インターネット字書きマンの落書き帳
「町内会死者蘇生事件」の存在しない後日談です~その3
Twitterで「原作者に見つかって怒られが発生したらやめます」「アカウント消して出奔します」とか言ってたら、Twitterのアカウントが凍結しちゃいましてね……。
いけない!
これ、「原作者に怒られが発生して出奔した」って可能性が連想されちゃう!
怒られは多分発生してないです!
ただの凍結です。
ただの凍結……。 (´・ω・`)
いつか凍結が解除されるといいねッ……!
されないかもね……。 (´・ω・`)
悲しい気分はおいておいて。
うーん、全体4話になるかな、と思ったけど5話になるのかも。
予定通り、次回では終わらなそうだけど、今回やっと原作キャラが出てきますんでよろしくね。
いけない!
これ、「原作者に怒られが発生して出奔した」って可能性が連想されちゃう!
怒られは多分発生してないです!
ただの凍結です。
ただの凍結……。 (´・ω・`)
いつか凍結が解除されるといいねッ……!
されないかもね……。 (´・ω・`)
悲しい気分はおいておいて。
うーん、全体4話になるかな、と思ったけど5話になるのかも。
予定通り、次回では終わらなそうだけど、今回やっと原作キャラが出てきますんでよろしくね。
【清濁】
周囲を山が囲んでいるため、どこを見ても眩しい新緑と青臭い生の匂いがする。
山と山との間に入道雲が立ちこめ、さらにその向こうには抜けるような青空が見える。
夏真っ盛りだ。
もう小中学生は夏休みのはずだが、歩道を進む限り子供の姿は見えない。
少子化の影響もあるのだろうが、それ以上に暑さのせいが大きいのだろう。
山に囲まれているせいか、信津町は盆地のように暑さが籠もるようでアスファルトからは湯気が立っているような錯覚を覚える。
時刻はまだ朝方といっていい頃だろうが、粘り着くような湿度も相まって男はすでに汗だくである。
「こんなに暑くなるなら、もう少し薄手の服にしておくんでしたね……」
動き回る事になるだろうから楽な服装がいいだろう。
そう思って、パーカーを羽織ってきたのだが汗でべったり肌についている。
白だから汗染みが目立つ訳ではないが、これで喫茶店に入ったら顰蹙を買いそうだ。
それなのに、目的地の信津寺はなだらかな坂道の向こうに存在していた。
町内の住人は歩き慣れているようだが、これはちょっとしたハイキングだ。
「自転車でもあればもう少し楽だったのかもしれませんね……」
駅前にあったレンタサイクルの文字を思い出し、熱気で靄のたつ歩道を進む。
暑さのせいもあり、すれ違う住人はずっと少なくなっていた。
そうしてしばらく坂を上っていると、向こうから誰かがやってくる。
つばの広い帽子も、レースの意匠も入ったワンピースも、歩きやすそうなパンプスも、すべて黒に統一されている。
喪服のようだ、と思ったのは彼女が木桶を手にしていたからだろう。
盂蘭盆会にはしてはもう遅いか、まだ早すぎる。
誰かの墓参りにでも行ってきたのだろうか……。
「……あっ」
すれ違ってすぐ、女性は声をあげる。
何だと思って振り返れば、女性は少し驚いて目を見開いた後、静かに首を振った。
「そう、そうよね……そんなはず……」
自分を納得させるためつぶやいた声だったろうが、男の耳には確かに聞こえる。
きっと誰かと見間違えたのだろう。
背は高からず低からずでとりわけ目立った特徴のない顔立ちをしていた男は、知らない誰かによく見間違えられるのだ。
「ははっ、私が誰かに似てたんですね」
人なつっこく笑いながら両手を広げて話せば、彼女は驚いたまま小さく頷く。
「は、はい。すいません……」
「いいんですよ。誰かに似ている、ということはその人のことを思い出せたということでしょう? 思い出せているのなら、あなたの中にまだ存在する。それは、多分いいことですよ」
では、と男は会釈をし信津寺への道を進む。
物憂げな女は、その後ろ姿をぼんやりと見つめていた。
△
汗を拭いながらゆるい坂をのぼれば、ようやく信津寺が見えてきた。
山を背負い、近くには駐車場スペース兼広場がある。
広場には太めの青年が座り込み、古い形式のラジカセとにらめっこをしていた。
