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インターネット字書きマンの落書き帳

   
愛でもなく恋でもない言葉にない感情で(みゆしば)
平和な世界線で、普通におつきあいしている手塚と芝浦の概念です。
(挨拶を兼ねた、幻覚の説明)

俺解釈の芝浦くんは「天真爛漫に見えて深入りすると感情が激重になる21才の若造」であり、俺解釈の手塚くんは「一度心を許した相手にはとことん執着してしまう24才のクソデカ感情をもつ男」です。

でも、「質量の重い感情」と「質量の思い感情」を掛け合わせると……。
実質カロリーはゼロ!
という理論を採用しているので大丈夫ですよ。

今回は「愛されなくなるのを恐れてしまうしばじゅんちゃんのはなし」です。




『自分の気持ちが何であれ逃がしも離しもしない』

 芝浦は時々、恐れるような顔をすると手塚の身体に縋るよう抱きついてくるコトがあった。
 そしてそんな時は決まって手塚にこんな事を問いかけるのだ。

「海之……俺のコト、好き……だよな? 俺たち、恋人でいいんだよな……」

 初めて芝浦にそう聞かれた時は、手塚は自分がはっきりと彼に「付き合って欲しい」と告げていなのが理由だろうと思っていた。
 手塚と芝浦は最初、占い師とその客という関係にすぎなかった。
 そのうち芝浦がよく顔を見せる常連となり、他愛も無い話を繰り返すうちに親密となり気付いた時には隣になくてはならない存在となっていたのだ。

『恋人になってくれ』

 きちんと言葉にしてそう告げていなかったから不安になってしまうのだろう。
 そう思い、言葉を告げ行動で『自分たちは恋人同士なのだ』とはっきり伝えた事もある。 だがはっきりと思いを告げた今でも芝浦は、やはり時々恐れるようにそう聞くのだ。

「……あぁ、そうだ。何度もそう言ってるだろう?」
「うん、そうだよな……うん、うん……」

 改めてそう伝えるが、芝浦はどこか歯切れ悪そうに返事をすると考え込むような素振りを見せる。

 普段は言動が軽く享楽的で軽薄な態度を多く見せる芝浦だが、その内に秘めた感情は重く深い。一度気にしてしまうと何かと考え込んでしまう所があるからこそ、普段の芝浦は人間関係に対しても娯楽に対しても軽薄な態度で、深入りしないよう心がけているようだった。

 実際、芝浦は手塚に対して「深入りしすぎてしまった」が故に、今のようにお互いがお互いに依存するような底なし沼に足を取られたような関係に至ってしまったワケなのだが、そこは今は黙っておくべきだろう。

 お互いそれに気付いた上でそうなった関係なのだから。

「どうした? また何か考えすぎてるんじゃないか? ……お前は一つの考えに囚われると周囲が見えなくなる所があるからな」

 気づかい半分、忠言半分でそう告げれば芝浦はどこか寂しそうに笑って見せた。

「いや、何ていうのかなぁ……ほら、愛だとか恋だとか。そういうのって脳が一時的な昂揚状態点……っての? 一種の熱病みたいなもんだって言うじゃん。俺はいまアンタに夢中だし、アンタの事すごい好きだと思ってるけど、そういう思いもお湯が水になるみたいに、スッと冷めて消えちゃうもんなのかな……って」

 深入りしない相手には軽薄な態度と薄っぺらな感情で付き合う事が出来ても、一度深入りするとトコトン考え込んでしまうのが芝浦の癖なのだろう。
 手塚からすればもっと気楽に構えていても良いと思うような先の事まで考えて不安になっているようだった。

 あるいは芝浦にとって手塚が初めて「きちんと付き合った恋人」だからこそ、飽きられたり捨てられたりといった事を恐れてしまうのかもしれないが。

「また考えすぎてるな。そんな事は、その時に考えたらいいだろう? ……これから先、俺たちの関係がどんな風になるのかだってわからないんだからな」
「そう、だよな。うん……」
「今のように熱に浮かされたような関係ではなくとも……そう、気持ちが落ち着いても傍にいたいと思ったら傍にいてくれればいいし、お互いにそういった気持ちが途切れていたら距離をとればいい。お互いにとって良い関係、良い環境というのはそうやって変わっていくものだろうからな」
「それは、わかってる。わかってるんだけどさぁ……」

