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インターネット字書きマンの落書き帳

   
5人の証言、1つの記事(創作ホラー)
霊能者を脳に注がれすぎたので霊能者を書きたくなりました。(挨拶)
霊能者を脳に注がれる状態って何だろうね、わからない。俺もわからない……。

という訳で、ホラーっぽい話を書きました。
ホラーっぽい話です、何故なら俺自身が「怖い話」を理解できないので、「なんとなく湿度の高い嫌な話」を書いただけなので……。

学生が一人死んで、10代後半のイキり男が行方不明で、女子高生が一人怪我をする。
その事件について調べているフリーライターが証言を聞いているうち、どうもそこに「もう一人」いたっぽいぞ、みたいな話です。

ここから先にネタバレしておくんですが、作中の「三人目」と「五人目」は同じ人物です。
でも、フリーライターはそれを同じ人物としては認識してません。
先にネタバレをしていくスタイル! 楽しい!

オリジナル作品は大概の人が興味もたないとは思ってますが、最高に自己満足が出来るので健康にいいので出来たら読んでいってください!
読んで嫌な気分になってください!(ホラーなので)





「一人目」

 あの時の話をしてほしいんですよね。 いいですよ。
 とはいっても、私は途中まで車で送っていっただけで詳しい事は本当に知らないんですけど……。

 えぇ、確かにその場所に廃病院はあります。
 いや、「ありました」が正しいですよね。更地になってもう十年以上経ってるうえ、今は雑草が生い茂って建物があった事さえわからないくらいなんですから。

 街から少し離れた不便なところにある病院だったのは、元々がサナトリウムっていうんですか。 結核患者が療養するための病院で、昔は周囲にそれが伝染するといけないからと不便なところに建っているのだと病院が出来た当初から噂になってました。

 実際、あの病院は少し難のある患者が多く入院していたんですよね?
 社会的入院……っていうんですか。治療目的ではなく、入院をさせる必要があるから入院をさせている病院だという話は以前から聞いてました。
 田舎ですからね、そういう噂はよく流れるんです。あの病院は院長先生も外から来たので余計にそういった恐ろしい噂がありましたし……実際、外来の患者はほとんど受け入れてなかったでしょう。

 まだあの病院があったころ、子供だった友達と様子を見にいった事があります。
 凶暴な犯罪者が隠されている病院だとか、狂った人間を閉じ込めているとか色々噂があった場所なのであの病院を見たというだけでクラスの英雄になれるくらい恐ろしがられておりましたから。

 でも、やっぱり特殊な病院だったんだろうとは思います。だって、すべての窓に鉄格子がはまっていたんですから。
 最も、そんなこと今更語っても詮無きことでしょうけど……。

 そのような病院でしたから、なくなった後も色々と噂はありましたよ。
 院長が失踪したとか、病院の看護師が自殺したとか、医療ミスで人を殺したとか、人体実験を行っていたとか……。

 そういえば、噂は多いんですがどうしてなくなってしまったのか真実を知ってる人は少ないような気がしますね。アナタは何かご存じですか?
 はぁ……はぁ。
 資金繰りの悪化で院長が雲隠れし、そのまま解体になった……と。更地になったのはその場所に別の建物を作る予定が頓挫したんですね。
 なるほど……真相というのは得てしてつまらないものですね。 この田舎では病院でも資金繰りの悪化はよくある話ですから……。

 そろそろ、あの時の話をしますね。
 確かに「楯野」をあの場所に送っていったのは私です。 本当は自転車で行く予定だったみたいですが、あの場所は遠いでしょう?
 私はたまたま楯野の家に……楯野の家が私の本家で、私は分家……楯野からすると従兄弟にあたる人間で、法事が近いからその相談にかり出されていたのです。
 面倒な話を聞いてさぁ帰ろうというころ、私の行き先と楯野の行き先が近かったので私は楯野を車に乗せました。
 とはいえ、楯野が本当はあの廃病院に……いや、廃病院の跡地に行こうと思ってたとは知りませんでしたけど。
 知ってたら、本家の人間にもっと怒られていたでしょうね。楯野は一応、本家の跡取りでしたから……。

 楯野は廃病院へと上る道がある、そのふもとのコンビニで降りました。
 コンビニで……ミサキと、リョウと待ち合わせていて、皆で乗り合わせカラオケに行くと言ってましたから私もそれを信じたんです。

