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インターネット字書きマンの落書き帳

   
袖山くんには敵わない
荒井フレンズは基本的に仲良しだといいよね。
だけど赤川くんと荒井は頻繁に喧嘩をしてそうだよね。
そんな二人の間を、袖山くんはいつもオロオロしながら眺めているんだろうね。

でも、二人とも袖山くんのこと好きだから袖山くんに怒られてたら喧嘩やめちゃうといいよね。
そんなことを考えて書きました。

実は最強(?)の袖山くんという概念です。
袖山くん可愛がられコンテンツですよ。



『袖山くんには敵わない』

 荒井は殆どの友人と波風たてず付き合っており、友人に対しては敬意も尊重も示して接してはいたが、どうにも赤川とだけは意見があわず衝突することもしばしばあった。

「もういい、荒井くんとは絶交だ! 二度と話しかけないでくれ」
「こちらこそ喜んで。赤川くんこそ、そう言った限りは僕とかかわらないでください」

 最終的にお互い吐き捨てるように言ってそっぽを向いたことも、一度や二度ではないだろう。
 口げんかの理由なんていつも些末なことだ。時田とも映画に対して意見が割れることもあるが、時田の場合は「まぁ、それも映画だよね」と何でも受け入れてしまうので喧嘩になることはないが、赤川はまず折れることがない。だから荒井もつい力が入ってしまい、激しい口論になってしまうのだ。
 喧嘩のきっかけなど、大雑把に例えるならばハンバーグのピクルス抜きが好みか好みではないか、その程度のものなので喧嘩するほどの話ではないというのは荒井も充分わかっているのだが、それでもお互いゲーム好きではあるから譲れない所がどうしてもある。
 その結果、エキサイトしすぎて絶交騒ぎになるのだからつまるところ荒井も赤川も子供っぽくて頑固な性格なのだろう。

「け、喧嘩はだめだよ二人とも。はやく仲直りしてね」

 そして、二人が喧嘩をすると袖山はいつでもオロオロしながら二人を見ているのだった。
 袖山は荒井と同じサッカー部に入っていたこともあり、それからずっと親しい友人として接してくれてきた。また、赤川のことも夏に同じ場所で一ヶ月近くもバイトをした経験から良く知っており、仲の良い荒井と赤川が仲違いするのは袖山にとって深く悲しいことなのだろう。

「まったく、赤川くんって子供みたいな所あるよね……」

 怒り半分、呆れ半分の荒井の言葉に、袖山はいつも困ったような笑顔を向けていた。

「うん、赤川くんは子供みたいな人だよ。だからすぐに癇癪を起こしたり、視野が狭くなっちゃうところがあるけど、荒井くんのことは本当に友達だと思っていると思うんだ。赤川くん、荒井くんの話をするとき、とっても楽しそうだから……早く仲直りできるといいね」

 荒井の愚痴を、袖山はいつもそうやってなだめながら聞いていた。最後の言葉は本心からの思いだろう。袖山はいつでも、友人たちが仲良くしている姿を見るのが好きなのだから。

「荒井くんは結構、そういうところあるんだよね。頑固というか、意固地というか……キミはそう思わないかい?」

 長いため息をつきながら吐き捨てるように言う赤川に、袖山はいつも寂しそうな笑顔を向けていた。

「荒井くんだって本意ではないと思うよ。つい、出てしまった言葉を引っ込められない時ってあると思うから……本当は怒ったままでなんていたくないと思うんだ。だから、早く仲直りしてね」

 袖山はいつも喧嘩中の愚痴を、荒井と赤川両方から聞いていた。
 早く仲直りしてほしい、という言葉はいつも祈るような気持ちで告げていたことだろう。
 喧嘩中の二人は激しい口論のあと、しばらくお互いに口も聞かない期間に入る。だが、二人の喧嘩はいつだってどちらが謝る訳でもなく気付いたら元通りの関係に戻っているのだ。

