インターネット字書きマンの落書き帳
後ろめたき思いを抱いて飯を食うこの浅ましさよ(松ガス)
なぜか松田の家に居候している山田ガスマスクという概念です。
松田の家でのうのうとして、それなりに幸せ!
だからこそ、ほの暗い感情に支配されてしまうが、それすらもかさぶたに触れるような危うさと心地よさに満ちている世界……。
比喩で作品を説明するな!
うん、そうだね。
でもそんな奴でーす、よーろしーくねー。
松田の家でのうのうとして、それなりに幸せ!
だからこそ、ほの暗い感情に支配されてしまうが、それすらもかさぶたに触れるような危うさと心地よさに満ちている世界……。
比喩で作品を説明するな!
うん、そうだね。
でもそんな奴でーす、よーろしーくねー。
『優良物件』
徹夜仕事を終えた後、意識を失うようにソファーへ倒れ込みそのまま熟睡していた山田の耳に、トントンと心地よいリズムが届く。
きっとキッチンで松田が料理をしているのだろう。
鍋がグラグラと沸く音の後、空腹を誘うよい香りが漂ってくる。
いつの間に帰ってきたのだろう。
本当は居候の僕が夕食の準備をしなければいけないのに、すっかり寝過ごしてしまった。
もぞもぞと起き上がれば、松田はやっと起きたのかと呆れた顔を向けた。
「おう、夕食の準備できとるで」
「んー、ありがと。食べる食べる」
目をこすりながらテーブルを見れば、煮魚に味噌汁、白和えといったメニューに皮のむかれた桃まで切ってある。
粗食に見えるが、手のかかるものばかりだ。
「松田さんが作る料理っていつもヘルシーだね」
「何や、文句あるなら食うなや」
「なはは……食べるよ、食べるって。いつも手間かけて、おいしい料理つくってくれてありがと」
山田は笑いながら椅子に腰掛けると、向かいに座りビールを飲む松田を眺めた。
松田は、大柄で強面だし実際に態度が大きいのもあり初対面だと間違いなく相手を萎縮させるタイプだろう。
実際、話してみれば我が強く融通がきかないところも多い。
それでも人柄に触れてみれば、真面目で実直だというのはよくわかる。
アメフトかラグビーでもやっていそうな体格とは裏腹に、博物館の学芸員なんて堅い仕事をしているのも意外だ。
普段は部屋で本を読み、家事はまめにこなせる上、料理はうまい。
頑固な性格は好みが分かれそうだが決して理不尽な言い草や乱暴な持論で相手を抑圧するような真似はせず、酒はたしなむ程度でギャンブルや女遊びもない。
「んー、おいし。松田さんってほんと、料理上手だよね。いいお嫁さんになるよ」
「アホくさ。黙って食べや」
松田は心底どうでもいいといったあきれ顔をするが、料理上手は本当だ。
人付き合いが苦手という訳でもなければ、仕事ができないという様子もない。見た目にも気を遣っているし、金のかかるような趣味もなければ派手な遊びもしない。
刺青を入れている、というのは難癖もつけられることが多いだろうが、それでも松田のような人間がタイプだという相手なら、プラスのほうが多いだろう。
――どうして、結婚してないんだろう。
転がり込むように押しかけた山田を、なぁなぁのまま受け入れた時から松田には恋人の影がなかった。
話を聞くかぎり、以前は付き合っていた相手もいたようだ。結婚を考えたこともあるだろう。
それなのに――。
――あ、そうか。僕のせいだ。
箸の手が自然と止まる。
7年前、天誅事件が起きたとき、松田は容疑者の一人だったという。当時は33歳、仕事でも恋愛でもある程度落ち着いて、それまで真剣に交際していた相手がいたのなら結婚だって考えていたはずだ。
だけど、きっと、そのせいでだめになった。
若気の至りで入れた刺青は許されたとしても、警察にマークされしょっちゅう聴取を受けている相手の無実を信じ支え続けるというのは、きっと難しいことなのだろう。
あるいは松田の性格だ。警察に疑われているのを知った時、これ以上面倒をかけないように相手から距離をとったのかもしれない。
だったら、僕が悪いんだ。
僕が逃げたから、松田さんが容疑者にされた。松田さんの幸せを壊したのは僕だ。
あの時、あの事件がなければきっと松田さんは結婚もしていたし、子供だっていたかもしれない。マンション暮らしではなく戸建てで、子煩悩な一面などをのぞかせて、アーケードで誰かて手をつないで――。
きっと、平穏に生きていたのだろう。
「どうした、具合でも悪いんか?」
山田の手が止まっているのに気づいたのだろう。心配そうにこちらを見る松田に、慌てて作り笑いを見せる。
「なんでもないよ。ちょっと一瞬、仕事のこと考えてた。あれでよかったのかなーって」
そうして白和えをつつきながら、密かに自嘲する。
――僕って、本当に最低だ。
