インターネット字書きマンの落書き帳
かわいくて可愛くない後輩の話(眉ガス/BL)
たまには、ほのぼのでいちゃいちゃする話を書こうかな。
こうして情緒をアップダウンさせることで、「整う」ってわけ!
という訳で、何となく恋心を自覚するタイプの眉崎と、一切そういう気は無い無慈悲な山田ガスマスクの話をかきました。
眉崎×山ガスは、眉崎がそれなりに山ガスのこと好きだし大事なんだけど距離感がわからない。
山ガスは眉崎はどうせ自分のこと離れるだろうから予防線で酷いこと言う、みたいな距離感なので、山ガスの辛辣な態度は「好きになりたくないから」の現れです。
好きになりたくないから、近づかないで。
そうやって人を試すように拒絶している事実をここで明らかにして、読む人の情緒を最初から刺しましょう!
こうして情緒をアップダウンさせることで、「整う」ってわけ!
という訳で、何となく恋心を自覚するタイプの眉崎と、一切そういう気は無い無慈悲な山田ガスマスクの話をかきました。
眉崎×山ガスは、眉崎がそれなりに山ガスのこと好きだし大事なんだけど距離感がわからない。
山ガスは眉崎はどうせ自分のこと離れるだろうから予防線で酷いこと言う、みたいな距離感なので、山ガスの辛辣な態度は「好きになりたくないから」の現れです。
好きになりたくないから、近づかないで。
そうやって人を試すように拒絶している事実をここで明らかにして、読む人の情緒を最初から刺しましょう!
『かわいげ』
目を開ければ、シーリングライトの光が淡く光る。
見覚えのない天井に困惑しながら辺りを見渡せば、そこは5Sが活動拠点にしているマンションの一室だった。
頭がやけに重く、動くのも億劫だ。
昨晩は上客が来て、景気よく金を使ってくれた。その勢いに乗って、少し飲み過ぎたかもしれない。
眉崎は起きようと試みるが、身体は思うように動かない。
――くそ、だから酒は嫌なんだ。
本来、あまり酒には強くない。
ただ、飲んでも顔に出ないから、いくらでも勧められてしまう。自分の体質を恨みながら、眉崎はそのまま目を閉じた。
水を飲みたいが、身体を動かせない。
自宅ではなく5Sのマンションにいるのも、こちらの方が近いからだろう。
歩くのもおぼつかなくなり、緊急避難としてやってきたのだ。
帰りの記憶は曖昧だが、何となくそう思うのは、似たようなことがもう幾度もあったからだ。
酒には気をつけろと、黒沢からは散々注意されているのだが――。
「仕方ないだろうが、ホストなんだぞ? 飲まなきゃ仕事にならねーっての」
誰に聞かせるわけでもなく、一人呟く。
すると――
「まーたそんなこと言ってる。そういう態度だから黒沢サンに怒られるんだよ」
すぐ近くで、馴染みある声がする。
目を開け、声の方を見れば、作業用のパソコンとにらめっこをしている山田の姿があった。
「なんだ、山田……いたのかよ」
「いたよ。何なら、眉崎サンがグデグデに酔っぱらってソファーまで運んだの、僕だから。感謝してよね」
カタカタとキーボードを叩く音がやけに響く。
山田は、5Sの活動において各々のメンバーが自由に出したアイディアを企画や台本としてまとめるのを主な仕事にしていた。
動画を作る際に最初にやる作業であり、複数のアプローチを必要とするため、マンションに詰めて徹夜で作業するのもよくある光景だ。
エアコンすらないボロアパートに住んでいるので、5Sのマンションにいる方が心地よいというのも理由の一つだろう。
「あー、山田。そこにいるなら、水持ってきてくれねぇ?」
眉崎はソファーに寝転がったまま、片腕で目元を押さえる。
頭の奥底がジンジンと痛み、まだ立ち上がれそうにない。
「何言ってんの。自分で取ってきなよ。僕より眉崎サンの方が冷蔵庫近いし」
だが、山田はパソコンから目を離そうとしない。
――なんて奴だ、こっちは苦しんでるというのに。優しさってものがないのか。
眉崎は舌打ちしたまま、ソファーで横になる。
動くにはまだ身体がだるい。
「そうだなー、眉崎サン。ちゃんとお願いしたら取ってきてあげてもいいよ。『カワイイ山田くん、お願いだからお水を取ってきて』とか言ってよ」
眉崎が動けないのがわかっているのか、山田は茶化すように笑う。
本当に生意気で、悪辣で、可愛げのない後輩だ。少しばかり才能があって、文章力があって、動画編集などもこなせるからっていい気になっている。
黒沢の片腕のように可愛がられているのも気に入らない。
最初は地味なスタッフの一人という扱いだったのに、どんどん垢抜けて、コアなファンに人気があるというのも気に入らない。
見るからに陰気で擦れたこの男が、どうして人気があるっていうんだ。
顔もスタイルも自分の方がいいというのに――。
「誰が言うかよ、バーカ。テメェみたいなうっすい塩顔、どこにでもいるじゃねぇか」
「あー、ひどいなー。僕、傷ついちゃった」
タン、とキーボードを打ち、山田は身体をぐぐっと伸ばす。
そしてのろのろと椅子から立ち上がった。
「んじゃ、そういうわけで。おつかれー」
「おい、どこ行くんだ山田……」
「どこって……帰るんだけど? 一通り、作業終わったし」
待て、ここに具合の悪い自分がいるじゃないか。
それを置いて帰るのか? 本当に、人の心がないのか?
