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インターネット字書きマンの落書き帳

   
未来が見えなくても決まっている(みゆしば)
平和な世界線で普通に付き合っている手塚と芝浦の話です。
(挨拶を兼ねた幻覚の紹介)

2002~2003くらいの年代を想定しているので……。
色々と携帯とか古いのを使ってたりしているんですが、今回は特に携帯とか出てません。
てへっ!(意味のない説明しちゃった)

今回は、寝苦しい夜に起きて何となく占いをはじめるみゆみゆと、それを見て自分を占って欲しいとねだるしばじゅんちゃんの話です。

この手のテーマは前書いたんですが……。
最近どうもネタが重くなりがちなので、気持ち軽めに書きました。

あと、同じネタでも最新の俺がいつも最高の俺なので、そう思っていただければ幸いです。




『運命共同体』

 寝苦しい暑さが続き、どうにも寝付けないでいた手塚はリビングのソファーに腰掛けるとタロットカードを取り出した。
 普段、店で占う時はコイン占いの方が多い。
 それは、元々手塚は「占い」という体裁をとっているが、彼のリーディングは占いから導き出された第六感のようなもの。
 ある種の予知を占いを通して言語化しているにすぎず、占いの道具にはあまり意味などなかったからだ。

 とはいえ、それでも占い師を名乗る以上は占いの知識や技術も必用となる。
 特に占いは、「客として来る人物が占い死である」というのも珍しくない。
 生半可な知識や技術でリーディングは相手に見抜かれる可能性も高いのだ。

 それでなくとも占いというのは「人の人生」に関わってくるものだ、中途半端な腕で未来を読むのは失礼にあたるだろう。
 だから手塚は時々、眠れない時や手持ち無沙汰な時は訓練のために様々なツールを使って占いをしていた。

 練習の時に占うのは自分の耳に情報が入るが、そこまで内面を知らない存在……テレビに出る芸能人や、友人の友人くらいのあまり付き合いがない顔見知りなどが多い。
 その日も、芝浦から聞いた最近売り出し中のアイドルなどを占っていた。

「んー……海之、こんな時間に起きてんの?」

 そうして暫く占いに興じていると、寝室から芝浦が顔を出す。
 寝苦しかったから起きたのか、あるいは目を覚ました時に手塚がいなかったから探しに来たのだろう。

「あぁ、少し喉が渇いてな」

 手塚はそう言いながら、テーブルの上においた水のペットボトルを揺らす。
 芝浦は欠伸を噛み殺しながら手塚へと近づき、テーブルに並べられているカードを見た。

「んー、これ、タロットカード?」
「そうだ、知ってるのか」
「見たコトくらいはあるよ。タロットカードをモチーフにしてるゲームも結構あるしね。占いで使ってる所は初めてみたけど」

 そう言いながら、芝浦は手塚の隣に座る。
 芝浦は元々、手塚の店にくる客だった。だが芝浦の場合は元々占い目当てではなく手塚と他愛もない話をするのが目的なのは明らかだったから、あまり凝った占いをした覚えはない。
 タロットカードなどを並べる所を見せるのは初めてだろう。

「へぇー、タロットカードってこんな種類あるんだ。デザインもいかにも……って感じで結構カッコイイね」

 芝浦はゲーム好きでやや子供っぽい所があるから、このようなオカルト色の強いモチーフを見るのは楽しいのだろう。
 一枚一枚のカードを物珍しそうに眺めていた。

「どうだ? こういうのは、やはり『中二心』ってのをくすぐるものか?」
「えー……どこで覚えたのそういう言葉? ま、くすぐられるかくすぐられないかで言われると、やっぱくすぐられるよねー。タロットモチーフってデザインがカッコイイから」

 そう言いながら芝浦は一枚のカードを手に取る。
 太陽のカード。それは喜びや希望などを示すカードだったが、それを彼が知っているかどうかまでは分らなかった。

「あ、そうだ。せっかくだから、久しぶりに占ってもらおうかな。ほら、最近は客として行ってないから、全然占ってもらってないだろ? 手持ち無沙汰で占いの練習してるなら、俺で練習しても全然オッケーだよね?」

 カードを元の場所に戻しながら、芝浦は不意に思いついたような顔をして言う。

「……客として来ていた頃も、お前を占った記憶の方が少ないがな」
「あー……ま、そうだったかもしれないけど。でも、眠れないから何となく……って感じで占ってるんだろ? それなら俺が実験台になっても別にいいかなーって」

 手塚にとって、芝浦は「よく知る相手」と言っていい。
 占う相手としては確かに分りやすい相手だろう。

「お前は簡単にそう言うが……占いはいつだって『いいこと』ばかり出るとは限らないんだぞ」

 だが、だからこそ「もし」悪い結果が出てしまったら。そう考えてしまう。
 身近な存在であるからこそ、悪い結果が出てしまった時にそれを受け入れるのが手塚にとっては恐ろしいことだった。
 自分自身の占いが殆ど未来予知と変わらぬほどに『当たる』というのも理由の一つだろう。

「確かにそうだけどさ。俺ってもう手塚に会った時点で人生成功してるって感じだから、それほど悪い結果出ないと思うよ」

 そんな手塚を前に、芝浦は無邪気に笑う。
 本心からそう思ってくれているのだろう。言葉の端々から、自信と幸福が溢れている。

「それに、もし悪い結果が出たら、いい結果が出るまでやり直してくれればいいじゃん」

 さらに軽く、そんなコトまで言う。

「何言ってるんだ、占いは自分の欲しいオモチャが出るまで回せるガチャガチャの類いじゃないんだぞ」
「それは、わかってるけどさー……どうせならいい結果、出て欲しいし? カードでもコインでも、一番いい占いを信じたいじゃん」
「その気持ちは俺も一緒だ。だがな……いや、だからこそ……と言うべきか……」

 手塚は並べたカードを丁重に一つにまとめ、元の袋に入れる。

「占いをする人間は、自分の運命を見るのは大概が苦手だ。どうしても私見が入りやすく、リーディングが曇りやすいからな」
「あ、そういうの前も言ってたよね。占い師って、自分の事占えないから自分のことは結構、他の占い師に見てもらう……って。でも、それって俺を占うのには別に問題ないだろ?」
「問題だ。俺はお前のことを幸せにしたいと……そう、思っている。そんな風に考えている人間が、お前のコトを普通に占えると思うか? ……分かってるだろう。お前の人生はもう、俺の一部なんだ」

 その言葉に、芝浦はしばらく虚を突かれたような顔をする。
 そしてすぐに顔を赤くすると、傍らにいる手塚の手に絡みつきながら顔を埋めるのだった。

「何だよもー、何で急にそんなカッコイイこと言うの。海之のくせにさぁ……ほんと、好き」

 恥ずかしそうに悔しがる芝浦の頭をくしゃくしゃと撫でると、手塚は冷蔵庫からもう水のボトルをもってくる。

「……俺以外に言わせるものか。お前にそれを言っていいのは後にも先にも俺だけだ」
「うわっ、重っ……」
「その重い男に運命を絡め取られたんだ。覚悟しろ……ほら、水だ。飲むだろう? ……飲んだら寝るぞ。一緒に……な」

 芝浦は小さく頷き、水を飲む。
 寝苦しい夜だったから途中で目覚めてしまったが、今度こそよく眠れるだろう。

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