インターネット字書きマンの落書き帳
軋轢と開放のための支配の話(黒ガス/BL)
黒ガスを書きました。(挨拶)
といっても別に何も始まってない黒ガスなんですけどね。
実はメチャクチャ勉強ができる山ガスに対して、異常な嫉妬と執着をしていたタイプの黒沢の話してます。
劣等感と閉塞感だけしかありません。
劣等感と閉塞感、そういうものに対する復讐あるいは開放のために他人を支配したいと思うタイプの黒沢が見たい人向けコンテンツです。
といっても別に何も始まってない黒ガスなんですけどね。
実はメチャクチャ勉強ができる山ガスに対して、異常な嫉妬と執着をしていたタイプの黒沢の話してます。
劣等感と閉塞感だけしかありません。
劣等感と閉塞感、そういうものに対する復讐あるいは開放のために他人を支配したいと思うタイプの黒沢が見たい人向けコンテンツです。
『高慢な羨望』
常識が、置かれる環境によって変わるものだとすると、黒沢にとっての常識は「T大法学部に入学すること」だった。
義務教育の頃から通っていたのは受験が必要なタイプの名門校。
周囲の人間は誰一人として努力などしていなかったが、それは他人が努力と呼ぶレベルですることが、誰にとっても当たり前だったからだ。
多角的な視点での思考。協調性。応用力。
学校で充分すぎるほどのカリキュラムを乗り越えながら、スポーツでも芸術でも、一つや二つ習い事をし結果を出す。
黒沢の周囲ではそれが当たり前だったから、黒沢もまた当然のように勉強と習い事を両立させていた。
野球やサッカー、テニス、ゴルフなど一通りのスポーツを試し、一番長く続いた剣道では何度も大会に出た。
絵画に陶芸、茶の湯などもたしなみ、ピアノやヴァイオリンでは賞を取ったこともある。
有り体な評価をするのなら、黒沢優弥は文武両道の秀才だったろう。
しかし、その有り体な評価は、黒沢の周囲ではごく平凡なものだった。
――最初の挫折は、中高一貫の名門校受験を失敗したときだ。
「腑抜けた奴め」
父の言葉は、実に率直なものだ。
「これに懲りたら、中学はもう少し勉強に励むんだな」
勉強に、一度だって手を抜いた事はない。
学校で習う範囲の予習・復讐は欠かした事はなかったし、名門校の過去問も常に平均以上を維持していた。
それでも、駄目だった。
「大体のところ――おまえは剣道も中途半端なんだ。大会で、ベスト4まで行ったことは一度だってなかっただろう」
その通りだ。
練習をしている時、手を抜いた事はない。
師事してくれる相手に敬意を払い、言われたことを何度も練習したが、それでも高みに届かない。
「ピアノも、ヴァイオリンも……お前の弾く曲はつまらんからな」
音を出すのは誰よりも早かった。
正しい音階で弾くという点では抜きん出ていただろう。
しかし、そこに豊かさがないのもわかっている。
正確にできているのだから、感情を乗せて弾ければもっと良くなると何度も言われたが、乗せるべき思いなどついぞわからなかった。
「次は、ないと思って必死にやれ――」
言われた通り、必死にやった。
習い事の全てを辞め、夜遅くまで塾に通う日々。
自由がない生活といえばその通りだったが、遊べる時間の有無よりも、置いて行かれる方がよほど恐ろしかった。
今まで周囲にいた友人たちは当然のように名門校へ合格し、塾で顔をあわせる時も以前と変わらず接してくれたが、それが辛かった。
偏差値という指標なら充分すぎるほどの中学にいても、まだ足りないのではと不安だった。
高校受験で何とか名門校へ合格出来たときは、首の皮一枚でつながったと安堵した。
