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インターネット字書きマンの落書き帳

   
灯火に手が届かない時にも(暁月83ID前のエリアネタバレ付きSS)
暁月おもしろいですね!
(まだクリアしてない顔を隠しながら)

個人的にこう……。
83ID前に訪れるエリアでの出来事はしょっぱい味がして……むせるな……。
染みる……。

と思ったので……。
そのエリアに出るとあるNPCの心情風景を勝手に綴りました。

暁月の83IDを終わらせるまでは読まないで頂けるとネタバレ回避できると思います。
ぼくも暁月クリアしてないのでこの話が無駄打ちになる可能性もあるが、ま、別にいいよね!(俺が困るだけなので)

なお、登場するヒカセンっぽい人はうちヒカセンです。
うちヒカセンの設定も適当においておきます。


<うちヒカセン設定>

なまえ:シェヴァ
しゅぞく:おすのみこって(サンシーカー)
とくちょう:かっしょくしらが
せいかく:ややアホ
くちょう:おこさま

んじゃ、よーろしーくねー。




『良き隣人には、良き隣人であれ』

 絶望は人を殺すというが絶望というのは一体何だろうか。

 信じていたものに裏切られ、両親を戦火で喪い、幼なじみも盟友もみな命を散らせていった。
 孤独こそが絶望に至る道であるのなら、きっと俺は孤独なのだろう。

 祖国がより豊かになるため軍へと身を投じたが、愛した祖国は内戦とクーデターとで疲弊した挙げ句人間では到底立ち向かえないような圧倒的暴力を前にして一夜のうちに焦土と化した。
 焼き払われた街に愛してくれた家族の姿はなく、それまでともに育った幼なじみも友人も。家に残してきた思い出すら灰燼に帰す。

 今まで自分が生きてきた、その証明が全て奪われてしまったような気がした。

 戦場に近くより命の危険にさらされる軍人である自分が生き残り、軍に守られるべき一市民の家族が、兄弟が、友人たちが全て死に絶えたというのは皮肉か。 それとも軍人として蛮族と蔑み虐げてきた俺に罰でもあったのだろうか。

 そうだとしたら、どうして俺に向けてくれなかった。
 家族も兄弟も友人も、その手を血でなど汚していないのだから、罪があるのは俺。罰を受けるべきは俺だったはずだろう。それだというのに俺には死という名の報酬が与えられなかったのだ。

 この世界で俺を知っている者は居なくなった。
 軍人として同期で入った連中は各地に転戦して行き、内乱状態になった今は連絡も途絶え生きているかさえわからない。
 俺の身に残されたのは純血のガレアン族であるという誇りだけとなり、俺のいる軍はその誇りを胸に抱くのにおあつらえ向きだった。

 軍を任されたのは皇帝陛下の忠臣。
 皇帝陛下が崩御したと聞いた時も継承争いに乗る事なく、ただ陛下の命令を遂行するために行動し続ける本物の軍人であり、誇り高いガレアン人だ。

 ここでなら死んでもいい。ここが墓場になればいい。ここで死ねる事こそが俺の救済だ。そうとまで思っていたというのに。

『あぁ、生きていて良かった。大丈夫、暖かいスープとか、薬とか、全部ちゃんとあるからね』

 俺たちの祖先を北方へと追いやり、散々と帝国の侵攻・侵略を許してきた「蛮族」の連中は俺たちを助けようと手を差し伸べてきた。
 温暖な土地を祖先から奪い、魔法が使えないという祖先たちを蔑み、1年の半分以上が雪に閉ざされた痩せた大地に追いやってもなお蛮族の連中は俺たちの祖先を追いかけ、追いやられた土地でもなお祖先は先住民や化け物と戦い続けてきた。
 俺たちをこんなにも惨めで辛い境遇に追いやった連中の末裔だというのに。

『なんて名前なの? おれはシェヴァっていうんだ。 ……へぇ、ユルスくんっていうんだ。よろしくね、ユルスくん!』

 今更になってどうして俺たちを知ろうとする。どうして俺たちを助けようとする。
 今までのおまえたちにとってそうだったように、俺たちにとっておまえらは畜生同然の蛮族だ。誇り高いガレアンとして死ぬ。もはやそれだけしか俺には生きる理由など無いというのに。

『だいじょうぶだよー、今来てる人はみんな怖い事しないし。本当に、ユルスくんたちが生きてる事が嬉しいって人ばっかりだから。あ、同じ歳くらいの人もいるから……友達になれるといいね』

 どうして喪ったものをまた与えようとするのだ。俺たちから散々と奪った癖に。おまえたちが追い立てる事なければ、俺たちはまだ暖かな世界で争う事もなく生きていられたはずなのに。

