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インターネット字書きマンの落書き帳

   
しびとたち、かく語りて(形兆兄さんと鈴美お姉ちゃん)
死んでしまった虹村形兆兄さんに、杉本鈴美が話しかけて二人がちょっとの間会話する。
そんな話です。

形兆さんと鈴美お姉ちゃんが出ます。
形兆さんは億泰くんの事を信頼しているしわりと大事にしているような設定です。

特に恋愛要素とかは無い感じです。
深夜に書いたので「すげー感動巨編だ!」と思って書いてしまいましたが、冷静になったら恥ずかしい気がするので羞恥心が生まれないうちにupしておきます。

虹村家、幸せになれよ……。




「しびとがたり」


「少し、聞いてもいいかしら?」

 暗く冷たい道にはあまりにも不釣り合いな軽やかな声に驚きながら虹村形兆は振り返る。 そこには自分と同じくらいのまだ年若い少女が一匹の大型犬を連れ立っていた。
 よほど少女に懐いていたのか、大型犬は特に騒ぐ様子もなく寝そべったまま形兆の姿を一瞥すると興味がなくなったように目を伏せ眠り出す。
 形兆は小さくため息をつくと億劫そうに少女へと振り返った。

「……何だ、急ぐんだがな」

 その言葉に、少女はわずかに首をかしげる。そして微かに笑って見せた。形兆の言葉がおかしかったのか、鈴が転がるような笑い声が周囲に響く。

「そんなに急がなくてもいいでしょう? もう、ここから先は時間なんて存在していていないようなものよ。だって私もあなたも、もう死んでいるんですから」

 暗い道を歩んでいる時はまだどこか確信していなかったが、少女の言葉で形兆はようやく死を実感する。いや、あの状態で生きている可能性のほうが存在しないのは聡い彼には分かっていたがまだ自分の存在が一個の意識としてあり見て感じる世界がある部分は生前と何ら代わりがなかったから、死の実感に乏しかったのだ。
 だが第三者から改めて死を告げられれば、やはり自分は死んだのだろう。
 形兆がそんな事を考えている最中、少女は軽やかスカートの裾をもちあげると一礼してみせた。 細く柔らかそうな髪が揺れ、甘やかな香りが漂ってくるような気がしたのはきっと気のせいだろう。

「私は、杉本鈴美。杜王町を長く見つめていて……そして何も出来ないもの。だから、あなたのした事も知ってるわ」

 鈴美の挨拶に、形兆は渋い顔になる。 杜王町で自分のしている事を知っているというのは、彼がその手を汚し多くの人を殺めているのを承知しているという事。形兆が人殺しであるという事実を知っているということだ。自分の過去を正当化するつもりは毛頭なかったがそれでも殺人者である事実を知られているというのは居心地がいいものではなかった。
 だが鈴美の態度は殺人者を前にしていても臆する様子は微塵もない。よほど胆力があるのか、あるいは生前もっと恐ろしい目やひどい目にあってきたのかもしれな。

「それなら、なおさら俺を呼び止める必要はないだろう? ……向こうでは俺に殺された奴らが俺に恨みや憎しみをぶつけたくてうずうずしてるんだ。あいつらを待たせるのは可愛そうだと思わないか?」

 両手を広げ大げさなポーズをとれば、鈴美は悲しそうに目を伏せる。それは殺されてしまった多くの存在を悼むと同時に、そうせざるを得なかった形兆に対する哀しみもうかがわせる表情だった。

「そうね、確かにアナタは許されないことをした……でも、弓と矢のこと。DIOという男のこと……アナタは目的のために沢山の情報を集めてきたのも事実でしょう。だから知りたいの。アナタが情報を集めている中で、杜王町の殺人鬼について何か知っていないか……」
「杜王町の……殺人鬼? 俺は確かに殺人鬼といっていい程度に殺しているが……」
「アナタじゃない、別の男よ。そいつはもう、15年も前からずっとこの街に潜んでいる……」

 鈴美はそれから、杜王町では失踪者の数が異常に多いこと。失踪者は失踪したのではなく、一人の連続殺人犯に殺されているのだということ、その殺人鬼が殺した相手は木っ端微塵に消されてしまい存在しなくなるということ。殺人鬼は美しい女性の手にやけにこだわっている事などを手短に語った。

