インターネット字書きマンの落書き帳
子猫を拾った新堂さん
2月22日は猫の日なので!
子猫を拾ってくる新堂さんの話を書きました。
新堂さんとかわいい子猫。
日野と坂上、白井なんかが出ます。
かわいい子猫がちょっと過激な姿をしているのでお気をつけください。
子猫を拾ってくる新堂さんの話を書きました。
新堂さんとかわいい子猫。
日野と坂上、白井なんかが出ます。
かわいい子猫がちょっと過激な姿をしているのでお気をつけください。
『子猫という概念』
新堂から「子猫を拾ったんだが、誰か飼えるやつ知らないか?」とメッセージが飛んできたのが朝のホームルーム前。「新堂が拾った猫、ひとまず新聞部の部室で預かっている」というメッセージが日野から来たのは昼休みだった。
自分の家にはすでにポヘという名のパグを飼っているから猫を飼う予定はなかったが、ペットを飼う身としては捨てられていた子猫がどんな猫なのかは気になる。ポヘは老犬だし、今から猫を飼ったとしても穏やかなポヘなら受け入れられるだろう。
飼う予定はないが、両親さえ良いと言えば自分が引き取ってもいいかもしれない。そんな思いを抱いて新聞部の部室に入った坂上を待っていたのは、タールのように黒く、子猫というには大きすぎ、一個の球体を思わす丸みに頭部と思しき場所には複数の触手が蠢いて、僅かに空中に浮き、一つの巨大な目をぎょろりと動かしては周囲の様子をうかがう、猫ではない何かだった。
「な、何ですかこれぇ!?」
驚く坂上の横で、新堂と日野は椅子に座ったままさして驚きもせず謎の黒い球体へ目をやった。
「そりゃ、猫ちゃんだろ」
「あぁ、犬には見えないから猫だろうな」
そして二人は向き直り、誰か猫を引き取ってくれる人はいないかと相談を始める。
まさか、新堂と日野にはこの仔牛ほどはありそうな黒い球体が本当に可愛らしい子猫に見えていて、自分だけが不気味な触手のついた黒い球体に見えるのだろうか。坂上は一抹の不安を覚えながら子猫と呼ばれている何かに目を向ける。一つ目だと思っていたが、頭部(?)と思しき場所についた触手の先端は全て目玉がついていた。
「えぇ、こ、これ、子猫なんですか……ず、随分大きい子猫ですね……生後何ヶ月くらいかなぁ……」
一応、当たり障りのない事を聞いてみる。これは、自分は子猫に見えていないのだが、新堂と日野には子猫に見えている可能性を考えて確認の意味をこめての質問でもある。
「確かにデカイな、仔牛くらいありそうだ。子猫ってこんなにデカくなるんだな」
すると新堂は、頷きながら子猫(?)を見る。どうやら新堂もこの子猫(?)が仔牛ほどある巨大な黒い球体に見えているのは確かなようだった。
「え、えぇと……でも、珍しい姿をした猫ですよね。ほ、本当に猫かな……疑うワケじゃないんですけど、僕の知り合いに猫だと思って拾ったら実はタヌキだった人がいて……」
そんな人はいないのだが、とりあえずこれが猫だという認識は間違っている気がする。少なくとも、坂上の知る猫の種類に空中を浮遊し球体で中央に一つ目をもつ猫は存在しない。
「いや、多分猫だぜ。だってこいつ、猫のカリカリを食うし。猫の缶詰も食べるし、ちゅーるも好きみたいだから」
それでも新堂は頑なに、そのナニカを猫を呼び続けた。
「それに、ほら。撫でるとゴロゴロ言うんだぜ。これ、猫が喜んでいる音だよな」
新堂は席を立つと、猫と言い張るナニカを撫で繰り回す。すると確かに球体のどこかがゴロゴロと音をたてはじめた。坂上は猫を飼った事がないから猫が撫でたり喜んだりしている時には喉をゴロゴロ鳴らすというのは話しに聞いている。だが、この球体のゴロゴロは明らかに頭部に蠢く触手だったし、触手の周りに稲光が発生しているのも見えるから、これは猫のゴロゴロより雷鳴のゴロゴロに近い気がした。
