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インターネット字書きマンの落書き帳

   
その絵に彼女はいなかった。(創作ホラー)
たまにはホラーっぽい作品を創作しま……した!

ホラー作品は普段から読むジャンルなんですが、自分で描くとなると「怖さとは……」「恐怖とは何だろう……」みたいな、完全に恐怖心のリミッターがぶっ壊れている警戒心のないアホの子になってしまうので、自分でかくと「怖いのか」「怖いといいな」みたいな気持ちになりがちですが……。

これも「怖いといいな!」と思って描きました。
ある学校でおこった事件と、その前におこった不思議な出来事の話です。

その学校に所属している一人の生徒が語ります。



『彼に見えてる星月夜』

 ええ、昨日の全校集会で概ねの話はもう聞いています。
 驚かなかったと言えば嘘になりますし、とても残念だというのが正直な気持ちですね。僕自身、まだ信じられていない。心の整理がついてませんから。
 あんなコトをした人ですから授業中もさぞ凶悪だったとか、異常性が見えていたという話を期待しているかもしれませんが、少なくても僕たちにとって先生は別段おかしい人には見えませんでしたよ。
 教え方が変だった所はありませんでしたし、生徒に対しても親身でした。美術教師としての知識も豊富で、水彩や油絵なんかも上手に教えてくれましたから。人当たりも良い方でしたし、美術を学んでいる生徒たちにも評判は良かったと思いますよ。ほとんど怒る事もなかったです。
 むしろ、「教師」という職業は比較的に変わった人が多いと言われてますがその中ではかなり常識的に見えましたね。
 そう、有り体な言い方をするなら「そんな事をするような人には見えなかった」という所でしょうか。

 だけど実際、僕たちは先生のコトを学校でしか知りませんから。ほとんど授業と、朝や放課後僅かな会話や挨拶だけでは人の本質なんてわからないものですよね。
 ましてや先生はまだお若い方でしたからどこかのクラス担任という訳でもなかったし、美術の授業みたいにあまり受験と関係のない分野はこの学校ではそれほど重きをおかれてもいませんので、先生の人となりに触れるような事はありませんでしたから。
 そういう意味で僕は先生の事をよく知らなかった訳ですよね。

 ただ、それだけの接点では何ら素行に問題があるようには見えなかったので概ね普通の教師だったと思っていいのではないでしょうか。
 少なくとも美術の授業中に変な指導を受けた事はありませんでしたし、男子や女子で差別するとか指導内容が違うみたいな下心を丸出しにするような人でもありませんでしたから。

 学生に教師が色目なんてつかうのか、って顔しました?
 貴方は思ったより誠実な人なんですね。でも教師だって人間ですし聖人じゃありませんよ。男子を贔屓して猫なで声で褒める教師もいれば、女子に対してスキンシップとやたらに触りたがる教師もいます。
 そういうものですよね、世間っていうのは。

 あぁ、でもすこし待ってください。
 半月ほど前かな……美術室に、変な生徒が来たんです。いや、変な生徒って言い方も失礼ですね。でも、変わった奴だったんで覚えています。
 今考えるとあいつは何かわかっていたのか、知っていたのか……こうなる事を予測していたのかな、と思って。
 すこし話をさせてください。僕も、何となく誰かに聞かせておきたい話なので。

 えぇと……うちの学校は美術部は無いんですけど、美術の授業で絵が上手くてなおかつ絵を描くのがそれほど苦にならない人はコンクール用の作品を描いたりするんですよ。
 だいたいが授業で描いた絵をそのまま採用するんですけど。絵を描くのが好きな人とか、油絵や水彩画をもうすこし本格的にやりたいって人に、あの先生は放課後。木曜日にだけ生徒を指導してたんです。
 集まるメンツは大体決まっていて、3~5人くらい。多くても10人にならないくらいかな。 みんな絵がそれなりに好きで上手な奴が多くて、先生がいない時でも時々美術室に集まって皆で絵を描いたり、絵の話をしたりしてよく過ごしてました。
 画家とか漫画家を目指しているっていう、将来はアートで喰っていきたいと本気で思っている奴とかもいたりして、結構賑やかにやってたんですよ。

