していた。
――愛されたかった。
――信じてほしかった。
――人並みに、生きていたかった。
何も手に入らない虚無感だけしか胸にはないと思っていたのに、驚くほど言葉が湧き出てくる。
そうか、俺はこんなにも、渇望していたのだ。
生きている苦痛から解放されたい。
生きていることを赦されたい。
俺はずっと、ずっとそれを願っていたのだ。
青年は、俺を何ひとつ否定しなかった。
つっかえつっかえに出る言葉も、ボソボソとしか喋れない態度も、まともに目を見て話せないことも。
途中で泣き出す俺の涙を拭うことさえ躊躇わなかった。
頬に触れた指先は温かく、夜の闇にあっても紛れもなく灯火がある。
全て語り終えた俺の前に、青年はそっと手を差し出した。
「……心配しないでください」
声が、耳から入り胸へと染みる。
廃教会は相変わらず黴臭いのに、春の芽吹きが如く柔らかな風が俺を満たしていった。
あぁ――俺は。
「私は、あなたの罪を全て赦します」
「たとえ神が赦さなくとも――」
「私があなたの全てを受け入れましょう。ですから、どうか……」
俺はきっと――。
「どうか、清らかなままでいてください」
――俺はきっと、この人に出会うために生きていた。
※※※
それからの記憶は、ひどく曖昧だ。
ただ、心は穏やかで満たされている。
日々つきまとっていた焦燥もなければ、ぼんやりとした不安も、一人である孤独や絶望も、もうどこにもない。
俺は、あの人に赦されたのだから、当然だ。
だからこそ、俺は清らかでなければならないのだ。
あの人が赦したのは、清らかな俺だ。
罪を吐露し、今までの生き方を享受できなかった時の俺ではない。
全てを理解し認め、受け入れた今の清らかな俺だけが、あの人に受け入れられたのだ。
人生において、本当の理解者に会えるのは奇跡のようなものだろう。
そして俺は、その奇跡に触れた。
だから――。
祝福の賛美歌が聞こえる。
歓喜が胸に満たされる。
期待と、昂揚と、清らかである自分という絶対的な価値に胸を躍らせながら、自分の首に縄をかける。
ざらりとした荒縄が首の周りに触れ、俺の首に小さく傷をつけた。
だがどうでもいい、些細なことだ。
「光あれ!」
俺は高らかに叫ぶと、勢いよく足元の台を蹴り飛ばす。
体重の全てが、細い荒縄にかかり首を締め上げる中、俺は満ちゆく光の一つとなった。
廃教会に立ち入ったのに、深い理由などはない。
強いて言うのなら、雑踏から離れ思案に耽りたいと思ったからだろう。
だが、都会はどこにも人がいる。
他人に無関心なくせに、どこにでも人の視線があり、誰もが聞き耳を立てているのだ。
いや、それが錯覚だというのは自分でもわかっている。
人は、他人のことをうっすら嫌っているものだ。だからこそ、他人の領域に入ろうとはせず、人と向き合おうとしない。
俺はただ、逃げ場所を探していただけだ。
街の中にいて、うっすらと人の気配を感じながら、辛うじて誰かとつながっている。
淡い期待を抱く距離感で、覚悟をしたいと思ったからだ。
――人を、殺す覚悟を。
俺は――孤独だった。
幼い頃、母が再婚してから愛情を受けられずにいた。
学校生活はうまくいかず、ひどく虐められていた。
高校を卒業し、家から追い出されるような形で寮付きの仕事をはじめたが、物覚えが悪く口下手な俺は周囲に溶け込めず、すぐに逃げるよう職場を去った。
それから、職を転々とした。
人並みに恋をしたいと思い奔走したこともあるが、全て徒労に終わった。
金もない、見た目も悪いの俺を相手にする奴など、誰もいないのだ。
同じ年頃の連中は、当然のように恋愛し、当然のように結婚し、家庭をもち子供を育てている。
俺を虐めていた連中すら、普通に生きていられるのだ。
それなのに、どうして俺だけがこんなにも惨めで、こんなにも孤独なのだろう。
俺は、多くを望んではいない。
人並みの幸せ。誰かが寄り添い、些末な言葉を交わして、僅かにふれ合い心を満たす。
そんなささやかな願いさえ、抱いてはいけないのだろうか。
俺にとって生きることそのものが、絶え間ない苦しみの連続だった。
一体俺が、何をしたというのだ。どこかで間違えたのか。
因果応報という言葉が本当なら、どうして俺を虐め、俺の尊厳を蹂躙した連中が平和に過ごしている?
