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インターネット字書きマンの落書き帳

   
怒らせてしまい右往左往するお坊ちゃんの話(みゆしば・BL)
平和な世界線で普通に付き合ってる手塚×芝浦の話を蔵出ししています。
(長めの挨拶)

いやー、蔵に入れたまま熟成させて日の目を見る事がないかと思っていたのですが……。
またこうしてサルベージする機会があるとは思っていませんでした、感謝ですね。

この話はいずれみゆしばの同人誌を作る機会があったら入れておこうかと思っていた話の一端です。
冷静になって「このジャンルは同人誌……ちょっと危険がデンジャラスだな!?」と思ったので思いとどまる事ができましたので、Webという有象無象に放流しておこうと思います。

内容は、手塚のことメチャクチャ怒らせたのに謝り方がわからずどうしていいのか困って右往左往する芝浦の話ですよ。

let's Enjoy 二次創作!



『怒らせた時の謝り方』

 芝浦淳は焦っていた。
 恋人である手塚海之と珍しくも激しい喧嘩をしてしまったからだ。
 これまでも価値観の相違があり何度か口論になった事はあった。
 箱入り育ちで世間知らずの所が多い芝浦は常識に疎かったり考えが甘かったりする事が多々あり、人前で危うい言葉を放っていたり世間一般の金銭感覚と大きくズレていたりして常識知らずが露呈して手塚にきつく咎められた事に反発し口論になる……というのが大体のパターンだ。
 殆どの場合は素直に忠告を受け入れる事が出来ない芝浦が悪いのだし、芝浦自身もそれを内心では理解していた。だがそれを承知の上で手塚は芝浦に非がある時もいつだって先に折れてくれていたのだ。

『この前言い過ぎたのは済まなかったと思っている。だがな、芝浦……』

 手塚はいつだって謝ってから、言い含めるように芝浦の悪い所を指摘してくれた。これは芝浦が自分で悪かった部分を理解できないほど頭が悪くないという事と、それでも自分から謝るのはプライドが邪魔してうまくできない芝浦の性分を手塚がよく分っていてくれたからだろう。
 だからこそ芝浦は手塚の言い分を素直に受け入れる事が出来ていたのだ。
 しかし今回ばかりは勝手が違った。
 いつまで経っても、一向に手塚が折れてくれなかったのだ。
 喧嘩してから一週間以上は経つが手塚は謝ってくれないし、芝浦の方も日が建つにつれ謝り辛くなっていく。 
 あれからずっとメール来てないし、電話がかかってくる事もない。家に行っても部屋にいれてもらえていない事からも、手塚が本気で怒っているのはわかる。
 実のことを言うと、喧嘩の原因を芝浦はよく覚えていなかった。
 ただ普段より静かに、だが強く怒っていた手塚に対していつもの癖と性分で挑発していたら、完全に怒らせてしまったのだけはよく覚えている。
 大体のところ喧嘩の原因は自分が作っており、手塚はそれを理解した上で芝浦の為に折れてくれていた。今まで芝浦は手塚のそんな優しさと気づかいに甘えていたのだが……。

(どうしよ……こういう時ってどうしたらいいんだろ? 謝るって……ごめんなさいって直接言うべき? 電話? メール? 自分からどうアプローチすれば正解? ……ダメだ、全然わかんないし)

 頭がうまく回らない。
 もともと周囲から下にも置かない扱いをされてきたので、自分から頭を下げるといった経験が殆ど無かった。誠意を持って真心を伝えるような謝り方なんて知る由もない。
 もちろん芝浦は一応学生であり学校では教授のご機嫌伺いのためおべっかも使えば頭を下げる事もある。だがそれはあくまで形式上のものであり本心から敬意を表したものでもなかったし、建前でする謝罪や反省した演技ならむしろ得意で、頭を下げる程度で悪事がチャラにされるならこれほど安い事はないとさえ考えている程だ。
 しかし手塚の怒りをおさめるのは、演技や建前は通用しないだろう。
 付き合ってまだ半年程度の間柄ではあるが芝浦は手塚の乏しい表情を見るだけで何を思い何を考えているのかおおよそ想像できるようになっていた。そしてそれは手塚も同様なのだ。いや、むしろ手塚以上に感情が顔に出る芝浦の心内はかなり読みやすい上、手塚は占い師という仕事もあって勘働きがいい。
 見知らぬ相手の心情を読み取る事すらできるプロの占い師を前にして、お互いの身体まで良く知っている相手の嘘や上辺だけの謝罪など容易に見抜いてしまうだろう。
 謝るのなら本心から謝らないといけないのは分っている。
 だが、その伝え方はいくら考えても思いつかないでいた。

