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インターネット字書きマンの落書き帳

   
ドイツ語を話せるリヒタという概念と片思いされているエリオ(BL)
襟尾に片思いをしている利飛太の話を書きました。
ずっと襟尾のこと好きなんだけど、それを伝えたりしないし、そもそも自分の人生に襟尾を巻き込んではいけない、みたいに思っている利飛太ですよ。

何故かドイツ語しゃべれるタイプのリヒタがこっそり襟尾に愛を告げる。
そんな話しですよ。

片思いをこじらせる男は好きかい?
オレはけっこう好きだぜェ……な、ageてこうぜ……。



『キミもそうしてくれたなら』

 利飛太行きつけのBARでのことだ。
 久しぶりにゆっくりと酒が飲みたい、そう希望した襟尾のために利飛太は自分の知るBARでも一番落ち着いた店で二人、テーブル席に座って飲んでいた。
 最初は静かに飲み、ぽつぽつと日々のこと、事件を追いかけるプレッシャー、先輩たちから結婚しろなんて突き上げを食らって参っている事など些末だが襟尾を悩ます周囲の言葉を利飛太へと打ち明ける。

「エリオ、キミは真面目だから一人で考えてしまうかもしれない。だけど、責任を一人で負う事なんて必用ないんだ。そのためにキミの上司がいて、仕事の責任は彼が担ってくれているだろう。そこでも打ち明けられない責任は、僕が背負おう。だからそんなに気にしなくてもいいさ」

 襟尾が泣き言を漏らすたび、利飛太はあまり当たり障りのない言葉、かつ利飛太が出来る範囲の助力をもちかけ彼を慰めた。
 だがそれがあまりに有り体な慰めにでも思えたのか、それとも襟尾がそこそこ飲み多少はアルコールが回ってきたのだろう。彼らしくないほど不機嫌そうな顔をすると、利飛太の顔の顔をのぞき込む。

「リヒタはさぁ、すーぐそうやって自分の本心を隠すような言い方するよなーッ」

 そしていきなり、いわれのないような言い草をされるのだ。
 アルコールのせいか、襟尾の白い肌が随分と赤く染まっている。少しばかり飲ませすぎたかもしれない、襟尾はそれでなくてもあまり酒に強い方ではないのだから。
 利飛太はやれやれとため息をつくとウイスキーの注がれたグラスを傾け唇だけを湿らせた。

「そんな事ないさ、僕はこれでもけっこうキミの事を買っているんだ。キミのような人間が警察からいなくなったらそれでこそ痛手だろう。親身になって考えているつもりだぜ」

 これは本心である。
 利飛太は警察という組織が好きではなかった。集団となった組織は結成された当初の目的から離れ組織を守るための組織となる、そのような傾向がどこにでもあるものだ。
 今の警察はすでにその域へと達し、末端の人間だけが真面目な捜査をするが中央に属する人間は組織の面子や体裁を守るためだけに活動し組織を守るためになら犯罪を隠蔽することさえある。 利飛太はそういった警察の、いや組織という存在の深部をよく知っていた。
 だがいかなる闇を抱えていたとしても、志を抱いて己の生き方を貫こうとする者はそういった闇へ対抗する手段の一つとなる。
 津詰徹生に憧れて刑事になり、事件の解決こそが被害者を救うと信じて迷いない襟尾の心はまさに光そのものだ。彼が組織の派閥やいざこざに巻き込まれないまま事件に対し真摯に向き合ってくれるのなら、自分は今より警察のことは好きになれるだろう。
 それ以前に、利飛太にとって襟尾は特別だった。
 警察学校で同期だった頃から正義へと邁進し、憧れを原動力に多少ヤンチャをしつつも前向きに進む姿は警察という組織に対し一定の胡乱さを抱いていた利飛太からはとても清らかに見えた。
 屈託なく誰に対しても親しく接する性格も、年の割には少し幼く見える顔立ちも利飛太からするととても美しく、そして愛おしいのだ。
 普通、警察など相手にしないのだが襟尾や吉見は別だ。彼らは信頼できる。自分のなかに確固たる信念を抱えて仕事をし、それに反するものを毛嫌いする彼らのことなら信用に足る。
 利飛太はそう思っていた。
 だが襟尾からすると、そうではなかったのだろう。

