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インターネット字書きマンの落書き帳

   
愛ではなく信仰である場合の夢男子×山ガスの話します
さっくりと4話で終わります!
といっていたので、無事に4話で終わりました。

もし、冬コミが受かっても全然原稿ができねぇ!
と思ったら、コレを本にしてもっていくのでよろしくね♥

<前回までのあらすじ>

 気付いたら知らない男に監禁されていた山田ガスマスク。
 声も出ず、手足の自由も奪われ、男にいいようにされることを最初は拒んでいた。
 だが、「人魚姫」の童話を聖典のように大事にし、山田を人魚姫に見立て、全てを赦し全てを愛する男そばにいることで、山田は安寧を覚えるようになる。
 そして山田は、自らの足を切りつけることで、本物の人魚姫のように歩くことを捨て、男の慈悲を全て受け入れるかわり、赦される場所を手に入れたのだ。

では、最終回、楽しんでいってくれよな♥



『清潔で穢れた居場所』

 温かい水の中に、山田は静かに目を閉じる。
 無数の柔らかく優しい波がまるで腕のように山田の体を包み込むよう絡みつき、どんどん奥深くへ沈めていく。
 だが、不思議と怖くはない。

 ――海の底から、水の面(おもて)まで届くためには、教会の塔をいくつもいくつも積み重ねなければいけないでしょう。

 周りを包む泡から、清らかな声がする。

 ――肌は、バラの花びらのように美しく。目の色は、深い深い罪を飲み込む琥珀のように、茶色に輝いていました。

 耳元で泡が弾けて消える。
 人魚姫は、本当は青い目のはずだ。だけどあの人は、茶色の目を愛してくれた。
 全てを赦して、決して責める事はなく、赦して、愛して、慈しんでくれたのだ。

 ――さて、いちばん上のお姫様が十五になったので、海に浮かんでいいことになりました。

 ふっ、と体が軽くなる。
 それまで海の底の底、光も届かない温かい水のなかで眠っていたはずなのに、体はどんどん浮き上がり、光に向かって進んで行く。

 ――いやだ、いやだ。
 僕は、外の世界を知っている。何もしらない人魚じゃない。もう外の世界は十分なんだ。
 それなのに、どうして僕を引き上げる。

 首を振り、必死に抗い、暗がりへ潜ろうとしても、体はぐんぐん昇っていく。
 最初は淡い光の粒子がちらちらと輝いていただけだったったが、やがて光は太陽のように大きく、明るく、眩しく周囲を照らしていく。

 ――いやだ、やめてくれ。やめてくれ、後生だから。
 僕はもう――。

 ※※※

 山田の目に、真っ白な天井とそれを照らすシーリングライトがぼんやりと見える。
 目に優しい淡いカーテンに清潔なシーツ。かすかに漂うアルコールのにおい。

「……患者さん、目を覚ましたました!」

 その一声を皮切りに、にわかに周囲が騒がしくなる。
 身動きできない状態でも、周囲の空気と腕に繋がれたいくつもの点滴から、ここが病院だというのはすぐにわかる。

 ――そうか、僕は、病院にいるんだ。
 つまり――。

 助かった? 解放された? 逃げ延びた?
 それとも――。

 ……夢から、覚めた。

 山田は疲れたように、静かに目を閉じる。
 今は何も、考えたくはなかった。

 ※※※

 次に目を覚ました時、山田の前には様々な人が入れ替わり立ち替わり現れた。

 最初に現れたのは、医者だった。
 医者はあれこれ色々と説明をしたが、要約すると命には別状がないものの、長らく寝たきりになっていたからリハビリで筋力を取り戻す必要があるだろうということだ。
 声がうまく出ないため、小さく頷くだけしかできなかった。

 それから、警察を名乗る男が二人、話を聞きにきた。
 自分が誘拐され、比較的に長い間監禁されていたことを聞かされた。
 両足の傷は、誰にやられたのかと言われたが答える事は出来なかった。

 最後に、見知った顔が病室に来た。
 確か、仕事仲間の一人で、数少ない顔見知りだ。
 連絡がつかなくなったので様子を見に行ったらもぬけの殻。
 仕事に穴を開けるほど無責任ではなかったはずと、色々調べた結果、連れ去られたのに気付いたのだという。

 警察をつれて潜入するまでの武勇伝を得意気に話していたが、全く頭に入ってこなかった。
 ただ一つだけ、男の言葉で残ったものは――。

「安心しろ、犯人、もう死んでたって話だからな」

 その言葉、だけだった。

 ……お姫様は、半ばかすんできた目を開いて、 船から身をおどらせて、海に身を投げ込みました。
 自分の体がとけて、泡になっていくのがわかりました……。

 耳元で沢山の泡が弾け、それらの全てが声となり、物語を紡いで消えていく。
 消えた後は、ただただ無音だ。
 何も音が残らない世界を、山田もまた無言で眺めていた。

 その日は、ひどく長く思えた。
 疲れもあってか、ベッドに入ってほどなくし、強い眠気に促され泥のように眠る。

 目を覚ました時、窓から朝日が昇るのが見えた。
 雲の隙間から光のカーテンが輝き、窓から見える街並みの照らす。

 あの人は、泡になったのだろうか。
 それとも天上の光となったのだろうか。

 人魚姫は真実の愛のために赦されて、天に昇るため空気の精になった。
 もし泡になったのなら、あの人もそのように赦され、天に昇っていくのだろうか。

「私は、赦してもらおうなんて思いませんよ」

 ぱちん、と泡が弾け、彼の声が聞こえた気がする。
 周囲を見渡したが、誰もいない。
 気のせいか、あるいは、残響か。

 だがその通りだ。
 彼は、赦されるのを望んではいない。

 だからこそ、山田のことを赦したのだ。
 神の許しを乞うより、山田の全てを愛し慈しむことを、彼は選んだのだから。

「ばっかみたい」

 久しぶりに喉が震える。声が出る。
 だが、あまりに長く喋らずにいたから、自分の声とは思えない。やっとの思いで絞り出した声は、声というより羊の鳴き声のようだった。

 馬鹿だよ。馬鹿。本当に、馬鹿。
 王子が死んで終わる物語が、一体どこにあるものか。

 頬につぅ……と涙が伝う。
 朝日が眩しすぎたからか、悲しい気持ちがあったからか、はっきりはわからなかった。
 そんな中、どこかから、看護師らしい声が明るく響く。

「よかった、段々と良くなっているみたい」

 廊下ですれ違った患者のことを喜んでいるのだろう。
 本当に、良かったと思っているのだ。声は優しく、慈悲深い。

 その声と言葉が、山田の胸に反響した。

 そう、良かったのだろう。  これで良かったのだ。
 生きていることが、良い事ならば……。

「……きっと、これでよかったんだよ」

 か細い声で、山田は呟く。

 助けられ、助かった。
 生きていることが良い事なら、これはきっと良いことだろう、だが――。

 ――どうしてこんなにも、世界が滲んで見えるのだ。

 止めどなく流れる涙に溺れぬよう、山田は天を仰ぐ。
 朝日は昇り、周囲を明るく照らしていた。

 今日は、よく晴れた日になるのだろう。

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