『謝る方法? そんなの、誠意をもってごめんなさいって言えば通じるはずだろ? 手塚は優しいし、ちょっと頑固な所はあるけど理不尽な性格じゃないしさ』

 どうやって謝ればいいのかと困り果てて城戸にメールをしてみればそんな答えが返ってくる。
 城戸らしく分りやすい回答で、至極正論だろう。もっともだと思うし、手塚だって鬼じゃない。誠心誠意謝れば、きっと分ってくれるのだろうが。

「それが出来たら苦労してないっての……」

 芝浦はベッドにうつ伏せになると枕へ顔を埋める。
 素直になるという事は芝浦にとってそれほどに難しい事だった。
 父の前では良き跡取り息子を演じ、学校では優等生であるのを演じて普段から当然のように本心を隠して生活していた芝浦は嘘ばかりが上手くなり本心をさらけ出す事にひどく臆病になっていたのだ。

『とにかく、ちゃんと顔をあわせて謝った方がいいと思うって。メールの文面とか電話だけだったら伝えきれない事ってあるし、誤解されるかもしれないだろ? ずっと会ってないんなら、ちゃんと会って話してみろよ。順序立てて話していくの、お前って得意なんじゃないの?』

 城戸からはさらにメールでそんなアドバイスが来る。
 簡単に会って見ろと言われてもどんな顔をしたらいいのか分らなかったし何を話していいのか見当もつかなかったのだが、城戸の意見が正しいのは充分に理解していた。  今の気持ちを文章にしても自分の気持ちを伝えきれる自信はない。
 かといって電話だと手塚の顔が見えないのでどんな気持ちで聞いているのか分らないのは怖い。
 会って話してきちんと謝りたいという気持ちがあるのも正直な所だったから。

「……とにかく会う約束しよう。会わなきゃダメだし、会ったら何とかなるかもしれないもんね」

 何度も文面を考え、書いては消し消しては書いてを繰り返してようやく『会って話がしたいから、いつなら会える?』という一言だけの短いメールを送る事が出来たのはそれから一時間経っての事だった。

(返事こなかったらどうしよ……メールの返事くれないくらい怒ってる……って事はないよね……もしそこまで怒ってたら、俺ほんとどうしていいか分んないんだけど……)

 メールの返信があるまでの時間が、やけに長く感じる。
 そこまで怒らせていたのか。ひょっとしたら嫌われたのではないか。喧嘩を切っ掛けに自分に興味を失ったのではないか。このまま自然消滅させるつもりだったが、連絡をとった事で別れを切り出されはしないか……ここまでネガティブになれるのかと思う程、悪い事しか考えられない。

「あー、もう……ホントどうしたらいいんだよ……」

 焦れた様子で指先を噛めば、ようやくメールの返事がある。
 およそ5分程度の時間だったろうが、芝浦の中ではもっとずっと長い時間に思えた。

「来た。返事っ、きた……」

 慌てて携帯を手に取りメールを見れば

『19時以後なら家にいる。明日以降、好きな時に家に来ればいい。外だと話しづらいだろうからな。もし、他の場所で話したいなら指定してくれ』

 と、用件だけの簡素な返事が書かれていた。
 最も手塚とのメールは基本的にいつだって用件だけったし、おはよう・おやすみといった挨拶のメールなども殆どしないのでこれはいつも通りの事なのだが。

「……よかった。返事こなかったらどうしようかと思った」

 芝浦は安堵するが、これはあくまで会話のとっかかりを作ったに過ぎない。 実際会ってすぐ『俺たちは性格が会わないと思う』なんて別れを切り出される可能性もあるし、話しているうちにお互い感情的になればますます溝が深まるかもしれない。

(落ち着かないとな……俺の何が悪かったのかちゃんと考えないと……もう俺、手塚のいない世界なんて考えられないよ……)

 深呼吸してから芝浦は『わかった。明日、19時半ごろに手塚の家に行くから』そんなメールを送ってベッドの中へ潜り込んだ。今は何をしても捗るはずなかったし、ゲームをしても音楽を聴いても楽しいと思えなかったからだ。
 最も横になっても。

(手塚に何言ったらいいんだろ……謝る? ごめんって言えばいい? ……どうしたら許してもらえるんだろ。どうしたら……)

 そればかり考えて、夜半過ぎまで眠れないでいたのだが。
 翌日になっても、芝浦は何をするにも上の空だった。
 大学に行き授業を受けノートも取っていたのだが、全て身についたルーチンとしての行動でありそこに思考は伴っていない。 誰と会話をし、どんな受け答えをしたかも全く覚えていなかった。

