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インターネット字書きマンの落書き帳

   
駅で幽霊見ちゃった坂上くんをサポートする新堂さん
新堂と坂上が出る話です。

学校の帰り、駅でなんかお化けみちゃった!
こわい、どうしよう!
そんな坂上を新堂がフォローするような話ですよ。

話の都合、坂上も新堂も電車通学で同じ電車に乗ります。
話の都合上、新堂もけっこうナチュラルに見える人になってます。
でもまぁ、新堂は少しスパダリを盛ってもセーフだと思うので大丈夫でしょう。

ちょっぴりホラー要素がはいってます。




『ちっさいんだから、いっぱい食え』

 そんなこと、あるはずがない。
 頭でそう理解していても、身体の震えは止まらなかった。

 新入部員のなかでも記事を書くのが一番遅い坂上は、その日もたった200文字に満たない文章を書くのに手こずって遅くまで残っていた。
 〆切が近いというのに、まだ下書きが終わらない。同じ部員の倉田はすでに記事を書き上げて、次の記事に使うための取材を手伝っているというのに書こうと思った事がまとまらず上手く行かないまま、もう何日も遅くまで残っていた。
 今日は朝比奈がつきっきりで見てくれたおかげで、ようやく下書きの形は出来た。後はパソコンで清書作業をするだけで、何とか明日には記事を提出できるだろう。
 まったく、こんな小さなコラム一つで何をぐずぐずしているのだと思う情けない気持ちと、何とか〆切には間に合いそうだという安堵を覚えながら帰路につく。 下校するには遅い時刻だからだろう。駅のホームには人がまばらで、鳴神学園の生徒は自分だけのようだった。
 鳴神学園はマンモス校なので普段なら下校時はもっと沢山の学生で賑わっているのだが、人が少ないと普段より静かに感じる。月は分厚い雲に隠れてしまい光っているのはホームの電灯と看板だけというのが一層寂しく感じた。
 何となく、嫌な気配がする。誰もいなくて寂しいというのもあるのだが、じわじわと忍び寄る絡みつくような嫌な雰囲気を感じ、坂上は身震いをした。
 この気配はなんだろう。誰かに見られているような気がするのだが、周囲を見回してもこちらを見ている気配はなく、知り合いらしい顔もない。だが、たしかに視線のような何かを感じる。まとわりつくような、粘り着くような、息の詰まるほど重々しく寒気がするほど不気味な、それでいて強い悪意をもつ何かの気配だ。
 いったい何処からこの気配は漂ってくるのだろうか。何がそんなにも自分を不快にするのだろう。
 このまま嫌な気配を引きずって家に帰るのも嫌だったし、もし本当に妙な輩がこちらを伺っているのなら家に連絡をして迎えに来て貰おう。本当に危ない相手なら交番に駆け込んでもいい。恐怖心と怖れと、自分を憎らしげに見つめてくる何者かに対しての僅かな怒りを覚えホームを見渡したとき、坂上はそれを見てしまった。
 黒いモヤのような何かはえらい長身で、駅名を掲げた看板に頭が届く程あっただろう。腕がだらりと伸び、地面につきそうなほど長い。人の形をしているが、どんな服を着ているのかもはっきりとわからないし、そもそも人にしては背の高さと手の長さがあまりにも不自然なそれは、目だけ爛々と輝かせ坂上の方を見つめていた。
 そう、坂上を見ていたのだ。だからそれを見つけた時、自然と目があってしまった。
 真っ黒な影をまとうそれは、真っ赤に充血した眼で坂上を凝視する。口は見えない。鼻も、耳も、目以外のパーツは何ひとつ分からない顔だというのに坂上と目があった瞬間、ニヤリと笑ったような気がした。

「みぃつけた」

 そんな言葉を言われた気がして、坂上は目をそらす。
 何だあれは。
 疑問を抱くと同時に、先日企画された鳴神学園七不思議の集会を思い出していた。
 鳴神学園には怪異の噂が多い。幽霊であったり、噂話にだけ現れる都市伝説妖怪のような存在であったり、呪いや祟り、目や口がやたらと多い怪物、快楽殺人鬼や人体実験を行う施設の噂など、あげればきりがないほどだ。
 だがそれはあくまで噂で、本当にあった事ではない。もしあったとしても、鳴神学園の中でだけやたらと多いだけで学校から出れば大丈夫なはずだ。そう思っていたのだが、どうやらそれは随分と甘い考えのようだった。
 古今東西、幽霊を見たという話は枚挙に暇がない。鳴神学園から出ても幽霊や怪異というものに出会う可能性があるというのも当然だ。
 鳴神学園は他の土地と比べ格段に怪異が多いとも聞くから、学校のもつ負のエネルギーが漏れ出して周囲に影響を与え幽霊を生み出したり、別の土地にいた怪異などを呼び寄せている可能性もある。
 どちらにしても、今の坂上が得体の知れない何かに見られてしまったのには変わりない。
 どうしたらいいのだろう。集会では語り部たちは怪異をうまく回避していたが、大概は怪異側のルールに触れなかったり、最初から関わらなかったからだ。もうすでに相手に見つけられ、関わってしまった場合はどうすればいいのだ。
 坂上は自分が見た影が本当にいるのか。まだこちらを見ているのか確認するため再びホームを見た。確か向かい側のホームにいたはずだが。そうして視線を向けると、やはりそれはいる。しかも階段へ向かっている。今は反対側のホームにいるが、きっとこちらへ向かっているのだ。向かって、こちらのホームに来たら何がおこるのだろう。あれに捕まったら、自分はどうなるのだ。あれから逃れるにはどうしたらいいのだ。交番で幽霊に負われているといってもとりあってくれないだろうが、行かないよりはマシだろうか。電話で家族を呼び、人の多い場所で待つか。それより先にあの影が自分を捕まえてしまったらどうしよう。考えれば考えるほど怖くなり、金縛りになったように身体は動かない。あるいは実際あの影に当てられて金縛りになっているのかもしれない。
 ただその場で震える坂上の身体の肩を誰かが抱き寄せたのはその時だった。