「いや、待てよ山田。俺を置いていくな。見ろ、俺を。見るからに具合が悪そうだろうが。それを置いて行くとかお前……」
慌てて身体を起こそうとするが、思うように動かず、心と身体の動きが噛み合わなかったせいでソファーから転げ落ちる。
――なんてザマだ。この俺が、こんな醜態を晒すなんて。
これも全て、あの山田のせいだ。共感性もなく協調性もないあいつが悪い。ちょっと見たらこちらの大変さくらい察するものだろうに。
頭の中ではいくらでも悪態が湧き上がるというのに、身体は思うように動かなかった。
悔しい。普段の眉崎だったらとっくに山田の頭を叩いていただろう。
だが今、一人になるのは嫌だ。
具合が悪いのは本当だし、誰かと喋っている方が気が紛れる。
「あぁ! くそ、わかったよ! かわいいかわいい山田くん! 置いていかないで、水を取ってきてください! ……ほら、これでいいんだろッ!」
床に伏せながら思いっきり声を張り上げれば、頭の上から声がした。
「本当に言うんだ。眉崎サン、思ったより弱ってる? かわいー」
顔を上げれば、眉崎の顔を覗き込む山田がいた。
しゃがんで頬に両手を当て、笑う姿は小憎らしい表情のはずなのに――。
「……お前の方がカワイイだろうが」
どこかあどけなさを残す笑顔を前に、眉崎は本心からの言葉を漏らす。
そうだ、コイツは「かわいい」のだ。黒沢がそばに置いて信頼するのもわかる。嫌な奴なのに、どこかかわいい。その可愛さを利用することもあるが、大体は無自覚にかわいいからタチが悪い。
「あはは、そんなに褒めなくてもいいってば。眉崎サンが必死なのはわかったから」
山田は冷蔵庫までペタペタ歩くと、冷たい水のボトルを差し出す。
「はい、どーぞ。具合が良くなるまでそばにいてあげるけど、あんまり飲み過ぎちゃダメだよ」
あぁ――腹が立つ。
生意気で、辛辣なこの男が、どうしてこんなにもかわいいのだろう。
「おう、ありがと……な」
眉崎はゆっくり起き上がると、差し出されたボトルを手に取る。
微かに触れた指先は、普段より熱を帯びていた。
目を開ければ、シーリングライトの光が淡く光る。
見覚えのない天井に困惑しながら辺りを見渡せば、そこは5Sが活動拠点にしているマンションの一室だった。
頭がやけに重く、動くのも億劫だ。
昨晩は上客が来て、景気よく金を使ってくれた。その勢いに乗って、少し飲み過ぎたかもしれない。
眉崎は起きようと試みるが、身体は思うように動かない。
――くそ、だから酒は嫌なんだ。
本来、あまり酒には強くない。
ただ、飲んでも顔に出ないから、いくらでも勧められてしまう。自分の体質を恨みながら、眉崎はそのまま目を閉じた。
水を飲みたいが、身体を動かせない。
自宅ではなく5Sのマンションにいるのも、こちらの方が近いからだろう。
歩くのもおぼつかなくなり、緊急避難としてやってきたのだ。
帰りの記憶は曖昧だが、何となくそう思うのは、似たようなことがもう幾度もあったからだ。
酒には気をつけろと、黒沢からは散々注意されているのだが――。
「仕方ないだろうが、ホストなんだぞ? 飲まなきゃ仕事にならねーっての」
誰に聞かせるわけでもなく、一人呟く。
すると――
「まーたそんなこと言ってる。そういう態度だから黒沢サンに怒られるんだよ」
すぐ近くで、馴染みある声がする。
目を開け、声の方を見れば、作業用のパソコンとにらめっこをしている山田の姿があった。
「なんだ、山田……いたのかよ」
「いたよ。何なら、眉崎サンがグデグデに酔っぱらってソファーまで運んだの、僕だから。感謝してよね」
カタカタとキーボードを叩く音がやけに響く。
山田は、5Sの活動において各々のメンバーが自由に出したアイディアを企画や台本としてまとめるのを主な仕事にしていた。
動画を作る際に最初にやる作業であり、複数のアプローチを必要とするため、マンションに詰めて徹夜で作業するのもよくある光景だ。
エアコンすらないボロアパートに住んでいるので、5Sのマンションにいる方が心地よいというのも理由の一つだろう。