 あいつが来たのは確か、月曜日だったかな。
 放課後、僕たちが集まりはじめた頃にふらりとその生徒がやってきたんです。まだ1年生で、美術が趣味の生徒たちが自発的に放課後残ってワイワイやってるのを聞いたみたいでね。

「俺も絵を描くのが好きだから、俺の絵を見てください」

 ってスケッチブックを差し出して。
 まだ1年生だし、独学だといってたのできっとたいした絵じゃないと高をくくっていましたから絵を見た時は驚きましたよね。
 鉛筆のスケッチなんですけど細部まできっちり書き込んであって、写真そのものか、って思うくらい精密な絵だったんですから。
 あんまりに微細なスケッチだったから複写(トレース)でもしたんじゃないかと思った程です。
 実際、そいつは写真を見て模写したといってました。写真じゃないと、風景画にしても静物画にしても緻密に描く事が出来ないとも。
 だけど、見ながら描いたにしたってあんまりにも上手すぎるくらいだったんですよ。絵はアナログだったからデジタル画像みたいに写真をなぞって描くとはは出来ないかなと思ったし、何よりも写真なんかをなぞって描くよりずっと精密な絵でしたから、僕はこれが手書きで本当にあいつが描いたのだと思ったんですけどね。
 あまりに上手いものだから、何人かは本当にそいつが描いたのか疑っていたんで、試しに写真を前にして絵を描かせてみたんですよ。
 あの時の写真は、水鳥が二羽並んで泳いでるような写真だったかな。それを見てそいつは「了解」とだけ言うと、僕たちの目の前で鉛筆を滑らせたんです。
 その絵の書き方で、僕たちはまた驚きましたよね。その生徒は僕たちの前で写真を見ながら絵を描き始めたんですが、下書きをする訳でもなければ構図を決めてから描くみたいな迷いは一切なく、いきなり鳥の羽を描いたかと思ったら水面を描いてみたり、遠景にある木々を描いてみたりとまさに描きたい所から描いていく様子で、しかもみるみるうちにスケッチブックに写真そっくりの絵を刻んでいくんですよ。
 その様子は、絵を描いてるというよりもプリンターから写真を白黒で印刷しているといった印象の方がよっぽど近かったですよね。しかもそんな不可思議な書き方で30分もしないうちに描き終えてしまうんだから、これはもう天才としか思えません。

 よく言うじゃないですか。努力に勝る天才はない、とかそういうの。
 だけど僕らもこの位の歳になると、薄々感じるんですよ。生まれ持った才能による土台がある奴は僕らが努力して到達した場所がスタート地点の時があるって。
 あいつの絵を見て、僕ははっきりそう思いましたよ。こいつは「絵を精密に描く」という点ではモノが違うな、って。

 ただ、あいつ自身はハッキリと言ってましたけどね。
 模写はできるけど、オリジナリティーみたいなものは一切ない。写実であるけど楽しいデフォルメや物語性を絵に込める事は出来ない。 だから絵は趣味としてやれるけど、商売にはならないだろう……上手いだけの絵は、面白くないってね。
 実際に、あいつの絵はどれも写真の模写であり模写に関しては正確すぎる程に正確でしたが、「上手いだけ」なのは事実だったと思います。
 最もそのただ「上手いだけ」という領域に行くのが普通ではあり得ないほど難しいとも思うんですが……。

「贋作で稼げるんだったら、そういうのならきっと向いてる」

 なんて言った奴がいたのは、ひがみもあったんでしょうね。先にも言いましたが放課後の美術室はアート分野で食べていくつもりの生徒も幾人かいましたから。だけどあいつは「他人の絵を模写は出来ない」とも言っておりました。
 写真でも時々「よく見えないことがある」らしくて、他人の描いた絵なんかはどうしても「そのまま見て描けない」か、「見たまま描こうとしても別のものを描いてしまう」そうです。

