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インターネット字書きマンの落書き帳

   
いずれ付き合うみゆしばの、半ば同棲きっかけ話
平和な世界線でいずれ付き合い手塚と芝浦の話をしています。

知り合って間もなく、まだ付き合うほど親密ではない。
だけどかなり距離感の近い、そんな手塚と芝浦ですぞい。

わりと初期に書いたCPっぽい話なので初々しい感じがしますね!
皆さんも初々しい気持ちを抱いてくれれば嬉しいです♥

話は2002~2003年頃をイメージしているので、全体の空気感は20年前のノリになってますよ。
時々こうして過去作品を掘り返して、ちょっと恥ずかしい気持ちになろうと思います。

はずかしい……やだ……ゆるしてェ……♥

『押しかけお坊ちゃん』

 何もない空間を、手塚は一人彷徨っていた。
 ここは現実か、それともただ夢を見ているだけなのか。

 それすら曖昧のまま、様々な情景が渦巻いては意識の奥へと沈んでいく。

 決して外れる事のない自らの占い。
 その占いにより死の運命を予言された男は、自分と同じ「仮面ライダー」であった。

 恋人を失い、その贖罪のため半ば自暴自棄になっていた彼の戦いを見ていれば、手塚でなくとも彼に遠くはない死がある事は予見できただろう。
 だが、死ぬ事が分かっている人間をおめおめと死なせてそれを「仕方なかった」で済ませるのはゴメンだ。

 思いは暴走し、手塚は半ば強引に死の運命を抱いた男……秋山蓮の住まいへと押しかけた。
 冷静に考えてみれば面識もろくにない、ただ同じ「仮面ライダー」である事と「あまり戦いに積極的ではないこと」だけで自分を信頼し、招き入れてくれた城戸真司という男や喫茶店のオーナーなど、あの場所は「善き人々」の集まりであったと言えるだろう。

 だからこそ、秋山蓮は冷酷に徹する事を迷い、惑い、自暴自棄へ陥って、死の運命を引き寄せてしまったのかもしれないが……。

 だが運命は変わった。
 自分の命を代替えにしてだが、彼らは死の運命から逃れる事が出来たのだ。

 それは手塚が幾度も繰り返してきた、運命は変わらないという絶望から解放された瞬間でもあった。

 この生々しいまでの記憶と情景は、果たして本当にただの夢なのだろうか。
 それとも実際に自分がどこか別の世界で体験した出来事なのではないだろうか。
 もし体験したのなら、それはいつの事で、どこで体験したのだろうか……。

 記憶は泥のように脳髄深くへ沈んでいき、どんどん曖昧になる。
 そして手塚はまた全ての記憶を忘れ、現在(いま)という時に目覚めるのだった。

「お、起きたのか手塚ぁー。随分グッスリ眠ってたみたいだけど、お疲れ?」

 やっと目を覚ませば、聞き覚えのある声がする。
 声を向けば、見知った男が……芝浦淳がキッチンに立ち朝食の準備らしい事をしていた。

 彼は現在大学生で、フリーの路上占い師である手塚の占いに興味をもったのを切っ掛けに何度か会っているうち、段々向こうが懐いてしまい、今では当たり前のように手塚の家にやってくるようになったかつての客であり今は友人のような存在だ。
 だが何故彼が部屋へと入ってきているのだろうか。合い鍵を渡した覚えなどないのだが。

「芝浦か……お前、どうやって俺の部屋に入った?」
「えっ? どうやってって、ドアから普通に……あ、鍵! 鍵がかかってなかったんだよ。お前、疲れてたんだろ? 鍵もかけずに寝るなんて、都会に住んでるのに不用心な所あるんだな」

 芝浦にそう言われ、昨夜の事を思い出す。
 珍しく酒が飲みたくなり、BARに立ち寄ってウイスキーをロックで何杯か飲んだのは覚えているが、帰り道はすっかり酔いが回っておりどうやって歩いたのかも朧気だ。酒に弱い方ではないのだが、久々に強い酒を一気に煽ったから酔いが回るのも早かったのだろう。

 家に帰ったはいいが寝室に行くのも億劫で、リビングにあるソファーに転がった所までは覚えているがドアに鍵をかけたかはよく覚えていない。
 酒を飲んで気が大きくなっていた所もあるのだろう。盗むような大金も無いのだから別に構わないと思っていた所もあったに違いない。
 だがまさか本当に勝手に部屋まで入って来る奴がいるとは思ってもいなかった。
 今日はたまたま見つけたのが友人である芝浦だったから大事には至らなかったが、相手が強盗か何かであれば今頃命が無かったかもしれない。