 手塚に縋る芝浦の力が、いつもより強くなる。
 無意識に力が入ってしまうのか、爪が背中に食い込み痛いくらいだった。

「わかってるんだけどさぁ、俺っ……怖いんだよ。海之に嫌われるのも……海之のこと、嫌いになるのも……やっと、『愛してる』ってキモチが分ってきたのにさぁっ……『恋してる』とか『愛してる』ってキモチがこんなに楽しくて、毎日がワクワクするようなものだってやっと知る事が出来たのに、それが泡沫みたいに消えてなくなっちゃうのが……」

 泣きそうな顔をして縋り付くその姿は、悪夢から覚めて泣きじゃくる子供のようにも思えた。

 実際、芝浦は歳からすると「幼い」のだろう。
 箱入りで育てられ、ずっと「芝浦家の嫡男」という立場でやや世間から隔絶されたような環境にいたのだ。
 その上に、芝浦の周囲では常に「芝浦家」という肩書きが付きまとう。
 常に色眼鏡で見られてきた彼の環境で、「人並み」に育てという方が無体な事だ。
 完璧を求められ育ってきた故に、その道から外れるのが恐ろしいのだろう。

「……そうだな。人の心は移ろいやすく、燃え上がった愛の炎は消え、恋する心が抱いた熱も冷める事だってあるだろう」
「そうだよ……そうなったら……」
「だがな、淳。俺がもし『愛』だとか『恋』だなんて言葉になる感情でお前を傍に置いているのだとしたら、そんな甘っちょろい考えは捨てるんだな」

 手塚は恋人の頬に触れると、殆ど無意識に笑っていた。

「……愛だとか恋だとか。そういった感情では推し量れない思いで俺はお前を縛り付けるし、俺はお前に楔を打つ。熱が冷めても、簡単にこの鎖と楔から逃れられると思うなよ」

 手塚は自分が「おかしい」のを理解していた。

 占い、という体裁で誤魔化しているが微かに分る「運命」という「未来視」の力。
 その奇妙な能力をもつが故に疎まれ、恐ろしがられていた過去。
 おおよそ理解者が得られないまま、決して恵まれてるとはいえない家庭環境で育っていた故に渇望してしまう「当たり前の生活」……。

 手塚は自分でも、芝浦を愛しているのか。それとも芝浦が生まれながらにして「もっている存在」であるからこそ執着しているのか、はっきりと分っていない。
 ただ、彼を手放したいとは欠片も思ってはいないという思いだけは確かなものだと実感していた。

 離れたくはないし、離したくはない。
 今の手塚にとって芝浦は自分が得られないと思っていた「日常」そのものなのだから。

 だがそんな重たく、冷たく、暗く、粘つくような感情を向けられれば大概の「人間」は恐れるものだ。
 あまりにも大きな感情は、それだけ重荷になる。
 そして手塚は自分のもっている感情が、ある種の化け物のように肥大しているのに気付いていた。
 だからこそこんな感情を受け入れるものなどいないと何処か諦めていたのだが。

「ははっ……そうだったね。海之はさ……愛とか恋とか、そんな人間っぽい感情だけで俺のコト見てないんだ……」

 芝浦はそれを知っていてもなお、笑うのだ。

「……安心した。愛とか恋ならいつか終ったり、消えたり、冷めたりってするんだろうけど……海之のは、そういうのと違うんだもんなー」

 心底安心したように屈託なく笑って、全てを受け入れるのだ。
 芝浦が世間知らずであるが故に手塚の底が抜けたような、愛より狂気に近い感情の恐ろしさを知らないから笑えるのか。 それとも芝浦自身がもつ感情もまた、愛や恋といった言葉より狂気に近いのか、それははっきりと分らなかったが。

「ずっと、一緒にいてくれるんだよな。なぁ、海之……俺のこと離さないで。俺も、お前のコト絶対離さないから……」

 不安から全て解き放たれたような顔をして、芝浦は手塚の身体に身を預ける。
 手塚もまたそれに応えるよう、唇に触れていた。

 この感情が「愛」なのか「恋」なのか。
 それともそんな優しい感情ではない、暗く重くそして強いエゴなのか手塚には分っていない。

 だが今、腕の中に愛しく思える相手がいてその男が自分だけを見ていてくれている。
 そしてこれからもずっと自分に縛られる事を望んでいる……。

 そう思うと幸せを感じるのは、嘘ではない。
 ただ一つの真実であった。

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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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