インターネット字書きマンの落書き帳
あのアレになる前の興家彰吾を考える
この人、また治安の悪い興家彰吾を書いてるッ!
という訳で。
パラノマ本所から伊勢の間にあった話として。
どこぞの新興宗教教祖みたいな人に、人の導き方をレクチャーされるタイプの興家彰吾です。
治安悪い興家くん好きかい?
俺もー!
という訳で。
パラノマ本所から伊勢の間にあった話として。
どこぞの新興宗教教祖みたいな人に、人の導き方をレクチャーされるタイプの興家彰吾です。
治安悪い興家くん好きかい?
俺もー!
『屠殺者と羊飼い』
窓から僅かに月光が差し込む。
興家彰吾はその光を、目を細くして見つめると、その場で大の字になって寝転んだ。
あぁ、苦労したのに得るものは少なかったな。
心の中でそうつぶやき、灰色の天井を見る。
室内はむせかえるほど、血のにおいが漂っていた。
こんなところで足踏みしている場合じゃないんだ。
探さなければいけない奴がいる。
警察や探偵など、現実的な対応では尻尾をつかむのは無理な相手だ。
裏の力がいる。
反社会的勢力のようなアウトローという人間だけではない。
オカルト、超能力、呪詛。
そういった眉唾物の噂話に紛れている、本物を探す手段が必要だ。
だからこそ、自ら率先して呪詛を扱い、わざと目立つように縄張りを荒らしていた。
そうすれば自分と同じような力をもつ連中が現れ、同じような能力者の伝手が得られると思ったからだ。
だが、全て徒労だった。
役に立つ情報はどこにもなく、こちらに協力的な相手とも出会えないまま、敵ばかりが増く。
もう少し上手く立ち回ればいいのだろうとも思うが、世間的には普通といえる家庭で育っている興家にとって、裏の作法は理解のできないものばかりだ。
話し合うことすらできず、突然狙ってくる手合いも多い。
興家がもつ、生来の暢気さや、真剣味の乏しい軽口もいけなかったのだろう。
少し話をするだけで、相手は激高し襲いかかってくる。
「おれより、弱いと思うから戦わないほうがいいよ」
なんて、つい本音を漏らすから、相手の神経を逆なでするようだ。
これでも自分なりに、丁寧に話しているつもりなのだが、うっかりでてしまう言葉はなかなか止められない。
「おっかしいなぁ。会社ではそれなりに人付き合いしてたし、仕事もちゃんとこなしてたと思ったんだけど。実はおれって、思ったより協調性なかったのかも」
興家は体を起こすと、あぐらをかいてため息をつく。
すると、暗闇のなか、もぞりと何かが動き出した。
「ふふ……さきほどから様子を見ておりましたが、これだけの人数を相手にしても臆することなく立ち向かい、息も切らさず独りごちるとは。巷では新手が誰それかまわず因縁をつけてくると評判でしたから、どんなむくつけき大男だろうと思ったのですが、存外に上品な姿形をしているのですね、驚きました」
そこに誰かがいるのはわかっていた。
だが、何もしてこないから様子をうかがっていたのだ。
現れたのは、年齢も性別も曖昧な人物だった。
まだ学生だといわれればその通りにも思えるし、不惑を過ぎているといわれても納得する。 男じゃないかと思ったのはスーツ姿だったからで、中性的な顔立ちとやや高めの声色は、男装した女性といわれても納得する。
「あんた、誰? ずっとこっちを見ていたみたいだけど。もしかして、観戦料払いに来てくれた?」
相手も興家のように特殊な力が使えるのなら、もっと警戒していただろう。
しかし、おおよそ呪詛やまじないを使えるようには見えない。
ひょっとしたら隠しているのかもしれないが、それにしても生まれ持っている霊力はあまりないように思えた。
それなのに、やけに裏の世界になれている。
好奇心から、興家はもうしばらく相手の様子をうかがうことにした。
すでにこちらから、呪詛の種は植え付けてある。
もし急に襲いかかったとしても、縄のようにかけた呪詛が一気に相手を縊るだろう。
「私は、このあたりに住んでいる一市民ですよ」
「ウッソだろ。フツーの奴がこんな景色見たら、叫んで逃げて警察でも呼んでるって」
興家のまわりには、幾人もの人間が倒れて動いてはいない。
別に殺したりはしていないが、それでもしばらく動けない程度には痛めつけてある。
抵抗が激しかった相手は、手加減できず少し深めの傷も負わせていたから、周囲にはちょっとした血だまりもできていた。