だがそれも一瞬のこと。
中学では上位層だったが、ここではカリキュラムを追うのが精一杯。
テストの点数は伸び悩み、塾でも戸惑うことが増えた。
もっと過去の、基礎から見直さなければ。
どこかで思考の方向を間違えて、それで躓いているのだ。
頭でそれを理解していたが、修正する余裕も時間もない。振り返るには覚えることは多すぎたし、周囲は先に進んでいる。
焦れる中、それでも何とか持ちこたえていたのだが――。
「大学は当然、T大の法学部だ。わかっているな?」
父にとっての話ではない。
黒沢家にとって、それは当然だった。
優弥は長男であり、一人息子なのだから尚更だ。
T大の法学部から、官僚へ。
自分のスタートラインはそこからだ。
そう、だったはずなのだが――。
「もう一度だけチャンスをやる」
受験前まで、充分合格圏内にいた。
それでも駄目だった。
T大法学部であれば一浪も珍しくはない。
T大一本の受験だったから、他に行ける場所もない。
浪人生として必死に勉強したつもりだったし、他人から見ても充分すぎるほどの努力はしていただろう。
それでも、合格には至らなかった。
「二浪ではな――」
使い物に、ならない。
黒沢自身、それを理解していた。
「ワン大なら――充分とはいえんが――」
滑り止めで受けたワン大に通うようになった時、高校までの友人とは疎遠になっていた。
話が合わないのではないか。見ている世界が違うのではないか。
そんな引け目があったし、友人たちも誘いづらいと思ったのだろう。
大学に入ってからの友人たちにも、心が開けなかった。
自分はお前たちなんかと違うんだなんて、落ちこぼれたくせに傲慢な自尊心が邪魔をして素直に接する事ができなかったのだ。
配信者などという、浮かれたような活動をするようになったきっかけは些末なことだ。
同じように一浪でワン大にいた眉崎は同じ歳だからとやたら絡み、振り回されるような形で関わっているうちに流されて始めたといってもいいだろう。
人気が出て、他の活動もするようになって――。
配信という環境で自分を表現できるようになった。そんな気がし始めて、父に反発するような企画を立てるようになった。
自然と人が集まり、以前よりずっと気楽に話が出来るようになってはいた。
それでも――。
――俺は、親父の影から出られないんだな。
劣等感が軋む。
いかに配信で目立って、人気が出たとしても。父よりもずっと名の知られた存在になったとしても、スタートラインに立てなかった事実は何ら変わりが無い。
自分の配信で表す正義も、父のアンチテーゼでしかない。
全て、狂ったのは最初の挫折。
中学受験で躓いた時だ。
もし、あの時、自分が失敗しなければ――。
「こいつ、あの名門校出てるんですよねー」
何気ない会話のなか、偶然それを知った。
動画編集の手伝いとして、谷原が呼んだ男はさしてそれを気にした様子もなかった。
「別にすごくなくて――あの学校、特待生制度みたいなのがあって。学費免除とか、そういうので――」
それなら、ワン大じゃなくても良かっただろう。
特待生だったのなら、T大の合格を望まれていたはずだ。合格率を上げるために、それを進められていたはずだから。
「あ、合格は――はい、してましたよ。ただ、先にワン大、受かってたから――学費、支払いとかしてたんで。T大のほう、受かると思ってなかったから――えぇ、法学部ですけど……」
どうして、受かっていたのに行かなかったのか?
俺は、スタートラインに立てなかったのに。お前は――。
――お前は簡単に捨てたのか?