スピーカーとラジカセを交互に弄っているが、本来スピーカーから鳴るはずの音がうまく鳴らなかったのだろう。
男はそんな青年を横目に、信津寺へ向かった。
建立300年は伊達ではない、立派なたたずまいの寺だ。
山門は決して豪奢な作りではないが、深く曇るような年期のある木造で見るからに歳月を感じる。
広い庭もきちんと整備されており、まめに手入れされているのがはっきりとわかる。
「へぇ……これは、見事ですね……」
男はつい、カメラを手にしていた。
オカルト編集者としての性分か、神社・仏閣などにやってくれば自然と写真を残しておきたくなるのだ。
本堂は立派な木造建築だ。住居とは一応繋がっているのか、それとも完全に離れているのだろうか。
車庫は開いており、立派なスポーツカーが停まっている。
住職の権造は70過ぎだと聞いているが、このスポーツカーは少々派手だ。跡取りに息子がいると聞いていたが、息子の車だろうか。
「羽振りがいいんですかね。最近はどこでも、檀家不足で大変でしょうに」
男はそう独りごち、辺りを見渡す。
庭をかこむ壁づたいには梅が植えてある。青梅の収穫はもう終わっているのか、木には見過ごされ熟した梅がいまにも落ちそうになっていた。
寺の裏手には墓地が広がっているのだろうか。
だとすると、この地域に比較的多い寺院墓地のスタイルになる。
住職である長谷部権造は町内会を率いているともいうが、檀家の面倒もよく見ているのだろう。
この手の「面倒見がいいタイプ」はよく二極化する。
人当たりがよく、地域のつなぎ役になるタイプになるか、ワンマンで独裁者のように振る舞うタイプになるかだ。
権造は、果たしてどちらのタイプだろうか。
「何だ、おめぇは。このあたりじゃ、見ない顔だな」
ドスの利いた低い声に振り返れば、そこにはやけに威圧的な男が立っていた。
つるりとした坊主頭は袈裟こそ着てないが、作務衣であっても住職としての貫禄がある。
――この男が、長谷部権造か。
名乗っていなくても、見るだけでわかる。
歳は70を過ぎているが老いさらばえた雰囲気は微塵も感じず、全身から活力が漲っていた。
やや赤ら顔で吐息は酒臭い。二日酔いなのかもしれない。
「一体どこのもんだ? こんな寂れた寺に、何しにきた」
こちらを値踏みするような視線と、ドスの利いた声。
どこのもんだ。という一言があまりにもVシネマに出る極道の言い回しだったので、男はつい苦笑いになっていた。
「都内から来ました。ちょっとした観光ですよ。パワースポット巡り、ってのじゃないですが……私、神社や仏閣を巡るのが趣味なんですよね」
怪しい者ではないのをアピールするため、手にしたカメラの写真をちらりと見せる。
大概の仏閣は見学に寛容だが、住職とその家族が暮らす生活の場も兼ねている。
観光地であればまだしも、都心からそこまで遠くもない地方都市の寺に入ってくる人間は珍しいのだろう。
住職らしい男は、訝しげにこちらを眺めていた。
「ほぉ……そりゃご苦労なこった。ここは広いが、ただそれだけで面白くもないだろう?」
住職はそういうと、くくっと喉を鳴らす。
態度といい貫禄といい、住職よりよほど裏稼業のボスのほうが向いていそうだ。
「いえ、そんなことはないですよ。ここ、天台宗のお寺なんですよね。ひょっとして、本堂には大日如来か、不動様を奉ってます? もしそうなら、見せていただきたいんですけど」
少し強引に距離をつめ、いかにも熱心なマニアといった体裁でまくし立てれば、住職は渋い顔をし振り返った。
「来な。本堂はこっちだ。あんまりウロつかれても困るからな」
歩きながら、住職とぽつぽつ話をする。
やはり男は信津寺の住職、長谷部権造だった。古い時代から地域に住んでいる地主たちは檀家だからいろいろ世話をしているので、町内会もその延長で面倒を見ている事のほか、この土地には不動明王が現れた伝承があることなど、思いのほか普通の話だ。
本堂に通され、男は思わず感嘆の声を漏らす。
堂々たる木彫りの不動明王が、鋭いまなざしを向けていたからだ。
よほど腕の良い仏師がいたのだろう。筋肉の躍動も視線の鋭さも野性味があり荒々しい。