「あはぁ、その通りですね。いや、ですが一市民なのもその通りで。私は、あなたやここに倒れている人たちのような、特別な力を持ち合わせていませんよ」
それは、嘘じゃないだろう。
興家は少し見れば他人の霊力など概ねわかる。相手からは、普通よりほんの少しだけ霊力が高いだけに見えた。実際、興家が呪詛を植え付ける時も無防備だったのだから、そういった能力に疎いのだろう。
ただ、言葉や仕草はやけに落ち着き払っていて、このような状況を見るのも珍しくはないようだ。
「あー、あんたが誰かはどうでもいいや。何しにきたの? 珍しいから物見遊山?」
「そう、それもありますが――この周辺は、私どもの住まう場所に近いもので。最近、あなたはよくこの街を荒らし回っているでしょう? それが、私たちの手合いがしているのでは、と疑われておりまして。私はそんな恐ろしい能力は使えませんし。私の信徒も同じ、か弱き人々ですから。せめて、別の場所で暴れていただけないかと、交渉に参りました次第にございます」
興家は、近くにある施設を思い出す。
やけに大きな壁に阻まれ、傍目からすると病院にも似ているが、あれは宗教施設だったか。
オカルト事件がおこった近くに新興宗教の施設があれば、いらぬ疑いをかけられるのはあるのだろう。
「あ、そうなんだ。それはなんか、申し訳ない」
「いえいえ。ですが、そちらも困りごとがあるんでしょう。だからこんな無茶をなさっているのでは」
「困りごとっていうか――」
人捜しをしている。いや、実際に人でさえない相手を探しているのかもしれない。
相手を恨んでいるのか、そういったものも自分でもわからないのだが。
「――会いたい相手がいて、そいつが裏の人間だから。不可抗力ってやつかな」
「あはぁ、不可抗力で刈り取る根無し草の範囲が、少しばかり広すぎますよ。さて、会いたい方がいるのはわかりました。それが裏の存在なのも。でしたら、私からアドバイスがあります」
「いいね、聞いておこうか」
「――拝み屋にでもなりなさいな。著名になれば、情報をもっている連中が向こうからやってきますよ」
「あ、そ。拝み屋、ね」
興家は自嘲気味に笑う。
なぜなら興家は、もうそのような活動をはじめていたからだ。
顔出しをしないという霊媒師から名前を譲り受け、占いや霊媒のまねごとはしている。
だが客はほとんど来ておらず、思うように情報も集まらないから、夜の巡回ばかりしているのだが――。
「ふふ。拝み屋というのはねぇ、旦那さま。あまり難しいことを言わない方がいいんですよ」
相手は口元に手をあてると、喉をならすように笑う。
「助かります、救います、許します。なんていいながら、相手の愚痴を散々聞いて、最後にヨシヨシと、頭をなでたり肩を抱いて甘くささやけばいいんです。あなたは才能がありますから、来た相手が本当に呪われていたら、綺麗さっぱり払ってやる。呪われていなかったら、呪われてないから大丈夫とサッサと追い払っているのではありませんか」
うっ、と興家は息をのむ。
図星だ。
明らかに呪われている相手は、そのの呪詛を引き取って自分の力に変えている。
呪われてない相手は、気の迷いだからと淡泊にあしらう。
そんなところが、興家にはあった。
「誰でも飛び込んできた相手には、呪われていようが呪われていまいが、優しく振る舞ってやればいいんです。呪われていないなら、ちょっと呪いをつけて返して、やはり私の心配した通りになったと、素知らぬ顔で言ったあと、泣いて戻ってきた相手に呪詛払いでもしなさいな。呪ってほしいという手合いには、依頼人にも呪詛をつけてやり、またくるように仕向けなさい。あなたほどの実力ならば、すぐに人気となりますよ」
「うわ、ひどいねそれ。サイコー」
「あはぁ……元より他力で運命をどうこうしようという手合いは、羊と何らかわりません。あなたは優しい羊飼いだ。腹が減った羊にたんまりと餌をやり、そのまま野にはなっているより、羊を導く術を学びなさい。元より、裏とは、そのような摂理でできておりますから」
ふぅん、と興家は小さくうなる。
「では、これにて。有意義だと思いましたなら、もうこの街にはこないでくださいな」
「えぇ、そんな。せっかく知り合いになれたのに、さみしいなぁ」
「裏では、知り合いなんぞ増えない方がよいものですよ。では、ごきげんよう。もう会うことがないことを、祈っております。もしまた会うことがあるのなら、きっとその時は――」
私が、あなたに縊られる時でしょうから。
