インターネット字書きマンの落書き帳
浅ましいほど許されたい(松ガス)
罪人を追い詰めて書くのとってもたのしい!(挨拶)
というわけで
別にBLとかではないが、一緒に暮らすタイプの松ガスを書きました。
記号ではない。
お前の奪った命を直視せよ……みたいな話ですよ。
苦い味をした何かを食べようず!
というわけで
別にBLとかではないが、一緒に暮らすタイプの松ガスを書きました。
記号ではない。
お前の奪った命を直視せよ……みたいな話ですよ。
苦い味をした何かを食べようず!
『吊るされた男』
行き場がないと思っていた僕を迎えに来てくれたのが松田さんだった。
僕が何をしたのか、すべてを知って。ずっと黙ってそしらぬ顔をし逃げ続けた僕でも居場所があるのがうれしくて、自然とその手を取っていた。
松田さんのそばにいれば、罪を償うため生きているという免罪符が得られる。そんな打算もあったと思う。
あの事件に巻き込まれ散々な目にあった松田さんの周りで、彼を助けて暮らしていれば僕は悪人のなかでも、ちょっとはマシに見られると、そう思ったのだ。
「山田ぁ。これ、着られるか? うん……サイズはぴったりやな」
松田さんは行き場のない場所に居場所を与えてくれた。
服とか、靴とか……いろいろ買いそろえてくれて……それは僕の趣味とはちょっと違ったけど、それでも信用なんてどん底でろくに仕事もなかった僕にはありがたかった。
自分の情けなさとか、周囲から受ける視線の冷たさとか、離れていった友達、顔見知り、そういったことに思ったより打ちのめされていて、人と話すのもすっかり億劫になっていて、全部嫌になっちゃった僕に、黙ってそばに寄り添ってくれていた。
いつでも、暖かいご飯を食べさせてくれた。
疲れたのならたっぷり寝かせてくれて、休日は映画を見たり、おすすめの本を教えてくれたり……。
松田さんは古代史、ってジャンルに精通した研究者もしてて、全く知らない研究のこともいろいろ教えてくれた。
古代史なんて分野の学問があることすら知らなかったのに、今は松田さんの手伝いができるくらいは理解もできている。
何より、松田さんが僕に少しでもやるべきことを与えてくれたから、僕は余計なことを考えずに済んでいた。
きっと一人で何もせず部屋の中にこもっていたら、自分の情けなさ、卑怯さ、罪悪感、逃れようのない責務に耐えかねて、頭がおかしくなっていた。
そんな風に思うから、松田さんは命の恩人だ。
だから、尊敬している。
いや、尊敬というのは少し違うのかもしれない。
好きだとか、愛しているとか、そういう思いを抱いている。
僕よりずっと年上のオジサンにこんな思いを抱くなんてちょっと自分でも意外だし、お世話になりっぱなしの上に勝手な恋慕を抱くのも松田さんには迷惑だろう。
そう、思うけど――。
「……あ、これおいしい」
手作りのハンバーグはふわふわで、普段食べているのとひと味もふた味も違う。お店でも十分通用する味だったから、僕は思わず声をあげた。
松田さんは作るものがほとんど和食で、ハンバーグは湯煎するタイプのレトルトばかりだったから手作りだったのにも驚いたんだけど、それがすごく美味しいのはもっとびっくりした。
タマネギがたっぷり入ってなければこの味は出ないだろうけど、タマネギの舌触りがほとんどない。
よほどきれいに刻んだか、すりおろして入れてあるんだろう。
すごく丁寧に作ってある。
「せやろ、知り合いからレシピ聞いて作ったやつや」
「へぇ……誰から聞いたレシピ? すっごく美味しいけど」
一緒に添えられたにんじんの甘煮も、すごくおいしい。
あまりにおいしいから、ついそう問いかける僕に、松田さんは驚くほど優しい顔をして笑った。
「野村からや。おまえと会った時は、木村って名乗ってたけどな」
野村朋子――。
僕と会った時は木村と名乗っていた女。