(手塚に何て言えばいいんだろ。普通に挨拶? すぐに謝る? ……何が正解なんだろ。考えても考えてもなーんも分んないとか……分らない事ってこんなに不安なんだ……)

 授業を終え、時間を潰すも何をやっても気が晴れない。
 ただ時が過ぎるのがやけに遅く思えて、気付いた時は手塚の家まで来ていた。

「……まだ随分早いなぁ」

 時計を見て、手塚が帰ってくるまで2時間もあるのに気付く。仕方なく周囲をぶらついて喫茶店に入ったり公園のベンチに腰掛けて本を読んでみたりと時間潰しをしてみたが、何をやっても落ち着かず気が焦るばかりだったので結局また手塚の家まで戻っていた。

(帰ってくるまで、ここで待ってよ……)

 どこに行っても落ち着かないなら、手塚の家にいたほうがいい。  
そう思い、芝浦はドアの前に腰掛ける。合鍵はもっていたが、まだ仲直りもしてないうちから勝手に部屋に入る気にはなれなかったからだ。
 そうして小一時間ほどそこに座っていただろうか。

「……芝浦か? 随分と早いじゃないか。ずっとそこで待っていたのか?」

 19時よりやや早く、手塚は戻ってきた。玄関前で座って待っていた芝浦に少々驚いた顔をして見せる。最も自宅の玄関先で人が蹲って座っていれば誰だって驚いただろうが。

「あ、うん。手塚……おかえり」
「早く来たなら部屋で待ってても良かったんだぞ? 鍵はあるだろう」
「うん、まぁそうなんだけどさ……勝手に入ったら、悪いかなぁって思って……」

 手塚は何か言いたげに芝浦を見るが、すぐに小さく首をふりため息をつくと。

「とにかくここは寒いだろう。上がれ」

 そういって部屋の扉を開いた。本当に上がっていいのかと少しまごつく芝浦の手を引くと手塚は少し強引に彼を自宅へと押し込む。喧嘩して以来、おおよそ10日ぶりに入る手塚の部屋だった。10日近く来なかったが芝浦の私物は殆どそのまま置かれており室内に大きな変化はない。引っ越しするワケではないのだから何も変わってないのは当然だが、それが随分と懐かしい光景に思えた。

「ハーブティでいいか?」

 以前と変わらぬようにティーセットを準備する手塚の背中は記憶にある姿と何ら変わらないが、今は以前よりずっと遠くに思える。

「うん。ありがと」

 芝浦はソファーに腰掛けると、すぐに祈るよう手を組みじっと一点を見据えていた。
 何を話したらいいのか、どうしたらいいのか。考えているうちにハーブティの注がれたカップが置かれたが、それに口をつける事も出来なかった。
 一方の手塚は普段と変わらぬよう、芝浦の隣にこしかける。一見すると喧嘩する前と何も変わっていないようだが、心の距離はかなり離れているのは言わなくても理解できた。何も言わないがこちらに触れてこない態度で手塚がまだ怒っているのは容易に理解できた。

「……それで、今日はどうした。話したい事があったんだろう? 俺に何の用だ」
「それ、それなんだけど。何って言うんだろうな……」

 話そうと思っても、言葉が続かない。  ごめんなさいと謝ればいいのか。だが口先だけで謝ったって、きっと手塚にはそれが分る。だが心の底から謝るというのはどういう事なのだろう。どうしたら彼に許してもらえる。どうしたら以前のように触れてもらえる。間違えた対応をしたら、二度と会えなくなるのではないか。
 様々な考えが障害となり、一層言葉につまるのだ。

「何ていうんだろ。俺も、よくわかんないんだけど。こういう時、どうしていいのか……わかってるんだよ、俺が悪い事したんだろ? それは分ってんだよ。でも、何て言ったらいいのか……どうしていいのか……」

 芝浦の言葉を、手塚は目を閉じたままじっと聞いている。こちらの真意を計っているのだろうか。腕を組んだ手塚は時々人差し指だけをゆっくり動かし考えるような素振りを見せていた。

「どうしたらいい? なぁ、手塚。俺、どうしたらいいんだ? ……どうしたらアンタに許してもらえる? どうしたら前みたいに俺に笑ってくれる? どうしたら……俺さ、何でもするから。アンタが許してくれるなら土下座でも何でもするし、アンタにならどんな酷い事されてもいい。何でもするし何されてもいいから、許してくれよ。なぁ、手塚……俺、こういう時どうしたらいいのかわかんないんだよ……」