俺が立てなかった、スタートラインを。
「キミさ、良かったら一緒に配信とかやってみないか?」
動画の編集はやたら早いが、地味な男だった。
配信者になっても画面映えするとも思えなかったが、それでも――。
「編集も上手いみたいだし。その長い前髪をもう少しマシにすれば――」
自分が手に入れられなかったものを、もっていた男。
こいつを自由に染められるのなら――。
「ま、まってくださいって! 配信とか、僕向いてなと思うけど……か、考えてみます」
恥ずかしそうにしながら、男は動画編集を続ける。
手応えはある。まんざらでもないのだろう。
もし、この男を手に入れて自分の好きなように扱えたのなら――。
「あぁ、考えておいてくれ」
――復讐になる。
一体何の復讐をしたいのだろう。
この感情は錯覚だ。
頭では理解していたが、湧き出た思いは止められない。
ただ手に入れて、操って、自分の色に染めるため――。
意味のないことだ。今さら、何に対して反逆しているのだ。
すべて徒労だ。
わかっているのに、嫉妬と執着で歯止めがきかなくなる。
そんな自分が、たまらなく惨めに思えた。
常識が、置かれる環境によって変わるものだとすると、黒沢にとっての常識は「T大法学部に入学すること」だった。
義務教育の頃から通っていたのは受験が必要なタイプの名門校。
周囲の人間は誰一人として努力などしていなかったが、それは他人が努力と呼ぶレベルですることが、誰にとっても当たり前だったからだ。
多角的な視点での思考。協調性。応用力。
学校で充分すぎるほどのカリキュラムを乗り越えながら、スポーツでも芸術でも、一つや二つ習い事をし結果を出す。
黒沢の周囲ではそれが当たり前だったから、黒沢もまた当然のように勉強と習い事を両立させていた。
野球やサッカー、テニス、ゴルフなど一通りのスポーツを試し、一番長く続いた剣道では何度も大会に出た。
絵画に陶芸、茶の湯などもたしなみ、ピアノやヴァイオリンでは賞を取ったこともある。
有り体な評価をするのなら、黒沢優弥は文武両道の秀才だったろう。
しかし、その有り体な評価は、黒沢の周囲ではごく平凡なものだった。
――最初の挫折は、中高一貫の名門校受験を失敗したときだ。
「腑抜けた奴め」
父の言葉は、実に率直なものだ。
「これに懲りたら、中学はもう少し勉強に励むんだな」
勉強に、一度だって手を抜いた事はない。
学校で習う範囲の予習・復讐は欠かした事はなかったし、名門校の過去問も常に平均以上を維持していた。
それでも、駄目だった。
「大体のところ――おまえは剣道も中途半端なんだ。大会で、ベスト4まで行ったことは一度だってなかっただろう」
その通りだ。
練習をしている時、手を抜いた事はない。
師事してくれる相手に敬意を払い、言われたことを何度も練習したが、それでも高みに届かない。
「ピアノも、ヴァイオリンも……お前の弾く曲はつまらんからな」
音を出すのは誰よりも早かった。
正しい音階で弾くという点では抜きん出ていただろう。
しかし、そこに豊かさがないのもわかっている。
正確にできているのだから、感情を乗せて弾ければもっと良くなると何度も言われたが、乗せるべき思いなどついぞわからなかった。
「次は、ないと思って必死にやれ――」
言われた通り、必死にやった。
習い事の全てを辞め、夜遅くまで塾に通う日々。
自由がない生活といえばその通りだったが、遊べる時間の有無よりも、置いて行かれる方がよほど恐ろしかった。
今まで周囲にいた友人たちは当然のように名門校へ合格し、塾で顔をあわせる時も以前と変わらず接してくれたが、それが辛かった。
偏差値という指標なら充分すぎるほどの中学にいても、まだ足りないのではと不安だった。
高校受験で何とか名門校へ合格出来たときは、首の皮一枚でつながったと安堵した。
だがそれも一瞬のこと。
中学では上位層だったが、ここではカリキュラムを追うのが精一杯。
テストの点数は伸び悩み、塾でも戸惑うことが増えた。
もっと過去の、基礎から見直さなければ。
どこかで思考の方向を間違えて、それで躓いているのだ。
頭でそれを理解していたが、修正する余裕も時間もない。振り返るには覚えることは多すぎたし、周囲は先に進んでいる。
焦れる中、それでも何とか持ちこたえていたのだが――。
