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インターネット字書きマンの落書き帳

   
知らない男のにおいに焦る松ガス(BL)
平和な世界線で何となく二人で暮らしている松田×山ガスの話を……します。

今日は普通に平和でほのぼのの話をしています……よ。
多分、恐らく、きっと。

山田が風呂キャン界隈かどうかといわれれば、「絶対にシャワーは浴びそう」「毎日シャワーは浴びないと嫌がりそう」「風呂ないところ絶対に嫌がりそう」みたいなイメージはあるんですがね。

切羽詰まったら風呂入らないのは、仕方ないよね!

山田が肌ヨワなのは希望です。
渇望といってもいい。

最後にちょっとだけオマケもはいってます。
サービスサービス♥



『ウッディノート』

 家に帰った松田を、山田は笑顔で出迎える。

「おかえりなさい、松田サン。おつかれー」

 シャワーを浴びたばかりなのか、笑顔でカバンを受け取る頬は赤く、体からは湯気が立ちのぼる。いつもならしっかり整えてある髪は濡れ、今日は前髪も下りていた。
 まだ汗がひいてないのか、シャツと下着というラフな姿で玄関に立つ姿は、少し無防備に思える。

「まったく、何ちゅぅ格好してるんやお前は……」

 そんな格好するのは、俺の前だけにしとけ。
 なんて言えばきっと調子に乗るだろうから、遠回しに釘を刺す。

「なはは……松田サン、今日は思ったより早く帰ってきたからちょっと油断しちゃった」

 山田は笑いながらカバンを抱き、ぺたぺたと音をたて廊下を歩く。
 しかし、不規則な生活を当たり前のようにしている山田が普通の時間にシャワーを浴びるとは、珍しいこともあるものだ。〆切に追われている時は「今日から風呂キャンセル界隈になる!」と言いだし、松田が浴室に引きずられしぶしぶシャワーを浴びる、なんてこともよくあるくらいなのだが。

 そう思いながらリビングに入った瞬間、松田は違和感に周囲を見渡す。
 何かが違う。いや、普段と違う「におい」がする。
 芳香剤や消臭剤などとは違う、もっとドライでスモーキーな香りだ。

 スン……と鼻をひくつかせ、微かなにおいをたどる。

 間違いない。これは香水のにおいだ。それも、男物だ。
 山田は香水を使わない。
 敏感肌で化粧水すら肌に合わないものが多く、香水のように色々な香料が混ざったにおいが苦手だからだ。

 松田はそれを知っているので、家で香水を使うのは控えるようにしている。
 それなのに、どうして部屋に知らない残り香があるのだろう。

 まさか、誰か部屋に来ていたのか。
 松田の知らない誰かが部屋に来ていたのだとしたら、山田はそれを隠しているのか。
 隠して会っていたから、シャワーを浴びて誤魔化したのか。
 まさか、他人の痕跡を消すために。

「松田サン、晩ご飯どうするー?」

 ひょっこりと顔を出す山田に、普段と変わった様子はない。

 ……何で、シャワーなんか浴びてるんや?
 何で、知らん男のニオイがしとるかん?
 何でお前は、何も知らんような顔して……。

 松田は、ほとんど無意識に山田の腕を掴むと強引に引き寄せた。

「い、痛いって松田サン。どうしたのさ……」

 山田は驚き顔を上げる。冗談か悪ふざけだと思っていたのだろう。
 だが、松田の顔を見て息をのみ、怯えたように表情が強張る。

「……ど、どうしたの松田サン。そんな怖い顔して。僕……なにか、松田サンが嫌がるようなこと、した?」

 山田の体が、小さく震えている。
 疚しいことがあるから怯えているのか。心当たりがないから驚いているのか判断がつかない。
 どう問いただせばいいのか一瞬迷うが、下手なごまかしや遠回りの言い方は山田に通じないだろう。