「だいたい、オマエって何も言わず警察辞めちゃっただろ。ほんと、ビックリしたぜ。もういないって言うんだからな」

 利飛太が警察という組織に飛び込んだのはいくつかの理由があった。
 その中には調べたい事件があった事や、警察で教える技術……護身術であったり尾行であったりをスムーズに行える方法など、警察が有事の際どのように動くのかをノウハウとして知っておきたかったというのもある。
 ひとしきり満足のいく知識を得たから誰にも言わずに辞めたことを、襟尾はきっと恨んでいるのだろう。

「悩みとかあったなら相談してくれればいいのにさ。オレ、おまえがそんな思い詰めているとか思ってなかったんだぜ。友達だと思ってたのに、ショックだったなぁ」

 襟尾はそう言いながら椅子の背もたれに身体を預けた。
 利飛太は目的を果たしたから仕事を辞めたのだが、襟尾にとって仕事をやめる時は上司と折り合いが悪いとか何かしら悩みがあるといった時なのだろう。
 何にしても相談せずにいきなり去ってしまったことが、知らぬうちに襟尾を傷つけただろう。

「しかもオマエ、全然自分のこと話さないよな。何処に住んでるとか、趣味が何だとか全然教えてくれたいし」
「ボーリングくらいはやるよ。他にこれといって目立った趣味がないってだけさ」
「そうじゃなくて、何でも秘密にしてるだろ。家族のこととか……あっ、そういえば警察学校の頃、本とか読んでたよな。何か英語の……」
「英語じゃない、ドイツ語だよ」
「そう、ドイツ語の。そういうの、いつから読めるんだよ。誰に教わったんだ?」

 襟尾は酒のせいか顔をすっかり赤くし、ろれつもやや回らない様子で言う。

「別に、たいした事じゃないよ。僕の祖父がドイツ語話者で、祖父から色々教わっているうちに自然と読めるようになった。それだけの事さ」

 本当の事を言っても信じはしないだろうし、真実を告げれば襟尾も自分の境遇に巻き込んでしまいかねない。
 その思いから表向きの理由だけを説明すれば、襟尾は幾分か合点がいったような顔をして見せた。

「そういえば、おまえ時々外国語で独り言、言ってたりするもんな」
「そうだったのかい? 気付かなかったけど」

 実際、聞かれたくない相手にはドイツ語で愚痴や悪口などを呟く事はあるが襟尾のまではそれほど言ってないはずだ。
 聞かれていたのだとしたら本当に無意識だったんだろう。そう思いながら、利飛太はさらにグラスを傾けた。ウイスキーも残り僅かとなり、襟尾もテーブルに出されたチーズを頬張る。
 すると利飛太を指さし、さらに彼へと詰め寄ってきた。

「だいたい、リヒタは本当にオレのこと友達だと思ってるのかよ? オレはこーんなにリヒタの事大事な友達だ、って思ってるのにさぁ」

 無邪気で、屈託ない、だからこそ残酷な笑顔が利飛太の心に突き刺さる。
 大切に決まっている。襟尾こそ誰よりも守りたい日常だし、この世の喜びを与えつづけたい花だ。苦しみや災厄全てから守ってやりたいと思う。
 だがずっと友達のまま留まる事しかできない、そんな存在なのだ。

「Ich liebe dich am Morgen und am Abend, ohne eine Sekunde zu verlieren.」

 殆ど無意識のうちに、そんな言葉が漏れた。唐突に意味のわからない言葉が飛び出たので、襟尾は胡散臭そうな目を向ける。

「あ、また変な事いって誤魔化そうとしただろ。何て言ったんだよ」

 頬を膨らませ唇をとがらす襟尾の頭を撫でると、利飛太は微かに笑っていた。

「もちろん、友達だと思っているさ。さぁ、これ以上悪酔いする前に出ようか」

 そしてゆっくり立ち上がると伝票を手に出口へ向かう。

「あぁ、まってくれよ。おいていくなってば」

 慌てて立ち上がる襟尾へ優しい目を向けながら、利飛太は思いを燻らせる。

 Ich liebe dich am Morgen und am Abend, ohne eine Sekunde zu verlieren.
 朝も昼も、一日だって欠ける事なくキミを愛しているだなんて、どうして言えるのだろうか。

 そんな事を思いを密かに抱きながら、利飛太の視線はいつだって襟尾を優しく包むのだった。

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インターネット駄文書き
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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