「男の一人暮らしだから丁寧な暮らしってのは出来ないだろうけど、鍵くらいはかけておけよな。世の中には怖い奴とか悪い奴がいーっぱいいるんだぜ」

 芝浦はアッケラカンとした様子でそんな事を言う。
 言ってる事は正しいのだろうが……。

「それが勝手にはいってきた奴の言い分か?」

 そう思うとやけに腹立たしく思えた。
 だがそれは勝手に入ってきた芝浦に対してというよりも、うかつにも鍵をかけずに寝てしまった自分に対しての方が大きい。

「あはっ、それ言われるとちょっとは悪いなと思ってるんだけどさ。電話してもメールしても全然返事こないし、部屋に来たら鍵開いてるしでひょっとしたら何か事件!? と思って、ちょっと焦ったのもあるんだよね」

 芝浦はそう言いながら、キッチンで何やら右往左往している。

「部屋だって真っ暗だし、手塚はソファーで横になってるし。ひょっとして死んでるんじゃないかと思ってさ、正直ビビったよ。もし死んでたら俺、第一発見者じゃん? 警察に色々聞かれるの面倒だし。何より折角知り合えたばっかりなのにもうあえなくなっちゃうとか悲しすぎるよね……」
「何だ……お前でも悲しいとか人並みの感情があるんだな……」

 欠伸をしながら頭を掻けば、芝浦は口を尖らせて言った。

「あったりまえだろ。そりゃ、興味のない奴はどうだっていいけど、手塚は……なんか面白い奴だし……それに、ちょっと格好いいし……」

 最後の言葉は小声でよく聞き取れなかったが、どうやら芝浦にいたく気に入られているという事は理解できた。

「そうか、分かった……ところで、さっきから台所で何をしてるんだ?」

 手塚はソファーから起き上がると、キッチン回りをうろちょろしている芝浦の手元をのぞき込む。
 大事そうに抱えたボウルの中には、バラバラに砕けた卵だったものが入っていた。

「あ、これ! 違うんだ、その。何というかな……鍵開いてたから勝手にはいって、そしたらお前まだ寝てるだろ。勝手にはいって悪いなーと思ったから、朝飯くらい作っておこうかなーと思って……し、失敗じゃないからな。ちょっと上手く行かなかっただけだし!」

 どうやらこのバラバラに砕けた卵は朝食になろうとしたもののなれの果てらしい。

「でも、何かうまくいかなくてさ。普段俺、家では何でもお手伝いさんがやってくれるからあんまりこういう事しないんだよね.レシピは知ってるんだけど……」

 しかも、普段からキッチンに立った事もないのにやってみようと思ったようだ。
 お手伝いさん付きで生活しているようなお坊ちゃんのチャレンジ精神は良い事だが、人の家で試さないで欲しいものである。

「わかった、貸してみろ」
「い、いや。でもお前に悪いし……」
「もうこの時点で充分酷い事になってるんだが……一緒にやれば早く終るだろ。芝浦、おまえはトーストでパンを焼いてくれ。オムレツは俺が担当しよう」
「わ、わかった!」

 芝浦は典型的な箱入り息子だったのか、知識はあるが経験が伴っていない世間知らずな所がある。
 それ故に故にプライドが高く、下手に仕事を取り上げるなら他の仕事を任せた方がいいという事は彼と知り合って数ヶ月の手塚だが何とはなしに心得ていた。

(何だろうな、芝浦に対するこの感覚……それほど付き合いが長いという訳ではないのに、何となく「こうしたほうが芝浦は良く話を聞いてくれる」というのが解る……)

 別段付き合いが長いという訳ではないが、何故か知っている。
 この感覚は奇妙であり、くすぐったくもあり、そしてどこか哀しいような気もしたが悪い気はしなかった。

 そうしてトーストを焼き、卵の殻をとりのぞいたオムレツを焼いているうちに、芝浦にはトマトとキャベツを刻んで貰う。スープを作るのは手間だったからインスタントのポタージュスープをカップに入れて並べれば、二人前の朝食完成だ。
 飲み物はルイボスティーにしておいた。コーヒーをおいてない手塚の部屋で一番癖のないハーブティだと思ったからだ。  何てことはない、パンと卵をやいて野菜を刻んだだけのシンプルな朝食だったが、それでも芝浦は自分で作った事にいたく感動したようだった。

「すげー、これだけの朝食が一瞬で出来ちゃうんだな」
「今回は二人だったから早かったんだ」

 実際、キッチンは二人で使うより一人で使った方が手際よくできるのだが、それは今言う必用はないだろう。芝浦はトーストを頬張ると美味しいと感激しながらも。

「やっぱ俺、一人暮らししようかな……」

 聞こえるような独り言を呟くのだった。
 芝浦とは付き合ってまだ日が浅いが、資産家の一人息子として何不自由なく育てられているというのは言葉の端々から感じていた。
 家にいれば何不自由ない生活をしており、言付けすれば誰かが当然のようにやっておいてくれている。それが当たり前の日常だったから、今まではそんな毎日に疑問を抱く事など無かったのだろう。
 だが手塚と知り合い彼と接しているうちに自分が存外世間知らずだという事に気付いてしまったようだ。