「あっ、もういいです新堂さん! あんまり撫でると猫も機嫌が悪くなっちゃいますから!」
このままでは新聞部に雷が発生するかもしれない。慌てて新堂を止めれば、新堂は特に抵抗することもなく椅子に座ると誰か飼い主がいないかという話題に戻っていく。坂上は、何で猫という言葉に釣られてきてしまったのだろうと半ば後悔しながら部室の片隅に荷物を置いた。
それにしても、本当にこの生物は何なのだろうか。そもそも生物なのかもわからない。新堂が触っても腕が爆ぜるとか腐り落ちるといった異常な事はおこらなかったから即効性のウイルスなどはもっていないのだろう。ぎょろりとした一つ目は坂上の姿を伺いながら僅かに宙を浮いている。こっちを見ているが、撫でて欲しいのだろうか。
新堂が当然のように触っていたから触っても大丈夫そうだ。見た目は完全に化け物だが、すぐさまこちらに危害をくわえる様子もない。それほど危険な生き物ではないのだと思うと、どんな感触なのかと好奇心がムクムク肥大していく。
ちょっとだけなら……。坂上は唾を飲み込むと、恐る恐る子猫(?)に触れてみた。
綺麗に磨かれた黒曜石のような光沢を放っている表面に毛はないが、思ったより手触りはざらついている。少し強く押せば中に骨の感触はなく肉の弾力でおしかえされた。触っている最中、大きな一つ目がずっとこっちを見ているのは威圧感があるが向こうもこちらを観察しているようで何ら動こうとはしない。坂上は何となく、小さいころ遊んだゲームにこんな姿をしたモンスターがいたのを思い出した。
「なんか、この生き物、猫というよりもビホル……」
「ダメだ坂上、それ以上はいけない」
途中まで言いかける坂上の口を慌てて日野が手で塞ぐ。
「いいか、坂上。ビホ……ダーとは一般的に使われる言葉でもあるんだが、球体で目玉があり少し浮いている触手などもついたのあの形状の存在をビホルなんとかと呼ぶと著作権上の問題があって色々と面倒くさいんだ。一般的な名称ではあるが、あのような異形のクリーチャーをそう呼ぶようになったのはD&Dというゲームが起源でありビ……ルダーの設定はD&D内で初めて創作された著作物なんだよ。だから、アレをその名前で呼んではいけない。これは不文律というものだ、覚えておいてくれ」
「えっ、そうだったんですか……知りませんでした」
「バグベアードとか、イービルアイとか、ゲイザー、鈴木土下座エ門となら呼んでいいからな」
よくわからない大人の事情をとうとうと語られたが、何だかとても危険な事をしそうだったことはハッキリと理解した。
ここでこの猫のようなものに仕留められるより危険なのは間違いないだろう。
「わかりました、とりあえず子猫なんですよね。僕も子猫だと思います」
しかし、これを飼ってくれる人は果たしているのだろうか。子猫というにはあまりにも大きすぎる。キャットフードを食べるといっていたが、一回の食事量はどれくらいだろう。ヘタをしなくとも人間丸呑みしかねない大きさだ。
「とりあえず、栗原とか袖山が見に来たいって言ってたんだけど、あいつらまだ来ないんだよなぁ。俺の家、親がアレルギーあってな。それさえなければ俺ん家で飼ってたんだけどなぁ」
それさえなければ飼っていたのか。坂上は少し離れた場所に住む新堂の両親に思いを馳せた。良かったですね、アレルギーがあって……。
「栗原は墨田に足止めしてもらってる。袖山も荒井が足止めしてるから、今日ここに来る事はないだろう」