僕が殺した、野村健吾の妹だ。
松田さんとは同僚で、事件があったときに真っ先に疑われたのが松田さんだったと聞いている。
天誅事件は、事件の異質さばかりが取りだたされ、被害者の名前は目立って報道されなかった。
僕も、ニュースではじめて誰を殺したのかを知ったけど、彼の名前はあまり覚えていない。
彼が誰かということより、僕が誰かを殺したという事実のほうが圧倒的に大きくて、重くて、衝撃だったからだ。
僕にとって、僕の罪は殺人というものに集約し、それが誰かということに頓着しなかったのだ。
「そっかぁ……」
だから、今になって思い知る。
野村という人に、家族がいたこと。妹は今でも、死んだ兄を慕っているということ。
松田さんが見せてくれた映画も、野村さんが好きだった映画なのだという。
古代史の研究をしていたのも、野村さんだ。
「にんじんの付け合わせな。妹はあんまり好きじゃなかったんやて。それを、兄貴が代わりに食ってやった、なんて話しとったわ。野村もそんなに、にんじんが好きって訳でもなかったみたいやけど……おまえは食べられるみたいやなぁ」
妹の前でかっこつけたいから、頼りになる兄を演じて、無理してにんじんを食べる。そんな優しい人だったんだろう。
服も、靴も……もう、わかってる。
これは、野村さんの遺品だ。
たまたま僕のサイズとあまり変わらなかったから、朋子さんから譲ってもらって僕に着せているのだ。
僕が殺した人に人生があったというのを、忘れさせないために。
「そう……だったんだね……」
おいしいと思ったハンバーグの味が全くしなくなったのに、それでもぼそぼそと食べ続ける。
許されるはずがないというのが、日に日にわかってくる。
松田さんのことどれだけ好きになっても、絶対届くことがないことも。
それでも僕は、ここにいる。
もう、ここにいるしかない。
愛されないことがわかっていて、愛されるのを渇望して。
許されることがないのを知っていて、許されるように祈り続けて。
そうやって縛られ吊るされ宙ぶらりんのまま生きていく。
罪から逃げて罰から逃れようとした人間には、きっとそれがちょうどいい。
行き場がないと思っていた僕を迎えに来てくれたのが松田さんだった。
僕が何をしたのか、すべてを知って。ずっと黙ってそしらぬ顔をし逃げ続けた僕でも居場所があるのがうれしくて、自然とその手を取っていた。
松田さんのそばにいれば、罪を償うため生きているという免罪符が得られる。そんな打算もあったと思う。
あの事件に巻き込まれ散々な目にあった松田さんの周りで、彼を助けて暮らしていれば僕は悪人のなかでも、ちょっとはマシに見られると、そう思ったのだ。
「山田ぁ。これ、着られるか? うん……サイズはぴったりやな」
松田さんは行き場のない場所に居場所を与えてくれた。
服とか、靴とか……いろいろ買いそろえてくれて……それは僕の趣味とはちょっと違ったけど、それでも信用なんてどん底でろくに仕事もなかった僕にはありがたかった。
自分の情けなさとか、周囲から受ける視線の冷たさとか、離れていった友達、顔見知り、そういったことに思ったより打ちのめされていて、人と話すのもすっかり億劫になっていて、全部嫌になっちゃった僕に、黙ってそばに寄り添ってくれていた。
いつでも、暖かいご飯を食べさせてくれた。
疲れたのならたっぷり寝かせてくれて、休日は映画を見たり、おすすめの本を教えてくれたり……。
松田さんは古代史、ってジャンルに精通した研究者もしてて、全く知らない研究のこともいろいろ教えてくれた。
古代史なんて分野の学問があることすら知らなかったのに、今は松田さんの手伝いができるくらいは理解もできている。
何より、松田さんが僕に少しでもやるべきことを与えてくれたから、僕は余計なことを考えずに済んでいた。