「どうした、自分で飯が作れなかったのがそんなに堪えたのか?」

 少し茶化すように問いかければ、芝浦は慌てて首を振る。

「いや、別に飯が作れなくても困る訳じゃ無いんだよ、俺の場合さ。食事は外食でもいいし、お手伝いさんにやってもらえばいい。出来る人に報酬をはらってやってもらい、俺は俺しか出来ない事をすればいい……って、今までは考えてたんだよね。だけど、このまま何も出来ない大人になるのって、いかにも金持ちのボンボンが親の七光りを受けて育ちましたって感じあるだろ? そうじゃなくて、一人である程度の事が出来て、もっと考えてちゃんと出来る大人になりたいんだよね」

 そう語る芝浦を、手塚は少し驚いた気持ちで見つめていた。
 確かに彼は典型的な金持ちのボンボンだ。
 世間知らずの道楽息子を絵に描いたような性格であり、普段から自由奔放で物思いにふける姿など見た事もなかったからまさかそれを気にしているとは思わなかったのだ。

「たしかに、一人暮らしは社会経験にもなる。悪い事ではないだろうな……」

 相づちをうつ手塚の口に、じゃりじゃりと鈍い音がする。卵の殻がまだ残っていたようだ。一人暮らしは悪い事ではないが、卵の殻すら割れない男が急に一人で暮すのはやや心許ない。普段から財布に小銭や札束はいれず、何でもカードだけで買おうとする金銭感覚も直さなければ、一人暮らしをする意味もあまり無いだろう。

 それに、芝浦自身簡単に一人暮らしができる立場でもないだろう。
 大事に育てた箱入り息子を簡単に檻から出してくれるようには思えないし、もし出してもらえたとしても親と縁のあるオートロックマンションに最高級の家具、家電を兼ね備えた召使い付きのタワーマンションでも与えられるに違いない。そうなったら彼の望む社会経験が養われる事もない。

「そうだよな、そう思うよな! でも、オヤジは俺に一人暮らしさせようって絶対に思わないだろうし、俺自身一人暮らししても結局部屋に閉じこもって毎日パソコン弄るかゲームするか……そんな毎日を送ってそうなんだよね……それだったら、今の生活とあんまり変わらないって言うか……」

 と、そこで芝浦は何か閃いたような顔をする。

「そうだ! 手塚、あんたの家に居候させてくれよ。それだったら、俺でも何とか出来る気がするし。そこから一人暮らしをする手はずを整えれば、俺でも何とかなると思うんだけど……ダメかな?」

 急に何をいってるんだ。
 危うくその言葉が出そうになる所を留めたのは、手塚の脳裏に浮んだ自分の姿だった。

 死の運命に反逆するためという理由で秋山蓮の住まいに押しかけた夢での自分……きっとあの時の秋山蓮も、こんな風に困惑したのだろう。
 傍から見たら自分勝手な言い分で無理矢理押しかけて、そのまま泊まり込みで生活するようになった自分を困惑しながらも迎えてくれて、そして変わる事が出来たあの幻想のような日々……。

 あの夢のような記憶が事実だったのかは、秋山蓮という男が実在するのか、今となっては解らない 。
 だが困惑しながらも受け入れてくれた彼らの事を思い出すと。

「ダメかな、やっぱり」

 不安げに首を傾げる芝浦を願いを断る事などできなかった。
 手塚は黙って立ち上がると、長らく置きっ放しにしていた合い鍵を取り芝浦の方へと向けた

「……お前と暮すには狭い部屋だと思うが、片付けを自己責任でやるなら自由に来てくれても俺は構わない。最初から居候するつもりでなくても、そうだな。週に何度か遊びにきて、泊る時は掃除や料理を少しずつ覚えていったらどうだ? 急がなくてもいいだろう、お前は若い。まだ時間はたっぷりあるんだからな」

 手塚の手から合い鍵を受け取ると、芝浦は嬉しそうに笑う。

「マジで、いいのかよ! ありがとな、タダとは言わないから、このお礼は出世払いで! いつかもっと俺が偉くなったら、この100倍すげー部屋をお前にプレゼントしてやるから!」

 剛気な事を言うが、今は100倍広い部屋より芝浦が「生きていく」ということが。生きて、将来を語り出世払いなんてしてみせると話してくれる事が、手塚には嬉しく思えた。

「期待しないで待ってるぞ」

 そう答える手塚の顔は、微かな笑みが浮んでいる。
 その笑みは殺し合う訳でもなければ憎しみあう訳でもない。

 互いに手をとり歩く事の出来る未来がある事に対する感謝と喜びが潜んでいる事は、手塚も気付いていなかっただろう。

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HN:
東吾
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職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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