日野はそっと坂上へ耳打ちする。どうやら日野も別にこれが子猫に見えているワケではないようだ。
坂上はほっと胸をなで下ろす。栗原の方はまだしも、袖山はこれを見た瞬間気絶してしまうだろう。
「でも、どうするんですか。これ……飼ってくれる人いるんです?」
「それは心配するな、もう手配している……」
と、そこで新聞部のドアが開き白髪の男が室内に入ってくる。髪の毛がすべて真っ白なので実年齢はわからないが、顔立ちは若くも老年にも見えるような男だ。白衣を着ている事から、坂上はまだ授業を受けた事はないが白髪鬼と呼ばれている理系全般を担当する教師、白井に違いない。
白井は一目みて感嘆の声を漏らすと、嬉しそうに新堂へ歩み寄った。
「新堂、今回も素晴らしく愛らしい子猫を見つけてくれたようだね」
「白井……なんだ、あんたがコイツ飼ってくれるのか?」
「あぁ、是非とも私が育てよう。むしろ、このように愛らしく特殊な品種の子猫は私くらいしか飼える環境をもっていないと思うよ。いやぁ、日野。よく私に声をかけてくれた」
次いで白井は日野にも握手をする。
白髪鬼はあらゆる生体実験をしているとか、学園内に秘密の研究室を作っていると噂されている教師だ。この生物の飼い方を知っていても不思議はない。
「こいつ、ただの子猫だと思ってたけどそんな設備が必用な猫だったんだな」
新堂は腕組みをして猫と言い張っているナニカを見る。坂上は、むしろ設備があえれば飼育できる存在なのかという方が気になった。白井が引き取るならきっと学校で飼うんだろう。逃げ出した時、今より肥大したナニカになってなければいいが。
「ともかく、これは私が引き取らせてもらうよ」
「大事にしてくれるんだろうな。俺が拾ったから、一応ちゃんと責任もって育てて欲しいんだけどよ」
「心配するな、私じゃなければ飼い慣らせないさ。それに、新堂。以前お前が拾ってきた文鳥も、今も元気だぞ。今度ぜひ見にきたまえよ」
「そっか、文鳥も元気か。なら、よろしく頼むぜ」
「まかせておけ。ほら、いくぞ子猫」
白井が子猫を呼ぶと、子猫は全てを察したように白井の後をついていく。あれだけの巨体がどうやってドアを抜けるのかと不安だったが、ドアをくぐるときまるで液体のように身体がたゆんで出ていったから、猫は液体というし広い意味では猫だったのかもしれない。
「何とか飼い主も決まったみたいだし、俺は他の連中に報告しておくわ。悪いな日野、子猫に部室を貸してくれて」
「いや、気にするな」
新堂はそれを見て安心したように部室を出る。
完全に新堂の姿が見えなくなったのを確認してから、坂上は日野の方を見た。
「日野さん、新堂さんって……」
「あいつ、動物好きでよく捨てられてる動物を拾ってくるんだけどな。なんか一回も拾ってきた動物が、動物だった事がないんだよ」
それは、いつもあぁいう生き物のような何かを拾ってくるという事だろうか。
「前の文鳥も胸の部分に口がついてたしし、前の子犬も全身が粘膜に覆われてたし、グッピーは内臓が丸見えだったし……」
「何ですかそれ、何なんですか新堂さん!?」
「わからないんだが、何故かいつも新堂に大人しくついてくるんだよな。あいつ、霊感が強いのか。ひょっとしたら魔物使いの才能とかあるのかもしれないな。うん……一応子猫の写真を撮ったけど、これ新聞に載せられると思うか?」
日野はデジカメの写真を向ける。巨大な身体に浮遊した目、どう見ても猫には見えない。そもそも生き物であるかも疑わしい、前衛的なオブジェに見える。
「インチキにしては本格的すぎますよ、生徒の正気が削れちゃったら困りますからやめておきましょう」
