インターネット字書きマンの落書き帳
存在しないもしもの世界の野村と山ガスの話
また、見えない行間(もの)を見ようとしているッ……!(挨拶)
というわけで、天誅事件で殺されたのが野村じゃなくて松田だったら。
そんな世界線の話を……します。
松田を殺した山ガスを恨んで監禁しているヤバい野村が出ますよ。
でも、このくらいのヤバさは日常なので、どんどんヤバいの倫理観を踏み越えていきましょう!
というわけで、天誅事件で殺されたのが野村じゃなくて松田だったら。
そんな世界線の話を……します。
松田を殺した山ガスを恨んで監禁しているヤバい野村が出ますよ。
でも、このくらいのヤバさは日常なので、どんどんヤバいの倫理観を踏み越えていきましょう!
『シシュポスの救済』
腫れた両足は熱を帯び、動かそうとすれば激しい痛みを覚える。
昼夜問わず雨戸が閉ざされ、防音のためウレタンのような素材で包まれた狭い部屋にいると時間の感覚も狂う。
いったい何日。あるいは何ヶ月、何年、この部屋に閉じ込められているのだろう。
何もわからないまま、山田の日々は苦痛と屈辱に満たされていた。
「起きてるの? ……それじゃ、始めようか」
ベッドの上で短い鞭をしならせ、柔らかく笑う男は野村健吾というらしい。
山田にとって知らない男だ。
わかっているのは、自分が殺した男の知り合いということくらいでそれ以上のことは今でも知らない。
野村にとって、山田に自分が誰であるか語る必要などないのだろう。
大事なのは、山田が人殺しだということ。
野村にとって大事な存在を、山田が殺したということだけなのだ。
背中を打たれ、腹を打たれ、体中の皮膚が裂けて赤むくれになるさなか、幾度も悲鳴を上げて幾度でも許しを請う。
これが拷問であれば、求められる秘密や情報を告白すれば解放されるのだろう。
だが、野村の中に許しは存在しない。
彼はいつも鞭を振るい、裂けた皮膚の返り血を拭いながら罵声と懇願を投げつけるのだ。
「謝るなら、返してくださいよ。ねぇ、松田さんを返してください」
冷めた目は、いつも山田を見ていない。
ずっと前に失って、それでも未だに陰の消えない松田の幻影を追い続けるのだろう。
組み伏せられ、また殴られて。
傷が増えるたび、この痛みは理不尽であり決して終わらない刑罰なのを改めて実感した。
何だよ、無理だって。
覆水盆に返らずっていうじゃないか。
起きてしまったことは、かえられないんだ。もう取り返しがつかないんだよ。
そんなの誰だって、わかっていることじゃないの?
僕が「松田」って人を殺してしまったのは、もう取り返しがつかないんだ。
こうやっていくら僕を殴って、監禁して、罵倒して壊そうとしても。実際そう遠くもなく、僕は壊れてしまうんだろうけど。
それがわかった上で、この人が自ら罪を重ねるほどの価値が、死んだ松田さんにはあったのかな。
どうなんだろう。
ねぇ、野村さん。
あなたの中にいる松田さんは、僕の人生を奪い壊すほどの価値があったのかな。
僕が死ぬか壊れるかして、何も動かない玩具に成り下がったとしたら、あなたは少しでも報われるのかな。
やったよ、松田さん。敵をとったって、笑っていられるのかな……。
散々打ち据えられた体の痛みをじんじんと感じながら、血ぬれた肌を指先でいじる。
体の上にある痛みに敏感な箇所だけをえぐっているから、痛みのわりに傷はひどくない。
にじんだ血を指先でねぶり、山田は暗がりの向こうを見る。
扉は、微かに開いている。
野村は床の上で一人、小さくうずくまっていた。
「松田さん……松田さん、松田さん……僕は……どうしたら、いいんだろう。どうすれば……」
泣いている。迷っている。
あれだけ山田の体を傷つけて、心を縛り付けて、散々ともてあそんで、十分すぎるほどの実験と検証をしているはずなのに、野村もこれが何のための行為なのか、わからないのだ。
きっとこれからも、わからないままなのだろう。
松田に手向ける鎮魂の儀だと言い張っても、松田がそれを望んでいるかわからない。
自分の気を晴らすためにやっていたとしても、松田が戻ってこない世界にもう意味は見いだせない。
松田を抜いて客観的に見た時、自分のしているのは蛮行と恐怖による支配だけでしかない。
自分で選んだ選択が、本位ではないのもわかっている。
わかっているのにやめられないのだとしたら……。
痛みがあるぶん、僕のほうがまだマシなんじゃないのかな。
「野村さん……」
ベッドから転がるように落ちて、ずるずると光に向かう。
野村は赤い目をしたまま、這いずる山田を静かに見ていた。
「僕さ、別にいいんだ。野村さんにだったら、何されても恨んだりしないよ」
野村にとって、松田は世界だったのだろう。
それならば、世界を奪われた相手を憎むのは必然だ。
どんな仕打ちをされても、仕方ないとも思う。
山田だって、5Sを失った時、そう思った。
世界の全てに不信を抱き、全てを拒絶するよう振る舞っていたのだ。
「だから、野村さんは悪くないから……して。僕の体に、いっぱい、贖罪の傷、つけてよ。それで、少しでも野村さんの心が楽になるなら」
――多分それが、僕の命のいっとうにいい使い方だ。
自然と笑う山田の体を、野村は強く抱きしめる。