「立派な不動様じゃないですか……なるほど、不動明王が現れた伝説があるから、とりわけ不動様の信仰が強いのでしょうね」
「さぁな。だがこいつは確かに立派なもんだろう?」
褒められたらまんざらでもないのか、権造は上機嫌だ。
「素晴らしいですね、まさかここで不動三尊が見られるとは思っていませんでした。感無量です」
男は大げさではない褒め言葉を口にして、両手をあわせ祈りを捧げる。
どこからか、柔和でかすかな甘みを感じる木の匂いがした。
線香の匂いだな。
匂いの元をたどれば、香炉にいくつか線香が添えられていた。
――荘厳な寺だ、というのは男の本音だった。
きっと、地域の中心となる良い寺なのだろう。
今は暑いが、朝方は近くの広場に子供があつまって、ラジオ体操でもしていたのだろう。
子供を連れた親や、祖父母たちは本堂近くまできて、権造と茶でも飲みながら話をしていたのも想像に難くない。
周囲に山を背負っているので、住んでいたらきっと閉塞感もあるだろう。
それでも権造は、この町に長く暮らす住人たちを気にかけ、全員を幸福に導きたいと考えているようだった。
見た目はずいぶんと生臭だ。
口調も荒々しく尊大にも見えるが、信仰に準じる覚悟はある正しく、住職という立場の人間なのだろう。
だからこそ、わかる。
正しいからこそ。守るべき世界があるからこそ――。
――奇跡があれば、それを求めたくなるものだ。
「天台宗のお寺は珍しいですから、いいものを見させてもらいました」
「ふん、そういうが、真言宗で置いてるもんとそれほど変わらんだろ?」
「そうですけど、いろいろロマンがありますよ。ほら、徳川幕府の立地を整えた天海大僧正は、天台宗のエリートだといいますし。他にも、真言宗に負けじと様々な呪術や秘術を密かに伝えているとも言うじゃないですか」
「はぁん……お前さん、そんな与太話を信じている口か?」
「信じる、信じないというより、あったらいいな、って話ですよ。天台宗にも、いろいろな秘術の噂がありますからね。天海大僧正は江戸を完璧な風水の作法で作り上げたといいますし。あとはそう――」
と、そこでわざと呼吸をおき、男はじっと権造を見る。
「蘇りの秘術」
権造の視線が鋭くなり、眉がぴくりと動く。
「――そういうので若返っていた、なんて、オカルト的な噂も多いですからね」
軽く、茶化すように触れることで反応を見るつもりだったが、それがかえって権造には不快なようだった。
ふん、と軽く鼻を鳴らし、じろりと睨み付ける。
「なんだ、お前さんはそういうお化け好きか? まさか、どこかの心霊スポットとやらに出かけて、呪われたってんじゃないだろうな」
胸元をボリボリと掻き、いかにも不遜な態度を露わにする。
「夏場ってのは、そういう奴らが増えんだよ。ほぅら、休み前に免許をとって、ドライブついでに度胸試し。やれ心霊スポットだ、廃墟だの行った翌日から具合が悪くなると、呪われた、祟られたなんて駆け込んで泣きつくんだ。まったく、泣きつくくらいなら最初から行くなってんだよ、なぁ」
「あはぁ……でも、こちら天台宗ですから、除霊・浄霊はお得意でしょう」
「出来る出来ないの話してる訳じゃねぇんだよ、こっちは。盆が来ればあっちの檀家、こっちの檀家を駆けずり回って読経しなきゃなんねぇってのに、青っ白い顔をしたうらなりのナスみてぇな連中が、ワァワァ騒ぎ立て泣きついてくるのは困る、って話なんだよ。お前もその口なら、とっとと帰っちゃくれねぇか? こっちも新盆の準備やら何やらで、忙しいからな」
それほど大男といった印象ではない権造の体が、一回り大きく見える。
長年、町内会を取り仕切ってきた指導者としての威圧感だけではない。
清濁併せ呑む度量と覚悟をもつ男の気概が、内からにじみ出ていた。
――これが、本当に70過ぎた老人の貫禄だろうか。
オカルト絡みから裏業界まで、大概の「こわいもの」を見てきた男からしても、相手は随分上手に見える。
これを切り崩すにはさて、どうすればいいか……。
――蘇りの秘術には反応した。それは確かだ。少なくとも権造は、秘術の類いをオカルト風情と切り捨ててはいない。
ぽっくり団地にも触れてみるか?
