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インターネット字書きマンの落書き帳

   
1年前のバレンタイン(新堂×荒井/BL)
平和な世界線で付き合ってる新堂×荒井の話をします。(幻覚を兼ねた挨拶)

1年前、誰かからチョコレートをもらった記憶があるなぁ。
そんな思い出をぼんやりと振り返る新堂の話ですよ。

新堂×荒井のこと好きかい?
別に好きになってくれなくてもいい、その可能性が少しでも「アリだな」と思ってくれればそれでいいんだ……。

それって限りなく「好きになれ」って言ってません?
はい。

新堂×荒井のこと今日から好きになろうぜ!
人生が一段と豊かになるかもしれねぇぞ!

ちなみにバレンタインのネタを書いてますが、今日は23日です。
ホワイトデーがくるまでバレンタインでいいだろ……。



『一年前のバレンタイン』

 昼休み、教室を出た新堂はひとけの少ない場所を求め気付いたら屋上に出ていた。
 鳴神学園は屋上を開放しているが、飛び降り自殺した霊やイジメで死んだ生徒の噂などが絶えないためいつでも生徒は少ない。真冬の曇り空であれば尚更である。新堂はようやく人心地つくと、ポケットから板チョコを取り出しながらそういえば、ちょうど一年前にも同じように屋上に出て一人でチョコレートを囓っていたのを思い出していた。

 あれはそう、一年前のバレンタインデーの話だ。
 バレンタインなんてチョコレート屋の陰謀だと皮肉を言う奴がいても、その日に思いを託しチョコレートを渡したい奴がいるのは変わりない。今日は誰にチョコレートを渡そうか、誰からもらえるのだろうかと浮ついた生徒たちの雰囲気に辟易した新堂は早めに昼食を終えるとすぐさま屋上へと出向いていた。
 新堂も思春期のいち男子高校生ではあるから誰かからチョコレートをもらえれば嬉しいとは思っていたが、一年の頃は西澤仁志の友達だという事で「西澤に渡して欲しい」といったチョコレートを10個以上託され西澤のポスト代わりになった苦い経験もあって、どうにもあの浮ついた雰囲気には馴染めないでいた。
 それに新堂は色恋沙汰の話もあまり得意ではなかったのだ。恋人同士の甘いムードに憧れはあるものの、自分がその身になったと考えただけで気恥ずかしくなるし、恋愛を意識した相手にはB何を語っていいのかもよくわからない。それに、今になってようやくボクシングが面白くなってきたところなのだ。今、本気で好きだと言われてもボクシングの練習と恋人と過ごす時間をどちらも捻出するのは難しいだろうし、練習での焦りは苛立ちを隠さず立ち回れる自信も無い。だから甘ったるい匂いがする教室からいち早く抜け出して、一人でいる事を選んだのだ。
 屋上に吹く冷たい風は、教室に立ちこめた恋愛ムードも全部打ち払ってくれるように心地よく、ポケットから自分で買った板チョコを取り出した。手作りでもなければ高級でもない一年中売っている板チョコをかじると、屋上のフェンスごしに外を見る。二年の教室棟は一年と三年の教室棟に挟まれていて殆ど景色など見えなかった。

「どうやら先客がいたようですね」

 チョコレートをもう一かけ口にした時、誰かがそう声をあげる。見れば線の細い少年が屋上入り口に立っていた。
 上履きの色を見る限り、一年生のようだが二年生の教室棟、その屋上まで何の用だろう。そう思いながら顔をあげれば、一年の教室棟はこちらより人で賑わっている。初めての高校生活で、屋上にいってチョコレートを渡す生徒も少なくはないのだろう。

「何だテメェ、一年がわざわざ何しにきたんだよ」

 新堂は食べかけのチョコレートをポケットにねじ込むと現れた少年の方を向く。せっかく一人落ち着ける場所を見つけたのだから他の誰かに立ち入って欲しくはなかったのだが、その一年は睨み付ける新堂に臆する様子もなく彼の隣へと立った。