「見てくれよ荒井くん、珍しいゲームを手に入れたんだけどさ」

 大概は赤川が、荒井くらいしか興味を持たないレトロゲームやレアな作品を持ってきて話しかるのがいつも通りの二人にもどるきっかけになる。

「何ですか、僕と絶交したんじゃないんですか」

 呆れながらもそれに興味を抱いた荒井が、結局どちらも謝らないまま、喧嘩のこともなぁなぁになって元通りの二人に戻るというのがルーティーンのようになっていたから、二人がまた話すようになると袖山もやっと落ち着いて、二人の会話に加われるようになるのだ。
 荒井のことも赤川の事も同じくらい大切で、同じくらいに仲の良い袖山にとって二人の喧嘩は一大事だった。だからいつも早く仲直りが出来るよう、お互いの話を聞いたり、二人に行き違いや間違いがないかと気を揉んで色々なメッセージを送ったりして、早く仲直りするよう懸命な根回しをしているからこそ、二人も自然と話しやすい雰囲気になっていくのだろう。
 そんな経緯があったからだろう。
 久しぶりにひどい言い合いをする荒井と赤川の間に真っ先に割って入ったのは、袖山だった。

「やめてよ二人とも! 僕の大好きな人たちが喧嘩するところ、もうみたくないよ」

 珍しく大きな声をあげる袖山に、荒井と赤川だけではなくクラスメイトたちが驚いた顔を向ける。普段から笑顔で大人しい袖山が大きな声をあげることなど滅多にないからだ。

「僕は荒井くんのこと、優しくて頭がよくて好きだよ。赤川くんだって、いつも僕には親切にしてくれるし、ゲームのことも勉強もいろいろ教えてくれるよね。二人とも大事な人なのに、二人が喧嘩をすると僕の大好きな人たちを、お互い悪く言うようになるんだ。僕、それを聞くのずっとずっと辛かったんだよ。だからもう、喧嘩しないで。僕は、荒井くんのことをひどく言う赤川くんも、赤川くんに辛辣な荒井くんも、もう見たくないよ」

 そう言い終わった後、袖山はその場に蹲る。
 普段、人前で感情を出すことがない袖山だから自分の感情が抑えられなかったことにショックを受けて泣いているのだろうか。あるいは極度の緊張に晒されると呼吸困難になる体質を持つのだ、発作のように呼吸が詰まってしまったのかもしれない。

「ごめん、袖山くん」
「袖山くん大丈夫かい。僕らが悪かったから、もう喧嘩しないから」

 あわてて二人は袖山に駆け寄れる。
 袖山にとって荒井も赤川も大切な友人であるように、荒井にとっても赤川にとっても袖山は大切な友人なのだ。この鳴神学園では殆ど貴重といってもいい程に素直で純朴で、誰に対しても温かな彼の性格は、周囲の人間を幸せにしていたのだから。
 もう喧嘩をしない。
 その言葉が聞けたのが本当に嬉しかったのか、袖山は大粒の涙をこぼしながら

「本当に? ……良かったぁ」

 苦しそうな呼吸を必死でおさえながら、精一杯の笑顔を向ける。
 どんな喧嘩をしても、きっと袖山には叶わないだろう。
 荒井も赤川も、袖山を泣かせたくは無いと強く願っているのだから。

「ごめんね、袖山くん大丈夫かい?」
「うん、大丈夫……心配かけてごめんね、荒井くんも、赤川くんも……」
「無理しないでちゃんと休んで、少し保健室に行こうか。呼吸、辛いだろ?」
「ふふ、二人とも優しいね。やっぱり、僕の大好きな友達だよ」

 荒井と赤川は袖山の身体を支え保健室に向かいながら、互い顔を見合わせ笑う。

「袖山くんを悲しませたくはないですから、今は許してあげますよ」
「僕だって同じさ、袖山くんが苦しい思いをさせるのは本意じゃないからね」

 その笑顔の中にはそんな語られない言葉が混じっていた。
 それから、荒井と赤川が派手な喧嘩を表向きに見せなくなったということは、ここで語るまでもないことだろう。

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