いや、それは権造にとって充分、予測できる範疇にある質問だ。
土地の古株である権造なら、不自然な自然死が多いことに触れたとて「新興住宅に関しては知らない」「檀家ではないからうちで葬儀をあげてない」なんて言うだけでのらりくらりと躱せるだろう。
もっと意外性があり、権造の興味を引くような言葉はないだろうか――。
男は信津寺に来るまでの風景を思い返す。
シャッターの多い商店街。倒れた自転車。物憂げな喪服風の女性――。
信津寺では、何を見た?
派手なスポーツカー。不動三尊の木造。新盆の準備――。
「……笹本健康も、ワァワァ騒ぎ立てた口でしたか?」
笹本健康の名前を出したのは、ほとんど直感だった。
ちょうど一年ほど前に亡くなっていて、今年が新盆になる。
まだ年若いというのにぽっくり団地の住人のように、高台の公園で自然死した青年だ。
事件性はなかったようで、その死は他の自然死と同じよう粛々と処理されたようだが――。
「お前、どうしてその名前を……」
権造は、目に見えて狼狽する。
視線が泳ぐ顔には、焦燥や怒りといった強い感情は一切なく、ただ強い哀悼と深い後悔に満ちていた。
どうやら「当たり」を引いたようだ。
それも、権造にとって。
いや、「蘇りの秘術」全体にとって、最も触れられたくない領域だったに違いない。
「……ここじゃ、話しづれぇな。ちょっと、顔貸せ。どうせ暇なんだろ?」
権造は、居住用らしい棟へ向かって歩いていく。
「あ……まってくださいよ」
置いて行かれぬよう慌てて後を追う男は、一度だけ振り返る。
不動三尊の近くに置かれた石榴をもつ優しい顔の立像は、微かに笑っているように見えた。
周囲を山が囲んでいるため、どこを見ても眩しい新緑と青臭い生の匂いがする。
山と山との間に入道雲が立ちこめ、さらにその向こうには抜けるような青空が見える。
夏真っ盛りだ。
もう小中学生は夏休みのはずだが、歩道を進む限り子供の姿は見えない。
少子化の影響もあるのだろうが、それ以上に暑さのせいが大きいのだろう。
山に囲まれているせいか、信津町は盆地のように暑さが籠もるようでアスファルトからは湯気が立っているような錯覚を覚える。
時刻はまだ朝方といっていい頃だろうが、粘り着くような湿度も相まって男はすでに汗だくである。
「こんなに暑くなるなら、もう少し薄手の服にしておくんでしたね……」
動き回る事になるだろうから楽な服装がいいだろう。
そう思って、パーカーを羽織ってきたのだが汗でべったり肌についている。
白だから汗染みが目立つ訳ではないが、これで喫茶店に入ったら顰蹙を買いそうだ。
それなのに、目的地の信津寺はなだらかな坂道の向こうに存在していた。
町内の住人は歩き慣れているようだが、これはちょっとしたハイキングだ。
「自転車でもあればもう少し楽だったのかもしれませんね……」
駅前にあったレンタサイクルの文字を思い出し、熱気で靄のたつ歩道を進む。
暑さのせいもあり、すれ違う住人はずっと少なくなっていた。
そうしてしばらく坂を上っていると、向こうから誰かがやってくる。
つばの広い帽子も、レースの意匠も入ったワンピースも、歩きやすそうなパンプスも、すべて黒に統一されている。
喪服のようだ、と思ったのは彼女が木桶を手にしていたからだろう。
盂蘭盆会にはしてはもう遅いか、まだ早すぎる。
誰かの墓参りにでも行ってきたのだろうか……。
「……あっ」
すれ違ってすぐ、女性は声をあげる。
何だと思って振り返れば、女性は少し驚いて目を見開いた後、静かに首を振った。
「そう、そうよね……そんなはず……」
自分を納得させるためつぶやいた声だったろうが、男の耳には確かに聞こえる。