「そうだな。いつもすごいスクープだと思うんだが、使えないなら意味ないか」
そういいながら日野はデジカメの写真を消す。
坂上はその姿を見ながら、きっとこうして密かに消された怪異がここには沢山あるのだろうな等と、ぼんやり考えていた。
新堂から「子猫を拾ったんだが、誰か飼えるやつ知らないか?」とメッセージが飛んできたのが朝のホームルーム前。「新堂が拾った猫、ひとまず新聞部の部室で預かっている」というメッセージが日野から来たのは昼休みだった。
自分の家にはすでにポヘという名のパグを飼っているから猫を飼う予定はなかったが、ペットを飼う身としては捨てられていた子猫がどんな猫なのかは気になる。ポヘは老犬だし、今から猫を飼ったとしても穏やかなポヘなら受け入れられるだろう。
飼う予定はないが、両親さえ良いと言えば自分が引き取ってもいいかもしれない。そんな思いを抱いて新聞部の部室に入った坂上を待っていたのは、タールのように黒く、子猫というには大きすぎ、一個の球体を思わす丸みに頭部と思しき場所には複数の触手が蠢いて、僅かに空中に浮き、一つの巨大な目をぎょろりと動かしては周囲の様子をうかがう、猫ではない何かだった。
「な、何ですかこれぇ!?」
驚く坂上の横で、新堂と日野は椅子に座ったままさして驚きもせず謎の黒い球体へ目をやった。
「そりゃ、猫ちゃんだろ」
「あぁ、犬には見えないから猫だろうな」
そして二人は向き直り、誰か猫を引き取ってくれる人はいないかと相談を始める。
まさか、新堂と日野にはこの仔牛ほどはありそうな黒い球体が本当に可愛らしい子猫に見えていて、自分だけが不気味な触手のついた黒い球体に見えるのだろうか。坂上は一抹の不安を覚えながら子猫と呼ばれている何かに目を向ける。一つ目だと思っていたが、頭部(?)と思しき場所についた触手の先端は全て目玉がついていた。
「えぇ、こ、これ、子猫なんですか……ず、随分大きい子猫ですね……生後何ヶ月くらいかなぁ……」
一応、当たり障りのない事を聞いてみる。これは、自分は子猫に見えていないのだが、新堂と日野には子猫に見えている可能性を考えて確認の意味をこめての質問でもある。
「確かにデカイな、仔牛くらいありそうだ。子猫ってこんなにデカくなるんだな」
すると新堂は、頷きながら子猫(?)を見る。どうやら新堂もこの子猫(?)が仔牛ほどある巨大な黒い球体に見えているのは確かなようだった。
「え、えぇと……でも、珍しい姿をした猫ですよね。ほ、本当に猫かな……疑うワケじゃないんですけど、僕の知り合いに猫だと思って拾ったら実はタヌキだった人がいて……」
そんな人はいないのだが、とりあえずこれが猫だという認識は間違っている気がする。少なくとも、坂上の知る猫の種類に空中を浮遊し球体で中央に一つ目をもつ猫は存在しない。
「いや、多分猫だぜ。だってこいつ、猫のカリカリを食うし。猫の缶詰も食べるし、ちゅーるも好きみたいだから」
それでも新堂は頑なに、そのナニカを猫を呼び続けた。
「それに、ほら。撫でるとゴロゴロ言うんだぜ。これ、猫が喜んでいる音だよな」
新堂は席を立つと、猫と言い張るナニカを撫で繰り回す。すると確かに球体のどこかがゴロゴロと音をたてはじめた。坂上は猫を飼った事がないから猫が撫でたり喜んだりしている時には喉をゴロゴロ鳴らすというのは話しに聞いている。だが、この球体のゴロゴロは明らかに頭部に蠢く触手だったし、触手の周りに稲光が発生しているのも見えるから、これは猫のゴロゴロより雷鳴のゴロゴロに近い気がした。
「あっ、もういいです新堂さん! あんまり撫でると猫も機嫌が悪くなっちゃいますから!」