彼、あるいは彼女はどこか諦めた顔で笑うと、闇のなかへと消えていく。
「なるほどなー。じゃ、本気で霊媒師営業。やってみようかな」
興家は飛び跳ねて起きると、別の方向へ歩き出す。
もうすぐ夜は明けようとしていた。
窓から僅かに月光が差し込む。
興家彰吾はその光を、目を細くして見つめると、その場で大の字になって寝転んだ。
あぁ、苦労したのに得るものは少なかったな。
心の中でそうつぶやき、灰色の天井を見る。
室内はむせかえるほど、血のにおいが漂っていた。
こんなところで足踏みしている場合じゃないんだ。
探さなければいけない奴がいる。
警察や探偵など、現実的な対応では尻尾をつかむのは無理な相手だ。
裏の力がいる。
反社会的勢力のようなアウトローという人間だけではない。
オカルト、超能力、呪詛。
そういった眉唾物の噂話に紛れている、本物を探す手段が必要だ。
だからこそ、自ら率先して呪詛を扱い、わざと目立つように縄張りを荒らしていた。
そうすれば自分と同じような力をもつ連中が現れ、同じような能力者の伝手が得られると思ったからだ。
だが、全て徒労だった。
役に立つ情報はどこにもなく、こちらに協力的な相手とも出会えないまま、敵ばかりが増く。
もう少し上手く立ち回ればいいのだろうとも思うが、世間的には普通といえる家庭で育っている興家にとって、裏の作法は理解のできないものばかりだ。
話し合うことすらできず、突然狙ってくる手合いも多い。
興家がもつ、生来の暢気さや、真剣味の乏しい軽口もいけなかったのだろう。
少し話をするだけで、相手は激高し襲いかかってくる。
「おれより、弱いと思うから戦わないほうがいいよ」
なんて、つい本音を漏らすから、相手の神経を逆なでするようだ。
これでも自分なりに、丁寧に話しているつもりなのだが、うっかりでてしまう言葉はなかなか止められない。
「おっかしいなぁ。会社ではそれなりに人付き合いしてたし、仕事もちゃんとこなしてたと思ったんだけど。実はおれって、思ったより協調性なかったのかも」
興家は体を起こすと、あぐらをかいてため息をつく。
すると、暗闇のなか、もぞりと何かが動き出した。
「ふふ……さきほどから様子を見ておりましたが、これだけの人数を相手にしても臆することなく立ち向かい、息も切らさず独りごちるとは。巷では新手が誰それかまわず因縁をつけてくると評判でしたから、どんなむくつけき大男だろうと思ったのですが、存外に上品な姿形をしているのですね、驚きました」
そこに誰かがいるのはわかっていた。
だが、何もしてこないから様子をうかがっていたのだ。
現れたのは、年齢も性別も曖昧な人物だった。
まだ学生だといわれればその通りにも思えるし、不惑を過ぎているといわれても納得する。 男じゃないかと思ったのはスーツ姿だったからで、中性的な顔立ちとやや高めの声色は、男装した女性といわれても納得する。
「あんた、誰? ずっとこっちを見ていたみたいだけど。もしかして、観戦料払いに来てくれた?」
相手も興家のように特殊な力が使えるのなら、もっと警戒していただろう。
しかし、おおよそ呪詛やまじないを使えるようには見えない。
ひょっとしたら隠しているのかもしれないが、それにしても生まれ持っている霊力はあまりないように思えた。
それなのに、やけに裏の世界になれている。
好奇心から、興家はもうしばらく相手の様子をうかがうことにした。
すでにこちらから、呪詛の種は植え付けてある。
もし急に襲いかかったとしても、縄のようにかけた呪詛が一気に相手を縊るだろう。
「私は、このあたりに住んでいる一市民ですよ」
「ウッソだろ。フツーの奴がこんな景色見たら、叫んで逃げて警察でも呼んでるって」
興家のまわりには、幾人もの人間が倒れて動いてはいない。
別に殺したりはしていないが、それでもしばらく動けない程度には痛めつけてある。
抵抗が激しかった相手は、手加減できず少し深めの傷も負わせていたから、周囲にはちょっとした血だまりもできていた。
「あはぁ、その通りですね。いや、ですが一市民なのもその通りで。私は、あなたやここに倒れている人たちのような、特別な力を持ち合わせていませんよ」
それは、嘘じゃないだろう。
興家は少し見れば他人の霊力など概ねわかる。相手からは、普通よりほんの少しだけ霊力が高いだけに見えた。実際、興家が呪詛を植え付ける時も無防備だったのだから、そういった能力に疎いのだろう。