きっと誰かと見間違えたのだろう。
背は高からず低からずでとりわけ目立った特徴のない顔立ちをしていた男は、知らない誰かによく見間違えられるのだ。
「ははっ、私が誰かに似てたんですね」
人なつっこく笑いながら両手を広げて話せば、彼女は驚いたまま小さく頷く。
「は、はい。すいません……」
「いいんですよ。誰かに似ている、ということはその人のことを思い出せたということでしょう? 思い出せているのなら、あなたの中にまだ存在する。それは、多分いいことですよ」
では、と男は会釈をし信津寺への道を進む。
物憂げな女は、その後ろ姿をぼんやりと見つめていた。
△
汗を拭いながらゆるい坂をのぼれば、ようやく信津寺が見えてきた。
山を背負い、近くには駐車場スペース兼広場がある。
広場には太めの青年が座り込み、古い形式のラジカセとにらめっこをしていた。
スピーカーとラジカセを交互に弄っているが、本来スピーカーから鳴るはずの音がうまく鳴らなかったのだろう。
男はそんな青年を横目に、信津寺へ向かった。
建立300年は伊達ではない、立派なたたずまいの寺だ。
山門は決して豪奢な作りではないが、深く曇るような年期のある木造で見るからに歳月を感じる。
広い庭もきちんと整備されており、まめに手入れされているのがはっきりとわかる。
「へぇ……これは、見事ですね……」
男はつい、カメラを手にしていた。
オカルト編集者としての性分か、神社・仏閣などにやってくれば自然と写真を残しておきたくなるのだ。
本堂は立派な木造建築だ。住居とは一応繋がっているのか、それとも完全に離れているのだろうか。
車庫は開いており、立派なスポーツカーが停まっている。
住職の権造は70過ぎだと聞いているが、このスポーツカーは少々派手だ。跡取りに息子がいると聞いていたが、息子の車だろうか。
「羽振りがいいんですかね。最近はどこでも、檀家不足で大変でしょうに」
男はそう独りごち、辺りを見渡す。
庭をかこむ壁づたいには梅が植えてある。青梅の収穫はもう終わっているのか、木には見過ごされ熟した梅がいまにも落ちそうになっていた。
寺の裏手には墓地が広がっているのだろうか。
だとすると、この地域に比較的多い寺院墓地のスタイルになる。
住職である長谷部権造は町内会を率いているともいうが、檀家の面倒もよく見ているのだろう。
この手の「面倒見がいいタイプ」はよく二極化する。
人当たりがよく、地域のつなぎ役になるタイプになるか、ワンマンで独裁者のように振る舞うタイプになるかだ。
権造は、果たしてどちらのタイプだろうか。
「何だ、おめぇは。このあたりじゃ、見ない顔だな」
ドスの利いた低い声に振り返れば、そこにはやけに威圧的な男が立っていた。
つるりとした坊主頭は袈裟こそ着てないが、作務衣であっても住職としての貫禄がある。
――この男が、長谷部権造か。
名乗っていなくても、見るだけでわかる。
歳は70を過ぎているが老いさらばえた雰囲気は微塵も感じず、全身から活力が漲っていた。
やや赤ら顔で吐息は酒臭い。二日酔いなのかもしれない。
「一体どこのもんだ? こんな寂れた寺に、何しにきた」
こちらを値踏みするような視線と、ドスの利いた声。
どこのもんだ。という一言があまりにもVシネマに出る極道の言い回しだったので、男はつい苦笑いになっていた。
「都内から来ました。ちょっとした観光ですよ。パワースポット巡り、ってのじゃないですが……私、神社や仏閣を巡るのが趣味なんですよね」
怪しい者ではないのをアピールするため、手にしたカメラの写真をちらりと見せる。
大概の仏閣は見学に寛容だが、住職とその家族が暮らす生活の場も兼ねている。