 今にも泣き出しそうな声で、気付いた時にはその手に縋り付いていた。
 手塚に嫌われるのは怖い。捨てられて一人になるのは耐えがたい。それほどまでに手塚は大きな存在になっていたのだ。
 その様子を暫く見つめた後、手塚はまた小さくため息をついて見せた。

「まったく、お前は自分が何をしたのか覚えてないのか? 俺があの時怒った理由を全く理解してないんだな」  

そしてそんな事を言いながら、自分の髪をかき上げる。手塚を怒らせてしまったという事の方が芝浦にとっては重大な問題であったため何で喧嘩になったのかという部分はすっかり抜け落ちていたのは事実だったから、芝浦は素直に頷いた。

「あ、あぁ。俺、手塚を怒らせたのは分ってんだけどさ。何で手塚が怒ったのかとか、何に対して怒ったのかはよく覚えてない……よくわかってなかったんだ。俺さ、あんたに嫌われるんじゃないかと思ったらそれが怖くて。そればっかり考えて……」
「お前は本当に自分勝手な奴だな。俺に嫌われるのだけが怖くて、何をしたのかすっぽり抜け落ちてるとは……最も、お前らしいと言えばそうなんだろうな」

 手塚は自分の淹れたハーブティを飲み、記憶を手繰るよう目を閉じる。

「あの日、口論になったのはお前が酔ったまま橋の上の欄干を渡ろうとしたからだ」

 そう言われ、芝浦は何となくその夜を思い出す。
 珍しく外で飲んで、ほろ酔いのまま不意に高い所へ昇りたくなって昇ろうとしたのを無理矢理止められたのが口論のきっかけだった……手塚にそう言われば、朧気ながらその記憶が蘇る。
 酔っていたとはいえ泥水していたワケでもないし、落ちるとも思っていない。ゲーム感覚で楽しむつもりだったのだが手塚があまりに強い口調で窘めるから、つい言い返した事が口論の切っ掛けだった気がする。

「そうだ……そうだったっけ。うん……でもさ、大丈夫だと思ってたのに、おまえすっごい怒るから……」
「それだ」

 手塚はそこで指先を突きつける。

「お前は何に対しても楽観視しすぎる。自分なら大丈夫、自分はそうはならない……論理的な癖に自分の事になるととたんに管理が甘くなる。だから変な所で無茶をして、自分の身を危険にさらしてる事さえ気付かない……俺はお前のそういう所を改めてほしいと思っている」
「うぅ……でも、それ……別に、誰にも迷惑かけてないし……」
「全く反省してないんだなお前は。あぁ、確かにそうだ。お前が橋から落ちて死んでも、誰かに迷惑をかけるワケじゃないかもしれないがな……俺の前からいなくなる。それは……絶対に許さない」

 と、そこで手塚は芝浦の頬に触れると、鋭い眼光を向けた。

「……いいか、淳。お前は俺の男だという自覚をもっと強く持て。それを踏まえて行動しろ。軽率さは慎め。いいか、お前はもう勝手に消えていい男じゃないんだからな」

 淡々と、だがはっきりと語る手塚の顔は一切の嘘も迷いもない。心の底から芝浦の事を失いたくないと思っている。故に芝浦の子供っぽさや軽率さ、自分の命さえ省みない行動に憤っていたのだ。

「そっか……そう、そうだよな……」

 自分だってそうだ。
 もし手塚がさして考えもなく危険な事をしたのならきっとそれを許せない。自分の前から手塚が失われるという事を恐ろしいと思っていたが、手塚もまた芝浦を失うのが恐ろしいのだ。

「ごめん。ほんと、ごめん。俺さぁ……なんか俺なら大丈夫だろうって思ってたし。もしダメでもまぁ、仕方ないかなーってちょっと軽率に考えてたかも。でも、そうじゃないもんな。俺、もう……一人じゃないもんな」
「そうだ。わかったか? ……お前が誰のものなのか」
「わかってる。俺はアンタのものだ。アンタが俺のものと同じように……な?」

 吐息が近くなるのを感じ、芝浦は自然と目を閉じる。
 唇が重なる事で、彼は許されたのを知りようやく安堵するのだった。
 例えそのキスが自分の人生を縛り付ける鎖になったとしても、今の彼にとってその枷はなくてはならないものであり、すでに手塚という存在に縛られていなければ彼は彼でいられなくなっていたのだから。

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プロフィール
HN:
東吾
性別:
男性
職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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