「だから、アナタの知っている中でそんなスタンド能力をもつ奴がいなかったのか知りたいの。私の過ごした杜王町に殺人鬼がいるのは耐えられないから……」

 胆力がありそうだと思ったが、もう15年も幽霊としてその殺人鬼の所業を見てきたのだ。しかも実際そいつに殺されているのだから人を殺めている形兆を恐れないのも納得だ。
 それに、形兆は自分で矢で射る相手を選別しており耐えられそうな人間だけを選んでいた。殺した相手の中に自分の快楽を満たすためや欲望による衝動的な殺人は一度もない。その時点で彼女の探す殺人鬼よりよっぽど話す余地があると彼女も思い、形兆に声をかけたのだろう。
 だがあいにく形兆が出会ってきた中でそんなスタンド能力の男は存在しなかった。

「役に立てなくて申し訳ないが、会ってないな。俺がスタンド使いにしたやつも、調べてきた人間にもそういう奴はいない……」

 形兆は口元に手をあて、少し思案する。過去にそういった人物がいなかったか。自分が力を与えた中にいたのではないか。様々な考えを巡らせたが、思い当たるスタンド使いはいなかった。そしてそんな風に考えた後、自分が存外に杜王町が好きだったこと。もし殺人鬼が自分の弓矢で覚醒したのなら責任の一端はあるのではないかと感じている事などに気づき自嘲するよう笑う。
 今更そんなことを思っても仕方ないというのに、こんなにも世界を愛していたことに気づいた事がひどく滑稽に思えたからだ。

「だが、きっとそいつは恐ろしく狡猾だろうな。俺はこれでも几帳面なんだ。徹底的に調べて怪しい奴をしらみつぶしに当たったがその情報に入ってない……ということは、少なくとも表面上は完全に【普通】を装って生きているということだ。こんな力を持てば多少は他者を見下したり自分が特別だと思ったりするもんだがな……そいつは一切の傲りも油断もなく普通であり続けてる……手強いぞ。いや、もう15年も潜伏している殺人鬼なら今更言うまでもないがな……」
「そう、そうね……」

 口元に手をあてる形兆を真似るよう、鈴美もまた口元へ手をあて思案した。彼女がまた悲しそうに顔をゆがめたのは、これまでその男の殺された人間のことを思い出していたのか。あるいは自分が殺された時のことを思い出していたのだろうか。

「役に立たずすまんな」
「いえ、アナタが知っている中にはいなかった……それだけでも充分よ。アナタはそれだけ多くの人を調べて探っていてくれたんだから」

 鈴美はそう語ると穏やかに笑う。また髪が揺れ甘い香りが匂った気がしたが、すでに死人(しびと)同士なのだからこの感覚は生前の記憶が呼び起こされただけなのだろう。
 あるいは、過去に彼女のような笑顔を向けた女性のにおいを形兆が自然に思い出しているのかもしれない。と、思った時形兆は自然と苦笑いになっていた。鈴美から漂っていると思った匂いが、まだ幸せだったころ母からしたにおいと同じだというのに気づいたからだ。

「もう、用はないな。それじゃぁ、俺は行くぜ……」

 再び暗がりの道へと歩もうとする形兆の裾を、鈴美は強く握りしめる。 まだ何か用があるのだろうか。不思議に思い振り返れば、彼女は少しもの悲しい顔で彼を見ていた。

「いいの? ……ここで、弟さんを見ていることもできるわよ」

 杜王町を見守っているといったが、この観測者は随分と野暮なようだ。形兆はため息をつき、静かに首を振って見せた。

「いいんだ。俺みたいな人殺しがいつまでもあいつの人生に覆い被さったら世話がないだろう? それに、あいつもそろそろ独り立ちしてもいい頃だろうしな」
「そう? ……バカだからとか、優柔不断で決断できないとか。そういって弟さんを悪いことから遠ざけて……守っていたんでしょう? 大切に思っている人を見守るくらいの時間、ここでは一瞬よ」

 一体いつから見ていたというのか。半ば呆れ半ば感心しながら形兆は鈴美を見据えた。

「買いかぶりすぎだな。本当にあいつが役立たずのバカだったから遠ざけてただけで、守っていたわけではない」
「こんな時にまで嘘をつかなくてもいいんじゃない?」
「こんな時だからって、本当の事を言う必要はないだろう? ……じゃぁ、先に行くぞ」