観光地であればまだしも、都心からそこまで遠くもない地方都市の寺に入ってくる人間は珍しいのだろう。
住職らしい男は、訝しげにこちらを眺めていた。
「ほぉ……そりゃご苦労なこった。ここは広いが、ただそれだけで面白くもないだろう?」
住職はそういうと、くくっと喉を鳴らす。
態度といい貫禄といい、住職よりよほど裏稼業のボスのほうが向いていそうだ。
「いえ、そんなことはないですよ。ここ、天台宗のお寺なんですよね。ひょっとして、本堂には大日如来か、不動様を奉ってます? もしそうなら、見せていただきたいんですけど」
少し強引に距離をつめ、いかにも熱心なマニアといった体裁でまくし立てれば、住職は渋い顔をし振り返った。
「来な。本堂はこっちだ。あんまりウロつかれても困るからな」
歩きながら、住職とぽつぽつ話をする。
やはり男は信津寺の住職、長谷部権造だった。古い時代から地域に住んでいる地主たちは檀家だからいろいろ世話をしているので、町内会もその延長で面倒を見ている事のほか、この土地には不動明王が現れた伝承があることなど、思いのほか普通の話だ。
本堂に通され、男は思わず感嘆の声を漏らす。
堂々たる木彫りの不動明王が、鋭いまなざしを向けていたからだ。
よほど腕の良い仏師がいたのだろう。筋肉の躍動も視線の鋭さも野性味があり荒々しい。
「立派な不動様じゃないですか……なるほど、不動明王が現れた伝説があるから、とりわけ不動様の信仰が強いのでしょうね」
「さぁな。だがこいつは確かに立派なもんだろう?」
褒められたらまんざらでもないのか、権造は上機嫌だ。
「素晴らしいですね、まさかここで不動三尊が見られるとは思っていませんでした。感無量です」
男は大げさではない褒め言葉を口にして、両手をあわせ祈りを捧げる。
どこからか、柔和でかすかな甘みを感じる木の匂いがした。
線香の匂いだな。
匂いの元をたどれば、香炉にいくつか線香が添えられていた。
――荘厳な寺だ、というのは男の本音だった。
きっと、地域の中心となる良い寺なのだろう。
今は暑いが、朝方は近くの広場に子供があつまって、ラジオ体操でもしていたのだろう。
子供を連れた親や、祖父母たちは本堂近くまできて、権造と茶でも飲みながら話をしていたのも想像に難くない。
周囲に山を背負っているので、住んでいたらきっと閉塞感もあるだろう。
それでも権造は、この町に長く暮らす住人たちを気にかけ、全員を幸福に導きたいと考えているようだった。
見た目はずいぶんと生臭だ。
口調も荒々しく尊大にも見えるが、信仰に準じる覚悟はある正しく、住職という立場の人間なのだろう。
だからこそ、わかる。
正しいからこそ。守るべき世界があるからこそ――。
――奇跡があれば、それを求めたくなるものだ。
「天台宗のお寺は珍しいですから、いいものを見させてもらいました」
「ふん、そういうが、真言宗で置いてるもんとそれほど変わらんだろ?」
「そうですけど、いろいろロマンがありますよ。ほら、徳川幕府の立地を整えた天海大僧正は、天台宗のエリートだといいますし。他にも、真言宗に負けじと様々な呪術や秘術を密かに伝えているとも言うじゃないですか」
「はぁん……お前さん、そんな与太話を信じている口か?」
「信じる、信じないというより、あったらいいな、って話ですよ。天台宗にも、いろいろな秘術の噂がありますからね。天海大僧正は江戸を完璧な風水の作法で作り上げたといいますし。あとはそう――」
と、そこでわざと呼吸をおき、男はじっと権造を見る。
「蘇りの秘術」
権造の視線が鋭くなり、眉がぴくりと動く。
「――そういうので若返っていた、なんて、オカルト的な噂も多いですからね」