「あー、山田。そこにいるなら、水持ってきてくれねぇ?」
眉崎はソファーに寝転がったまま、片腕で目元を押さえる。
頭の奥底がジンジンと痛み、まだ立ち上がれそうにない。
「何言ってんの。自分で取ってきなよ。僕より眉崎サンの方が冷蔵庫近いし」
だが、山田はパソコンから目を離そうとしない。
――なんて奴だ、こっちは苦しんでるというのに。優しさってものがないのか。
眉崎は舌打ちしたまま、ソファーで横になる。
動くにはまだ身体がだるい。
「そうだなー、眉崎サン。ちゃんとお願いしたら取ってきてあげてもいいよ。『カワイイ山田くん、お願いだからお水を取ってきて』とか言ってよ」
眉崎が動けないのがわかっているのか、山田は茶化すように笑う。
本当に生意気で、悪辣で、可愛げのない後輩だ。少しばかり才能があって、文章力があって、動画編集などもこなせるからっていい気になっている。
黒沢の片腕のように可愛がられているのも気に入らない。
最初は地味なスタッフの一人という扱いだったのに、どんどん垢抜けて、コアなファンに人気があるというのも気に入らない。
見るからに陰気で擦れたこの男が、どうして人気があるっていうんだ。
顔もスタイルも自分の方がいいというのに――。
「誰が言うかよ、バーカ。テメェみたいなうっすい塩顔、どこにでもいるじゃねぇか」
「あー、ひどいなー。僕、傷ついちゃった」
タン、とキーボードを打ち、山田は身体をぐぐっと伸ばす。
そしてのろのろと椅子から立ち上がった。
「んじゃ、そういうわけで。おつかれー」
「おい、どこ行くんだ山田……」
「どこって……帰るんだけど? 一通り、作業終わったし」
待て、ここに具合の悪い自分がいるじゃないか。
それを置いて帰るのか? 本当に、人の心がないのか?
「いや、待てよ山田。俺を置いていくな。見ろ、俺を。見るからに具合が悪そうだろうが。それを置いて行くとかお前……」
慌てて身体を起こそうとするが、思うように動かず、心と身体の動きが噛み合わなかったせいでソファーから転げ落ちる。
――なんてザマだ。この俺が、こんな醜態を晒すなんて。
これも全て、あの山田のせいだ。共感性もなく協調性もないあいつが悪い。ちょっと見たらこちらの大変さくらい察するものだろうに。
頭の中ではいくらでも悪態が湧き上がるというのに、身体は思うように動かなかった。
悔しい。普段の眉崎だったらとっくに山田の頭を叩いていただろう。
だが今、一人になるのは嫌だ。
具合が悪いのは本当だし、誰かと喋っている方が気が紛れる。
「あぁ! くそ、わかったよ! かわいいかわいい山田くん! 置いていかないで、水を取ってきてください! ……ほら、これでいいんだろッ!」
床に伏せながら思いっきり声を張り上げれば、頭の上から声がした。
「本当に言うんだ。眉崎サン、思ったより弱ってる? かわいー」
顔を上げれば、眉崎の顔を覗き込む山田がいた。
しゃがんで頬に両手を当て、笑う姿は小憎らしい表情のはずなのに――。
「……お前の方がカワイイだろうが」
どこかあどけなさを残す笑顔を前に、眉崎は本心からの言葉を漏らす。
そうだ、コイツは「かわいい」のだ。黒沢がそばに置いて信頼するのもわかる。嫌な奴なのに、どこかかわいい。その可愛さを利用することもあるが、大体は無自覚にかわいいからタチが悪い。
「あはは、そんなに褒めなくてもいいってば。眉崎サンが必死なのはわかったから」
山田は冷蔵庫までペタペタ歩くと、冷たい水のボトルを差し出す。
「はい、どーぞ。具合が良くなるまでそばにいてあげるけど、あんまり飲み過ぎちゃダメだよ」
あぁ――腹が立つ。
生意気で、辛辣なこの男が、どうしてこんなにもかわいいのだろう。
「おう、ありがと……な」
眉崎はゆっくり起き上がると、差し出されたボトルを手に取る。
微かに触れた指先は、普段より熱を帯びていた。
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