 ミサキは誰だか知らないんですが、リョウは私と同じ学校で……車をもっているのも知っていたし、楯野がリョウ……宮元亮と親しくしてたのは知ってましたから。

 ミヤモトに関しては……私はあまり好きなタイプじゃなかったので何とも。
 楯野もそうですが、ミヤモトも少しばかりヤンチャなほうでね。 今時こんな言い方はしないんでしょうが、ヤンキーとか不良とか。そういう斜に構えたところがありまして、馬が合ったんだと思います。
 二人が知り合ったのはバイト先だと聞いてますが、楯野がバイトを辞めた後も付き合いは続いていたみたいですね。

 先にも言いましたが、私はミヤモトが好きじゃなかったので顔を合わせたくないから楯野を下ろしてすぐに自宅へ向かいました。
 ミヤモトは調子に乗りやすい口先ばかりの男で、その場のノリや雰囲気ですぐに他人を見下して馬鹿にする……底の浅い男でしたから、顔を見るだけで嫌な気分になるので。
 イジメの常習犯、っていうやつですよね。
 執拗に一人をイジめるような事はなかったんですが、誰それかまわず茶化して馬鹿にして……私も何度かそうされた、と言えば会いたくない気持ちもわかるでしょう?

 ……楯野はそこで下ろしました。
 何度もいいますがミサキは誰だか知りませんし、ミヤモトも見てません。だから実際そこに何人いたかわかりませんよ。

 わかってるのは、楯野がもう死んだ事くらいです。

 ミサキ……って子が、いま入院してるんでしょう?
 ミヤモトはまだ見つかってないんですよね。あれから失踪したとか……行方不明だとか。 山狩りは私は参加してないので知りませんけど……。

 でも、私はミヤモトが嫌いですがミヤモトが楯野殺しの犯人でミサキも襲ったといわれると正直ピンとこないんですよね。
 ミヤモトは確かにろくでなしですが、人を殺せるほど度胸があるように見えない……もっと臆病で卑屈な小悪党だったんで。
 楯野の死に方も、殺人というより事故のようだと聞いてますし……。

 ……他に、誰がいたのか知らないか……ですか?
 知らないです、すいません。
 繰り返しになりますが、コンビニで楯野を下ろしただけなので……。

 あぁ、でも……それを聞いた人は、アナタで二人目ですよ。

 一人が死亡、一人が行方不明、一人が入院。
 3人が発見されたという話なのに、どうして「もう一人」のことを聞かれるのか不思議だったんですが……もう一人、いたのですか?
 あの場所に、もう一人……。

 いや、今更何をいっても詮無きことですね。
 何をいっても楯野が生き返る訳でもない、ミヤモトがすぐに見つかる訳でもない、ミサキという子が治るわけでもない。
 下らない詮索はやめておきますよ。こっちまで妙な事件に巻き込まれたくないですからね。


「二人目」

 川の流れは自然の摂理だ。
 なぜ、どうしてそうなるのかと言われれば色々と理由はあるんだろうが、ようはそうなるからなるんだ。
 だから理由や理屈じゃなく、あの場所はそうなるからなる。
 自然と集まってしまうんだよ、お前たちの言い方をするなら悪霊や怨念、祟り、恨み憎しみ妬みなんて悪い感情の煮こごりがな。
 ちょうど滝が上から下へ流れ落ちるように、そういったものもくぼみへと集まってくるんだ。低い所に水が集まってたまっていくようにな。

 くぼみというのは見た目の立地ではなく、そういったものの流れのことで実際の高低差とは関係ない。あそこが高台だという見た目の形は、流れとは関係ないからな。

 だがそういうものが集まるからこそ俺たちのような輩がいるし、俺たちのような輩が商売になるというわけだ。

 ……何だ、お前は俺が何だかわからないで話をしてたのか。
 俺はオカルトライター。ルポライター。肩書きは一応そうだがよく霊能力者や霊媒師と呼ばれる仕事をしているものだ。
 最も、ライター業のほうがいくらか金になっているから今は霊能力者というのが副業なんだろうがな。

 さて、お前の聞いたあの場所はもともと悪いものが存在し、悪い話が存在し、条件が整っている。 怪異やらオカルトといった類いが発生するのに良い条件がそろっていてな。 そういうのがそろった時、今回みたいな事件がおこるんだよ。

 ミヤモトとかいったか、あいつはもう戻ってこないだろう。
 あるいはまた、向こう側とこちら側をつなげる事が出来ればいいが事件からもう半年近くはたつ。死んでるだろうな、半年飲まず食わずでは生きていまい。
 向こうの時間は流れが違うからあるいは生きているかもしれんが、流れが違うとはいえ長時間いられる場所じゃない。
 もしミヤモトとやらが存在してたとしても、取り込まれてかろうじて自我があるくらいか。その自我を演じて相手を誘い出す道具にされているんじゃないか。
 どちらにしても助けようとは思わないでおくことだ。お前も取り込まれ殺されるのがオチだからな。