ただ、言葉や仕草はやけに落ち着き払っていて、このような状況を見るのも珍しくはないようだ。
「あー、あんたが誰かはどうでもいいや。何しにきたの? 珍しいから物見遊山?」
「そう、それもありますが――この周辺は、私どもの住まう場所に近いもので。最近、あなたはよくこの街を荒らし回っているでしょう? それが、私たちの手合いがしているのでは、と疑われておりまして。私はそんな恐ろしい能力は使えませんし。私の信徒も同じ、か弱き人々ですから。せめて、別の場所で暴れていただけないかと、交渉に参りました次第にございます」
興家は、近くにある施設を思い出す。
やけに大きな壁に阻まれ、傍目からすると病院にも似ているが、あれは宗教施設だったか。
オカルト事件がおこった近くに新興宗教の施設があれば、いらぬ疑いをかけられるのはあるのだろう。
「あ、そうなんだ。それはなんか、申し訳ない」
「いえいえ。ですが、そちらも困りごとがあるんでしょう。だからこんな無茶をなさっているのでは」
「困りごとっていうか――」
人捜しをしている。いや、実際に人でさえない相手を探しているのかもしれない。
相手を恨んでいるのか、そういったものも自分でもわからないのだが。
「――会いたい相手がいて、そいつが裏の人間だから。不可抗力ってやつかな」
「あはぁ、不可抗力で刈り取る根無し草の範囲が、少しばかり広すぎますよ。さて、会いたい方がいるのはわかりました。それが裏の存在なのも。でしたら、私からアドバイスがあります」
「いいね、聞いておこうか」
「――拝み屋にでもなりなさいな。著名になれば、情報をもっている連中が向こうからやってきますよ」
「あ、そ。拝み屋、ね」
興家は自嘲気味に笑う。
なぜなら興家は、もうそのような活動をはじめていたからだ。
顔出しをしないという霊媒師から名前を譲り受け、占いや霊媒のまねごとはしている。
だが客はほとんど来ておらず、思うように情報も集まらないから、夜の巡回ばかりしているのだが――。
「ふふ。拝み屋というのはねぇ、旦那さま。あまり難しいことを言わない方がいいんですよ」
相手は口元に手をあてると、喉をならすように笑う。
「助かります、救います、許します。なんていいながら、相手の愚痴を散々聞いて、最後にヨシヨシと、頭をなでたり肩を抱いて甘くささやけばいいんです。あなたは才能がありますから、来た相手が本当に呪われていたら、綺麗さっぱり払ってやる。呪われていなかったら、呪われてないから大丈夫とサッサと追い払っているのではありませんか」
うっ、と興家は息をのむ。
図星だ。
明らかに呪われている相手は、そのの呪詛を引き取って自分の力に変えている。
呪われてない相手は、気の迷いだからと淡泊にあしらう。
そんなところが、興家にはあった。
「誰でも飛び込んできた相手には、呪われていようが呪われていまいが、優しく振る舞ってやればいいんです。呪われていないなら、ちょっと呪いをつけて返して、やはり私の心配した通りになったと、素知らぬ顔で言ったあと、泣いて戻ってきた相手に呪詛払いでもしなさいな。呪ってほしいという手合いには、依頼人にも呪詛をつけてやり、またくるように仕向けなさい。あなたほどの実力ならば、すぐに人気となりますよ」
「うわ、ひどいねそれ。サイコー」
「あはぁ……元より他力で運命をどうこうしようという手合いは、羊と何らかわりません。あなたは優しい羊飼いだ。腹が減った羊にたんまりと餌をやり、そのまま野にはなっているより、羊を導く術を学びなさい。元より、裏とは、そのような摂理でできておりますから」
ふぅん、と興家は小さくうなる。
「では、これにて。有意義だと思いましたなら、もうこの街にはこないでくださいな」
「えぇ、そんな。せっかく知り合いになれたのに、さみしいなぁ」
「裏では、知り合いなんぞ増えない方がよいものですよ。では、ごきげんよう。もう会うことがないことを、祈っております。もしまた会うことがあるのなら、きっとその時は――」
私が、あなたに縊られる時でしょうから。
彼、あるいは彼女はどこか諦めた顔で笑うと、闇のなかへと消えていく。
「なるほどなー。じゃ、本気で霊媒師営業。やってみようかな」
興家は飛び跳ねて起きると、別の方向へ歩き出す。
もうすぐ夜は明けようとしていた。
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