インターネット字書きマンの落書き帳
推しが煙草を吸う話。(ヤマアル)
ボク自身は煙草を吸わないンですが、ボクがまだ紅顔の美少年だった頃は今ほど喫煙者に厳しいご時世じゃなかったのもあるンでしょうね。
正義のヒーローでさえ煙草プカプカ吹かしてた時代ですし、映画にしてもドラマにしても漫画にしても、くわえ煙草のキャラクターなんてメチャクチャにいて、それがやけにカッコ良く見えたもんです。
ンなもんで煙草って「絵になるなァ」というイメージがどうしても消えないんですねぇ。
ま、そんな前置きはさておいて、今回は煙草を吸うヤマムラさんを見て「自分も吸ってみたいな」と思うアルフレートくんの話です。
煙草、推しが吸ってみたいと吸いたい。
そう思うのもまた自然の摂理でしょう……。
正義のヒーローでさえ煙草プカプカ吹かしてた時代ですし、映画にしてもドラマにしても漫画にしても、くわえ煙草のキャラクターなんてメチャクチャにいて、それがやけにカッコ良く見えたもんです。
ンなもんで煙草って「絵になるなァ」というイメージがどうしても消えないんですねぇ。
ま、そんな前置きはさておいて、今回は煙草を吸うヤマムラさんを見て「自分も吸ってみたいな」と思うアルフレートくんの話です。
煙草、推しが吸ってみたいと吸いたい。
そう思うのもまた自然の摂理でしょう……。
『苦い煙』
ヤマムラは時々、外や窓辺で煙草を吹かしていることがあった。
故郷の品だというやけに細長いパイプをもって立上る紫煙を眺めている時は、大体何かしらを思案している時だ。
故郷の事を考えているのか、連盟の活動について思いを馳せているのか、はたまた獣狩りについてか、ヤーナムという街についてか、血の医療についてか……。
何を考えているかヤマムラは言わなかったし、アルフレートもそれを聞こうとは思わなかった。
そんな時のヤマムラは大抵触れてはいけないような雰囲気をまとっていたからだ。
それに、アフルレートは物思いにふけるヤマムラの横顔が好きだった。
この辺りでは見かけない細く長いパイプから立上る煙をぼんやりと眺めるヤマムラの姿は大人の色香が立上っており、とても美しいと思ったからだ。
思案にふけるヤマムラの真剣な眼差しに美しさを感じたのか。
それとも、アルフレートは嗜まない「煙草」という嗜好品とともにあるヤマムラに美しさを感じたのかは正直よく分っていない。
ただ、その姿を見るたびアルフレートは「煙草」というものに興味を惹かれていった。
ヤマムラはいつもさぞ美味しそうに煙草を吹かしているが、アルフレートに煙草を吸う習慣はなかった。
嗜好品である故ヤーナムでもやや高い値段で取引されているというのもあるが、煙草を吸うと肺病になりやすくなるといった噂や、煙草のキツいにおいが身体につくとなかなかとれず獣に勘付かれやすくなるといった理由も大きかっただろう。
肺病云々という部分は事実かどうかアルフレートはよく分らなかったが、煙草を吸った後のヤマムラはいつも独特のにおいがしたから「においがとれない」というのは事実だと知っている。
師の名誉を回復するため、この街を清潔にするには自らが健康でなくてはならない。
そう思っていたアルフレートは自然と煙草を忌避するようになっていた。
だがヤマムラが口にしている姿を見ると、一度だけ吸ってみたいと思うようになってくる。
実際吸ってみようと思い、初めて吸うならどんな葉がいいのか。
パイプを使うならどんなものがいいのかと、ヤマムラに聞いてみた事がある。
だがヤマムラは苦笑いをしながら。
『駄目だ駄目だ、煙草なんて苦くて煙たいだけで何の特にもならないよ。俺は一度吸ってしまったから、癖になってしまっただけさ。こんなもの、中毒と一緒だ』
そう言われたので引き下がったのだが、他人には勧めないくせに自分はぷかぷかと煙草を吹かすヤマムラを見ているたび、吸ってみたいという気持ちは日に日に強くなっていった。
「ヤマムラさん、煙草吸わせてくれませんか?」
募る気持ちは抑えきれなくなり、思い切って問いかける。
身を乗り出してヤマムラの顔をのぞき込むアルフレートを前に、ヤマムラは以前見せたのと同じような苦笑いをした。
「駄目だよ、アル。以前も言わなかったかい? 煙草なんてものは、百害あって一利なしだ。特にキミはよく夜中ゼィゼィとした悪い呼吸をしているだろう? そんな身体に良いものじゃないし、美味いものでもないんだ。苦いだけの煙を、ただ癖になって吸ってるだけだって」
そして以前と同じような理由で断ろうとする。しかし今度のアルフレートは、それだけでは引き下がらなかった。
「貴方は以前もそう言いましたけど、目の前でいかにも美味しそうに煙草を燻らせている貴方をみていたら興味をもつなという方が無理というものですよ」
「あぁ、それは悪かったね。今度から場所を考えて吸うよ」
「そうじゃなくて……私も、貴方が口にするものの味を知りたいと思うのです。貴方が何を喜んで、その喜びをどのように体験しているのか。私も、同じことをしてみたいんです。同じものを体感して、共有したいと思うなんて、初めてのことで……私、おかしい事言ってるのでしょうか……?」
勢いよく言ってみたのはいいが、段々と語尾は小さくなっていく。
こんな事を考えるのは自分だけなのじゃないか。自分が人一倍ヤマムラに対して束縛が強いためそう思ってしまうのではないかと感じてしまったからだ。
だがヤマムラは少しぽかんとした後、微かに笑って愛用の細長いパイプを向けた。
「……一口だけだよ? 本当にあまり美味しいものでも、身体にいいものでもないんだ」
パイプを向けられ、アルフレートは思わず笑顔になる。
「いただきます!」
そうして口にした煙草は……。
「っ……げふっ! ごほっ……っ……ぁ……煙じゃないですか……!? 驚いた、よく気持ちよさそうにふかす事ができますね……」
ヤマムラの言う通り、美味しいものでも身体によさそうなものでもなかった。
「だから言っただろう? 吸うのにもコツがいるんだ。肺に深く入れるように吸わないとすぐ噎せてしまうからね……でも、それでいいよ。こんなもの、好きにならなくていいんだ。キミは身体を大事にしてほしいし、嗜好品だからここでは高いからね」
「えぇ、そうかもしれません。でも……」
それでも、ヤマムラが吸ってるのと同じパイプで同じ味を共有できる。
いずれ道が違ったとしても、今は共にいられる同じ人間としての時間を過すことが出来ている、この幸せを噛みしめて。
「でも、貴方と同じ味を知れて嬉しいです」
アルフレートは自然と、笑顔になる。
それから二度と煙草を吸う事はなかったが、それでもその時、その一瞬二人で共有した時間はアルフレートの心に深く、そして暖かく刻まれていた。
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