 ミサキ? あの生き残りか。
 一応様子は見てきたし、祓っておいたがあの足は良くならんよ。 あれは医学じゃない、俺たちの理屈だ。だが医学的なたとえをするなら、足から入った毒素が全身に巡っている。足の治療をして怪我をなおしても身体に残った毒が抜ける事もなくとどまって一生そのままだってことだ。
 本格的に祓ってやればもう少しマシになるだろうが、病床に霊媒師が現れて「おたくの娘さん呪われてるんでお祓いしますか」なんていったらこっちが狂人だ。
 あぁ、もし本当に病床でそういう奴が現れたら追い払えよ。そういう奴は弱った心につけいる団体で親切心から金をむしり取る輩と相場が決まっているからな。
 本当にそういう力がある奴は自分から率先して声をかけたりはしないさ。

 普通はオカルトにすがるより医療にすがるもんだし、お前もそうするほうがいい。
 実際のところ、身体の不調はオカルトよりちゃんと病院で医者に診てもらったほうがよっぽど治りがいいからな。

 ついでに言うと、俺は霊媒師としては高い方なんだ。
 金額を言ったら追い払われるのがオチだから自分から祓うなんて人のいい事はしないさ。

 さて、あの場所だが集まりやすい条件がある歪が整った場所だがそれでも怪異が現実になるほど強いような場所じゃない。何せいわくつきの建物はとっくに無くなっているんだから条件はむしろ悪いといえるだろう。
 トンネルにしても廃屋にしても、すでに無いものや入れない場所より現存している場所のほうがよっぽど都合がいい。
 お前たちでいう霊的なものも場所に集まりやすく、何もない野原になんて好んで集まらないもんなんだよ。
 そういう意味でいかなる姿をしても、あれは幾分か人間らしい動きをする……人間の想像力を極端に逸脱した行動はとらないもんなんだ。

 だが、あの場所に廃病院が現れた。
 異常なことだ。

 確かにあそこにはかつて廃病院があり、そこには実験やら自殺やら不穏な噂が流れていた。もしまだ廃病院が存在していたら怪異の一つや二つがおこる条件はそろっていただろう。
 しかし今はない場所だ。何もない場所に廃病院の噂だけが残り、その噂を聞いて廃病院を見に行ったタテノ・ミヤモト・ミサキの前に廃病院が現れた……。

 ……これは、俺たちの世界でも異質なことだ。

 廃病院について?
 ミサキから聞いた。俺が祓ったら少しだけ話ができる状態になったからな……廃病院があったのか、と聞いたらあいつはあったといった。
 二階建ての病棟があったと。地下室があり、そこは霊安室になってた……二階には手術室があった……と、そのくらいか。

 お前、実在した病院の配置を知ってるのか?
 なるほど、実際は外科手術をするような部屋はなかったと……まぁ、そうだろうな。そうだろうとも。
 あの病院は元々あそこにあった廃病院ではなく、おそらくM市に存在したT病院の模倣だ。

 詳細は割愛するが、その病院ではなかなかに凄惨な事件があった。
 男が二人、女が一人関わる事件だ。
 それはなかなかの難物でな……かなり広範囲を封鎖するような廃屋だったから心霊スポットにもなってないんだ。

 本当にマズい場所は噂にはしないもんだ……わかるだろ。
 下手に人がきてもすぐさま取り込まれておかしくなる程度には強い場所なんだ。

 だがその病院が最近消えた。
 一切合切の気配がぷっつりと無くなったんだ。

 それでも残渣が随分あるからすぐに綺麗さっぱりとはならないだろうが……後始末がおわれ場封鎖も解かれ、人に語られる心霊スポットくらいにはなるかもな。

 それが今回の事件とどう関係しているのかはわからない、が……。
 俺がその場にいた「もう一人」を探しているのはそれが理由だ。

 もしお前も何か知っていたら教えてくれ。
 そいつは今でもまだ、その強烈な呪詛を持っているはずだからな。


「三人目」

 あっ、ミサキの親戚ですか?
 俺、ミサキと同じクラスメイトでこの病院の近くに住んでるからお見舞いにきたんですけど、今は面会できないって言われてもう帰ろうかなって……。

 はい、ミサキとクラスメイトでタテノの事も知ってますけど。
 えっ? ミサキがどういう生徒かって?