軽く、茶化すように触れることで反応を見るつもりだったが、それがかえって権造には不快なようだった。
ふん、と軽く鼻を鳴らし、じろりと睨み付ける。
「なんだ、お前さんはそういうお化け好きか? まさか、どこかの心霊スポットとやらに出かけて、呪われたってんじゃないだろうな」
胸元をボリボリと掻き、いかにも不遜な態度を露わにする。
「夏場ってのは、そういう奴らが増えんだよ。ほぅら、休み前に免許をとって、ドライブついでに度胸試し。やれ心霊スポットだ、廃墟だの行った翌日から具合が悪くなると、呪われた、祟られたなんて駆け込んで泣きつくんだ。まったく、泣きつくくらいなら最初から行くなってんだよ、なぁ」
「あはぁ……でも、こちら天台宗ですから、除霊・浄霊はお得意でしょう」
「出来る出来ないの話してる訳じゃねぇんだよ、こっちは。盆が来ればあっちの檀家、こっちの檀家を駆けずり回って読経しなきゃなんねぇってのに、青っ白い顔をしたうらなりのナスみてぇな連中が、ワァワァ騒ぎ立て泣きついてくるのは困る、って話なんだよ。お前もその口なら、とっとと帰っちゃくれねぇか? こっちも新盆の準備やら何やらで、忙しいからな」
それほど大男といった印象ではない権造の体が、一回り大きく見える。
長年、町内会を取り仕切ってきた指導者としての威圧感だけではない。
清濁併せ呑む度量と覚悟をもつ男の気概が、内からにじみ出ていた。
――これが、本当に70過ぎた老人の貫禄だろうか。
オカルト絡みから裏業界まで、大概の「こわいもの」を見てきた男からしても、相手は随分上手に見える。
これを切り崩すにはさて、どうすればいいか……。
――蘇りの秘術には反応した。それは確かだ。少なくとも権造は、秘術の類いをオカルト風情と切り捨ててはいない。
ぽっくり団地にも触れてみるか?
いや、それは権造にとって充分、予測できる範疇にある質問だ。
土地の古株である権造なら、不自然な自然死が多いことに触れたとて「新興住宅に関しては知らない」「檀家ではないからうちで葬儀をあげてない」なんて言うだけでのらりくらりと躱せるだろう。
もっと意外性があり、権造の興味を引くような言葉はないだろうか――。
男は信津寺に来るまでの風景を思い返す。
シャッターの多い商店街。倒れた自転車。物憂げな喪服風の女性――。
信津寺では、何を見た?
派手なスポーツカー。不動三尊の木造。新盆の準備――。
「……笹本健康も、ワァワァ騒ぎ立てた口でしたか?」
笹本健康の名前を出したのは、ほとんど直感だった。
ちょうど一年ほど前に亡くなっていて、今年が新盆になる。
まだ年若いというのにぽっくり団地の住人のように、高台の公園で自然死した青年だ。
事件性はなかったようで、その死は他の自然死と同じよう粛々と処理されたようだが――。
「お前、どうしてその名前を……」
権造は、目に見えて狼狽する。
視線が泳ぐ顔には、焦燥や怒りといった強い感情は一切なく、ただ強い哀悼と深い後悔に満ちていた。
どうやら「当たり」を引いたようだ。
それも、権造にとって。
いや、「蘇りの秘術」全体にとって、最も触れられたくない領域だったに違いない。
「……ここじゃ、話しづれぇな。ちょっと、顔貸せ。どうせ暇なんだろ?」
権造は、居住用らしい棟へ向かって歩いていく。
「あ……まってくださいよ」
置いて行かれぬよう慌てて後を追う男は、一度だけ振り返る。
不動三尊の近くに置かれた石榴をもつ優しい顔の立像は、微かに笑っているように見えた。
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