「おまえ、今日誰かと会うてたんと違うか?」
「えっ? えっ? ……誰とも会ってないよ。僕、もうそんなに友達なんていないことくらい、松田サンも知ってるでしょ」
「だったら、何で部屋がこんなに匂うとるん? お前は別に香水なんてつけたりせんよな」

 松田に迫られ、山田はぐっと息をのみ、僅かに俯く。
 そしてしばし沈黙した後、観念したように口を開いた。

「ご、ごめん松田サン、僕……久しぶりに、知り合いと会って……」
「そうか。会って、何してたん?」
「ほら、松田サン、以前は香水つけてたよね? でも、最近つけてないから……買ってないのかな、と思って。それなら、プレゼントしてあげようって……そう、思ったんだけど。香水って詳しくないから、知り合いに、松田サンに似合いそうな香水、いくつか持ってきてもらってさ。そしたら……思いっきり瓶を倒して零しちゃって……や、やっぱりにおうよね!? 掃除して、洗濯して、換気して……シャワーも浴びたんだけど……」

 しどろもどろになり、ぽそぽそ呟いた後。

「ほんと、ごめん。まだ少しにおうと思うんだけど……じきに、においも取れると思うから」

 ぺこりと、小さく頭を下げた。

 ……何言っとるんや。
 お前が苦手だと思うたから、つけるの辞めとったのに、ほんま……。

「おまえ、アホやなぁ」

 安堵から、つい笑顔が漏れる。
 この笑顔はただ安心しただけではなく、心配したのが馬鹿らしいほど山田からまっすぐに思われていたことの喜びもあっただろう。

「そんなん、言えば教えたるわ。全く、黙ってやろうとして、ホンマ、おまえは姑息やなぁ。そういうとこやで」
「だ、だって。びっくりさせたかったから……」
「家に帰ったら知らんにおいがプンプンしてるほうがびっくりするわ! ……ま、えぇわ。今度、一緒に買いにいくか。何なら、お前の分も買うたる」
「い、いいって。それは……だって、松田サンと同じにおいになったら……いつも松田サンがいるみたいで、ドキドキしちゃうから……」

 山田は顔を真っ赤にして俯く。
 本当に、小ずるいくせに時々子供みたいなことを言う奴だ。あざとい。姑息だ。
 だが、この男が愛おしい。

 松田は微かに笑うと、山田の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
 濡れた髪は、僅かにスモーキーな香りが漂っていた。



<おまけ>

「山田の奴が香水のサンプル頼んだの、お前なんやろ」

 松田が務める博物館近くの公園に呼び出された男は、きょとんとした顔で彼を見た。
 フリーの編集者で、山田がWebライターとして活動していた頃から付き合いがあるとは聞いている。事件があった後でも山田を邪険にせず、未だ仕事を回してくれる男だ。

「えぇ、そうですよ。彼、こっそりプレゼントしたいって言ってたのにバレちゃったんですね」
「せやなぁ……ま、派手に瓶をひっくり返して中身を零したみたいやから、しゃーないやろ」 「あはは……そうですよね。私もびっくりしましたよ。本当に、香水の使い方、全然知らないみたいで……」
「それで、な……カラッポになった瓶が、うちに捨ててあったんやけど……」

 と、そこで松田は真剣な顔になると、深々と頭を下げた。

「ほんま、すまんかった! ……あれ、めちゃくちゃ高い奴やろ!? あいつ、ほんまに全部こぼしおったんか!? 『零したの、これー』なんていいながら瓶出してきたとき、真っ青になったわ! ……幾らやったん? 弁償させてもらわな、こっちが申し訳ないわ」

 その姿を見て、男はクスクスと笑う。

「いや、気にしないでくださいよ。私ももらい物ですから、全然問題ないです。それに……」

 こんなに面白いものを見れたのなら、それで十分。
 男はそう言いたげだ。

 まったく、山田の友達はみんなこんな反応をする。
 みんながみんな、性格が悪い。

 だが、カラッポになった高級香水の瓶を前にしても、二人が幸せに過ごしていることを笑ってくれているのだから、きっと祝福されているのだろう。

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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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