きっと一人で何もせず部屋の中にこもっていたら、自分の情けなさ、卑怯さ、罪悪感、逃れようのない責務に耐えかねて、頭がおかしくなっていた。
そんな風に思うから、松田さんは命の恩人だ。
だから、尊敬している。
いや、尊敬というのは少し違うのかもしれない。
好きだとか、愛しているとか、そういう思いを抱いている。
僕よりずっと年上のオジサンにこんな思いを抱くなんてちょっと自分でも意外だし、お世話になりっぱなしの上に勝手な恋慕を抱くのも松田さんには迷惑だろう。
そう、思うけど――。
「……あ、これおいしい」
手作りのハンバーグはふわふわで、普段食べているのとひと味もふた味も違う。お店でも十分通用する味だったから、僕は思わず声をあげた。
松田さんは作るものがほとんど和食で、ハンバーグは湯煎するタイプのレトルトばかりだったから手作りだったのにも驚いたんだけど、それがすごく美味しいのはもっとびっくりした。
タマネギがたっぷり入ってなければこの味は出ないだろうけど、タマネギの舌触りがほとんどない。
よほどきれいに刻んだか、すりおろして入れてあるんだろう。
すごく丁寧に作ってある。
「せやろ、知り合いからレシピ聞いて作ったやつや」
「へぇ……誰から聞いたレシピ? すっごく美味しいけど」
一緒に添えられたにんじんの甘煮も、すごくおいしい。
あまりにおいしいから、ついそう問いかける僕に、松田さんは驚くほど優しい顔をして笑った。
「野村からや。おまえと会った時は、木村って名乗ってたけどな」
野村朋子――。
僕と会った時は木村と名乗っていた女。
僕が殺した、野村健吾の妹だ。
松田さんとは同僚で、事件があったときに真っ先に疑われたのが松田さんだったと聞いている。
天誅事件は、事件の異質さばかりが取りだたされ、被害者の名前は目立って報道されなかった。
僕も、ニュースではじめて誰を殺したのかを知ったけど、彼の名前はあまり覚えていない。
彼が誰かということより、僕が誰かを殺したという事実のほうが圧倒的に大きくて、重くて、衝撃だったからだ。
僕にとって、僕の罪は殺人というものに集約し、それが誰かということに頓着しなかったのだ。
「そっかぁ……」
だから、今になって思い知る。
野村という人に、家族がいたこと。妹は今でも、死んだ兄を慕っているということ。
松田さんが見せてくれた映画も、野村さんが好きだった映画なのだという。
古代史の研究をしていたのも、野村さんだ。
「にんじんの付け合わせな。妹はあんまり好きじゃなかったんやて。それを、兄貴が代わりに食ってやった、なんて話しとったわ。野村もそんなに、にんじんが好きって訳でもなかったみたいやけど……おまえは食べられるみたいやなぁ」
妹の前でかっこつけたいから、頼りになる兄を演じて、無理してにんじんを食べる。そんな優しい人だったんだろう。
服も、靴も……もう、わかってる。
これは、野村さんの遺品だ。
たまたま僕のサイズとあまり変わらなかったから、朋子さんから譲ってもらって僕に着せているのだ。
僕が殺した人に人生があったというのを、忘れさせないために。
「そう……だったんだね……」
おいしいと思ったハンバーグの味が全くしなくなったのに、それでもぼそぼそと食べ続ける。
許されるはずがないというのが、日に日にわかってくる。
松田さんのことどれだけ好きになっても、絶対届くことがないことも。
それでも僕は、ここにいる。
もう、ここにいるしかない。
愛されないことがわかっていて、愛されるのを渇望して。
許されることがないのを知っていて、許されるように祈り続けて。
そうやって縛られ吊るされ宙ぶらりんのまま生きていく。
罪から逃げて罰から逃れようとした人間には、きっとそれがちょうどいい。
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