「よォ、坂上。今帰りか、新聞部も結構遅くまで残ってンだな」

 顔をあげれば、見覚えのある男がそこにいる。七不思議の集会であったボクシング部の主将、新堂だ。
 運動部は練習を普段から遅くまでしているから、帰りがこんなに遅くなったのだろう。

「し、新堂さん……」

 見知った顔が現れ、安堵で崩れ落ちそうになる。新堂は怪異にも詳しいし、それを馬鹿にしたり軽んじる事もない。彼なら何か、この状況を打破する方法を知っているかも。期待をこめて顔をあげれば、新堂はぐっと力を込め坂上の顔を、自分の胸元に埋めるように隠した。

「いいから少し黙ってこうしてろ。あと5分もすれば電車が来る……電車にさえ乗ればアレはもう追いかけてこねぇよ。だが、もう見るな。これ以上気付いてる素振りを見せたら、アレは絶対にヤバい奴だからな」

 どうやら、新堂もあの存在に気付いているようだ。助けに来てくれたのだろうか。
 坂上は何度も頷くと、新堂の胸へ顔を埋めるようにして気配を消すよう黙っていた。
 ずり、ずりと何かが引きずるような音がする。近くに生臭さが漂い、ねっとりとした息づかいが坂上のすぐ近くまで迫る。しかしその気配は不思議とそれ以上近づく事なく、周囲をずるずる引きずる音をたてホームを行き来しているようだった。
 程なくして電車が訪れ、新堂に引きずられるよう中に乗る。ドアが閉まり電車が動き出すと、あの嫌な雰囲気は徐々に薄らいでいった。
 新堂も、もう大丈夫だと思ったのだろう。自然に坂上から離れると開いている席に座らせ、自分もまた隣に腰掛けた。

「あ、ありがとうございます。新堂さん」

 小さく頭を下げる坂上に、新堂はひらひらと手だけふって答える。気にするなという事だろう。
 だがアレは何だったのだろう。新堂の態度から彼も見えていたか、気付いていたのは確かだ。どうしてあんなモノが駅にいるんだろうか。普段はそんなもの、見た事もなかったのに。
 困惑する坂上に、新堂はブロック形のバタークッキーを差し出した。

「ま、これでも食えよ」
「えっ。あ、はい……ありがとうございます」

 鞄にしまおうかと思ったが、新堂から「食べろ」という圧を感じ袋を開けてクッキーをかじる。たっぷりきいたバターの風味と微かな甘みが身体に染み渡り、あっという間に食べてしまった。
 考えてみれば、記事がうまく作れないプレッシャーから最近は弁当を食べる暇も惜しんで下書きなどをしていた、知らない間にすっかり腹が減っていたのだろう。新堂はそれをみて、やっぱりといった顔をした。

「おまえ、最近ちゃんと飯食って無ェだろ。いつも俺、言ってるよなァ。お前はちっこくて細ェんだからちゃんと肉食え、飯を沢山食えって」
「あっ、はい。す、すいません……忙しくて、食事をとる暇がなかなかとれなくて……」
「おいおい、そんなんじゃデッカくなれねぇぞ? ま、とにかくだ。今日は限界だってくらいしっかり飯を食って、熱い風呂に入って、グッスリ寝ちまえよ。朝飯もガッツリ食ってこい。駅からは歩きか? だったら軽いジョギングくらいして体力もつけておけ」
「あ、あの。新堂さん……何でそんなこと……」
「そうすりゃ、あぁいうのも見えなくなんだよ。あぁいうのは、弱ってる相手が特に好きだからな」

 坂上ははっと思い顔をあげる。
 そうか、最近の自分は無茶をしていた。記事をきちんと仕上げなければいけないプレッシャーで自分を追い込み、食事はおろそかだった上夜も眠らずにいた。元々体力もある方ではないから、自分が思っていた以上に弱っていたのだろう。
 元気になれば幽霊が見えなくなるのか、という疑問はあったが、新堂の言う通り、今日はたくさん食べてゆっくり寝よう。あんなものを見てしまったから、夜すぐに寝られるかはわからないが。

「お、そうだ。これもやるよ」

 もうすぐ降りる駅につくという頃、新堂は思い出したように鞄から何かを取り出す。
 見ればそれは「厄除開運」の文字と柴犬がかかれた小さなお守りだった。

「心配ならソレ握って寝ろ。柴犬は番犬になるから、変なモンも近づかねぇだろうからな」

 犬なら坂上の家にはポヘがいるが、もう老齢だから番犬をさせるのは辛いだろう。それにしても、随分とかわいいお守りだ。

「ありがとうございます、新堂さん」

 新堂のような不良っぽい男がこんなに可愛いお守りを持ち歩いているというギャップに驚きながら、坂上は笑う。
 あんなものを見た後で怖い思いを引きずってはいたが、何とはなしに心強い。だから今日は言われた通りに食事をしゆっくりと眠るとしよう。
 明日また学校で元気な姿を新堂に見せるために。

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インターネット駄文書き
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紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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