『少し休んでていいよ。ここは安全な場所だから』

 何故そんなにも温かい手でいられるんだ。おまえだってよっぽど多くを殺し、歩いてきた道は俺たちと同じ。いや、俺以上に血で汚れていただろうに。

『辛いのとか、すぐに向き合えないとは思う。だからこそ、今はゆっくり休んで。ちゃんと食べて、あったかくして。考えるのはその後でもいいと思うよ。ユルスくんはまだいーっぱい時間あるんだから』

 何故そんなにも俺を、俺たちを恐れずにいられるんだ。おまえたちの方が今は強い立場だからか。 おまえは英雄と呼ばれ賛辞されているがその裏で多くを殺しているんだ。俺よりよっぽど恨まれてるし、憎まれてるはずだろう。

 そんなおまえが優しかったら俺はこれから何を恨んで生きていけばいいんだ。
 一体何を恨み、何を憎しんで生きていけばこの虚無感を埋められるんだ。

『あの人は……りっぱな、軍人だった。おれは、そう思うよ』

 そしてどうして理解しようとするんだ。
 誇り高きガレアン人の気持ちを、風習を、プライドを。そしてあの人のことを否定せず罵倒せず、敬意をもって祈りを捧げてくれるというんだ。
 助けたいと切に願い、生きていてほしいとも思っていたが彼の選んだ道に痛みを覚えてくれるんだ。
 俺たちのプライドと誇りを一身に背負ってくれたあの人に対してまで何ら悪態もつかずただ安寧を祈る事なんておまえたちにとっては何の得にもならないだろうに。

 ……どうして。
 どうして死に至る絶望を抱いていた俺を期待させるんだ。
 もう死ぬのも怖くなかったというのに。

 もっと生きてみたいと思ってしまうじゃないか。
 どこかにいるかもしれない同胞を探してみたいと思ってしまう。壊れた祖国を元の美しい街に戻して行きたいと思う。 凍えている同胞たちに温かい暮らしをもたらしてやりたいと、そう願ってしまうじゃないか。

 希望をもってしまうじゃないか。

 実際の俺は無力で、何もできず、敬愛する隊を失い、将兵が自死する事に殉ずる事すらできなかった。そんな弱い人間なのに。
 成し遂げる力なんて何処にも残っていないというのに……。

「あ、火が消えそうだね。ユルスくん、寒くない? 薪、もうちょっと入れておこうか」

 乏しくなった火を見て、英雄は薪を継ぎ足す。息を吹きかければ乏しくなった火は再び暖かな光を放った。
 俺の脳裏には、幾度もの疑問が繰り返される。
 何故、どうして、こんなにも優しくしてくれるのだ。 俺にそんな価値なんてもう無いというのに。

 英雄が火をかき混ぜる手を眺めながら、俺も薪をくべようとする。せめて自分でも火をおこさないといけない、何かをしないと体が温まらない、光が照らされない。
 焦るような気持ちから体を動かそうとする俺の手を英雄が止めた。

「いいよ、火を入れるのは俺がやるからユルスくんは温かくしてスープを飲んで、今はゆっくり休んでいて。動ける時は、動ける人がやればいい。傷ついた人は、それを癒やすのが先だよ」

 英雄は笑顔で告げる。一瞬触れた指先は傷だらけだが温かかった。
 あるいは彼もまた、寄る辺なき身になった時こうして誰かに火をともしてもらった日があったのかもしれない。

 俺は、もう何もないと思っていた。
 絶望に打ちひしがれて半ば自棄になっていたのもあるが、実際に生きている意味などほとんど残ってないとも思っていた。

 だが、俺に何もなくても「世界には」まだ何かある。
 そして俺は世界に恵まれ、良き隣人に恵まれた。

「あぁ、ありがとう……な」

 最初は運命を呪ったし、今でも生き残るべきは俺ではなく罪なき市民だろうと思っている。
 だが命がある以上、歩いていこうと思う。
 祖国のためにも、死んだ仲間たちのためにも、自分のためにも、やるべきことはきっと沢山あるのだろうから。

 だが今はこの良き隣人の手を借りようと思う。
 俺は誇り高きガレアン人だ、ただ手を借りるだけというのは性分じゃない。
 いずれ立ち上がれるようになったら、このよき人々のために立ち上がろうじゃないか。そうしてこの隣人が、英雄が、立ち止まりそうになったその時に今度は俺が支えてやろう。

 それが正しく誇り高いガレアン人の成すべき事で、責任を果たすため最後まで軍人でありつづけたあの人の手向けにもなるのだろうから。

 木製のカップを両手で包み込む。
 カップに注がれたスープはまだ温かく、ほのかに湯気をたてていた。

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東吾
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インターネット駄文書き
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