「僕がここにいる理由も、おそらく貴方と同じですよ。チョコレートのやりとりをする恋愛ムードの教室が息苦しくなりましてね。それで、屋上に逃げようと思ったら一年の教室棟は屋上まで生徒がいるものですから、こちらまで逃げてきたというワケです。一年の屋上から、こちらに人がいないのは見えてましたからね」

 少年は僅かに上を向く。どんよりとした曇り空の下、吐く息は白く漂っていた。
 青白い肌に長い睫毛をもつ横顔は中性的で、同世代の少年と比べても小柄だったのもあり、制服が男子のものでなければ女子生徒と勘違いしていただろう。
 少年はしばらく新堂と並んで外を見ていたが、ふと思い出したように手にした包み紙を新堂へと向けた。

「これ、良かったらどうぞ。食べてくれませんか」

 綺麗にラッピングされたチョコレートだ。明らかにプレゼント用で、そこそこ値段のするものだろう。恐らくこの少年が誰かから託されたチョコレートだ。それを他人に渡そうとするなど、どういう神経をしているのだろう。
 新堂は訝しげに少年を睨めつけた。

「何で俺になんだよ、それ。お前がもらったんだろう?」
「はい。ですけど、僕は甘い物がそれほど好きではないんですよ。受け取るつもりもなかったんですが無理矢理渡されたんで、処分に困っていたんです。貴方は甘いもの、お好きですよね」

 さっきまでチョコレートをかじっていたのを見られていたのか。強面の不良という見た目から甘いものばかり食べていると茶化されるのが面倒で人前ではあまり甘い物を食べないように気をつけていたのだが。

「受け取ってください、貴方が受け取らなければゴミ箱に行くんです。勿体ないでしょう?」
「俺がもらっても、喰わねぇで捨てるかもしれねェだろ」
「そんな事はしませんよ。僕は他人が思いを込めたチョコレートでも平気で捨てるような嫌な奴ですけど……あなたは、いい人ですから」

 微かに笑う少年の妖しい笑みに誘われるようチョコレートを受け取れば、少年は「良かった」と小声でつぶやき屋上から姿を消した。
 あのチョコレートは結局どうしただろうか。捨てた覚えはない。家に帰って親が「女の子から貰ったのか」と随分色めき立っていたから家に持って帰ったのは間違いないと思うが、自分で食べたか親が食べてしまったかはたしてどうだったろう。
 全ての記憶は曖昧だが、今になってはっきり思い出した事がある。

「新堂さん、こんな所にいたんですか。一人でいるなら、少し僕に付き合ってください」

 屋上で一人、チョコレートをかじっていた新堂に現在の荒井が声をかける。
 梅雨時に開かれた七不思議の集会で荒井の姿を見た時、どこかで会ったような既視感を覚えたが、あの時、チョコレートを渡したのがきっと荒井だったのだろう。
 ほんの一時話しただけだったからあの時の姿は曖昧だが、細身の容姿も青白い肌も長い睫毛もどこか中性的な人形を思わす容姿も今の荒井と姿が被る。特徴が一つ二つ同じだけだったら似た別人だと思うだろうが、ここまで幾つも重なっていたらきっとあれは荒井だったのだろう。
 だが荒井はそれを言わないし、触れようともしない。荒井自身が忘れてしまっているのか、それとも秘めたい思い出なのだろうか。

「どうしました、新堂さん?」

 返事もせず荒井を見つめる新堂を奇妙に思ったのだろう。そばにより顔をのぞき込む荒井に、新堂は静かに首をふった。

「いや、何でもねぇ。行くか」

 そう告げ、新堂は荒井と並んで歩く。
 あの時チョコレートをくれたのはお前なのか。他人からもらったものと言っていたが、本当は自分で準備したものじゃないのか。どうして言わないんだ、忘れていたのか。それとも、俺が聞くまで黙っているつもりだったのか。
 聞きたい事はあったが、今はまだ何も言わない事にした。
 もう少しだけ、あの時の思い出を自分だけの秘密として留めておきたい。そんな風に思ったものだから。

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