このままでは新聞部に雷が発生するかもしれない。慌てて新堂を止めれば、新堂は特に抵抗することもなく椅子に座ると誰か飼い主がいないかという話題に戻っていく。坂上は、何で猫という言葉に釣られてきてしまったのだろうと半ば後悔しながら部室の片隅に荷物を置いた。
それにしても、本当にこの生物は何なのだろうか。そもそも生物なのかもわからない。新堂が触っても腕が爆ぜるとか腐り落ちるといった異常な事はおこらなかったから即効性のウイルスなどはもっていないのだろう。ぎょろりとした一つ目は坂上の姿を伺いながら僅かに宙を浮いている。こっちを見ているが、撫でて欲しいのだろうか。
新堂が当然のように触っていたから触っても大丈夫そうだ。見た目は完全に化け物だが、すぐさまこちらに危害をくわえる様子もない。それほど危険な生き物ではないのだと思うと、どんな感触なのかと好奇心がムクムク肥大していく。
ちょっとだけなら……。坂上は唾を飲み込むと、恐る恐る子猫(?)に触れてみた。
綺麗に磨かれた黒曜石のような光沢を放っている表面に毛はないが、思ったより手触りはざらついている。少し強く押せば中に骨の感触はなく肉の弾力でおしかえされた。触っている最中、大きな一つ目がずっとこっちを見ているのは威圧感があるが向こうもこちらを観察しているようで何ら動こうとはしない。坂上は何となく、小さいころ遊んだゲームにこんな姿をしたモンスターがいたのを思い出した。
「なんか、この生き物、猫というよりもビホル……」
「ダメだ坂上、それ以上はいけない」
途中まで言いかける坂上の口を慌てて日野が手で塞ぐ。
「いいか、坂上。ビホ……ダーとは一般的に使われる言葉でもあるんだが、球体で目玉があり少し浮いている触手などもついたのあの形状の存在をビホルなんとかと呼ぶと著作権上の問題があって色々と面倒くさいんだ。一般的な名称ではあるが、あのような異形のクリーチャーをそう呼ぶようになったのはD&Dというゲームが起源でありビ……ルダーの設定はD&D内で初めて創作された著作物なんだよ。だから、アレをその名前で呼んではいけない。これは不文律というものだ、覚えておいてくれ」
「えっ、そうだったんですか……知りませんでした」
「バグベアードとか、イービルアイとか、ゲイザー、鈴木土下座エ門となら呼んでいいからな」
よくわからない大人の事情をとうとうと語られたが、何だかとても危険な事をしそうだったことはハッキリと理解した。
ここでこの猫のようなものに仕留められるより危険なのは間違いないだろう。
「わかりました、とりあえず子猫なんですよね。僕も子猫だと思います」
しかし、これを飼ってくれる人は果たしているのだろうか。子猫というにはあまりにも大きすぎる。キャットフードを食べるといっていたが、一回の食事量はどれくらいだろう。ヘタをしなくとも人間丸呑みしかねない大きさだ。
「とりあえず、栗原とか袖山が見に来たいって言ってたんだけど、あいつらまだ来ないんだよなぁ。俺の家、親がアレルギーあってな。それさえなければ俺ん家で飼ってたんだけどなぁ」
それさえなければ飼っていたのか。坂上は少し離れた場所に住む新堂の両親に思いを馳せた。良かったですね、アレルギーがあって……。
「栗原は墨田に足止めしてもらってる。袖山も荒井が足止めしてるから、今日ここに来る事はないだろう」
日野はそっと坂上へ耳打ちする。どうやら日野も別にこれが子猫に見えているワケではないようだ。
坂上はほっと胸をなで下ろす。栗原の方はまだしも、袖山はこれを見た瞬間気絶してしまうだろう。
「でも、どうするんですか。これ……飼ってくれる人いるんです?」