 そうだなぁ……派手で噂好きで……どっちかっていうと軽い感じかな。
 でも悪い子じゃないってか……いや、頭はあんまりいい方じゃないけど、こんなひどい目にあうような奴じゃないってか……。

 廃病院? 噂?
 知ってますよ、昔人体実験をしてたとか……牢獄みたいな部屋で患者を閉じ込めてたってやつ。 ミサキ、タテノたちとそれ見に行ったんでしょ?

 俺、そこ行ったことあるんですよ。
 ほら、この病院から結構近いでしょ? で、廃病院の噂聞いて……あ、行ったのはまだ中学の頃なんですけど。 噂聞いた時、あそこに病院なんかあったっけ? って思って……。
 確かに道はあるけど途中にフェンスがあるし、私有地! とか書いてあるし……本当に病院あるのかとか知らなかったんですよね。

 あー……今は病院ないんですね。10年くらい前になくなってる?
 だったら、俺が中学の頃はもう無かったんですね……。

 って、それおかしいですよ。
 俺、その時見に行ったら病院ありましたもん。

 流石に夜とか怖いんで日曜の昼に出かけて、私有地のフェンスを……あ、これ誰にも言わないでくださいね。 道なりに30分くらいは歩いたのかな……そこに病院ありましたよ。
 二階建てで……そんなでっかい病院じゃなかったですよ。古い鉄筋コンクリートの、昭和って感じの……。

 ミサキ、噂を聞いた時に近くに住んでた俺に「本当にあるの」って話してきたから俺は「見たことある」って教えたんです。 場所とかそういうの。
 俺は廃病院見て、中学生の時一人だったしあんまり長く家開けると怒られるからやべーって思ってすぐ帰ってきたんですけどね。
 そしたらミサキ、面白そうって……。

 ミサキ、最近デジカメちょっといいやつ買って……廃屋とかそういう被写体はウケるとか、もし心霊写真とか画像とれたらテレビ局に売るみたいな感じで……。
 あー、俺も面白そうだなーと思ったんですけどね。 タテノも首つっこんできたから一緒に行くのやめといたんですよ。
 タテノ、ミサキのこと好きだったから邪魔するのも野暮かなと思ったし。 俺の家厳しいから夜とか出かけるのNGだし、俺の知ってる限りの地図書いてなんか面白い映像とれたら見せてよって送り出したんですけどね。

 でもまさか、タテノが殺されて、ミサキもあんな事になるなんて……。

 俺なんか、罪になったりするんですかね?
 ……いや、そんなこと言ってる場合じゃないんですけど。

 やっぱ、犯人ミサキの彼氏なんですか?
 ミヤモトさん……ミサキの彼氏ですよ、あの時そう言ってましたし。ミヤモトさん厳ついから、ミサキ守ってくれるんじゃないかなーと思ってたんだけどそんなひどい人だったなんて……。

 あっ、俺そろそろ帰りますね。
 ミサキに会えないんじゃお見舞い来た意味ないし。

 もし会えたら右足、お大事にって言っておいてください。
 それじゃ……。


「四人目」

 あたし……病院に、いたの。いったの。あったの!
 病院で……そしたら、閉じ込められて。玄関、鍵かかって……。

 りょーちん……あたしの彼氏が、ドアに体当たりしても開かなくて……。

 病院……受付に長椅子とかあって、汚いけど、なんか思ったよりフツーにものがあるねってタテノと話してて……。
 二階に手術室、あって……手術室から悲鳴聞こえて……。
 タテノが怖くないとかいって手術室開けたら、ナイフ? メス? それで首、首……。

 そしたら、誰かがここヤバいぞって……あたしの目塞いで、手ぇ引いて……あたし、タテノのことみてないけど床に血がいっぱい出て……。

 りょーちん、1階に降りて窓とか割ろうとしたけど全然だめで。
 それで、りょーちん、タテノ殺した奴がこっち来るから地下室に逃げようって……でも、りょーちん私とあいつを置いて自分だけ閉じこもって。あたしたち入れてくれなくてさ。
 あたし完全にパニくって……それで、あいつと一緒にトイレに閉じこもって、どうしようかって話して……。

 とにかく、ここにいたらヤバいからってあいつ、鍵とかないか探すっていうからさ。
 あたしも怖いからあいつと、病室とか診察室? っての? そこで鍵探してるうち、二階からなら飛び降りれるって気づいて。それで二階から逃げる時、あたし後ろから足掴まれてね。

 右足の傷、それなの。爪、食い込んで……つかんだの誰かわかんないけど……。

 それで、あたし逃げて逃げて、看板のところ……何だっけ……私有地って書いてあるところまで逃げて、足が痛くて動けないからあいつが助け呼んででくるって。
 それで、気づいたら救急車乗ってて……。

 ねぇ、本当なの。
 タテノは手術室にいた誰かに殺されたの! あたしちょっとしか見てないけど、お医者さんのかっこしてたの!
 りょーちん、まだ霊安室にいるかもしれないから探してほしいし、もう一人たしかにいたの。
 誰か、わかんないけど。いたの……いたの!