 それを聞いた時は妙な事をいうなと思いましたけど、ただ単純に模写はできるが絵の模写みたいにタッチの真似は苦手なんだろう。それくらいのニュアンスだと思ってました。
 実際に、絵はその人の癖やタッチがありますから贋作を手がけるとしたらそういったペンのタッチや塗り、使っている絵の具にもこだわらないといけないでしょうからね。
 最も今はそれがどういう意味なのか、何とはなしにわかるのですが。

 そのスケッチブックは、美術室に置きっぱなしになってたみたいで翌日には先生がそれを見つけて「随分と絵が上手いな」と関心していました。是非本人が絵を描いている所を見てみたいとも。
 だからそいつが美術室に来た時、今度の木曜日に来て欲しい。先生が会いたがってると伝えたんです。そいつは「俺もあってみたかったからちょうど良い」と笑っていた気がしますね。
 顔ははっきり思い出せないんですが。

 そうして木曜日、またそいつが現れた時、先生は「模写が上手いならこの絵を模写してみてくれないか」と一枚の水彩画を出してきました。
 それは先生がまだ美大生だった頃に描いた絵で、何かのコンクールで賞をとったことのある自信作だったみたいです。
 あの時先生はまだ、あいつが写真の模写は得意だけど絵の模写は出来ないって話を聞いてなかったから自分が一番良く描けたと思った絵を取り出してきたのでしょう。
 それを見てあいつは最初ひどく驚いたような顔をしたんですよ。でもそれからすこし考えて、不意に吹っ切れたみたいになって。先生に「いいけど、ゼッタイに後悔しないでくださいね」と。そんな事をいって、スケッチブックに鉛筆を滑らせたんです。

 何度も絵を見ながら真剣な目で描いてるあいつの雰囲気は何というか、鬼気迫る表情とでも言うのでしょうか。異常というか異質というか……とにかく僕たちが気圧されするような雰囲気でじっと絵を見据えていました。
 普段は雑談しながら絵を描いている僕たちも、先生さえも絵が描き上がるまで黙ってあいつを見てましたっけ。

 その時先生が出したのは、水彩の静物画でした。
 ガラスの花瓶に花が活けてある絵で、水彩画だったかな。花の名前は詳しくないんで何の花だったかわからないけど、赤や黄色が鮮やかで色とりどりの花が飾られていたと思います。
 先生にとって一番楽しい頃の絵だったと話していた記憶もあります。きっと先生にとっては思い入れのある絵だったんでしょう。

 それで、ちょうど、30分だったかな。

「できた、先生。これでいいですか」

 そうやってあいつが差し出した絵に描かれていたのは、鉛筆書きで精密にかかれた花と。
 先生の絵には描いていなかった、黒くて髪の長い女の人でした。

 生気がなくて、虚ろな目で、花の隣にぼんやりと立ち尽くしているその女の人は綺麗な人でしたけど幽鬼のような表情っていうんですかね。 恨めしそうでどこか汚らわしいようなものを見る目でじっとこちらを見ていたものだから、あの絵を見た時みんな息をのみましたよ。
 写真みたいな絵を描く奴が、目の前にある絵にはない死んだような女性をまるでそこにいるのが当然といった風に描いていたんですから。

 でも、僕たち以上に先生は酷く狼狽してました。「どういうことだ」「何でおまえが」みたいな事を言った後、急に立ち上がって絵を取り上げようとするからそれを察したみたいにあいつは軽くその体を避けて、閉じたスケッチブックをたくさんあるスケッチブックの中に紛れ込ませてしまったんです。

