インターネット字書きマンの落書き帳
好きな人が元カノと親しかった話。(みゆしば)
平和な世界線でいずれ付き合う事になる手塚と芝浦の話ですよ。(挨拶)
今回は、まだ付き合う前。
何となく手塚と話すの楽しいし、ちょっと自分のこと好きになってくれるんじゃないか。
そんな期待もしちゃったりするしばじゅんちゃんが、元カノと話している手塚を見てなんかすげぇ狼狽えちゃうような話です。
手塚くんにだって元カノくらい……いる。
いるだろ……?
こういう感じの話が先祖代々好きなんです。
いや、俺の先祖のフェチズムは聞いてませんけどね。
今回は、まだ付き合う前。
何となく手塚と話すの楽しいし、ちょっと自分のこと好きになってくれるんじゃないか。
そんな期待もしちゃったりするしばじゅんちゃんが、元カノと話している手塚を見てなんかすげぇ狼狽えちゃうような話です。
手塚くんにだって元カノくらい……いる。
いるだろ……?
こういう感じの話が先祖代々好きなんです。
いや、俺の先祖のフェチズムは聞いてませんけどね。
『過剰なまでの言い訳』
授業は終ったが家に帰るにはまだ早い。
そんな時、芝浦は自然と手塚が店を出す公園に行くようになっていた。
特に占うような事がなくとも、何となく手塚の顔を見て少しだけ会話する。たったそれだけでも今は楽しかったからだ。
占いの代金は40分で4000円。10分千円の価格帯だが、芝浦にとってさして大金ではない。
むしろそれだけの値段で手塚と対話を買えるのなら安いと思っていたし、最近は客が居なければ多少居座って長話をしていても邪険にされない程度の距離感になっていた。
別段、好きになってもらえるとは最初から思っていない。
その手の店で知り合った相手ではないのだから、好意を寄せてくれる期待などしてはいけない事くらい弁えているつもりだった。
だが、嫌いにはならないでほしい。
金払いのいい上客、それ以上の関係は求めないから訪れたら笑顔で出迎えてくれればそれだけでいい。
そう思っているつもりであったのだが。
「あれ、誰だろ……」
手塚の店に、見慣れない女性が訪れていた。
芝浦が行く日はだいたい決まっているし、その日の訪れる自分と同じような常連客ともよく顔を合わせていたがその女性は普段見る客とは違った印象であり、また手塚ともやけに親しげに離している風に見えた。
他の客より明らかに距離が近い。手塚の様子からしても、顔見知りなのは間違いないだろう。
手塚はこの公園だけではなく他の場所でも店を出す事があると聞く。
その他の場所によく通っていた常連かもしれないし、久しぶりに顔をだした客の一人かもしれないと思おうとはしたが、芝浦の心はそれを否定していた。
明らかに彼女は違う。
もっと親しい知り合いだ。
二人の表情と距離感で、何とはなしにそれを直感する。
芝浦は遠巻きにその様子を見守っていれば、程なくして彼女は去って行く。少し考えたがあれこれ悩むより確かめた方が早いと思い、入れ替わるよう芝浦は手塚の店へと訪れた。
「や、占い師さん。さっきの人綺麗だったねー。占い師さんの事知ってるみたいだったけど、元カノ?」
軽くかまをかけてみたつもりだったが、手塚は露骨なまでに狼狽えた。
「しばうっ……見ていたのか? いや、何で分ったんだ……」
何で分った。その言葉は芝浦の問いかけを肯定しているのと同じだろう。
やっぱりそうだ、という気持ちに幾分かの落胆が入り混じる。
好きになってもらえるとは最初から思っていなかったはずだ。
だが実際に手塚が異性と付き合っていた、その事実を聞かされるのは心が軋むような気がした。
(好きにはなってくれないって最初からわかってた癖に、知らない間に俺って結構期待しちゃってたんだ……ホント、バカみたいだな……)
そんな思いはおくびにも出さす、芝浦は前を向く。
大丈夫だ、自分は演技が上手いのだから期待していた様子なんて一切出さずに振る舞えるだろう。
「遠目でしか見てなかったけど、綺麗な感じの人じゃなかった? へー、占い師さんってあぁいう感じの子が好みなんだ」
わざと茶化すように言えば、手塚は思った以上に慌てた様子を見せた。
「いや、違うんだ。別に、特別好きだったという風じゃなく……ただ何となく付き合う流れになったが、すぐに性格も価値観も違いすぎるのが分って俺が一方的に振られた。そんな相手で、今でも顔を見れば話くらいするが別段、親しいといったワケではなくて……」
「そうなの? 結構親しげに話してたみたいだけど」
「彼女が誰にだって気さくに話しかける性格だというだけで、俺が特別というワケではないさ。少なくとも、俺はそう思っているし……今日話してみて、改めて俺には勿体ないくらい出来た女性だと思い知らされただけだ」
芝浦が一つ話した事に対して、手塚はずっと能弁に語る。1つを聞いて、10の答えが返ってくるような気さえするが、こんなにも良く喋る男だっただろうか。
「とにかく、今はもう……特に深い間柄でもないし、今日も……今付き合っている恋人との運勢を見て欲しいと言われて占っただけだ。芝浦が気にする事じゃない……」
目線を反らしながら、やけに必死に弁明している風にも思える。
(何だろ、これって……俺に対して言い訳してる? ……なんでそんな事するんだろ、この人。別に俺なんか気にしなくたって、元カノならそれで堂々としてればいいのにさ……)
占いをしてうる時は、むしろ寡黙だったはずだ。
いつも話をするのは専ら芝浦で手塚は聞き役が多かったから、ここまで話す姿は勿論こんなに焦った様子も見せた事はない。
ただ、色恋沙汰をあれこれ言われるのが苦手なのかもしれないが……。
「そんなに慌てなくてもいいって、占い師さん。俺別に何とも思ってないし、こういう話が苦手ならもうしないからさ……というか、こういう話苦手なんだ? けっこー意外?」
「お前に、変な誤解をされたくないだけだ……」
「へぇ……それ、どういう意味?」
「……と、とにかく。もういいだろう? どうした、占っていくのか」
手塚は半ば強引に話を切り上げ、占い用のカードなどを取り出す。
その態度の真意を推し量る事など芝浦には出来なかった。
ただ、自分に対して後ろめたいと思うような態度をほんの欠片でも見せてくれた事が何とはなしに嬉しくて。
(期待しちゃ駄目だってわかってるけど、期待させてくれちゃう。そういうの、ホント罪だよね……でもさ、そういう所、やっぱ好き)
自然と口元がほころぶ。
好きになってもらえなくてもいい。
勝手に期待している自分がバカなのも分っている。
だからもう少し、この空気を感じていたいと芝浦は改めて思っていた。
クールに見えて優しい。
気のないようで誰よりこちらを気にかけてくれる、手塚という男との時間をもっと楽しんでいたかったから。
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