 振り返ろうとする形兆の袖を、鈴美はまた引っ張って留めた。意地でも形兆に言わせたい言葉があるのだろうか。

「まだ何か用か?」

 億劫そうに彼女を見れば、暖かいがだが射るようなまなざしが形兆を捉えていた。

「もし、言付けがあれば聞いておく……ひょっとしたら、私が彼に会って伝えられるかもしれないから」
「ねぇよ。生きてる時に言いたい事は全部あいつに言ってある」
「本当? ……後悔、してない?」

 その言葉が本当に最後のチャンスなのだろう。もし弟に……虹村億泰に何か伝えたいこと。言いたい事があったのなら、鈴美はきっと覚えていつか億泰と会った時に伝えてくれるに違いない。
 だがそれは甘い考えだと、形兆は思っていた。きっと鈴美は愛された娘だったのだろう。普通の家族で愛されて育ち、惜しまれて亡くなったのだ。だから形兆のことも普通の家庭である感覚で見ているのだろうが、彼は違う。父はろくでなしだと思っていたし、自分は人殺しでしかない。おおよそ普通の家庭にある幸福とは縁遠い存在だったのだから、優しい言葉を残そうとしても何ら思いつく言葉などなかった。
 それでも最後に、父に愛されていたことが分かったのだけはある意味で救いだったのかもしれないとは思うが。

「してない、が。そうだな……言う事はないが、もしあいつがコッチに存外早く来そうだったら追い返してくれるか? お前みたいなバカが来るほど暇な所じゃないってな」
「それ、は……私にも出来ないかもしれない……」
「ふん、だろうな。まぁいいさ……あいつはバカだから言っても正しく伝わらないだろうしな。あぁ、だが……もう少し自分で選べるようにはなってほしかったとは正直思うがな。あいつはバカだが間違った選択はしないはずだが……それを伝え忘れていた。心残りがあるなら、それだけか」

 つい、漏れた本音に形兆は思わず鈴美から目をそらす。長話なぞするつもりはなかったのだが、あまりにしつこいから言う必要のない事をいった。 墓までもっていくつもりだった思いを無事に墓まで抱いていけたが、まさか墓の先にもこんな罠が仕掛けてあるとは。

「……それは、きっと大丈夫よ。彼はもう、アナタと自分の世界で閉じていないもの」
「あぁ、そうか。そうだろう……な」

 億泰が父を殺すという目的のため兄である自分に付き添っているのには気づいていた。自分が目的のためだけに動いている手前、友人づきあいもせずサポートし続けていたことも。それが故に本来楽しいはずの学園生活を彼から奪っていたこともだ。
 だが自分がいなくなれば、億泰は本来人なつっこい性格だ。きっと仲間や友達と呼べる相手が沢山できるに違いない。 長生きすれば恋人が出来て、家庭をもち子供に恵まれるかもしれない。億泰はそういった世界が似合うと、ずっと以前から思っていた。

「……今はあいつが俺にしがみつかず、杜王町で生きて、杜王町の今を愛してくれればそれでいい。とでも言えば満足か? 杉本鈴美」

 形兆は静かな口調で語る。最後こそ茶化していたが、その言葉に嘘はないつもりだった。きっと鈴美にもそれが伝わったのだろう、彼女はまた穏やかに笑う。

「えぇ……さようなら、虹村形兆。弟さんは……何も言わなくてもきっと、もう大丈夫よ。私は、本当に野暮だったわね。あなたはちゃんと、語らなくても伝えていた……」

 そして鈴美はそっと形兆の背中を押す。もう、引き留める事はないのだろう。やっと行けるようになったがすぐに前に進むにはさみしい気持ちになったのは少し長話をしすぎたせいだろう。

「あぁ、さよならだ杉本鈴美。きっと俺とあんたの道は違うだろうが……あんたの思いが遂げられるよう、地獄の底でも祈らせてもらうぜ。そこに神がいたらの話だがな」

 形兆は彼女へ最後の挨拶をし、目の前にある道へと歩き出す。
 彼の進む道は暗く、険しく、とても辛い茨の道だろう。
 だがそんな形兆の表情はどこか清々しく穏やかにさえ見えたということは、鈴美だけが知っていた。

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東吾
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インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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