松田さんのこと不幸にした元凶なのに、松田さんのこと勝手に好きになっちゃって、しかも今、松田さんの結婚がだめになってたなら、よかったって思ってる。
最低だ。けど――。
「本当に、よかった」
ぽつりつつぶやく声は松田には届かず、歪んだ反響で山田の胸を幾度も震わせていた。
徹夜仕事を終えた後、意識を失うようにソファーへ倒れ込みそのまま熟睡していた山田の耳に、トントンと心地よいリズムが届く。
きっとキッチンで松田が料理をしているのだろう。
鍋がグラグラと沸く音の後、空腹を誘うよい香りが漂ってくる。
いつの間に帰ってきたのだろう。
本当は居候の僕が夕食の準備をしなければいけないのに、すっかり寝過ごしてしまった。
もぞもぞと起き上がれば、松田はやっと起きたのかと呆れた顔を向けた。
「おう、夕食の準備できとるで」
「んー、ありがと。食べる食べる」
目をこすりながらテーブルを見れば、煮魚に味噌汁、白和えといったメニューに皮のむかれた桃まで切ってある。
粗食に見えるが、手のかかるものばかりだ。
「松田さんが作る料理っていつもヘルシーだね」
「何や、文句あるなら食うなや」
「なはは……食べるよ、食べるって。いつも手間かけて、おいしい料理つくってくれてありがと」
山田は笑いながら椅子に腰掛けると、向かいに座りビールを飲む松田を眺めた。
松田は、大柄で強面だし実際に態度が大きいのもあり初対面だと間違いなく相手を萎縮させるタイプだろう。
実際、話してみれば我が強く融通がきかないところも多い。
それでも人柄に触れてみれば、真面目で実直だというのはよくわかる。
アメフトかラグビーでもやっていそうな体格とは裏腹に、博物館の学芸員なんて堅い仕事をしているのも意外だ。
普段は部屋で本を読み、家事はまめにこなせる上、料理はうまい。
頑固な性格は好みが分かれそうだが決して理不尽な言い草や乱暴な持論で相手を抑圧するような真似はせず、酒はたしなむ程度でギャンブルや女遊びもない。
「んー、おいし。松田さんってほんと、料理上手だよね。いいお嫁さんになるよ」
「アホくさ。黙って食べや」
松田は心底どうでもいいといったあきれ顔をするが、料理上手は本当だ。
人付き合いが苦手という訳でもなければ、仕事ができないという様子もない。見た目にも気を遣っているし、金のかかるような趣味もなければ派手な遊びもしない。
刺青を入れている、というのは難癖もつけられることが多いだろうが、それでも松田のような人間がタイプだという相手なら、プラスのほうが多いだろう。
――どうして、結婚してないんだろう。
転がり込むように押しかけた山田を、なぁなぁのまま受け入れた時から松田には恋人の影がなかった。
話を聞くかぎり、以前は付き合っていた相手もいたようだ。結婚を考えたこともあるだろう。
それなのに――。
――あ、そうか。僕のせいだ。
箸の手が自然と止まる。
7年前、天誅事件が起きたとき、松田は容疑者の一人だったという。当時は33歳、仕事でも恋愛でもある程度落ち着いて、それまで真剣に交際していた相手がいたのなら結婚だって考えていたはずだ。
だけど、きっと、そのせいでだめになった。
若気の至りで入れた刺青は許されたとしても、警察にマークされしょっちゅう聴取を受けている相手の無実を信じ支え続けるというのは、きっと難しいことなのだろう。
あるいは松田の性格だ。警察に疑われているのを知った時、これ以上面倒をかけないように相手から距離をとったのかもしれない。
だったら、僕が悪いんだ。
僕が逃げたから、松田さんが容疑者にされた。松田さんの幸せを壊したのは僕だ。
あの時、あの事件がなければきっと松田さんは結婚もしていたし、子供だっていたかもしれない。マンション暮らしではなく戸建てで、子煩悩な一面などをのぞかせて、アーケードで誰かて手をつないで――。
きっと、平穏に生きていたのだろう。
「どうした、具合でも悪いんか?」
山田の手が止まっているのに気づいたのだろう。心配そうにこちらを見る松田に、慌てて作り笑いを見せる。
「なんでもないよ。ちょっと一瞬、仕事のこと考えてた。あれでよかったのかなーって」
そうして白和えをつつきながら、密かに自嘲する。
――僕って、本当に最低だ。
松田さんのこと不幸にした元凶なのに、松田さんのこと勝手に好きになっちゃって、しかも今、松田さんの結婚がだめになってたなら、よかったって思ってる。
最低だ。けど――。
「本当に、よかった」
ぽつりつつぶやく声は松田には届かず、歪んだ反響で山田の胸を幾度も震わせていた。
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