例えそれが俺の宿業だとしても、もう十分苦しんだ。
だから、もう終わらせたいと思う。
だが、報われたいとも思う。
この俺が、この不条理な世界に、生きていた証を立てることができるとするのなら――。
――人を殺す。
殺した罪で、俺は俺自身の存在を証明する――。
それくらいしか、方法がない。
だから、それくらいしてもいいだろう。
覚悟を決め、思い切り息を吸う。
廃屋に漂う塵や黴の不快な臭いが肺を満たしていった。
「告解が必要ですか?」
その時、不意に背後から風が吹く。
黄金色に輝いた麦畑と、それを照らす太陽のイメージが一瞬脳裏によぎる。温かで力強い風だ。
一体、誰だ。いや、『何』だ――。
振り返った俺の前に、静かな笑みを浮かべた青年が立っていた。
当然、知らない顔だ。神父だとか牧師だとか、そういう風体でもない。廃屋に迷い込んできたという様子でもない。
「怪しいモノではないですよ。私は――」
青年は、俺の前であれこれ語る。だが、頭には何も入ってこない。
ただその所作だけを、俺はぼんやりと眺めていた。
こちらに手を向ける仕草は、白鳥の羽ばたきのように清廉だ。
祝福の鐘のように鳴る声は俺の脳を震わせ、鬱屈した心を晴らしていく。
誰だか。いや、『何』だかわからないが、内側から安寧が広がり、肌を震わせた。
「……告解?」
俺は、恐る恐る声を出す。
喋っただけで睨まれるような日々を続けていたから、他人と喋るのが恐ろしかった。
それに、この人に嫌われたくない。
畏れから自然と小声になる俺を、青年は決して責めることはなかった。
「はい――」
青年は、告解とは何なのか滔々と語る。
どこにでもあるパーカーにどこにでもあるジーンズといういたって普通の姿をしているのに、その肌は青白い月光のように輝いている。
俺は、僅かに天を仰いだ。
礼拝堂と思しき場所に置かれた長机は全て腐り落ち、十字架がかかっていたと思われる壁には微かな十字の痕しか残っていない。
かつては立派なステンドグラスがあったと思われる窓ガラスは割れ、枠組みだけになっている。
それでも、ここは聖域だ。
いま、この青年が舞い降りたのだから、間違い無く聖域だろう。
「……俺の。どうか、俺の話を聞いて、聞いて……くれますか」
俺は自然と、頭を下げ、胸にたまった澱を全て吐き出していた。
――愛されたかった。
――信じてほしかった。
――人並みに、生きていたかった。
何も手に入らない虚無感だけしか胸にはないと思っていたのに、驚くほど言葉が湧き出てくる。
そうか、俺はこんなにも、渇望していたのだ。
生きている苦痛から解放されたい。
生きていることを赦されたい。
俺はずっと、ずっとそれを願っていたのだ。
青年は、俺を何ひとつ否定しなかった。
つっかえつっかえに出る言葉も、ボソボソとしか喋れない態度も、まともに目を見て話せないことも。
途中で泣き出す俺の涙を拭うことさえ躊躇わなかった。
頬に触れた指先は温かく、夜の闇にあっても紛れもなく灯火がある。
全て語り終えた俺の前に、青年はそっと手を差し出した。
「……心配しないでください」
声が、耳から入り胸へと染みる。
廃教会は相変わらず黴臭いのに、春の芽吹きが如く柔らかな風が俺を満たしていった。
あぁ――俺は。
「私は、あなたの罪を全て赦します」
「たとえ神が赦さなくとも――」
「私があなたの全てを受け入れましょう。ですから、どうか……」
俺はきっと――。
「どうか、清らかなままでいてください」
――俺はきっと、この人に出会うために生きていた。
※※※
それからの記憶は、ひどく曖昧だ。
ただ、心は穏やかで満たされている。
日々つきまとっていた焦燥もなければ、ぼんやりとした不安も、一人である孤独や絶望も、もうどこにもない。
俺は、あの人に赦されたのだから、当然だ。
だからこそ、俺は清らかでなければならないのだ。
あの人が赦したのは、清らかな俺だ。
罪を吐露し、今までの生き方を享受できなかった時の俺ではない。
全てを理解し認め、受け入れた今の清らかな俺だけが、あの人に受け入れられたのだ。
人生において、本当の理解者に会えるのは奇跡のようなものだろう。
そして俺は、その奇跡に触れた。
だから――。
祝福の賛美歌が聞こえる。
歓喜が胸に満たされる。
期待と、昂揚と、清らかである自分という絶対的な価値に胸を躍らせながら、自分の首に縄をかける。
ざらりとした荒縄が首の周りに触れ、俺の首に小さく傷をつけた。
だがどうでもいい、些細なことだ。
「光あれ!」
俺は高らかに叫ぶと、勢いよく足元の台を蹴り飛ばす。
体重の全てが、細い荒縄にかかり首を締め上げる中、俺は満ちゆく光の一つとなった。
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