「ひどいなぁ、先生。ゼッタイ後悔しないでくださいって言ったじゃないですかぁ」

 あいつは鈴を転がすように笑うと、気付いた時には窓のサッシに腰掛けていました。
 西日が逆行になってあいつの顔はよく見えませんでしたが。

「それとも、私のこともう忘れちゃった?」

 不意に、そう呟いたあの時。確かに「男子生徒」だったはずのあいつの声は麗しい女性のような声がして、不気味さと奇妙さと不思議さと、何よりも恐ろしさが混じった顔で僕らが顔を上げた時、もうその生徒はいませんでした。
 美術室は一階ですから、窓から外に出たのでしょう。僕たちが窓をのぞき込んだ時はすでに姿が見えなくなっていたので、すごくすばしっこい奴だったんでしょうがあの時は「幽霊だったんじゃないか」とほんのすこし思ったものですよ。
 いや、正直なところをいうとあいつの残したスケッチブックとか、皆が姿を見ていなければ「あいつはきっと幽霊だった」と、そう思っていたでしょう。

 先生はそれからあいつの描いた絵を必死で探したみたいですが、その日はとうとう見つからなかったみたいです。
 また後日探そうと思ったみたいですが、その後日は先生に訪れなかったコト。貴方はもうご存じですよね。

 はい、これがその時にあいつの描いた絵ですよ。
 見ていきますか?
 どうぞご自由に。隠している訳でもありませんから。

 先生が探した時には全然見当たらなかったんですが、気付いたら美術室においてあったんです。見つかったのは先生が逮捕された後なので、隠したふりをしたあいつが先生が逮捕されたあと美術室においたのか。あるいは、先生が慌てていたから見つけないまま置いていたのか今となってはわかりませんけど。

 変な事聞いていいですか?
 あの、先生が殺した女の人ってやっぱりその絵に描いてある人だったんでしょうか?

 いえ、すいません、答えなくていいです。
 そこに描いた絵の人が先生が殺した女の人だったとしたら死人の絵がおいてあるようで恐ろしいですし、今更そんなことを僕が知ってももう何も変わりませんからね。

 先生が学生時代に女の人を殺していたってことも。
 その女の人を寂しい山に捨てていたということも。
 それが露見して先生が逮捕されたことも、そのまま遺書を残して自殺したということも、全てもう終わったんですから。

 この絵を描いた生徒ですか?
 実はあの生徒の名前もクラスもよくわからないんですよ。

 確かに1年の学年章をつけていたし制服もこの学校のものでしたけど、スケッチブックを返そうと思って探したんですが見つからないんです。
 ほんの数回しか来てないし、顔よりもこの画力が目立っていたというのもあると思います。この学校は生徒も多いですから、数回会った1年生の顔だけを頼りに探しても見つからないかもしれませんね。
 スケッチブックには名前もないですし、絵もほとんどが景色や動物の写真を模写しているものだから大きな特徴もない……一応、課題で絵を提出している生徒たちの作品を見たんですがこの生徒の絵らしいものはありませんでした。

 このスケッチブック、今となっては幽霊の描かれた絵みたいで怖いのであまり置いておきたくないんですが……驚くほど絵が上手いのは事実ですし、ただの模写といえどもこれだけ上手い絵を処分するのはもったいないとも思いますのでまだ美術室においておこうとは思っています。
 幸い、絵の幽霊が出てきた……みたいな怪談話には今の所なってないみたいですから。
 最も、これだけリアルな絵ですからそんな噂になるのも時間の問題でしょうけどね。

 えぇ、この絵を描いた生徒のことは本当にわからないんです。
 顔も誰も覚えてないし、名前も覚えてない。特徴がなかったという訳ではないし、むしろどこか人を茶化すような仕草は道化芝居でも見ているようで印象的なくらいなんですが……。

 その生徒を探しているんですか? 何かを知っているかもしれないから?
 そうだとしても、僕もこの美術室に通っている他の生徒も知ってる人はいないと思います。ほとんどは2年生で、1年生がくる事はほとんどないですしこの学校は生徒も多いですから。

 でも、もし貴方があの生徒に会えたとしたら聞いてみてくれますか。

「キミには世界の名画がどんな風に見えているのか」

 って。
 何となくですがきっと、僕らと違う星月夜を彼は見ている気がするんです。
 僕らに見えない星月夜を。

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HN:
東吾
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インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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