 ねぇ、あなたあいつの事探してるの?  あいつ、誰なの? あいつ、本当にいたの?
 でも、あいつのこと、誰かわかんないのにあの時みんなあいつがいる事おかしいって思わなかったし。
 あいつ、結局あたしを助けてくれたし……。

 病院、本当に無いんだって?
 タテノ、何もない野原で見つかったんだよね。りょーちん、まだ見つかってないんだよね。あいつ、誰だかわかんないんだよね。

 もう、訳わかんない……何もわかんないよ……。


「再び、二人目」

 おまえ、まだここにいたのか?
 俺はもう帰る。もう俺のやれる事もなさそうだからな……お前は何かあったか?

 そうか、ミサキと話したのか……そう、ミサキは確かにないはずの病院にいってる。
 タテノと、ミヤモトと、あいつ。もう一人と行ってるが、そいつの名前は覚えてない。

 ……その、誰も知らない奴を俺は探しているんだ。

 そいつが何者なのかって?
 それは教えられない……といえば格好いいが、俺もよくわからないというのが正しいだろうな。 俺はあいつを探しているが、誰もあいつの名前を知らない。
 外見も声もなにもかも、あいつの事を語らせるとみんな曖昧になってしまうんだ。

 ……これは憶測だが、あいつは呪詛のために生まれた人間だ。

 呪物とか呪具とか、呪われた品や呪いのための道具というのはあるだろう。 それと同じように、呪いに使われるための人間というのが時々意図して作られて生まれてくる。
 誰にも望まれず、恨み傷つけられて痛みと哀しみもわからなくなる程注がれ、身体に呪詛を宿してそして誰かを呪うためにその命を使い潰される。
 そういった理由で作られる人間だ。

 大概は呪いのために生まれ、一定まで悪意を注がれたら殺される道具だ。
 生まれたことすら記録されない、存在してない人間だ。

 だが、おそらくあいつは呪いを体現したまま存在している……この世にひとつの摂理として存在する呪詛を拾って、気まぐれに大きくして生きている。

 理由はわからん。あいつなりの道理や大義があるだろうが、気まぐれに拾える呪詛の悪意が大きすぎるんだ。

 もし、それと出会っても俺がどうこう出来るような代物ではないだろう。
 それでも危険だとわかっているものを放置しておけば、今回みたいな事件になるだろうからな……。

 お前は納得と理解をしたのなら、これ以上首をつっこむな。
 何というか……おまえ……。

 においがする。
 陰の、悪いにおいがな。


 「五人目」

 へぇ、よく撮れてるぅ……。
 あ、これ渡しておきます。ミサキのデジカメ……。

 たしか、ミサキの病室に行ってましたよね?
 これ借りてたから返そうと思ってたんだけど、俺が行く時ミサキいつも調子悪いみたいでなかなか返せないから。 ミサキ、しばらく学校も来れないみたいだし……。
 だから、渡しておきます。もうすぐ学年上がれば受験だし、そしたらもう来れないと思うんで元気な時に渡してあげてください。

 デジカメに何か写真が残ってなかったかって?

 えーと、何か廃屋の写真かな。病院っぽいとこで、暗い部屋で……でも結構綺麗に撮れてましたよ。 ミサキ、写真撮るの上手いみたいですね。

 あー……でも、あんまり見ない方がいいかも。
 それ、心霊写真ってんですか?
 何かそれっぽいっというか、変なの写ってるみたいで……よく撮れてるけどめちゃくちゃ不気味なんで。

 呪われたりすると、ヤバいじゃないですか。ね?

 それじゃ、渡しておきます。
 今日は会えないと思ったし、俺も暫くこっちにはこないんで……。

 もう一回いいますけど、写真は見ない方がいいっすよ。ちょっとヤバい気がするんで。
 それじゃ、ミサキに……右足、お大事にって伝えておいてください。


「一つの記事」

 14日未明  市内でフリーライターのM氏(32)の死亡が確認された。
 M氏は室内で頸部を切断し死亡しており、警察では事件と事故の両方から捜査をしている。
 室内に争った形跡はなく、床に残された壊れたデジタルカメラには何も写っていなかったという。

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プロフィール
HN:
東吾
性別:
男性
職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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