「それは心配するな、もう手配している……」
と、そこで新聞部のドアが開き白髪の男が室内に入ってくる。髪の毛がすべて真っ白なので実年齢はわからないが、顔立ちは若くも老年にも見えるような男だ。白衣を着ている事から、坂上はまだ授業を受けた事はないが白髪鬼と呼ばれている理系全般を担当する教師、白井に違いない。
白井は一目みて感嘆の声を漏らすと、嬉しそうに新堂へ歩み寄った。
「新堂、今回も素晴らしく愛らしい子猫を見つけてくれたようだね」
「白井……なんだ、あんたがコイツ飼ってくれるのか?」
「あぁ、是非とも私が育てよう。むしろ、このように愛らしく特殊な品種の子猫は私くらいしか飼える環境をもっていないと思うよ。いやぁ、日野。よく私に声をかけてくれた」
次いで白井は日野にも握手をする。
白髪鬼はあらゆる生体実験をしているとか、学園内に秘密の研究室を作っていると噂されている教師だ。この生物の飼い方を知っていても不思議はない。
「こいつ、ただの子猫だと思ってたけどそんな設備が必用な猫だったんだな」
新堂は腕組みをして猫と言い張っているナニカを見る。坂上は、むしろ設備があえれば飼育できる存在なのかという方が気になった。白井が引き取るならきっと学校で飼うんだろう。逃げ出した時、今より肥大したナニカになってなければいいが。
「ともかく、これは私が引き取らせてもらうよ」
「大事にしてくれるんだろうな。俺が拾ったから、一応ちゃんと責任もって育てて欲しいんだけどよ」
「心配するな、私じゃなければ飼い慣らせないさ。それに、新堂。以前お前が拾ってきた文鳥も、今も元気だぞ。今度ぜひ見にきたまえよ」
「そっか、文鳥も元気か。なら、よろしく頼むぜ」
「まかせておけ。ほら、いくぞ子猫」
白井が子猫を呼ぶと、子猫は全てを察したように白井の後をついていく。あれだけの巨体がどうやってドアを抜けるのかと不安だったが、ドアをくぐるときまるで液体のように身体がたゆんで出ていったから、猫は液体というし広い意味では猫だったのかもしれない。
「何とか飼い主も決まったみたいだし、俺は他の連中に報告しておくわ。悪いな日野、子猫に部室を貸してくれて」
「いや、気にするな」
新堂はそれを見て安心したように部室を出る。
完全に新堂の姿が見えなくなったのを確認してから、坂上は日野の方を見た。
「日野さん、新堂さんって……」
「あいつ、動物好きでよく捨てられてる動物を拾ってくるんだけどな。なんか一回も拾ってきた動物が、動物だった事がないんだよ」
それは、いつもあぁいう生き物のような何かを拾ってくるという事だろうか。
「前の文鳥も胸の部分に口がついてたしし、前の子犬も全身が粘膜に覆われてたし、グッピーは内臓が丸見えだったし……」
「何ですかそれ、何なんですか新堂さん!?」
「わからないんだが、何故かいつも新堂に大人しくついてくるんだよな。あいつ、霊感が強いのか。ひょっとしたら魔物使いの才能とかあるのかもしれないな。うん……一応子猫の写真を撮ったけど、これ新聞に載せられると思うか?」
日野はデジカメの写真を向ける。巨大な身体に浮遊した目、どう見ても猫には見えない。そもそも生き物であるかも疑わしい、前衛的なオブジェに見える。
「インチキにしては本格的すぎますよ、生徒の正気が削れちゃったら困りますからやめておきましょう」
「そうだな。いつもすごいスクープだと思うんだが、使えないなら意味ないか」
そういいながら日野はデジカメの写真を消す。
坂上はその姿を見ながら、きっとこうして密かに消された怪異がここには沢山あるのだろうな等と、ぼんやり考えていた。
PR
COMMENT