「大学は当然、T大の法学部だ。わかっているな?」
父にとっての話ではない。
黒沢家にとって、それは当然だった。
優弥は長男であり、一人息子なのだから尚更だ。
T大の法学部から、官僚へ。
自分のスタートラインはそこからだ。
そう、だったはずなのだが――。
「もう一度だけチャンスをやる」
受験前まで、充分合格圏内にいた。
それでも駄目だった。
T大法学部であれば一浪も珍しくはない。
T大一本の受験だったから、他に行ける場所もない。
浪人生として必死に勉強したつもりだったし、他人から見ても充分すぎるほどの努力はしていただろう。
それでも、合格には至らなかった。
「二浪ではな――」
使い物に、ならない。
黒沢自身、それを理解していた。
「ワン大なら――充分とはいえんが――」
滑り止めで受けたワン大に通うようになった時、高校までの友人とは疎遠になっていた。
話が合わないのではないか。見ている世界が違うのではないか。
そんな引け目があったし、友人たちも誘いづらいと思ったのだろう。
大学に入ってからの友人たちにも、心が開けなかった。
自分はお前たちなんかと違うんだなんて、落ちこぼれたくせに傲慢な自尊心が邪魔をして素直に接する事ができなかったのだ。
配信者などという、浮かれたような活動をするようになったきっかけは些末なことだ。
同じように一浪でワン大にいた眉崎は同じ歳だからとやたら絡み、振り回されるような形で関わっているうちに流されて始めたといってもいいだろう。
人気が出て、他の活動もするようになって――。
配信という環境で自分を表現できるようになった。そんな気がし始めて、父に反発するような企画を立てるようになった。
自然と人が集まり、以前よりずっと気楽に話が出来るようになってはいた。
それでも――。
――俺は、親父の影から出られないんだな。
劣等感が軋む。
いかに配信で目立って、人気が出たとしても。父よりもずっと名の知られた存在になったとしても、スタートラインに立てなかった事実は何ら変わりが無い。
自分の配信で表す正義も、父のアンチテーゼでしかない。
全て、狂ったのは最初の挫折。
中学受験で躓いた時だ。
もし、あの時、自分が失敗しなければ――。
「こいつ、あの名門校出てるんですよねー」
何気ない会話のなか、偶然それを知った。
動画編集の手伝いとして、谷原が呼んだ男はさしてそれを気にした様子もなかった。
「別にすごくなくて――あの学校、特待生制度みたいなのがあって。学費免除とか、そういうので――」
それなら、ワン大じゃなくても良かっただろう。
特待生だったのなら、T大の合格を望まれていたはずだ。合格率を上げるために、それを進められていたはずだから。
「あ、合格は――はい、してましたよ。ただ、先にワン大、受かってたから――学費、支払いとかしてたんで。T大のほう、受かると思ってなかったから――えぇ、法学部ですけど……」
どうして、受かっていたのに行かなかったのか?
俺は、スタートラインに立てなかったのに。お前は――。
――お前は簡単に捨てたのか?
俺が立てなかった、スタートラインを。
「キミさ、良かったら一緒に配信とかやってみないか?」
動画の編集はやたら早いが、地味な男だった。
配信者になっても画面映えするとも思えなかったが、それでも――。
「編集も上手いみたいだし。その長い前髪をもう少しマシにすれば――」
自分が手に入れられなかったものを、もっていた男。
こいつを自由に染められるのなら――。
「ま、まってくださいって! 配信とか、僕向いてなと思うけど……か、考えてみます」
恥ずかしそうにしながら、男は動画編集を続ける。
手応えはある。まんざらでもないのだろう。
もし、この男を手に入れて自分の好きなように扱えたのなら――。
「あぁ、考えておいてくれ」
――復讐になる。
一体何の復讐をしたいのだろう。
この感情は錯覚だ。
頭では理解していたが、湧き出た思いは止められない。
ただ手に入れて、操って、自分の色に染めるため――。
意味のないことだ。今さら、何に対して反逆しているのだ。
すべて徒労だ。
わかっているのに、嫉妬と執着で歯止めがきかなくなる。
そんな自分が、たまらなく惨めに思えた。
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