「そんなこと、いわないでください。そんなこといわれたら……」
わからなく、なる。
だけどきっと、それでいいのだろう。
誰も何もわからなくていい。理解されなくてもいい。ただあふれ出すエゴと衝動をそのままに、心が枯れるまで無体を強いる。
そんな世界が、きっと今は必要なのだ。
腫れた両足は熱を帯び、動かそうとすれば激しい痛みを覚える。
昼夜問わず雨戸が閉ざされ、防音のためウレタンのような素材で包まれた狭い部屋にいると時間の感覚も狂う。
いったい何日。あるいは何ヶ月、何年、この部屋に閉じ込められているのだろう。
何もわからないまま、山田の日々は苦痛と屈辱に満たされていた。
「起きてるの? ……それじゃ、始めようか」
ベッドの上で短い鞭をしならせ、柔らかく笑う男は野村健吾というらしい。
山田にとって知らない男だ。
わかっているのは、自分が殺した男の知り合いということくらいでそれ以上のことは今でも知らない。
野村にとって、山田に自分が誰であるか語る必要などないのだろう。
大事なのは、山田が人殺しだということ。
野村にとって大事な存在を、山田が殺したということだけなのだ。
背中を打たれ、腹を打たれ、体中の皮膚が裂けて赤むくれになるさなか、幾度も悲鳴を上げて幾度でも許しを請う。
これが拷問であれば、求められる秘密や情報を告白すれば解放されるのだろう。
だが、野村の中に許しは存在しない。
彼はいつも鞭を振るい、裂けた皮膚の返り血を拭いながら罵声と懇願を投げつけるのだ。
「謝るなら、返してくださいよ。ねぇ、松田さんを返してください」
冷めた目は、いつも山田を見ていない。
ずっと前に失って、それでも未だに陰の消えない松田の幻影を追い続けるのだろう。
組み伏せられ、また殴られて。
傷が増えるたび、この痛みは理不尽であり決して終わらない刑罰なのを改めて実感した。
何だよ、無理だって。
覆水盆に返らずっていうじゃないか。
起きてしまったことは、かえられないんだ。もう取り返しがつかないんだよ。
そんなの誰だって、わかっていることじゃないの?
僕が「松田」って人を殺してしまったのは、もう取り返しがつかないんだ。
こうやっていくら僕を殴って、監禁して、罵倒して壊そうとしても。実際そう遠くもなく、僕は壊れてしまうんだろうけど。
それがわかった上で、この人が自ら罪を重ねるほどの価値が、死んだ松田さんにはあったのかな。
どうなんだろう。
ねぇ、野村さん。
あなたの中にいる松田さんは、僕の人生を奪い壊すほどの価値があったのかな。
僕が死ぬか壊れるかして、何も動かない玩具に成り下がったとしたら、あなたは少しでも報われるのかな。
やったよ、松田さん。敵をとったって、笑っていられるのかな……。
散々打ち据えられた体の痛みをじんじんと感じながら、血ぬれた肌を指先でいじる。
体の上にある痛みに敏感な箇所だけをえぐっているから、痛みのわりに傷はひどくない。
にじんだ血を指先でねぶり、山田は暗がりの向こうを見る。
扉は、微かに開いている。
野村は床の上で一人、小さくうずくまっていた。
「松田さん……松田さん、松田さん……僕は……どうしたら、いいんだろう。どうすれば……」
泣いている。迷っている。
あれだけ山田の体を傷つけて、心を縛り付けて、散々ともてあそんで、十分すぎるほどの実験と検証をしているはずなのに、野村もこれが何のための行為なのか、わからないのだ。
きっとこれからも、わからないままなのだろう。
松田に手向ける鎮魂の儀だと言い張っても、松田がそれを望んでいるかわからない。
自分の気を晴らすためにやっていたとしても、松田が戻ってこない世界にもう意味は見いだせない。
松田を抜いて客観的に見た時、自分のしているのは蛮行と恐怖による支配だけでしかない。
自分で選んだ選択が、本位ではないのもわかっている。
わかっているのにやめられないのだとしたら……。
痛みがあるぶん、僕のほうがまだマシなんじゃないのかな。
「野村さん……」
ベッドから転がるように落ちて、ずるずると光に向かう。
野村は赤い目をしたまま、這いずる山田を静かに見ていた。
「僕さ、別にいいんだ。野村さんにだったら、何されても恨んだりしないよ」
野村にとって、松田は世界だったのだろう。
それならば、世界を奪われた相手を憎むのは必然だ。
どんな仕打ちをされても、仕方ないとも思う。
山田だって、5Sを失った時、そう思った。
世界の全てに不信を抱き、全てを拒絶するよう振る舞っていたのだ。
「だから、野村さんは悪くないから……して。僕の体に、いっぱい、贖罪の傷、つけてよ。それで、少しでも野村さんの心が楽になるなら」
――多分それが、僕の命のいっとうにいい使い方だ。
自然と笑う山田の体を、野村は強く抱きしめる。
「そんなこと、いわないでください。そんなこといわれたら……」
わからなく、なる。
だけどきっと、それでいいのだろう。
誰も何もわからなくていい。理解されなくてもいい。ただあふれ出すエゴと衝動をそのままに、心が枯れるまで無体を強いる。
そんな世界が、きっと今は必要なのだ。
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